第14章04 到着
黒船のブリッジでは駿河がしみじみと「十六夜兄弟って凄いですねぇ……」と感心していた。
「副長をあんなに爆笑させるとは。もしも船が動いてたら操船ミスするんじゃないかと心配でしたよ」
操縦席の左隣に立つ上総がウンウンと頷く。
「副長があんな笑ったの初めて見た!」
総司は苦笑しながら「いやマジで停船してて良かった。あの面白さはヤバイ……」と呟き、レーダーが『管理区域外』の表示に変わったのを見て「あ、外地になった。管理も諦めたらしいですね」
駿河もホッとする。
「よかった。ブルーが諦めたからかな」
「んでブルーが管理に怒られるんですよ」
アハハと笑いながら言う総司に、駿河も「まぁなぁ」と苦笑いして「それは仕方がない!」
ブリッジ入り口前の通路には再び野次馬メンバーが集い、船長席の近くにはジェッソが、壁際の椅子に座る周防の右隣にはカルロスが立っている。カルロスが壁にもたれ掛かって大きな溜息をついて言う。
「……しかし満さんな、本人が目の前にいるにも関わらず、よくあれだけ悪口を」
思わず上総がプッと思い出し笑いをして「なんか凄い悪役になってたね!」
「凄すぎて意味不明だった」思いっきり辟易顔になるカルロス。
周防は少し感心したように「ブルーのメンバーは、あの強烈な採掘監督の元でよくやってるなぁ……」
それを聞いて総司が言う。
「皆、ゲームでストレス発散してますからね」
「というと?」
総司より先に船長席から駿河が答える。
「メンバーの中にゲーム好きが多くて、仕事する代わりにゲームさせろと満さんに直談判して、先代のヴァリアス船長がそれを満さんに認めさせたという」
続けて総司が「皆、ゲームに情熱を燃やす事で理不尽な採掘監督へのストレスを緩和させてる」と言い、上総は「それ、情熱燃やすポイントがズレてる気がする」と苦笑しながら呟く。
駿河が溜息混じりに言う。
「でもなぁ。正面から真面目にぶつかると俺みたいにブッ飛ばされるんで」
カルロスは駿河を指差して「貴方は黒船に飛ばされて正解だと思いますよ」
「いやまぁ」
「だって黒船に来た頃の貴方は」
駿河は慌てて続きを遮る。
「だからここで鍛えられてこんな感じになりました!」
上総はちょっと駿河を見ると
「なんか黒船の先代の船長も厳しいって聞いたけど、満さんと比べてどっちが厳しいのかな?」
「え」
駿河は一瞬、上総を見てから「うーん」と唸って考える。
「どっちも厳しいんだけど、単純に、ティム船長は『立派』で、満さんは『変』という」
「変!」アハハと笑い出す上総。
「だって明確に変な事を言うから理不尽って思える。ただ、今ここに来て思うのは、満さんの方がマシだな、と」
その言葉に隣のジェッソが頷いて
「正々堂々と勝負できるだけありがたい。最後にクッタリ凹んで帰る辺り、マトモだ」
カルロスが「マトモか……?」と首を傾げる。
ジェッソはカルロスを見て言う。
「マトモですよ、だって管理には対等のタの字も無いので。自分達は絶対に正しいと信じて上から恩着せするでしょう。戦えませんよ。絶対こっちが悪者にされてしまう」
カルロスは「どこぞの満さんに散々悪者にされたが」と自分を指差す。
「……でもションボリして帰って行くだけマシなんですよ満さんは!」
「まぁなぁ……」
溜息をついたカルロスは、上総に向かって「ティム船長は、管理と同じような感じだった……のだが」と言ってから少し考えて「当時の我々にはティム船長が立派な人に見えていたので、特に問題だとは思わなかったんだな」
総司が何気なく呟く。
「当時は厳しいとは思ってなかったからなぁ……」
上総が「そうなの?」と顔を顰める。
「あ、いや個人的には。……駿河さんが船長になってから、前の船長は厳しかったなぁと」
駿河は操縦席を指差して
「俺が船長になった最初の頃、この副長によく叱られておりました。生ぬるいと」
「いやいや」焦って大声で否定する総司。
そこへジェッソが「当時は、あの厳しさが『黒船ステータス』だと思ってたから」と言い、上総が「なにそれ」とジェッソを見る。
「ん? ……人工種を代表する特別な船のプライドというか。他船と違うから厳しくて当然みたいな」
