第8章 02

一方、その頃。ターさん達は。

護とカルロス入りの木箱を吊り下げて死然雲海を飛ぶターさん。

カルロスは黒石剣、護は白石斧を持って木箱の中に立っている。

カルロス「行くぞ護!3、2、1、ゼロ!」で同時に雲海切りする。周囲が拓ける。

カルロス「よーし!ターさんこのまま直進だー!」

ターさん「ほいほい」と拓けた世界を飛んでいく。

カルロス「しかし雲海のエネルギーが濃くなったり薄くなったり。」

ターさん「よくある事だよ。今日はいつもより変動が激しいけどね。」

カルロス「お蔭でメッチャ探知し難い。時々目標をロストする。」

護「雲海の中で遭難は嫌だぞ」

ターさん「大丈夫、カルさんが探知できなくなっても妖精がいるから。」

カルロス、妖精を見て「…まぁな…。」

再び周囲が霧に包まれて来る。そして真っ白になる。

カルロス「またエネルギーが濃くなって来た…。」

護「雲海切りの練習になっていいじゃん。」

ターさん「しかしこんなにエネルギーが濃くなるのは珍しいな。まるで大死然みたいだ。」

護「大死然?」

ターさん「雲海の奥深く。エネルギーが物凄く濃い所。年に一度、採掘船は船団を組んでそこに行くんだ。」

護「へぇ!」

ターさん「そして大死然の中にしかない貴重な石を採って来る。大死然採掘って言ってね。選ばれた採掘師しか参加できない。」

護&カルロス「!」

護「ちなみに…ターさんは」

ターさん「俺は参加できるよ。」

護「俺は無理だろうなぁ…」ガックリ

ターさん「んでも見学の枠があるよ。希望者多いから競争率高いけど。個人採掘師としてどこかの船と契約出来ればまだ何とか」

カルロス「…探知と雲海切りでエントリー出来ないかな」

ターさん「今年の大死然採掘までまだ何ヶ月かあるから、その間にどこまで腕を磨けるかだね。」

カルロス「じゃあ練習しよう。雲海切りする。」と言って黒石剣をブンと振う。

雲海が拓ける。



一方、雲海の中で休憩中のアンバーでは。

ブリッジ前の通路で、皆がお茶を飲んだりクッキーやチョコを摘まんだりしている。

剣菱、その様子を見つつ「…皆、首輪は大丈夫か。」

穣「今は全く気にならなくなった。」

透「俺も」

剣菱、時計を見て「…よし。じゃあ休憩終わり。おやつを片付けて」と言うと「マリアさん」

マリア「はい!」と言って探知全開本気モード

一同は静かにマリアの言葉を待つ。暫し後、マリアが静かに口を開く「少し…探知し易くなってきました。」

剣菱「おお」

マリア「あ…あれ?」と言って「位置が…。遺跡が遠くなってる。」

ネイビー「風よ。風で流されたの。」

マリア「あっち…」と手を1時の方向に向けて「遺跡はあっち。」

剣菱「行こう。」

ネイビー「出発します。」

マリア「だんだん探知し易くなって来た。何なんだろう…?」

穣「ちなみに、管理とか黒船は?」

マリア「今の所は、感じない」と言い「ここから護さんを探知出来るかな…。」と言って暫し探知をかけて「…あれ。また探知し難くなってき…た?」と首をひねる

剣菱「まずは遺跡に向かおう。護の探知はそこからで。」

マリア「はい。でも何だか変…。」と、そこで「これは、さっきとは違う…。何だろう」と言い「あっ、分かった!これ上総君の探知妨害!」と言い「黒船がいる!」

一同「!」

穣「来たか黒船!」

剣菱「でも黒船に探知妨害される事は考えてなかった!」

マリア「んー…何とか上総君の妨害を…。うるさいなもう…、負けない!」

その時、緊急電話のコールが鳴る

穣「管理!」

剣菱「いや、多分、黒船だと思う。…通信出来る距離に居るんだな。出よう。」と言い受話器を取り「はい。アンバーの剣菱です。」


黒船の駿河「黒船の駿河です。管理の指示です、今すぐ船を停めて下さい。」

剣菱『なんで。』

駿河「なんでって、許可なく外地に」

剣菱『ところでアンタ、ウチの船と一緒にカルロスさんに会いに行かん?』

駿河「彼は自ら黒船を降りました。」

剣菱『その理由を知りたくないのか』

駿河「しかし、その為に危険を冒す訳には」

剣菱『ならウチの船がカルロスさんに聞いてきてやる。だから邪魔するな。』

駿河「そんな勝手な事は」

剣菱『探知のプロとはいえ、あの人はよく一人で黒船を出て行ったよなぁ!全てを投げ捨てて行ったあの人の覚悟、そこまでして彼が求めたのは何なのか、アンタそれを知りたいとは思わんのか』

