第12章 02

アンバーは厚い雲の中に突っ込んでいく。ブリッジの窓の外が真っ白になる

護「雲海に入った。結構、濃いなぁ」

カルロス「マリアさん、この真っ直ぐ前方にある遺跡を探知できますか」

マリア「…かなり、探知しにくくて…。」

カルロス「それが探知出来ればイェソドまでの目印にできる。」

マリア「んー…。」困る

カルロス「…まぁ最悪、どうしても探知できなくなったら妖精を探すといいかもな。私が最初にイェソドに行った時はそうだった。」

マリア「そうなんですか?」

カルロス「最初は護を頼りに探知するしかなかったし、何せこの距離をずっと走りながら探知してたもんで、雲海の中で力尽きて倒れた。そしたら妖精がやってきて、その妖精について歩いていったらコレと出会った」と護を指差す

マリア「そうだったんですか…。」

護「俺の時は妖精がターさんを呼んで来てくれたんだよ。森の中で倒れて、目を覚ましたらターさんの家だった。」

穣「良かったなぁマジで…。」

カルロス、マリアに「ちなみにマリアさん、ここから採掘船本部を探知出来ますか」

マリア「やってみます」と言い、エネルギー全開探知で頑張り、「あ!」と言うが「あー…ロストした。一瞬だけ分かったけど、この雲海が」

カルロス「でも黒船と二隻だったら私が居なくてもイェソド行き来できると思う。」

護「今後は俺とカルさんの小型船が雲海をウロウロしてるから大丈夫だよ。」

カルロス「そうか。我々が行き来するんだもんな。」

そこへネイビーが「あら。景色が見えるようになって来た。」

ふと見るとブリッジの外に森がうっすらと見える。

カルロス「雲海が薄くなってる。丁度いい、やや高度を下げて。」と言うと「マリアさん、この先の遺跡を覚えといて下さい。」

マリア「はい。」


森の上すれすれを飛ぶアンバー。徐々に木が少なくなり、崩れた古い建造物がポツポツと見えて来る。そして建造物跡の密集地に入る。アンバーはそこで一時停止する。

一同、ブリッジの窓からそれを見る。

透「これ、全部、ケテル石だ…」

マゼンタ「これも人工有翼種の街だったのかな」

護「さぁねぇ。」

マリア、探知して「…あ、もしかしてこれかなイェソド…。」と言い「何となくわかった!」

ネイビー「じゃあそろそろ発進するよ。見学おわり!野次馬の皆さんはブリッジから出て」

マゼンタ達「はーい」と言ってブリッジ後方に戻る。

アンバーは再び前進を始める。ブリッジの外が再び真っ白になる。

ネイビー「また真っ白になっちゃった。」

マリア、探知を続けながら「あ…でも、もう少しで雲海が無くなるみたい…。」

穣「雲海ぬけたらイェソドかな?」

護「まぁ一応そうだけど、本当のイェソドは、イェソド山の『壁』の中。」

その時、突然バッと白い雲が消えて太陽の光が差し込み、一気に視界が広がる。と同時に森が消えて草原が広がる。

ネイビー「わぁ!」

剣菱「おお!」

マリア「抜けたー!」

カルロス「じゃあターさんの家に行こう。高度を下げながら、このまま真っ直ぐ飛んで」

ネイビー「はーい!」

カルロス「って、採掘船だともうあっという間だな。」

護「エンジンが違うからねぇ。」と言い、前方に見える山を指差して「あれがイェソド山。あの手前にターさんの家がある」

穣「山の中じゃないんだ?」

護「うん。ターさんはイェソドの『壁』の外に家を建てた珍しい有翼種なんだよ」

カルロス「だから何も無い所にポツンと一軒」

マリア「あ、ほんとだ!一軒しかない。ネイビーさんもっと左」

護「有翼種はそれまで『壁』の中でだけ採掘してたけど、ターさんはどうしても外に出たくて、頑張って外に出たら他の有翼種や採掘船まで外に出るようになったという。」

剣菱「なんだなんだ、どっかの誰かと同じだな」

カルロス「そろそろ見えるぞ」

ターさんの家が見えて来る。

ネイビー「見えた!これもう家の前に船、泊めちゃっていいよね?」

剣菱「うん。お任せする。」

マゼンタ「うわぁ。いいなぁ家の前に採掘船って。絶対遅刻しない」

すると家の玄関からターさんが出て来てアンバーの方に手を振る

アンバーは家からちょっと離れた場所に横付けするように着陸する。

アンバーの採掘口が開いてタラップが降りると同時に護が船内から走り出て来る。

ターさんも護の方に駆け寄る。

護「ただいまターさん!」

ターさん「おかえりー」と言うと2人、ハグして喜ぶ。

ターさん「なんか予想外に早いお帰りだね。」

護「向こう行ったら色々あってさ、小型船買う前にアンバーで戻る事になった」

ターさん「そっか。まぁ何でもいいよ、会えて嬉しい」そんな2人の頭の上に妖精がのってポコポコと喜ぶ。

その後からカルロスがテクテクと2人の所に歩いて来て立ち止まると「ただいまー」