続けてカルロスが「あの船長を立派な人だと思ってたから、多少理不尽な事を言われても聞いてしまうみたいな。でも今、振り返るとそんなに立派じゃない。理不尽は理不尽」
駿河が溜息混じりに呟く。
「……やっぱ、ブルーの満さんみたいに、『この人、変だ』と思える方がまだマシだと思います……」
「確かに」と総司が頷く。
ジェッソも「それは言える」と言い、カルロスも「確かに」と頷く。
ずっと興味深げに話を聞いていた周防がニヤリと笑って言葉を発する。
「つまりそれだけ皆さんが変わったんですよ」
「え」
一同、周防に注目する。
「渦中に居る時はそれが当たり前で、比較出来ないから分からない。しかし変化して渦中から抜けた時に、初めて比較が起こって分かる。……だから……」
そこで周防は意味深な顔で少し間を置き「相手の望む存在であれば、平和なんだよな?」と言ってニッコリ微笑む。
「……」
皆、少し苦い顔で沈黙し、ジェッソが「……ですねぇ」と溜息混じりに沈黙を破ると、不穏な顔で総司が呟く。
「……飼い殺しですか」
一瞬驚いた顔をした周防は「……まぁ、そういう見方も出来る」と言ってから「特に黒船はそうだろうね。認められているから。そんなに不満を感じない」
「ずっと、イイコでしたからね」
総司は皮肉な笑みを浮かべる。周防はちょっと苦笑して
「でもある日、本当の想いが爆発した訳だ。……本気を出せば、こんな首輪はただの飾り物。外したいなら外しますよ、SSFで」と自分のタグリングを指差す。するとカルロスが言う。
「せっかくだから着けておく。……教習所に行って思った。人間の中で人工種として堂々と立ちたい。その為に、これがあると人工種だと一目瞭然だから着けておく」
「ほぉ」
微笑む周防。
カルロスは「ところで、そろそろ死然雲海に入るぞ。もうすぐ曇る」と船窓を指差す。
言うが早いか窓の外がどんどん曇り、やがて二隻は雲の中に突入する。
総司が言う。
「前方のアンバーが目視できなくなって来ました。まぁレーダーで見える範囲には居るので特に危険は無いですが」
カルロスも船窓を見ながら言う。
「ちょっと濃いからな。この濃さで、マリアさんは探知できるかな」
上総は探知エネルギーを上げつつ「俺は探知できる。もう少しで目印の湖の上」
「その先に遺跡があるんだけど分かるか?」
「遺跡って御剣研の?」
「いや。この直線上の先にある古い遺跡。湖を越えた後のイェソド方向の目印だから覚えて欲しい」
そこへ総司が「あれ」と声を上げて「アンバーの速度が落ちて来ました。何かあったかな」
カルロスが「マリアさんギブアップかな?」と言うと同時に緊急電話が鳴る。
駿河は受話器を取り「はい。……了解しました」と言うと受話器を置きつつ「黒船が探知してくれと。本船が前に出ます」
カルロスと上総と総司が同時に「了解」と答える。
上総は目を閉じて探知しつつ「古い遺跡かぁ……古い、遺跡……」とブツブツ呟く。
一生懸命探知を掛ける上総に、カルロスが言う。
「前方の森の中に突然、広場みたいな開けた場所が出現してケテル石で出来た古代の人工建造物がある」
思わずジェッソが「ケテル石で?」と聞き返す。
「うん。イェソドに行ったら理由が分かる。なにせ向こうはケテルが石材だ」
「ほぅ……楽しみだな」
エネルギーを最大に上げた上総は身体の周囲を青く光らせながら必死に探知する。
カルロスは総司に指示をする。
「総司君、高度このまま、若干左に寄って……そんな感じでいい。あとは直進」
「はい」
上総が顔を顰めて「ううー頑張る、遺跡ぃー!」と唸る。
カルロスは淡々と上総に
「さっきあれだけ言ったのに、何も感知できないんだからアウト」
「えぇ……」
ガックリした上総は探知エネルギーを落としながら
「この雲海で、どうやったらそんなに探知出来るようになるの?」
「慣れだ。私も最初は全然探知できなかった。何回も探知してるとエネルギーに慣れて正確に探知するコツが掴める」
「はぁ」
「まぁでも今後は私が小型船で雲海をウロウロすると思うんで、何かの時は私を探知してくれれば」
「……それは安心ですけど……。慣れかぁ」上総は溜息をつく。
駿河は、ふと周防を見て「先生。昔は鉱石弾で雲海を切り拓いたと聞きましたが」
「うん。この船首の下の砲身でね。結構な衝撃が来るよ」
