第14章03 十六夜兄弟大喧嘩
黒船の後方を飛ぶアンバーのブリッジでは、操縦席のネイビーが不思議そうに首を傾げていた。
「なーんか妙な青い船が黒船の近くにいるけど、特に何も連絡無いわね。管理さんも静かだし……。黒船の方には連絡してんのかな?」
船長席の剣菱は「許可証を出した手前、ウチには強く出られんだろ。黒船にはゴタゴタ言うと思うが」と言ってレーダーを見ながら「しかしブルーは何しに来たんだ、我々を止めるつもりなのかな」
そこへリリリリリと緊急電話が鳴る。
「おっと。やっと来たか管理」
剣菱は受話器を取って「はいアンバー……あっカルロスさん」と少し驚き「……えっ?」と更に驚くと、ブリッジの入り口近くに立つ穣の方を向いて言う。
「ブルーの満さんが黒船に電話しまくって困ると!」
穣は「了解した! 船長、電話借りまっさぁ!」と船長席に駆け寄る。
「やりなさい!」
剣菱は左手に緊急連絡の受話器を持ったまま、右手で通常連絡用の受話器を取って穣に渡し、ブルーの通信番号を押しながら「思う存分やりなさい!」それから左手の受話器に「カルロスさん、ご安心を。穣が動きました! アンバーは満さんに散々鍛えられて来ましたから、今こそその成果を見せる時です!」
ブルーのブリッジにトゥルルルと電話のコールが響き渡る。
受話器を取った武藤は「はいブルー……。あれっ、穣さん?」と驚くと、右隣に立つ満に「採掘監督、アンバーの穣さんからお電話です」と受話器を差し出す。
満は受話器を受け取るなり、凄みを効かせた声で言う。
「はい。……黙れ貴様、先ほど黒船のカルロスに、この件は貴様が発端だと言われたぞ。よりによってあの周防のカルロスにだ! 恥を」
『うるせぇ!』穣の怒鳴り声が満の声を掻き消す。
『ってかテメェ何で黒船に電話すんだよ電話するならアンバーだろが』
満は声を張り上げて「貴様、我ら十六夜五人兄弟が何の為に作られたか忘れたとは言わせんぞ。製造師の十六夜先生はもう高齢なのだから心配をかけちゃいかん。大体次男のお前がしっかりしていないから」
『ってか長男のテメェがいつまでも製造師ってウゼェんだよ! あのクソジジイも周防先生を見習いやがれ!』
「穣! 製造師に向かって汚い言葉を発するとは何事だ!! 貴様は本当に話にならん! とにかく管理の皆様の為にも周防先生だけは何としても黒船から奪還する!」怒鳴り終えた瞬間、受話器を置いて通話を切る。
アンバーの穣は「ちょい待て……あっ畜生、切りやがった、あの野郎!」と苦々しい顔で受話器を置き、剣菱に向かって「あいつ黒船に突撃する気だ!」
「え」
穣の隣で待機していた護と透も「マジで?」「ホントに?」と驚いた顔をする。穣が叫ぶ。
「こうなったら俺達もガチでやるしかねぇ!」
バッと前方を指差して「ネイビーさん、ブルーの上に着けてくれ!」と叫ぶと「スマン船長、ちょっと護と透と3人だけで行って来るぁ!」と剣菱を見る。
「存分に、やって来なさい! ……これでもうあの満さんのお電話が来なくて済む」
ブリッジの入り口周辺で状況を見ている野次馬メンバー、マゼンタや悠斗達は、凄い事になったぞ! と目をキラキラ輝かせてワクワクの面持ちで成り行きに期待する。
黒船の右舷を並走していたブルーアゲートはエンジンの出力を上げて少し前に出ると、上昇を始めて船体を黒船の上に近づける。
ブリッジの窓から見えるブルーの船体を見ながら、驚いたように総司が呟く。
「な、なんか、ブルーが上に……これはもしや」
状況を見にブリッジ内に来たジェッソがニヤリと笑って「来る気かなっ?」と拳をパンと叩く。
「そんな気がしますが、んー……」
総司は戸惑い顔で操縦しながら「船長! こっちはどーいう動きしましょうか!」
呆れた顔でブルーの船体を見ていた駿河がヤケ気味に答える。
