第12章 01
翌日…。
ジャスパーの航空船教習所。ロビーの待合所の長椅子に座っているスーツ姿のカルロスと護。
護、ふぁぁと欠伸をすると「講習の時間まであと20分かぁ…。」
カルロス「しかし予想外に早く手続きが済んだな。管理がゴタゴタ言うと思ってたのに、電話したら『了解』の一言で済んだ。」
護「昨日大暴れした甲斐があったね。」と言い「でも寝るの遅かったから眠い…」
カルロス「私なんぞ早起きして採掘船本部に自分の荷物を取りに行き、久々に自宅に戻って掃除して…」ふと横を見ると、護が居眠りしている。「私も眠いんだが。早い者勝ちかっ!」とイライラしつつ呟くと傍らに置いたカバンから教本を出して読み始める。…欠伸をする。ウトウト。欠伸をする。教本を読む。ウトウト…。ハッと目を覚ます。カルロス、隣で眠る護をジト目で見ると、教本でパンッと護の頭を叩く。
護「…?」
カルロス、イライラしつつ「昨日、管理がゴネたお蔭で今日の講習は睡魔との戦いだ!全く」
護、欠伸しつつ「まぁ管理も眠いだろうねぇ。」と言うと「なぁカルさん」
カルロス「ん?」
護「アンタがイェソドに来てくれて良かったな。俺ずっと悩んでたんだ、あのままイェソドに居ていいのかなって。人工種が一人で心細かったし。アンタが来て嬉しかった」
カルロス「…突然、何を言うかと思えば。」
護「だってアンタ凄いんだもんよ。」
カルロス「何がだ!ったく寝不足だと変な事を言いだす!」
夕方…。
近くの食事処で夕飯の生姜焼き定食を食べている2人。そこへ護のスマホに電話がかかって来る。
護、スマホの電話に出て「こんばんは穣さん」
穣『教習所どうなった?』
護「特に何も問題ないよ。手続きして講習受けてる。そっちはどうなってる?」
穣『さっきチョコッと採掘した後、霧島研いって許可証を取って来た。昨日色々あったから今日はノンビリ。』
護「俺とカルさんは今日は睡魔との戦いだよ!ちなみに黒船は?」
穣『黒船も今日はノンビリだよ。明日の採掘の準備したら帰るってさ。ところでイェソドだけど、もし明日の朝、行けるなら行っちまうけど』
護「行くよ。その為に今日、眠いの我慢して頑張って講習とか受けたし。明日の朝、何時?」
穣『8時出航で』
護「了解。じゃあ俺達これからまた講習だから」
穣『頑張ってなー』と言い通話を切る。
護、カルロスに「明日イェソド行き。7時半にはアンバー!」
カルロス「寝坊したら置いて行ってくれ」
護「おっけー!」
カルロス「冗談だ!連れてけ!」
そして翌朝。
採掘船本部の駐機場のアンバーの元に、続々と荷物を持ったメンバーがやってくる。
それぞれ採掘口のタラップから中に入って行く。
マゼンタ、採掘準備室の穣たちに「おはよーございます!」
穣たち「おはようさん!」
そこへ護がやってくると「おはよう!」
穣「あれ。カルさん一緒じゃないの?」
護「うん。だって家、別々だし。」
穣「なるほ。」
その頃、カルロスはキャリーバッグを引いてテクテクと黒船の採掘口のタラップを上がり採掘準備室に入って「お…?」と驚く。
そこには既に駿河をはじめ、制服を着て集っている黒船メンバー一同が。
駿河「あれ?」
リキテクス「…カルロスさん、今日はアンバーでは?」
カルロス(しまった、間違えた!)と内心焦りつつ、「あ…。今日はアンバーだった!」と言うと「いつもの癖で間違えた!」と言うなりバッと採掘準備室を出てタラップを駆け下りていく。背後には爆笑する黒船メンバーの笑い声。
ジェッソ笑いつつ「あんなカルロスさん、初めて見た…」
上総「初めて見た!」
メリッサ「意外とお茶目だったのねぇ」
走るカルロス(…くっそぉぉぉ!恥ずかしいぃぃぃ)
再びアンバー。
採掘準備室には穣と護だけがいる。
護、時計を見て「40分か…。7時半にはアンバーって言ったんだけどな。」
穣「あのカルロスが遅れるとは珍しい。」
護「まぁ昨日、夜9時まで教習所で頑張ったからねぇ。」
穣「あ、来た。」そこへキャリーバッグを引いたカルロスが息を切らしつつタラップを駆け上がって来ると、穣たちに「すまん、遅れた。」
護「おはよー」
穣「アンタが遅れるとは珍しい。間違って黒船に行ったんじゃないかと心配してたよ」
カルロス「えっ」と驚く
穣「えっ?」
カルロス「いや。まぁ。」
