2025.02.07 08:48第14章04 到着 黒船のブリッジでは駿河がしみじみと「十六夜兄弟って凄いですねぇ……」と感心していた。「副長をあんなに爆笑させるとは。もしも船が動いてたら操船ミスするんじゃないかと心配でしたよ」 操縦席の左隣に立つ上総がウンウンと頷く。「副長があんな笑ったの初めて見た!」 総司は苦笑しながら「いやマジで停船してて良かった。あの面白さはヤバイ……」と呟き、レーダーが『管理区域...
2025.02.05 10:21第14章03 十六夜兄弟大喧嘩 黒船の後方を飛ぶアンバーのブリッジでは、操縦席のネイビーが不思議そうに首を傾げていた。「なーんか妙な青い船が黒船の近くにいるけど、特に何も連絡無いわね。管理さんも静かだし……。黒船の方には連絡してんのかな?」 船長席の剣菱は「許可証を出した手前、ウチには強く出られんだろ。黒船にはゴタゴタ言うと思うが」と言ってレーダーを見ながら「しかしブルーは何しに来たんだ...
2025.02.04 10:49第14章02 採掘船ブルーアゲート 黒船を先頭に、二隻はやや薄曇りの空を飛ぶ。こちらでは雨の降る気配は無いが、この先どんな天気かなと思っていると、開け放たれた入り口の壁をコンコンとノックする音がしてブリッジにカルロスが入って来る。「船長。そのうち周防がブリッジに来るぞ」「え。なぜ?」「船内を見たいんだとさ。今、皆でご案内中」「んー……」駿河は表情を少し曇らせて「ブリッジはこれからイベントが始...
2025.02.03 10:16第14章01 いざ二隻でイェソドへ 金曜の朝、ジャスパー採掘船本部。 駐機場に停まっている黒船の採掘準備室では、副長、操縦士、機関士、調理師、採掘監督、採掘メンバー、そして一番最後にカルロスの順で皆が一列に並び、朝礼が始まるのを待っている。 久々に黒船の制服を着たカルロスは、黒石剣のホルダーを肩から下げ、後ろ手に何かを持って、表向きは普段通りの平静を装いながらも心中、とっとと朝礼が始まらんか...
2025.02.02 16:35第13章02 鉱石採掘 翌朝。 アンバーの甲板ハッチが開いて護が甲板上に出て来ると、両腕を上げ、晴れた空に向かってウーンと伸びをする。「いい天気! 布団干ししたいなー」 続いてハッチから甲板上に出て来たマゼンタが「イェソドでそれは恥ずかしいから止めといた方が」「昔、ブルーアゲートに居た頃さ、天気がいいとまず皆で甲板に布団干しだったな」 マゼンタは怒ったように「知ってます! 護さん...
2025.02.02 16:30第13章01 ケセドの街の長、ガーリック 『壁』の警備の有翼種達を乗せたアンバーは、彼らの指示でケセドの街へ向かって飛ぶ。 街の上空に入ると更に警備が増え、アンバーは数人の警備の有翼種達に囲まれつつケセドの役場の庁舎の上に停止する。少しして上部甲板のハッチが開き、剣菱、剣宮、護、カルロスの四人が甲板上に出て来ると、警備の屈強な男性有翼種達が四人に近付き、それぞれを背後から抱えて飛んで、庁舎のベラン...
2025.01.29 09:14第12章03 剣菱の想い 全速力で死然雲海を飛び続けるアンバー。 護は真っ白な窓を見ながら思う。 (結構カッ飛ばしてるなぁ。これだと結構早くターさん家に着きそうだ) 景色が無いので窓を見ても速度感はあまり無いが、エンジン音で結構な速度を出していると分かる。 (なんかホッとする。やっぱり自分はイェソドがいい。管理と全く関係無い所で暮らしたい。でもジャスパー側と断絶はしたくない。だから...
2025.01.28 09:53第12章02 イェソドへ戻る 操縦席のネイビーが言う。「そろそろ管理区域外に出ます」 やや不安気な面持ちでブリッジの一同が様子を見ていると、少しして警報が鳴り『管理区域外警告』が出る。「あら」 ネイビーは少し驚いたように「……あ、多分これ絶対出るのね」と言い、剣菱も「うん多分、仕様なんだな。単なるお知らせ、通知として」と同意してから「でも驚くよな。今までのトラウマというか……。まぁ管理...
2025.01.27 09:08第12章01 珍獣扱い 翌朝の9時40分、ジャスパーの航空船教習所。 ロビーの受付前に並んだ長椅子に、グレーのスーツ姿のカルロスと護が座っている。周囲には学生らしき若者が数人と中年近い男性がちらほらいて、長椅子で教本を読んだり自販機の所で缶コーヒーを飲みつつスマホを見たりしている。 護はふぁぁと欠伸をして「最初の学科の時間まであと20分かぁ……」 カルロスは周囲の人間達を見ながら...
