第8章 01

あくる日の早朝。

採掘都市ジャスパーの採掘船本部の駐機場に停泊しているアンバーの採掘準備室にて。

横一列に並んでいる一同。剣菱と穣がその前に立つ。

剣菱「皆さんおはよう!」

一同「おはようございます!」

剣菱、穣の方を見て「採掘監督。気合入ってますな!」

見れば穣はいつもの裾の長い服では無く、裾の短い制服をキッチリ着てネクタイも締めている。

穣「アンバーの採掘監督らしく、決めました!」

オーキッド「ハチマキは取らないの?」

穣「これは気合入れなの」

透「あれでも前より短くなったんだよ…。」

剣菱「皆さん。今日は、護君に会いに行く日です!」と言い「…覚悟はいいかな?」

マゼンタ「船長こそ!」

剣菱「船長はビクビクドキドキです。」と言うとマリアを見て「マリアさん。…頼む!」

マリア「はい!」と言い「大丈夫です!頑張りますっ!」ニコニコ

穣「…意外と逞しいわな…。」

剣菱「既に黒船は出航した。…あの船、いつも出る時間早いな」

透「仕事中毒なんですよ」

穣「どうせ『アンバーがロクに採らないから俺達が頑張らねば』とか言ってんだ」

剣菱「じゃあ皆さん、今日も宜しくお願いします。」と言い「行くぞー管理への反抗だー!」

一同「おー!」


駐機場を飛び立つアンバー。

ブリッジにはマリアをはじめ、穣、そして開け放たれたドアの外の通路に透や悠斗たちがいる。

マリア「まずは護さんが落ちたあの洞窟の方へ。そこから地下の川の流れを辿って湖の方へ向かいます。その辺りで御剣研の遺跡を探知出来る筈だから、遺跡へ。」

ネイビー「つまり死然雲海っていう所に入る訳ね」

剣菱「そこで行方不明になる訳だ。」

穣「黒船が来てくれますように!」

マリア「遺跡で護さんに探知をかけて、あとは黒船と繋がりながら向こうへ。…という予定です!」

透「上手く行けばいいけど…」

悠斗「オブシディアン様ぁー」と祈る

剣菱「長いから黒船で。」



一方その頃、イェソドのターさんの家では

朝食の準備をしている3人。

カルロス、テーブルに野菜炒めが乗った皿を置きつつ、ため息ついて「また大盛野菜炒めか。護が野菜を切るといつもこうなる」

護、おにぎりを葉に包みつつ「いいじゃん!俺、野菜好きだし」と言いつつ、包んだおにぎりを布袋に入れると「よし、昼飯のおにぎり弁当でけた」そこへヤカンのピーという音がしてくる

カルロス「湯が沸いた。」と言い石茶のティーポットにゆっくりと湯を注ぎ始める。

護「また朝から石茶」

カルロス、ヤカンをコンロに置きつつ「いいだろう。石茶好きだし。」と言いティーポットをゆっくりと揺らす。

その様子を椅子の上にいる妖精がじーっと見ている。

カルロス「お前も飲みたいのか」と言うと棚から小さなカップを取り出す。

ターさんはオーブンからパンを出して「パン焼けた。」

護「じゃあ朝メシ食べよう。」

大盛野菜炒めとソーセージとトマトをおかずにパンと石茶

護たちは食べ始める。カルロスはカップに石茶を注いで丸い妖精とゴツゴツした妖精に渡すと、妖精達は嬉しそうに飲み始める

カルロス「美味しいか。よかった」とニコニコ

ターさんもカルロスの淹れた石茶を飲んで「美味い。これは妖精も飲むよね。」

カルロス「こいつら、不味い石茶は飲まないからな…。」

護「いつもイェソド鉱石を生で食べてるから舌が肥えてるんだよ。」

ターさん「今日は雲海でダアト探しをして、あとは適当に採掘して帰って来よう。…どうせ君達がガンガン採って木箱が満杯になって街に売りに行く事になるんだな多分。」

護「ガンガン稼いで船を買うのです。」

カルロス「でも今日はかなり遠距離を飛ぶ事になりそうだぞ」

ターさん「まぁそこは臨機応変に。」


暫し後。木箱に道具等を入れてカルロスと護が入る。それをターさんが吊り下げて飛ぶ。

カルロス「ターさん、あっちのほうへ飛んで」と方向を指示する

ターさん「了解」

護は妖精と遊んでいる。

カルロス「…ターさんは必死に飛ぶ、私は必死に探知する。お前は妖精と遊んでいる。」

護「んん?俺も必死に妖精と遊んでるんだよ」

カルロス「そうだったのか。」

護「見ろよこの必死な顔を!」と妖精の顔をカルロスの方に向ける。

妖精 ( ̄▽ ̄)

