第11章 01

暫し後。霧島研の屋上では飛び立つ管理の船と入れ替わりにアンバーと黒船がやって来る。

それを待っているカルロス達。

カルロス「やれやれ何だか知らんがメッチャ疲れた。」

そこへ穣が「…あのブチ壊したドアの修理代、何で俺まで…」

カルロス「『ドアぶち壊すぞ!』と叫んだからだな」

穣「俺は壊してませんけど」

カルロス「私だけ支払うのは納得がいかん。貴様と半々で弁償だ、諦めろ」

穣「いいけど、もし仮に管理から法外な請求が来たら裁判でも起こすか」

カルロス「そんなメンドイ事したくないから真っ当な請求が来る事を祈ろう」

穣「うむ」

カルロス、ため息ついて「早くイェソドに戻って石茶が飲みたい…」

穣「石茶?」

護「有翼種が飲むお茶。カルさんが凄いハマってる」と言うと「ちなみにカルさんもアンバーに乗るの?」

カルロス「え」

穣、ボソッと「黒船に行きゃあいいのに」

カルロス、コソコソと「…逃亡した奴が行ける訳なかろう。」と言い「それにコイツに聞きたい事もあるし」と周防を指差す

護「なら俺が周防先生つれて黒船に行けばいいんだなぁ」

カルロス「なにぃ」

穣「俺も話を聞きたいからお邪魔しようかな」

そんな話をしていると背後から「カルロスさん」と呼ぶ声が。

カルロス「はい」と振り向くと

駿河が「貴方が黒船を出る時に置いて行った荷物は、本部の倉庫に置いてあるので取りに行った方がいいかと。」

カルロスちょっと驚いて「は」と言うと「処分されたと思ってましたが。大したもの入ってないし」

駿河「まだ無事です。」

そこへ穣が「あ、護!お前の荷物はお前ん家にある。部屋は透が時々掃除してたからキレイな筈」

護「おお!ありがたい!」

穣「勝手に合鍵で入って申し訳ないとは思ったんだけど、全然面白いモンが無かった」

護「いあー見つからなくて良かった」

穣「って何かあったんか!」

そこへアンバーと黒船が着陸し、タラップが降ろされる。アンバーのタラップからは悠斗や透、オーキッドに見送られて、追い出されるように数人の管理が降りて来る。

駿河「カルロスさん、黒船へどうぞ。採掘船本部までご一緒しましょう。」

上総「何なら泊まってもいいですよ!部屋空いてるし!」

カルロス「い、いや。」

穣「よっし!ちょいとここで周防先生に話を聞いとこう!」と言うと、「健、マゼンタ、俺ちと黒船に行って来るんで船長に宜しく言っといて」

マゼンタ「はぁ?」

健「はーい」

護「じゃあ周防先生、行きましょうか黒船へ!」

カルロス「ってお前ら誘われてねぇだろ!」

駿河「構いませんよ!周防先生の話を聞きたいし」

マゼンタ「ええー俺もさっきの続き聞きたい」

穣「後で聞いた事を教えてやっから!」

マゼンタ「絶対っすよ!」

上総「行きましょうカルロスさん!」

マゼンタたちはアンバーへ、カルロス達は黒船のタラップへと歩く。

護、ワクワクした顔で「初めての黒船だ!」

周防、駿河に「ではちょっとお邪魔します」

タラップを上がり始めると上の方から「おかえりー!」と言う声が。

見れば上の方にジュリアとシトロネラが立っている

シトロネラ「うわ珍しいのがいる!周防じゃん!久しぶりー」

周防「お、シトロネラ。久しぶり」

ジュリア「カルロスさんお帰りなさい!」

カルロス「…帰った訳でも無い…」

穣「すまーんお邪魔するよー」

全員中に入る。

ジェッソ「タラップ上げるぞー!」

駿河、船内電話でブリッジに電話し「あ、副長。今からアンバーと一緒にSSFまで飛んでくれるかな」


ブリッジでは船長席に総司がいて操縦は静流がしている。アメジストもいる。

総司、受話器に「了解。」と言うと静流に「SSFに向かって飛んでくれって」

静流「はい。」


再び採掘準備室の駿河「留守番ありがとう。今、ここにカルロスさんと周防先生が居てさ。俺ちょっと話を聞きたいんで、もう少ししたらブリッジ行くと思うから」

すると受話器から『来なくても大丈夫ですよ』

駿河「え」

そこへジェッソが「船長、採掘口オッケーです」

駿河、受話器に「…採掘口閉じましたよ、総司船長」

すると受話器から笑い声と共に『了解です!』それから『ところで船長、さっき航空管理に怒られて、反則金払う事になりましたんで宜しく。』

駿河「免停にならなくて良かった。」

総司『まぁウチよりアンバーの方がヤバいんじゃないかな。かなりの速度でぶっ飛んでましたから。反則金で済めばいいですけどね!』