駿河「…。」

剣菱『とにかくウチの船は行くと決めたんだ。邪魔するな!』

駿河「…アンバーはそれでいいかもしれない。でも黒船は、人工種を代表する船なんです。だから歴代の船長が厳しく管理してきた、そうでなければ規律が乱れ、安定した採掘が出来なくなる。」と言い「人工種が何の為に存在するのか貴方も分かっている筈です。その象徴である本船が勝手な事をすれば、他の採掘船にも影響が」

剣菱『もう遅い。黒船からカルロスさんが逃亡したという、その波紋はもう広がっちまった。』

駿河「…それ、は。」

剣菱『ハッキリ言おう。アンタの管理が甘いからカルロスさんが逃げたんだよ。先代のティム船長だったら彼は逃げられなかった。何せ相当厳しい人だったからな。』

駿河「…。」

剣菱『若くて船長経験の無いアンタが何で突然、黒船の船長になったんだろうな!その理由は?…ティム船長が管理とケンカしたからだ。管理の意に沿わない船長になったから降ろされた。壮絶な見せしめだよな!』

駿河「自分が船長にさせられた理由はわかっている。…でも。」と言い「あの方は素晴らしい船長だったが厳しすぎた!だから俺は…まぁ、…。」と言葉に詰まる。

剣菱『…何が素晴らしい船長なんだか。俺には単にプライド高くて威張ってばかりのクソ船長にしか見えなかったがな』

すると駿河「えっ…?!」と目を見開いて驚くと「…ティム船長が?」

剣菱『うん』

駿河「…。」困惑の表情


アンバーでは

悠斗、コソコソとマゼンタ達に「船長すげぇ言いたい放題言ってる!!」

穣もコソコソと「気持ちいいわな」

剣菱、受話器に「黒船はずっと採掘量第一位のご立派な船だもんな、その地位とプライドを捨てる事は出来ねぇわな。だったらせめてウチの船の邪魔すんな!」と言いガチャンと受話器を置いて電話を切ると「マリアさん、頑張って探知してくれや!」

マリア「はい!」

マゼンタ、剣菱に「あのー黒船の、前の船長って立派だったんじゃないの?」

剣菱「確かに立派なとこもあったが俺にはクソ船長に見えた。」

穣、苦笑いしつつ「本音言っちゃった…」


黒船では

駿河(…言いたい事、言いやがって…)と思いつつ、ゆっくりと受話器を置くと「…上総。」

上総「はい」

駿河「何とかアンバーを止めよう。それが、黒船の役目だ。」

上総「…はい。妨害を続けます。」

駿河(…クソ船長…。あのティム船長がそうなら俺はそれ以下か。どうせ俺は管理の言いなりの傀儡船長だよ…。)