「どーにもこーにもなりません! ブルーに本気を出されたらウチは逃げられないんで」
「ですよねー」
総司も思いっきり苦い顔で「この速度で真上に来るって随分いいエンジン積んでますね、使い方が間違ってる気もしますが! ……採掘監督、出番かもしれないです!」
「まかせておけ!」
ジェッソは至極楽し気に「不法侵入して下さるならこっちも存分に正当防衛が出来る!」と言い、入り口前でブリッジの様子を伺う野次馬メンバー達の方を見る。
「皆、黒船の底力を見せてやろう!」
「おおー!」
メンバー達が気勢を上げる。
駿河は「どういう底力……」と苦い顔で呟き「……武藤……お前に損害賠償請求はしたくないぞ……」と溜息をついた所へリリリリと緊急電話が鳴る。受話器を取って「はい」と通信に出ると相手の話を聞いて「……えっ?」と驚き、操縦席に向かって言う。
「副長、船を停めてくれ。アンバーが来るって」
「おお? 了解、停船します」
ジェッソが目を輝かせる。
「もしかしてアンバーとブルーのケンカが始まるのか!」
カルロスも楽し気に「よし野次馬に行こう!」
通路の野次馬メンバー達も「ケンカだケンカだ野次馬だ」と騒ぎ出す。
総司は「いいなぁ俺も行きたい」と言うと大きな声で「ジェッソさん! インカムのスイッチ入れといてー」
「OK。ブリッジに中継する!」
入り口の壁際で、椅子に腰掛けて皆の様子を見守る周防がニコニコしながら呟く。
「楽しそうだね!」
徐々に速度を落とす黒船。同時にブルーも速度を落としてジワジワと上から黒船に接近する。
黒船の甲板ハッチが開き、風使いのメリッサと夏樹が風を抑えながらハッチから上半身を出すと、ブルーの船底を見上げながらメリッサが不敵な笑みを浮かべて呟く。
「そう簡単には来させないわよ」
ブルーの採掘準備室では、メンバー達が採掘口周辺に集い、下に飛び降りる準備をしている。
「うぅ、武者震いが」
ブルッと身震いした怪力人工種の25歳、アッシュグレーこと通称アッシュは、手に持ったツルハシをグッと握って叫ぶ。
「天下の黒船様に突撃とは、なんという事態!」
同じく怪力人工種の24歳、進一が頷いて「しかし天下の管理様のご命令も聞かねばならぬ。天下は統一しないと世界の平和が危うい!」
風使いの33歳、十六夜五人兄弟の三男、歩はクールに「そう、今は危急存亡の秋。行かねばならん」と言い切る。
爆破スキル人工種の19歳、クリムゾンレーキ通称クリムは「でもいきなりラスボスかぁ……」と溜息をついて「せめてアンバーでレベル上げを……」
そこへダン! と怪力人工種40歳の満が足で床を踏み鳴らし、大声で怒鳴る。
「お前達はいつもゲームをやっている勇者だろう! ……悪は倒さねばならんのだ。わかるな?」
「ハッ!」と真剣な顔で答えるアッシュ達だが、心中密かに、ゲームの中では勇者だけどリアル凡人だし敵が黒船って無理ゲーでは、とは思うが顔には微塵も出さない。
ツルハシを持った満は採掘口開閉レバーの前に立ち、耳に着けたインカムに「では船長、行って参ります!」と言ってから「採掘口解放!」と叫んでレバーを下げる。開き始める船底の採掘口。下に黒船の甲板が見えた瞬間、ブォッと下から強烈な風が吹き上がって来てアッシュ達がよろめく。
「!」
驚く満。見ればメリッサと夏樹が下からブルーに突風を当てている。
風使いの歩は「そんな風使いの常套手段はわかっているのですよ!」と叫び、大きな空気の塊をメリッサ達にぶつける。
「う!」
一瞬怯むメリッサと夏樹。その隙に満やブルーメンバーが飛び降り、黒船甲板に着地する。
同時に黒船のハッチからもジェッソや黒船メンバーが甲板に飛び出し、満が怒鳴る。
「黒船の皆様、静粛に! あなた方が抵抗すると駿河船長にご迷惑が掛かる事になります! 大人しく我々を船内に入れて頂きたい!」