穣「…もしかして、マジなの?」
護「さすが黒船勤続13年」
暫し後。本部の駐機場から黒船が飛び立つと、続いてアンバーも飛び立つ。二隻は並走して飛んでいたが途中から黒船が進路を変えアンバーから離れていく。
アンバーのブリッジでは
剣菱「黒船さんが頑張って鉱石を採っている間にウチの船はイェソドで有翼種と話し合いだ。」
そこへ護が「あ。そういえば!」と言うと「ターさんへのお土産に、マルクト石を買って持って行こうと思ってたのに、すっかり忘れてた…。」
穣「あるよ」
護「え」
剣菱「採って来た。」
護「マルクト石を?なんで?」
剣菱「我々も、何かお礼を持って行こうと考えてて、護がマルクト石は向こうで貴重だと言ってたのを思い出して、それにしようと。」
穣「どうせマルクトの霧島研行くし、ついでに採って来たと。」
護「おお…。ありがとう、ターさん喜ぶぞ!」
剣菱「ところで教習所どうだった?」
護「昨日は凄く眠かった…。でも航空法の講義とか大事な事ばかりだから頑張りました。」
カルロス「教習に来てる人に珍しがられましたよ。人工種が第三種?って」
剣菱「そりゃそうだろうな。」
護、タグリング指差して「これがあると人工種って分かり易いから、もう付けたままでもいいかも」
カルロス「人工種の証だ。堂々と付けとこう」
剣菱「なんか紫剣先生が小型船貸してくれるらしいが、もし良かったらウチの小型船も貸すぞ」
護「小型船、持ってるんですか」
剣菱「うん。ウチの奥さんが仕事で使ってる。」
護「え。それは」
剣菱「いいんだよ、護たちが免許取るまでレンタル船を借りるから。二隻あると二人が同時に練習出来ていいよな」
カルロス「はい。それは是非お願い致します。」
護「よし頑張ろう、カルさん」
カルロス「ところで昨日ちょっと小型船の値段を調べたんですが、なんであんなに高いんですか」
剣菱「な。高いだろ?ミニ船にしたら?」
カルロス「まぁ私は徒歩でイェソドに行きましたので、ミニ船で行けない事はないですが」
剣菱「…」
カルロス「冗談です…。」
穣「お前、冗談言うようになったのはいいけど、外すよな…。」
剣菱「個人にあんまりお空をウロウロしてほしくないので航空管理が値段上げて締めてんだよ。長距離飛べるような良いエンジン積んだ奴はメチャ高い。」
カルロス「うーん」
剣菱「まぁ後で中古屋紹介してやるから。お手頃価格にしてもらおうや。」
アンバーは暫し上空を飛ぶ。
ネイビー「そろそろ管理区域外に出ます。」
剣菱、後ろのボードに貼った許可証を指差し「許可証の出番だな。」
護「額入りにするんじゃなかったの」
穣「いあー額装するヒマなかったんでビニール袋に入れといたよ。」
護「四条さんガッカリ」
そこへ警報が鳴って『管理区域外警告』が出る。
ネイビー「…これって絶対出るのね」
剣菱「仕様なんだな。」
暫し進むと警報が止まって『管理区域外』の表示に変わり、航路レーダーが真っ白になる。
マリア「このまま真っ直ぐです。」
カルロス、マリアに「探知のルートは地下水の流れを辿って湖を拠点にイェソドかな?」
マリア「はい。」
カルロス「ちょっと最短距離を探したいので、ここからイェソドまで探知できるかテストしてみます。」
マリア「ここから?」
カルロス「うん」と言うと「貴方もやってみませんか」
マリア「え」と驚いてから「や、やってみます!」
カルロスとマリア、エネルギー全開で探知をする。
カルロス「…ちょっと遠すぎるな…。」と言って探知をやめると「やっぱり湖を拠点でそこからイェソドにしよう。」
マリア、探知を続けながら「遺跡は?」
カルロス「遺跡と言うと、どの遺跡?」
マリア「御剣人工種研究所がある遺跡」
カルロス「御剣?」と驚いて「それはもしかして…」
護「多分、俺とカルさんが探してた奴かも」
穣「俺そこ行ったよ。」
護「え?」
穣、カルロスを指差し「アンタが逃亡した時さ、上総が必死にアンタを探知してたらその遺跡を見つけてな。俺も黒船にお邪魔して一緒に行ってきた。昴が撮った写真がある」と言いポーチからスマホを取り出して「コレ」と言い護とカルロスに見せる。
護「ほぉぉ!つまりこれが有翼種が探してるダアトか」
穣「ダアト?」
護「人工有翼種の街、ダアト。」と言うと「…カルさん、ニュースになり損ねちゃったな」