アンバーと黒船はアンバーを先頭にSSFへ向かって一列に飛ぶ

黒船の採掘準備室では、折り畳み椅子や小さなコンテナを椅子代わりに座りつつ、一同が輪になるように集っている。

周防の右側には護、メリッサ、昴。左側には穣、カルロス、上総。そして周防に向かって正面側に駿河とジェッソ。彼らの背後に他のメンバー。ジュリアやシトロネラは、ちょっと離れた所に置いたコンテナをテーブル代わりに、その上に置いたポットでカップに紅茶やコーヒーを淹れている。

ジュリア、周防に紅茶を淹れたカップを渡して「どうぞ」

周防「ありがとう」と言い受け取り、一口飲んで、はぁと溜息をついて「黒船かぁ…。何年ぶりだろうな」と呟く

穣「以前にも乗った事が?」

周防「うん。確か…」と考えて「私が15才くらいの時だから」

上総「82年前?!」

護「またトンでもない数字が」

上総「その頃、黒船あったの?」

メリッサ「もしかしてその頃は採掘師してたとか?」

すると周防、ふとメリッサを見て「あ、お前がメリッサか!」

メリッサ「そーよ一体私を誰だと思ってた訳?」

周防「フランだったかフェンネルだったかと思って」

メリッサ「フランキンセンスは昴のほう!」

周防「へ?」

メリッサ「昴の奥さんがフランよ!採掘船シトリンに乗ってる!」

周防「ああ。…フェンネルって今どこだっけ」

メリッサ「採掘船レッドコーラル!」

シトロネラ「ちなみにメリッサはあの人の奥さんよー!」とジェッソを指差す

すると護が「…皆さん結構、結婚してらっしゃるんですね…。」

カルロス「ところで話がスッ飛んだ!」

周防「スマン。」と言うと護に「ウチの人工種は人数が多いから、あまり会わない奴は顔と名前が一致しない場合がある。更に誰と誰が結婚したとかは、もう…」

穣「まぁまぁ82年前の黒船の話の続きを。」

周防「ああ。黒船と言っても、この船体じゃ無いけども。」と言い「黒船に乗って探し物をね…」と言うと「昔、知識の都ベリアーに有翼種を研究する人々がいて。彼らはイェソドを探す為の人工種を作った。それがカナンと私。」

護たち「え!」

メリッサ「イェソドを探す為…」

カルロス「てことはアンタ、探知人工種なのか?」

周防「まぁ探知もあるけど」

カルロス「も?」

周防「カナンは探知の特化型だよ。でも探知とかそういうのは私はもうとっくの昔に出来なくなったな。」と言い「あんまり昔の事は話したくないなぁ」と苦笑いする。そして「まぁ何とかイェソドを見つけて有翼種と交渉したんだけどうまく行かなくてね。…ハッキリ言えば追い払われた」

護「有翼種に?」

周防「うん。」

カルロス「その原因は?そもそも何の為に」

周防「…それは当時の人間達に聞かないとな。私はまだ15だったし、まぁ…。」と言うと「私とカナン以外の人工種に自己意志なんか無かったので。」

穣「どういう事ですか」

周防「人形。本当に人形。例えばこうして集っても、仲間と私語する事も無く、ただ立っている。」

一同、唖然として固まる

護「立っている…」

周防「個性も感情も無い」と言うとタグリングを指差し「この首輪がね、壮絶だったんですよ。本当に。」と言うと「…って皆さんそんな緊張しないで」

穣「それ、ちょっと怖すぎるんですけど。」

周防「…まぁ、人工種の歴史を紐解くと、闇が沢山ありまして。」と言って溜息ついて暫し黙ると「…この話を言って良いものやら」

穣「できれば是非、聞かせて欲しい。」

カルロス「カナンさんとアンタが死んだら、それこそ永遠に闇に葬り去られる」

周防「…特に若い子には聞かせたくない話なんだが。」

上総「聞きたいです!…周防先生の過去、聞いた事ない」

メリッサ「知りたい。今まで殆ど話してくれなかった」

周防「…まぁ、昔の人工種はね。」と言うと「…壊れると処分されましたからね。」

穣「て、いうと」

周防「うん。まぁ、…殺されたと」

一同、固まる

護「…本当に?」

周防、笑って「やめようこの話」

カルロス「いいから聞かせろ」

上総「聞きます!」

周防「まぁ、その、なぁ…。」と言うと、タグリングを指差し「…これでガンガン締め付けるだろ?すると壊れるわな。メンテして治らないと廃棄処分という。」

護「先生、よく生き延びて来ましたね」

周防「…そう、だな。」と言い「まぁ私が人間にとって役に立つ人工種だったからだな。」と言うと「あ、そうか思い出した。私が製造師になったキッカケは自分をメンテする為だったんだ。」