「……ってどっちが迷惑かけてると……」
夏樹が呆れたように呟く。
黒船の真上にはブルーの船体、更にそのブルーの真上に高度を上げて後方から飛んできたアンバーが到着する。
メリッサは満を指差し「無理に中に入ろうとするなら、そっちの船長に損害賠償請求するけど、いいわね?」とニッコリ微笑む。
満はツルハシをメリッサに向けると「規約違反を犯して勝手に逃亡しようとする船を止めるのは至極当然の事、管理の」
「逃亡じゃないわよ!」メリッサが満の言を遮る。
満は一瞬黙ってから「戻る保証はあるのか!」と怒鳴って「管理の皆様の為にも、勝手は許され」と言いかけた所で突然、船首側から「ちょっと待ったぁぁぁ!」という叫び声。
驚いてその場の全員が声の方を見ると、右翼の付け根辺りから穣と透と護が跳び上がって現れ、甲板に着地する。
「お前達!」
満が叫ぶと同時に穣が「久しぶりだなみぃぃつーるーー!」と絶叫し、満に向かって走りながらバリアを投げて満をブッ飛ばそうとするが同時に満も穣の方に走り込んで思い切りツルハシを穣のバリアに振り下ろす。双方同時に弾かれ、若干後方にずり下がって止まる。
「大人しくしろ!」
護は「嫌です!」と言うと満めがけて白石斧をバンと振り雲海切りをぶちかますが、満の前に走り出た三男の歩の強い突風に相殺される。同時に透が歩に突風をぶつけるが歩の反撃で相殺。護はここぞとばかりに歩に雲海切りをぶちかまし、歩はそれを空気の盾を使って受け流す。
双方の邪魔にならぬよう、黒船メンバー達はハッチ内に入り、ハッチの中から甲板の様子を伺う。
再び穣が「ブッ、飛べぇぇぇ!」と絶叫しつつ満に対して走り込み、思い切りバリアで弾こうとすると同時に満も穣の方に走り込んで思い切りツルハシを振り下ろす。双方同時に後方に大きく弾かれ、穣は背後にバリアを張る事で何とか止まるが、後退した満は黒船メンバー達が居るハッチに落ちそうになり、ハッチの際で何とかジャンプし後方転回(バック転)してハッチを越えた所に着地して止まる。思わず拍手したくなる黒船メンバー達。
状況を見ていたアッシュ達ブルーメンバーは、意を決して「監督を助けろ!」と穣に向かって走り出す。その途端、満と穣が同時に怒鳴る。
「全員動くな!」
「部外者は手ぇ出すんじゃねぇ!」
動きを止める一同。睨み合ったまま、暫し無言の対峙。
ハッチ内から少し顔を出して様子を伺う野次馬の昴が「すげー……。十六夜兄弟大喧嘩」と感嘆の声を漏らすと、同じくハッチ内の野次馬ジェッソが「あいつらどうやってここに来た?」と首を傾げる。
黒船の野次馬達が居る甲板ハッチを挟んで対峙する満と穣。穣の背後には護と透が居て、歩を含むブルーメンバー達と睨み合っている。
満はその場に仁王立ちすると、忌々し気に言葉を投げる。
「穣……お前は本当に困った奴だ! 昔から反抗的で」
「ったりめーだ貴様がウゼェからだよ製造師製造師って!」
「人工種でも珍しい貴重なバリアラーだというのに、その能力を腐らせて」
「俺が自分の能力をどうしようが俺の勝手だろうが!」
満はツルハシを穣に向けると「貴様は我ら五人兄弟が何の為に作られたか」
穣は「知ってるぁ! どっかの周防があのバカを作ったからだろ!」とハッチから顔を出して見物中の野次馬カルロスを指差す。
「バカって!」カルロス抗議。ジェッソが笑って「まぁまぁまぁ」
満は続けて「貴様もバカだ穣! お前が素直に協力すれば我ら五人兄弟は一丸となってあのカルロスに」
「何で五人がかりであの野郎と戦わなきゃならねぇんだよ! 意味分かんねぇし」
カルロスは腕組みして「全くだ」と頷く。
「聞け穣! とにかく我々は十六夜先生の」
「だからそれがウゼェェェェェェ!」