総司が「撃ってみたい……」と呟き、駿河も「同じく」と同意する。
カルロスは「有翼種はこの黒石剣で雲海を切り拓く」と言いブリッジの壁際に置いた黒石剣を指差す。
「どうやって?」と駿河とジェッソと上総の声が重なり、総司が笑って「皆で同じ事を!」
カルロスは皆を見回しながら「……切り拓く所を見たいなら、今、やってみるか?」
上総が「出来るの?」と聞く。
「うん。有翼種の採掘船での私の仕事は探知と雲海切りだ」
「……雲海切り?」
ジェッソは「どうやるんですか?」と言い、駿河は「ちょっとやって見せて下さい」と言う。
カルロスはホルダーに入れた黒石剣を手に取りながら「……やるなら甲板に出ないと」と駿河に言う。
「どうぞ。ここで何が起こるのか楽しみにしてます」
上総はカルロスと駿河を交互に見ながら「俺も見に行っていいですか!」と尋ねる。
カルロスが「いいよ」と頷き「総司君、少し速度を落として直進して遺跡が見えたら若干高度を下げて」と指示してから駿河に「では甲板に出ます」と言ってブリッジから出て行く。
ハッチから甲板に出たカルロスは、船首方向へ歩く。その背後に見学者の上総やジェッソやメリッサ達が続く。
メリッサは楽し気に「わくわく。何をするのかしらー!」
昴は周囲を見回して「周り、真っ白だけど?」
レンブラントも「ここで何すんの?」と不思議そうにカルロスを見る。
ブリッジの上部の手前で立ち止まったカルロスは、ちょっと背後を振り向いて「上総、これから私のイェソドでの仕事を見せてやる」と言うなりブリッジ側を向き、ホルダーから黒石剣を抜くと、バッと振り下ろして雲海切りをする。雲海が切れ、周囲の景色が現れて、見学者一同ビックリ仰天。
カルロスは平然と「まだ練習中なんだが、これが雲海切りだ。ところで前方に遺跡があるの、わかるか?」と言って黒石剣で遺跡の方向を指し示す。
「……」
目を丸くしたまま、言葉を失う上総。
メリッサも唖然としながら「サクッと凄い事したわね……」
カルロスはちょっと強めに「上総!」と言い「雲海を切ったから今もう探知出来るだろ、あの遺跡の感覚を覚えて欲しい」
「あっ、はい!」上総は慌てて返事をする。
ジェッソは若干引き攣った顔で黒石剣を指差し、「それ、そういう使い方をするとは全く予想外だった……」と呟く。
昴も大きくウンウンと頷いて「意外すぎた。ちなみに、やる前に前フリしてほしい……!」
カルロスは、実は内心物凄く恥ずかしくて照れているのをガッツリ隠して平静さを装いつつ、黒石剣をホルダーに仕舞いながら言う。
「有翼種の採掘は死然雲海の中でやるから、雲海切りは必須なんだ。あとは活かし切りするとかな。それで石のエネルギーが変わるから、まぁ本当に探知し辛いったらありゃしない。……上総! 有翼種の採掘は探知が難儀で楽しすぎるぞ!」
「いや俺、まずは黒船での探知をちゃんとしないと。あの遺跡の感覚、覚えました!」
「よし、じゃあ中へ戻ろう」
すると昴が「待ってさっきのもう一回見たい!」
メリッサも「見たい!」
レンブラントも「突然すぎてよく見てなかった!」
「えっ」
目を丸くして驚くカルロス。
ジェッソは周囲を指差して「あっ、ほら、丁度また曇って来たし!」
「……それはな、切るのが甘いから。練習が足りん、すぐ曇る……」
ションボリするカルロスに、ジェッソが楽しそうに「なら今、練習しましょう!」
上総も楽し気に「練習しましょう!」
メリッサが手を合わせてお願いする。
「とりあえず、もっかい! あと一回、切ってー!」
昴も「切ってー!」
カルロスは何やら物凄く恥ずかしそうに「み、見世物じゃないんだが……」と言ってから、意を決したように「仕方がない、練習は大事だ! もう一回やってやる!」
一方その頃。
イェソドのターさんの家の上空に、カルナギの船が来て停まる。
玄関前にいたターさんは船の甲板に飛んで行くと「おはよう! どしたのカルナギさん、もしかして野次馬?」
カルナギは笑って「まぁな。邪魔はしないがコッソリ様子を見ようかと」と言い「ん、何か来たぞ」とイェソド山の方から来る船を指差す。
「あ、カナンさんが来た。それじゃ」
「待った!」カルナギはターさんを引き留めると「採掘の件だが皆に了解がとれた。石屋も協力すると」
「ホント!?」