カルロス「これ、有翼種がなかなか見つけられないから、探知したらニュースになるかもと」
穣「イェソドの有翼種も知らないのか。」と言うと「ちなみに、最初に見つけたのは上総だからな」
カルロス「え。ちと待て。それ最初に探知したのは」
穣「ええやん。弟子の手柄にしてやれや。実際に行ったんだし」
カルロス「う、うーむ。」と言い、探知をかけて「ダアトか。ダアトからイェソドと、湖からイェソドではどちらが近いかな。」
マリア、探知をやめて「やっぱり遠くて無理…。」
カルロスも探知をやめて「とりあえず湖に着いたらまた探知してみよう。それにしてもウルサイのが来るようになったな。」
マリア「かわいいじゃないですか。」
剣菱「なにが?」
マリア「イェソドを探知してると妖精さんがチョコチョコ入って来るんです。」
カルロス「あいつら時々、探知の邪魔するから妨害したほうがいいぞ」
護「てことは、ターさん、俺達が来るって気づいたかな」
カルロス「妖精がターさんに教えればな。あいつら気まぐれだから当てにすんな」
剣菱「妖精…って一体」
マリア「あ、船長は見た事ないんだっけ」
ネイビー「私も見た事ない」
カルロス「イェソドに行ったら嫌でも沢山見れますよ。その辺に居るから」
その頃、イェソドのターさんは。
木箱を吊り下げて飛んでいる。浮島に到着すると地面に木箱を降ろして、傍のケテル鉱石柱を叩いて活かし切りを始める。するとそこへポコポコと妖精がやってきてターさんの足元を飛び跳ねる。
ターさん、妖精を見て「今、仕事始めたばっかりだから。遊ぶなら後で」
するとゴツゴツ妖精がターさんの肩に乗って何か訴えかける
ターさん「ん?…何か来るの?」と言ってゴツゴツ妖精を手に取ると「金髪と青い髪が来る?ホントに?」と言うと「どうしようかな」と考えて「これ一本採ったら帰ろう」と言い再び斧で活かし切りを始める。
一方、アンバーは湖に到達する。
探知をかけているマリアとカルロス。
カルロス「…ダアトの遺跡より、湖からイェソドに行った方が近いな…。やや11時の方向へ」
ネイビー「はい」
マリア「もうイェソドを探知したんですか。私、まだ…。」
カルロス「行った事がないからだ。情報が増えると探知し易くなる。とはいえ。」と言い「死然雲海のエネルギーが濃いと私も探知できなくなる」
マリア「あの時、探知が不安定になったのは雲海のせいだったんだぁ…。」
カルロス「雲海はエネルギーの変動が激しいので面白いぞ。色々と探知し甲斐がある。」
マリア「…」ちょっとカルロスを見つめると「…カルロスさんは、どうしてそんなに凄い探知ができるようになったんですか」
カルロス「え。」と言うと暫し黙って「まぁ色々頑張ったからかな」
マリア「どんな練習したんですか?」
カルロス「練習…というよりストレス発散で…。アホな事を色々。」
護「何やったの」
カルロス「…絶対やらない方がいい練習方法を…」と言い「…やっぱりやめとこう」
護「言いかけて止めちゃイカン」
カルロス「…目を閉じてさ。自転車乗って走る。」
護「…って、探知だけで走るって事?」
カルロス「うん。」
マリア「それは流石にちょっと…。それって出来るんですか?」
カルロス「慣れれば出来るようになるけど、慣れるまでは、結構危ない。」
穣「アンタ何でそんな事やってんの」
カルロス「やってみたくなったから。最初は広場でやってたけど、アチコチぶつかってなー。それでも1ヶ月位やってると、ぶつからなくなるんだな」
穣「1ヶ月もそんなアホな事をするのが凄い」
カルロス「でさ。公道出ても大丈夫になったので、目を瞑って走る訳だよ。んで適当に走って目を開けて、ここどこだ?って現在位置の探知して、家まで戻るっていう。」
マリア「ダメだぁ…そこまでは出来ない…。」
ネイビー「しなくていいわよ。普通でいいから。」
カルロス「うん。上総にもこんな事は教えていない。」
穣、カルロスに「…アンタほんとに探知バカなんだな。」
護「マジで人型探知機だ。」
剣菱、カルロスに「もしもし。目を閉じて小型船の操縦とかしないで下さいよ。」
カルロス「それはやりません、はい。」
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