カルロス、プッと吹き出す。

護「顔を見て笑うなんて何て失礼な!」

カルロス「仕方なかろう!」



一方、アンバーは。

剣菱「そろそろだな…。」

操縦席のネイビー「そろそろですね…」そこへ警告ランプがついて警報が鳴り響く

ネイビー「来たぁ管理区域外警告、無視っちゃいまーす!」

剣菱「あーあ。後で怒られる怒られる。」と言い「区域外に出るぞ!」

モニタに『区域外』の表示が出る。

ネイビー「出ました!航路レーダーが真っ白!マリア宜しく!」

マリア「はーい!」と、その時、レーダーが復活して再び管理区域外警告が出る。

剣菱「え、レーダー復活した!」と同時に

ネイビー「もう管理が来たの!」

剣菱「いい仕事してるよな!いーそーげー!」

ネイビー「制限速度、無視っていい?」

剣菱「いい…けど、ちょい待った」と言い受話器を取って内線をかけると「もしもし機関長、船をカッ飛ばしたいんだけどエンジンは」と言った途端、スピーカーから『お任せを!最高速度で突っ走れネイビーさん!』

ネイビー「機関長ありがとー!」

剣宮「…燃料の鉱石も最高速度で無くなるけど」

穣「そしたら俺達が採って来まっさぁ!」と、そこへリリリと緊急電話のコールが鳴る。

剣菱「フ。緊急電話に居留守を使うという快挙!」

穣「ここでブルーの満からだったら凄い」

そこへスピーカーから『こちら航空管理。アンバー今すぐ停まりなさい!』

剣菱「うわ強制的に来た。」

穣「突っ走れネイビーさん!」

マリア「…何とか死然雲海の中に入れれば…」と必死に探知

ネイビー「…管理の船、なかなか引き離せない。」

剣菱「あれは速いだけが取り柄の船だからな!」

そこへスピーカーから再び『こちら航空管理。アンバー今すぐ停まれ!』

ネイビー「こっわ!」

剣菱「管理からの緊急連絡だけはスピーカー切る事が出来ないんだよな…。」

そこでマリアが「あっ!」と叫ぶと「ネイビーさん、11時へ!」

ネイビー「オッケー!」

マリア「多分もうすぐ死然雲海に入れると思う!」

穣「まじか!」

マリア「うん。今日はなんか湖の方まで雲が広がってるから」

剣菱「雲海が味方してくれたか」



一方、黒船は。

採掘現場で作業をしている一同。そこへジェッソの耳に着けたインカムから呼び出し音が。

ジェッソ、作業の手を止めてインカムに「はい、ジェッソです。…えっ。」と言うと、近くに居たメンバーも手を止めてジェッソを見る。ジェッソ、インカムに「了解しました」と言うと一同に「皆、作業中止だ!撤収するぞ。」

レンブラント「ナニゴト?」

ジェッソ「…アンバーが行方不明になった。」

一同、一瞬ポカンとした表情になり、それから「えぇ?!」と驚く

メリッサ「行方不明?!」

夏樹「アンバーが?!」

ジェッソ「上総、すぐブリッジへ。管理が黒船にアンバーを探して欲しいと言っている。」

上総、唖然とした顔で「はぁ。」と言ってから「…やっぱ、行っちゃったんだ…。」

レンブラント「え」

ジェッソ「どういう事だ?」

上総「この間、穣さんからメールが来て…。」と言いちょっと考えると「なんか長いメールだから説明できない!」と言うと「とりあえず船長のとこ行ってきます!」と採掘口のタラップへと走って行く。


暫し後。ブリッジにて

上総、駿河に自分のスマホを見せつつ「これ、穣さんからのメールなんですが、彼が実際に周防先生の所に行って聞いた話です。」

駿河、暫しメールを読んでいたが「…え…。これ…、ホントにマジなのか。」

上総「そうらしいです。カルロスさんが黒船から逃亡したくなるのも分かる気がします。」

駿河「…突然逃亡する事と、これとは話が別のような気が」

すると総司が「一体どういう事ですか」

駿河、操縦席の総司の所に歩いていくと「こういう事だ」と言いつつスマホを渡す。それから上総の方を見て「上総、後でこのメールを全文プリントして食堂の掲示板に貼っといてくれ。皆が読めるように」