穣の絶叫を聞きながら、ハッチ内の野次馬達は、ここに我々が居るんだがと思いつつ状況を見守る。
満はツルハシを下ろして護を見ると、溜息混じりに語る。
「……護。お前は昔ブルーに居た頃、あんなに素直な良い子だったのに。やはり穣の元にやるべきではなかった」
穣の「俺は関係ねぇ!」という声。
「しかも、よりによってアレと一緒に……」満はカルロスを指差して「護、カルロスの言う事を絶対に聞いちゃイカン! アンバーは穣のせいでおかしくなったが、黒船はカルロスのせいでおかしくなり始めている!」
カルロスは目を丸くして「そうだったのか」
メリッサも「そうみたいよ?」
満は続けて「護、お前が事故で居なくなったからだ。お前が消え、穣がアンバーの採掘監督になってから全てが狂いだした!」
穣が「何でだ!」と叫び、満は穣を睨んで言う。
「貴様がしっかりしないからカルロスが護の所に行き、護に妙な事を吹き込み、そして黒船まで! ……黒船は人工種を代表する船、管理の皆様の指示に従わない事などあり得ないのに、聞けば奴はよりによって、霧島研に勝手なワガママを言いに行ったという! ……護、あいつは危険だ。関わっちゃイカン!」
カルロスは流石に辟易して「……私はどんだけ悪い人なんだ……」と愚痴る。
満は「穣、貴様がマトモであれば、我ら五人でカルロスを抑える事が出来る。……これ以上反抗すると、管理の皆様も黙ってはいないぞ。いい加減にしておけ!」と声を張り上げる。
穣は「何を今更」と辟易し、満は護を指差して
「護! お前は穣やカルロスのようになっちゃイカン! 今ここでお前をブルーに連れ帰る!」
護はクッタリして「満さんもイェソドに来ればいいんだよ」
「なに」
「俺もう管理とか製造師とかどうだっていいし」
護は満に見せるように白石斧を立てて「これ、有翼種の採掘道具でケテル白石斧っていうんだけど、これ俺が自分で採った石で作った斧なの。満さんもこういうの、作りたくないですか?」
「……」
満は険しい顔で黙って護を見つめる。
「俺は石が好きなんで、採りたい石を自由に採れるってだけでも楽しいけど、有翼種と一緒に採掘すると、もっと楽しい。有翼種は飛べるからさ、彼らと一緒に仕事するには落下しながら空中で斧を振るとかしなきゃならないんだ。大変だけど物凄く楽しい。……満さんも一緒にどうですか?」
「いいか護。……物事には道理というものがある。自分勝手な事は」
「正直俺はイェソドに居た時、もう二度とジャスパーに戻らない、って思ってたよ。だって昔の俺は死んでるように生きてたから。昔の俺って人形だった。生きてなかった。イェソド行って初めて自分が生きてるって感じた。……満さんが知ってる護ってのは、川に落ちた時にもう死んじゃったよ」
ハハハと笑う護を見ながら穣が呟く。
「……確かにな。今の護は昔の護とは全く違う」
「だからさ」護は鋭い目つきで満を見据えて「満さんも一度死んだらいいんだよ!」と白石斧の先端を満に向ける。
「……ま。まも……」
満が驚いて目を見開く。満のみならず穣や透も驚いて唖然とする。
(……あ、あの護が長兄に反抗している!)
護は満を睨みながら「俺はね。二度と自分を殺さないって誓ったんだ。名前の通り、まず自分自身を護る。自分勝手だと言われようが何だろうが、俺は自分自身を生きる!」と言い、今度は白石斧の先端を三男の歩に向けて叫ぶ。
「アンタも生きてんだか死んでんだか分かんねぇよな! 長兄の顔色伺ってばっかの腰巾着でさ! 俺も昔、そうだったけどさぁ! アンタも一回、死んだらいいよ!」
「……」
驚愕の表情で護を見る歩。その顔を見て透も驚く。
(いつも冷静で殆ど感情を出さない歩が、護に対してあんな顔を!)
周囲のブルーのメンバー達も、衝撃を受けたように目を丸くして護を見る。
(ま、護さんって、こんな人だったっけ……!?)