護「そうなんですか?」

周防「うん。今、話していて思い出した。そう、そうだ。最初はそれなんだ。このタグリングをな?何とかしたくて…。」と言うとため息ついて「…あんまり話したくないな、色々思い出してしまう。」

穣「いや、でもここは頑張って話して下さい。でないとマジで人工種のホントの歴史が」

周防、暫し黙ると「…そう。自分が生き延びる為に必死でタグリングの事を調べて色々やっているうちに…。」と言って溜息をつくと「あの時は自分が製造師になるとは全く思っていなかった。それがこんな事になるんだもんなぁ…。」と言って暫く黙って考えると

周防「複雑な話だ、順を追って話そう。まず…」と言いかけた所で

突然、昴が「待って待って。…録音してもいい?」とスマホを取り出す。

周防「え」

穣「昴ナイス!録音しとけば後でアンバーの連中に話す手間が省けるし!」

昴「って、データあげないぞ。」

穣「えー!」

周防「…まぁ、ご自由に。」

昴「じゃあ穣がそこでこのスマホ持っててくれたら、後でデータあげる」

穣「交渉成立!」と言うと昴からスマホを受け取り、周防に近づけて持つ。

周防「まず…ええと。…カナンの製造師は神谷俊明という方なんだが、この方は人工種に自己意志を持たせる為に、有翼種の研究をしていた。」

護「有翼種の?」

周防「人工種が支配される前の状態になるには原種である有翼種の遺伝子が必要と考えたらしい。」

護「原種が…有翼種?」

穣「護、俺ら人工種は有翼種と人間の混血なんだよ」

するとカルロスが「それは人工有翼種では?」

穣「人工有翼種から人工ヒト種になったのが俺達」

カルロス「ほぉ?」

護「どうしてそうなったの」

穣「詳しくは俺が後で教えてやるから、周防先生、続きを」

周防「…とにかく有翼種の居るイェソドを探す為に、探知に特化した人工種を作った訳だが、ここに大きな謎があって、カナンと私の遺伝子が、当時の他の人工種とかなり違うという…。」と言い「ちょっと専門的な話になるが、昔、人工種の遺伝子型は一つしか無かった。霧島研で最初に作られた人工種の遺伝子型で、これを『基礎原体』と言うんだが、当時の製造師はこれを改変して色々な人工種を作っていた。しかしカナンが作られた時、その遺伝子型が基礎原体から大きく外れるものだったので、管理はこれを原体B型とし、基礎原体の系統を原体A型と定めた。つまりそれほど遺伝子が違う。神谷俊明という製造師はなぜ、そしてどうやって原体B型を作ったのか。」

護「…じゃあ周防先生は、俺達とは全然違う…?」

周防「いや、実は皆には原体B型の遺伝子が少し混じっているので全く違う訳じゃない。生粋の原体B型は私とカナンだけだが」

すると上総が「B03は?」

すると昴が「え。B03居たの?誰?」

上総「SSFで育成師してる紫剣愛美さん」

昴「え。俺の製造師、いつの間にB03完成させてた。」

周防「あれは紫剣さんの『原体B型を絶滅させるな』という執念で生まれた子だよ。」

護「絶滅って」

周防「だって原体B型はもう…。何回やっても全然出来ないんですよ。もうね、私は殆ど諦めていました。」と言い溜息をつく。

昴「でも紫剣先生が、周防先生をしつこく追い回して作った」

周防「…まぁ一応B03と管理に認定はされたけど、遺伝子が私とちょっと違う所があるので生粋のBではないんだなぁ…。」と言い「とにかくカナンが作られた当時から、製造師連中は原体B型を作ろうと躍起になって、その過程でAとBの遺伝子が混ざったMAやALA等の原体A型変形が生まれて、そこからCやらDやら色々生まれて君達がここにいる。だから皆の中には原体B型の遺伝子が多少なりとも入っている」

穣「ほぉ…」

護「なるほど」