一方その頃、ターさんたちは。

死然雲海の拓けた場所で休憩中。巨大な石の上に座って水筒のお茶を飲んでいる

ターさん、お茶を飲んで「いやぁ結構な距離を飛んだねぇ。ダアトは遠いなー。」

カルロス「スマン、ターさん。護が遊んでばっかりで」

護「俺も時々雲海切りしてたやん!」

ターさん「かなり遠いとは聞いてたけど予想以上だった。…しかしカルさん、相当な距離を歩いて来たんだねぇ…。」

カルロス「…今から思うと無謀な事をしたなと思う。妖精が居なかったらどうなっていた事やら。私の必死の呼びかけも無視されたし」と護を見る

護「何か?」

カルロス「石茶の味もワカラン奴め」

護「お茶はお茶だ。」

ターさん、笑いつつ水筒のお茶をコップに注いで「まぁカルさんの石茶を飲むと元気が出るからゆっくり行こう!」

カルロス「多分、途中までしか行けないが」

ターさん「雲海探検、面白いから何でもいいや」

カルロス、ふと「…雲海のエネルギーが落ち着いてきたな。」と言い「ダアトらしき人工建造物の位置を確認しよう。」と言いつつ茶を飲みつつ探知

護「って茶を飲みながら探知かい!」

カルロス「フッ…。たまに寝ながら探知してる事も…おや?」と言って「なんだこれ。」

ターさん「何か見つけた?」

護「美味い石かな」

カルロス「違う。」と言って暫し目をパチパチさせて「…大変なものを見つけた。…アンバーとオブシディアンがいる。」

護「!」驚いて「俺達の採掘船!」

カルロス「アンバーは我々が目指すダアトらしき場所へ向かっている。それを黒船が妨害している。なんでだ?」

護「アンバーが、ダアトへ?」

ターさん「…どうする?会いに行く?」

3人、暫し黙る。

ターさん「つまり向こうに戻れるチャンスって事だよね?」

カルロス「…まぁ…。」

護「戻らなくてもいいけど…。」と言い「ん?」と言ってキョロキョロと辺りを見て妖精を見ると抱き上げて「キミかな?」

妖精「?」

ターさん「だから妖精じゃないってば。カルさんの探知エネルギーも妖精と間違えたよね。」

カルロス「人が必死に貴様を呼んだのに!」

護「…つまり誰かが俺を呼んでる?」

カルロス「貴様と私を必死に探知しとる奴がいる!それを黒船が妨害しようと」

護「なんと!」と言い「カルさん嫌われちゃったねぇ!」

カルロス「まぁ私はな!自ら逃亡した奴だからな!それにしても、どうする護!」

護「どうするって。」と言い「…探してくれてるのか…。」と言うと「ちょっと挨拶だけしたいな。俺は元気だよって伝えたい。」

カルロス「…んじゃまぁアンバーを黒船から引き離すか。ターさん、スマンが付き合ってくれ。」

ターさん「いいよ。君達の採掘船を見てみたいし。」

カルロス「では片付けて、行動開始だ。」と言いコップの石茶を飲み干す。



その頃、霧がかった遺跡上空を飛ぶアンバー。その遥か彼方に黒い船影が見える。

必死に探知するマリア「護さんかどうか分からないけど、さっき何かの存在を感じた…あっ、またわかんなくなった。もぅ!ウルサイな上総君、妨害やめてよ!」

穣「落ち着けって!」

マリア「先に黒船を何とかしないとマトモに探知できない!」

剣菱「…ド最悪な場合は黒船に突撃しちまえ。」

ネイビー「って何すんの?」

剣菱「アンバーを黒船の上に着けてだな。」

穣「ウチの採掘口から黒船の上部甲板のハッチぶち破って中に押しかけるって感じ」

悠斗「ちょっと面白そう」

剣菱「何せそろそろ燃料がヤバイもんで」

剣宮「こんな速度でずっと飛んでりゃ…。」

その時、マリアが「あれ?妨害が無くなった。」

一同「!」

穣「上総も疲れたか」

マリア「違う。カルロスさんだ!」

穣「ほぇ?」

マリア、物凄く嬉しそうに「船長、カルロスさんです!カルロスさんが呼んでる!ネイビーさん、あっちへ!」と、とある方向を指差す。

一同、ポカンとする。

穣「だ、大丈夫かマリアさん。疲れたんじゃ…」

剣菱「ホントにカルロスさんなの?」

するとマリア、怒って「ホントよ!何でこんな時だけ皆、信じてくれないの!」


一方、黒船では

上総「あ。…あれ?」

駿河「どうした?」

上総、目をパチパチさせて「アンバーの妨害が出来ないっていうか…。おかしいな。」と言い、船窓から見えるアンバーの船影を指差し「目視出来てるのにアンバーの位置が感じられない…って、これは!」と言い「俺が探知妨害されてる!」

駿河「誰に?」

上総「あの人ですよ!…だってこれ、あの人が散々俺にやった技…!」

駿河・総司「!」

上総「あいつの位置を探知します!」というと本気モード全開探知「今度こそ見つけてやる!」

駿河「いや、それよりアンバーだ!」

総司「アンバーを見失うな!」

上総「…。はい。」