2025.01.26 09:12第11章04 駿河 何と言葉を返したらいいのか皆が戸惑っていると、それまでずっと黙って話を聞いていた駿河が突然、声を上げる。一同の中央に置いてあるテーブル代わりの小さなコンテナにコーヒーのカップを置いてから「周防先生、俺は黒船で、貴方をイェソドのカナンさんの所へ連れて行きたいと思います!」 思わず「えっ」と目を丸くする周防。「だって俺は、人間としてとても恥ずかしい! 今すぐに...
2025.01.25 09:08第11章03 周防の過去 周防は話を続ける。「ところで私のナンバーはATL SK-KA B02で製造師記号が二つ入ってる。KAは神谷俊明、SKは周防和臣。この和臣という製造師は人工種の進化の為に有翼種の遺伝子が必要だと考えて、イェソドを探す為に神谷さんと一緒にB02を作り始めた。しかし私が生まれる直前に神谷さんが老衰で亡くなってしまい、だから私は神谷さんに会った事は無い。その代わり...
2025.01.24 10:37第11章02 昔話 アンバーと黒船は霧島研を離れ、SSFに向かってアンバーを先頭に飛び始める。 黒船の採掘準備室では、周防の話を聞きたい人々が折り畳み椅子や小さなコンテナを並べて輪になるように集って座り、突発的な『お茶を飲みつつ話を聞く会』が開かれようとしていた。 周防の右隣には護、メリッサ、昴が並び、周防の左隣には穣、カルロスと上総が並んで、周防と向き合う対面には駿河とジェ...
2025.01.23 07:01第11章01 溜息「なんか絶望したなぁ……」 霧島研の屋上で、ジェッソの隣に立つ駿河が溜息混じりに呟く。円になって立ち話をしているジェッソと駿河、上総、昴、夏樹そしてレンブラントの六人。 建物から少し離れた上空には黒船とアンバーの船体が並んで待機していて、屋上に停めてある管理の小型船が移動して着陸場所を空けるのを待っている。船の発着の為に屋上照明の光量が上げられ、夜なのに周囲...
2025.01.22 10:52第10章05 対峙、……そして。 自分達の想いが全く伝わらない、この悔しさを一体どう表現したものかと悩むカルロスや穣達。 そこへ周防が「護君、ちょっとこれを外してくれるかな」と自分の首に巻かれたベルトを指差す。 護は申し訳なさそうに「すみません、もう暫く人質を」「いや、人質というかね……」 周防は暫し黙って考えてから、ゆっくり立ち上がると四条を見て言う。「四条所長、そろそろ、人工種全員のタ...
2025.01.22 10:51第10章04 対峙 能面のような表情で穣をじっと見つめる四条。 そこへ護の傍の階段に座っている周防が「……未だかつて人工種が、ここまで反抗した事は無かった」と静かに呟き「前代未聞の事態。逆に言えば、やっとここまで来たという事です。……長かったな……」と目を閉じる。 四条は周防の方を見て「まさか、こんな事が」「これは私が望んだ世界そのものです」 瞬間、四条の顔が怒りに歪む。 憎...
2024.11.27 09:29第10章03 マルクト霧島人工種研究所 SSFがある採掘都市ジャスパーの隣の『研究都市マルクト』は、その名の通り様々な学術研究機関が集う大都市で、都市中心には大規模な人工種製造施設マルクトファクトリー(MF)があるが、人工種管理の本部であるマルクト霧島人工種研究所(MKF)は中心から少し離れた『旧・研究都市』と呼ばれる地域にある。 黒船は、左右を航空管理の船に挟まれながら、マルクト上空を霧島研に...
2024.11.27 09:20第10章02 脱走 SSFの屋上では、カルロスが呆れたように「何だか知らんがモタモタと……」と呟いて屋上の出入り口を指差す。「あそこに何人か居るが、なかなかこっちに来ない。一体、何やってんだ?」 足止め役の管理の男は動揺を隠して沈黙したまま無表情を取り繕う。 カルロスは溜息をついて「全く。管理ってのは暇人の集団なんだな」 護は苦笑しながら管理の男に「貴方も嫌な役を引き受けちゃ...
2024.11.27 08:34第10章01 反逆 研究室から出されたカルロスと護は、四人の管理に囲まれてSSFの廊下を歩く。 階段を上がってメンテナンスルームがある階の廊下に入ると、右前方の部屋のドアが開き、周防が出て来て一同を見て溜息をつく。「やれやれ。私も忙しいんだが」 首を抑えて辛そうにしていたカルロスが「……周防」と呟いたその瞬間。 護がバッと管理の手を振り払って駆け出し、周防に向かってタックルし...