「だから後で時間作ってくれ」
ターさんは「ほい! じゃあ後で」と言い、カルナギの船から離れて自宅の玄関前に降り立つ。
有翼種の警備の小型船が二隻、ターさんの家の前に到着し、その一隻から大きめのバスケットと小さなカバンを持ったカナンが降りて来る。
「おはようございます、カナンさん」
カナンは笑って「おはよう! ター君。今日は宜しく」と挨拶し、バスケットをターさんに見せる。
「石茶セット持ってきましたよ! 人数分のコップも」
「え。30人分?」
「ウチの店はデリバリーもしますからね。最大50人分を用意した事が」
「へぇ?!」
カナンはニコニコ笑って「皆さんに美味しい石茶を飲んで頂きたい!」
「じゃあ準備しましょう。中へどうぞ」
ターさんはカナンを家の中へ誘う。
雲海を飛ぶ黒船のブリッジでは、駿河が「いやビックリしましたよ……」と呟き、カルロスが持つ黒石剣を指差す。
「何でそんな剣みたいな石を大事に持ってるのかと思ったら、雲を切るとは」
総司も「マジで雲を切るなんて。以前、いきなり霧が晴れた理由が分かりました」と言ってから「……切るところ、見たかったー!」と叫ぶ。
「……まぁ今後ナンボでも見る機会はあるかと……」
そう言いながらカルロスは黒石剣を入れたホルダーを自分の横の壁際に置く。駿河が尋ねる。
「それにしてもカルロスさん、あの時、この距離を歩いてイェソドへ?」
カルロスは「いや……」と口籠ると、言い難そうに「実は、探知ミスをしていて」
「えっ」
「あの時はまだ死然雲海なんて知らなかったので、雲海のせいで探知距離の感覚が歪んだ事に気づかなかった。当初は二日も歩けば辿り着けると感じたので、それで逃亡する決意をしたんだが実際にはそんなモンじゃない。もし当時、正確な距離を知っていたら逃亡は諦めたと思う」
唖然としながら駿河が尋ねる。
「じゃあ、どうやって。あの時、殆ど何も持たずに」
「そうなんですよ。雲海の中で妖精や護たちに偶然助けられたので、今こうして生きている訳ですが。そうでなかったら、まぁ……。でも、行ける限界まで頑張ってくたばっても悔いは無かったですが」
「……」
悲愴な顔でカルロスを見つめる駿河。上総もショックを受けた顔でカルロスを見ている。
(そ、そんな顔をされると……)
申し訳なさを感じて少し弁解をする。
「……人は精神的に追い詰められると視野狭窄になるもんで……とはいえ切羽詰ったからこそ逃亡出来たとも言えますが。結果として今こうなりました」
「まぁね……」
駿河は大きな溜息をつき「でもそんな無謀な決心をする前に何とかしたかったな……とはいえ」と一旦言葉を切ってから、カルロスを真っ直ぐ見て「貴方の心が望んだ事だし、悔いが無いなら良かった」と少し微笑みつつ言う。
「……はい」
駿河を見ながらカルロスは思う。
(彼も、変わったんだろうか。それとも、以前の私が彼の本質を見る事が出来なかっただけなのか……。こんなに素晴らしい船長だったとは)
前方の船窓を指差して言う。
「……そろそろ雲海の端です。雲海を抜けたら一応イェソド」
総司が「一応?」と怪訝そうに尋ねる。
「本当のイェソドは山の中だから。カナンさんとの再会場所、ターさんの家はその手前にある」
「ちなみに、妖精とは何ですか?」
その問いにちょっと総司を見ると、至極真面目な顔をしている。
(ダメだ、この流れでは説明出来ん……)
カルロスは微妙な顔で「鉱石の妖精という……イェソドに行けば嫌でもわかります」と言葉を濁す。
その時、周防がポツリと「……イェソドか」と呟いて、感慨深げに「まさか再び来るとは夢にも思わなかった。カナンに会えるとは……」
上総が「82年ぶりに会うって、どんな心境?」と周防に尋ねる。
「んん?」
上総をちょっと見た周防は「そうだなぁ……」と言い、腕組みをして暫し黙る。
「うん。まぁ……、色々ありすぎるなぁ……」
そこで突然バッと白い雲が消えて太陽の光が差し込み、一気に視界が広がると同時に森が消えて草原が広がる。
「おお!」皆が歓声を上げる。
「抜けた!」
周防は、やや左前方の山を指差して「あれが有翼種の住むイェソド山」と言い、目を細めて「あの時見た風景だ……」と呟く。
カルロスは総司に「ちょっと左に寄って飛んで……見えて来た、向こうに一軒ぽつんと」と船窓の先を指差す。