上総「はい。」

駿河「それにしても…。アンバーまで有翼種の所へ行くとは」

上総「ここでアンバーを止めてもいいんでしょうか。」

駿河「止めます。アンバーが居なくなったらウチの船にしわ寄せが」

そこへ総司がスマホを見つつ「…この情報が本当ならば、今、凄いチャンスですよね。」

駿河「というと」

総司「黒船とアンバーが有翼種側に付けば管理は困る訳でしょう?」

駿河「…。」暫し黙ると「…管理は、アンバーは手放しても、黒船は絶対手放さないぞ。」

総司「でもカルロスさんを手放しましたが」

駿河「本気で逃げたからな。その位の覚悟があるなら」

総司「…確かに。まぁ二隻も居なくなったら鉱石が採れなくて人間のみならず人工種も困る。アンバーを止めに行きましょう。」

そこへスピーカーからピピーと呼び出し音が鳴って『船長、撤収完了しました。採掘口を閉じます。』

駿河、受話器を取って「了解」と言うと「…行こう。管理が待ってる。」


再びアンバー。死然雲海の霧の中を飛んでいる

ネイビー「ああもぅしつこいな管理!何で雲海の中まで来るの。そろそろ諦めてよ!」

マリア「管理が離れてくれないと、遺跡に行けない。」

ネイビー「もうメンドイから管理と一緒に遺跡行っちゃえ」

穣「でも黒船が来る前に遺跡に行くのは」

マリア「んー…」困る

ネイビー「わかった黒船が来るまで何とか逃げるわよ。ったくしつこい管理め」

剣菱「…以前、天気とか管理波中継機の限界とかで捜索中止したのは冗談だったのかな」

穣「このしつこさで護を探して欲しかった!」(…それにしても…)と思いつつタグリングを触って(さっきから何か変だ…。首が… どんどん 絞められるような気がする…。 ん。)

ふと見ると悠斗が首元を気にして触っている。透を見ると首に手を当てつつ不安げな表情。

穣(もしかして、皆…?)

ネイビー「…この速度で飛び続けたら燃料が」

剣宮「もしかして管理はウチの船の燃料切れを待ってる?!」

剣菱「そういう手があったか…」と言い、ふと穣を見て「どうした穣?」

穣「…この、首輪が。」

透「なんだか苦しい。締め付けられる気がする」

マゼンタ「ちょっと、怖い…。」

ネイビー「そんなの、気にしないの!」

剣宮「…首輪に何か細工が?」

悠斗「正直、かなり恐い…。」と首を抱えるようにして座り込む

透「逃げると、こうなるのか」

穣「…。くっそ…。」と歯噛みしつつ「それでもカルロスは行ったんだ…。」と、そこでふと周防の言葉を思い出す。

 周防『私のコレはただの首輪ですから。』

穣「周防先生が言ってた。護とカルロスのタグリングはもうただの首輪になったと!」

一同「!」

穣「例えコレがあったとしても、自由になれる可能性がある、それは個々人次第だと!」

剣菱「んだ!」

剣宮「そうだそうだ!」

透「…うん!」

悠斗「そうだ…。その通りだ!」と言い立ち上がる。

マゼンタ「お、なんかラクになってきた!」

そこへネイビーの「あれ?」という声が。「管理の船が離れてく!」

剣菱「やっと諦めてくれたか!」

穣「…油断は出来ませんぜ」

モニタの『区域外警告』の表示が、『管理区域外』にかわる。

ネイビー「管理波途絶、完全に離れた。」

マリア「遺跡まで、あと少し…。あれ。」と言い、更に本気モード探知をする

ネイビー「…どしたの」

マリア「何だか…探知し難くなってきた…。」と言い更にエネルギーを上げて「どんどん探知しにくくなる。誰か邪魔してるのかな…。」

剣菱「…あんまり、無理すんなや。」

マリア「どうしよう…探知が!」

剣菱「ネイビーさん一旦止まろう!このまま一時停止!ちょっと休憩だ!」

ネイビー「…は、はい。」

剣菱「マリアさん休憩だ。ちょっと探知やめて。また探知できるようになったら出発しよう。」

マリア「はい…。」

剣菱「あれだけしつこい管理だ、多分また追って来る。だから遭難はしない!大丈夫。」