穣も心中感嘆の声を漏らす。
(……すげぇ……。人ってこんなに変わるのか……)
満は戸惑い、焦りつつ「ま、護、お、お前」と言ってから気を取り直して「護!」と怒鳴る。
護は呆れたように「まぁここで俺達を止めないと、長兄が管理と十六夜先生に責められるもんな!」と言って白石斧を肩に担ぐ。
「お、お前! ……昔はそんなでは無かった」
「だから昔の俺は死んだって」
「昔はもっと優しかっただろう! 何でそんな」
護は若干怒り気味に「優しいって、それ単に都合がいい奴なだけじゃん! ていうか、その、人の優しさに付け込んで人を利用する奴って最低だと思うんですけど!」
「私はお前達の事を思って」
途端に激高した護は「余計な世話じゃー!」と叫び「ってかアンタ自分の事しか考えてないやん! 自分の観念、信念を人に押し付けてばっかでさ! 人は皆、違うって事がワカランのかー!」
「ま、も……る」
あまりのショックに呆然とする満。その様子を見て穣は思う。
(……あの満が凄いショック受けてる。そりゃ、そうだよな……)
満は焦りと不安が混じった声で必死に「ま、護、お前……」
穣は溜息ついて満を指差し「ホント、コイツは十六夜先生にソックリだよな」
「私は長兄として」
「それ要らねぇよもう」
護は「とにかくここから去って頂けますか! 邪魔なんです」と白石斧をまた満に向ける。
「……しかし、お前達、本当にそれでいいのか。このまま管理に反抗し続ければどんな事になるか」
「何で管理の為に自分の心を捻じ曲げなきゃならないんですか」
「皆、そうやって我慢して生きている」
「それは貴方がそれを選択して生きているだけの事です」
護はそう言って白石斧を下に下げると「俺はもうそんな生き方は選ばない」
「だが……行くのはいいが、帰ってきた時に、どんな制裁を受けるか」
「人が心からやりたい事をして、幸せを感じて、なぜそれを責められなきゃならないの? そんな世界ならば見限る」
「お前は……」と言った満は暫し黙ると「なぜそんなに強くなった」
「え」
一瞬、驚いて目を見開く。
満は自分の首のタグリングを指差して「これが恐くないのか?」
「てか、そんなの付ける管理に絶望しませんか」
「……」
「例え恐怖があったとしても、それでも俺は自分を生きたい」
「お前は……」
少し悲し気な目になった満は、護を見つめながら呟く。
「本当に一度、死んだんだな……」
「まぁそうかもねぇ」
「昔のお前はもういないのか……」
満は寂しそうな顔をして深い溜息をつく。その表情に驚く穣。
(……満のこんな顔、生まれて初めて見た……)
周囲の、満を知る人々が皆、同じような思いを抱く。
「……仕方がない。一旦引き上げよう」
やや憔悴した様子の満は甲板ハッチの横を歩いて穣達の背後にいるブルーメンバーの所に行くと、上空のブルーの採掘口にいるメンバーに向かって「タラップ下ろせ!」と叫ぶ。やがてタラップが黒船甲板に下ろされると、満とブルーメンバー達は次々とタラップを上がり船内へ戻っていく。
最後まで甲板に残っていた歩は、護に向かって「……別人のようだ。ちょっと羨ましい」と言い残し、バッとタラップを駆け上がり船内に消える。
ブルーの船体の上空に居たアンバーは、いつしか前方に移動して停まっていて、タラップを上げたブルーは採掘口を閉じつつ垂直上昇する。
「ふひー……。やれやれ」
護が大きな溜息をついてクッタリすると、透が感慨深げに「しかし護、ホントに変わったな……」と呟く。
「うんまぁ。でもやっぱり長兄は怖いわい!」
そこへジェッソがハッチから甲板に出てきて尋ねる。
「ところで君達、どうやってここに来た?」
穣は右手で上を指差しながら「まずブルーの上に船を着けてだな。そっからブルーの翼に降りて、黒船の翼に降りて、さらに怪力の悠斗に翼から甲板に押し上げてもらった」と言い右翼の付け根付近を指差す。
見ればいつの間にか翼から甲板に上がって来た悠斗が甲板の縁に腰掛けている。
穣は続けて「ブルーが去ったらアンバーに帰るんで、黒船をちょっと前進させてくれ」
ジェッソは「了解」と言い、インカムでブリッジに連絡する。
「十六夜兄弟がお帰りなので、アンバーの下に移動を」
その間にブルーは方向転換し、大きく左折して飛び去って行く。続いて黒船がゆっくり前進し、アンバーの下へ。
アンバーは採掘口からタラップを下ろさず、時短の方法を取る。怪力の健とオーキッドがそれぞれ1本ずつ吊り金具付きのワイヤーを黒船甲板に下ろすと、護と悠斗が吊り金具に掴まり、健とオーキッドがそれを一気に引き上げる。同様にして穣と透もワイヤーで一気に引き上げると、採掘口を閉じたアンバーは前進を開始し、黒船がその後に続く。
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