総司も遠方の人家らしき小さな点を目視で確認して「ああ、あれか」
「うん。あと、ちょっとまだ見づらいが、家の後ろに停まってるのはターさんの友達の船だ。有翼種の採掘船だよ」
「ほぉ?」
「それにしても……」カルロスは訝し気な顔をして「なんか警備が厳重だな……」
ターさんの家に近付くに連れて、付近の上空に数人の有翼種が空中待機しているのが見えて来る。
「少し速度を」落として、というカルロスの声は皆の「飛んでる!」という大声に掻き消される。
ジェッソや駿河が有翼種を見て目を丸くして「マジで飛んでる!」
総司も上総も「マジ有翼種!」と仰天。
カルロスは大きな声で「減速! 速度落とせ」と言い、総司がハッと我に返って「あっ、減速します!」
入り口付近の野次馬達も若干ブリッジ内に入って来て、周囲を飛ぶ有翼種達に「すげー飛んでる!」「凄い凄い!」と大騒ぎ。そんな一同を微笑みながら見つめる周防。
駿河も「凄いなぁ……」と魅入られたように有翼種達を見ていたが、リリリリという緊急電話のコール音にハッとして受話器を取る。
「はい黒船」と言った途端、受話器から『剣菱です! 有翼種にビックリしてる?』
駿河は少し興奮気味に「勿論ビックリ仰天ですよ、飛んでる人なんて初めて見ますんで!」
受話器の向こうの剣菱は笑いながら『ところでアンタ、周防先生を連れて船から降りるんだろ?』
「というか、全員降りるのでは?」
『いやここからどうなるのか全くワカランので、降りるのは採掘メンバーだけにしとくかなと。船はいつでも飛べる状態の方がいい。ただ二隻の代表としてどっちか船長が出た方がいいから、それをアンタに頼むかなと』
「なるほど。確かにそうですね、では自分が出ます」
『うん。俺は船で待機してる。では、いってらっしゃい!』
「あ、ちょっと待って下さい、着陸場所は」
『家の前! 空いてるとこ! 適当に着陸!』
「……で、いいんですか?」
『うん。アンバーは適当に黒船の隣に停まるんで宜しく』
「了解しました。それでは」
通話を切って受話器を置くと、ブリッジ内の一同に向かって言う。
「今後の予定がワカランので、ここで降りるのは周防先生と採掘メンバーだけで、あとは船内待機になりました。俺は二隻の代表として外に出ますが、剣菱船長は船に待機です。……という事で副長、留守番をお願いします。あと着陸場所は、家の前の空いてるとこに適当で! 副長のご自由に!」
総司は笑って「了解です!」
家の玄関前で、近づく二隻を見ているターさんとカナン。
「来た来た。来ましたよ」
ターさんが二隻の船影を指差すと、カナンは微笑しながら「採掘船。……懐かしいねぇ」と呟く。
有翼種に囲まれた黒船は、ターさんの家の前に、少しスペースを空けつつ船首を家側に向けて着陸する。アンバーはそれと並ぶように黒船の右隣に着陸する。それぞれタラップを下ろすと、黒船の周囲を飛んでいた有翼種達がタラップから黒船の船内へ入って行く。
黒船ではレトラが採掘準備室に入りつつ叫ぶ。
「まだ全員、船から出ないように! あなた方にはまだ許可が出ていません。乗員全員をここへ集めて下さい、全員の情報を記録させてもらいます!」
準備室内で待機していた駿河は、レトラに近づきながら言う。
「もうすぐ全員ここに来ます。初めまして、オブシディアンの船長、駿河匠と申します」
レトラは駿河を見て「私は『壁』の警備の副隊長、レトラ・アレクシス。人工種の周防和也という方は……?」
駿河の後からやって来た周防が「私です」と言い、手荷物のショルダーバッグを肩から掛ける。
レトラは「全員の登録手続きが終わり次第、貴方をカナンさんと面会させます」と周防に言い、タブレット端末を駿河の前に差し出して「まずは船長から。これに手を乗せて下さい」
「……これで、何が登録されるんでしょうか」
「まぁ、色々と。……何か不審な事があった時にすぐに身元が特定できるようにする為の登録作業です。これで身分証明を作ります」
レトラと共に船内に入った数人の警備の有翼種達も、黒船メンバー達の登録作業を始める。
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