ターさん「おかえりカルさん。妖精が待ってたよ」

するとカルロスの頭にゴツゴツした妖精が飛び乗るとボンボンと跳ねてそれからカルロスの肩に降りると頬に身体をスリスリする。

アンバーの採掘口タラップから剣菱と穣が降りて来る。その後ろからコンテナを持った悠斗、そして透達が降りて来る。すると剣菱達の所に妖精がポコポコ寄って来る。

悠斗「おっ、妖精の出迎えだ」

剣菱、立ち止まって妖精を見ると「え。…これが噂の…。ホントにこんなカワイイのが護達を助けたんか!?」と屈んで妖精の頭を撫でて「不思議な生き物だな…。ありがとうなー。」と言いつつ妖精の頭を優しくポンポンと叩くと、立ち上がってターさん達の方へ歩きつつ

剣菱「こんにちはターメリックさん!」

ターさん、剣菱達の方を向いて「ようこそ剣菱船長!」

剣菱「これ、護とカルロスさんを助けてくれた、お礼を兼ねたお土産です。どうぞ」

悠斗がマルクト石を満載したコンテナをターさんの前に置く。

ターさん「わぁ!マルクト石」と驚いて「これ、こっちでは滅多に無い石材なんですよ。」と言い「良いんですか、こんなに!」するとコンテナの周りに妖精がポコポコ集まって来る。

剣菱「勿論です。」

護「皆で採って来たんだって。俺が知らない間に」

ターさん「こんな大きいマルクト石、初めて見た。何に使おうかなぁ」

カルロス「売れば高値が付くぞ」

ターさん「嫌だよせっかく皆が採って来てくれたのに。大きいのは、このまま庭石にしよう。」

カルロス「また庭石が増える」

護「いいやん!コレクションは沢山あってもいいの」

と、その時。妖精たちがコンテナからマルクト石を一つ運び出すとトコトコと持って行く

護「あら」

剣菱「お」

ターさん「気に入った石があると、時々勝手に持っていくんですよ。」と言い、マルクト石の欠片を見て「良い石だなぁ」と言うと剣菱達に「貴重な石を、ありがとうございます!」

剣菱「う、うん。…こっちだと貴重でもない…」

ターさん「じゃあとりあえず…、このコンテナは後で返しますから」

穣「コンテナごと、どうぞ。もし邪魔でなければ。」

ターさん「いいの?」

護「いいよコンテナ一個くらい。じゃあこれ小屋に運ぶね」と言ってマルクト石の入ったコンテナを持ち上げる。

ターさん「うん。ありがとう」護はコンテナを小屋の中へ

そこへカルロスが「ところでターさん、実はちょっと相談事が」

ターさん「鉱石の事かな?」

カルロス「え」

ターさん「イェソドで鉱石採掘したいって事じゃないの?」

カルロス「ああ、それもある。採掘させてもらえそうかな」

ターさん「それはもう直接行って聞くしかないよ」

カルロス「そうか。」

ターさん「大丈夫、今は貴方と護君のお蔭で信用あるから。」

カルロス「しかし今回は…」と言って剣菱を見る

剣菱「人間が居るのですが」

ターさん「あ、そうか。」と言うと「ちなみに…、イェソドに来る人、今後もっと増えるのかな」

カルロス「あと一隻来る。」

ターさん「えっ」と驚く

カルロス「そうだな、あまり来られてもイェソドも困るよな。」と言うと「私が護と一緒に船を持つので、それとアンバーと黒船の三隻、これが今後イェソドとジャスパーを行き来する。」

ターさん「なるほど…。」と言い「じゃあその辺りを皆とキッチリ話し合わなきゃダメだね。」

カルロス&剣菱「うん」

カルロス「で、黒船がこちらに来る理由なんだが、実は私の製造師をカナンさんに会わせたい」

ターさん「…ああ、カナンさんと同じB型の」

剣菱「分かり難いから兄弟にしとこう。」とカルロスに言ってからターさんに「この人の製造師はカナンさんの弟なんだけど、もうかなり昔に生き別れたので兄弟を何とか会わせたい」

話をしている間に護が小屋からターさん達の所に戻って来る。

ターさん「なるほど。じゃあとにかくケセドの街に行こう。」

剣菱「では船へどうぞ」

ターさん「あ、俺は船の前を飛びますから。イェソドには『壁』があるし、俺が船の前を飛ばないとまずいと思います。」

剣菱「そうなんですか」

ターさん「先に飛んでて下さい。俺ちょっと準備してから行きますので」

剣菱「あ、では…。」と言うと穣を見て「穣、インカム持ってるか」

穣「うん。」

剣菱「連絡用にターさんに渡して」

穣「なるほ!」と言うとターさんに「これ、船との連絡用に耳に付けといて下さい。」と渡しつつ「通信する時、この真ん中のボタンずっと触ってるとピーって鳴って回線開きますんで」

ターさん「わかった」と言いその場で耳に着ける。

剣菱、ターさんに「ではまた後で。皆、船に戻るぞー」と言い護たちはアンバーへ戻る。



暫し後、ターさんを先頭にケセドに向かってゆっくり飛ぶアンバー。


ブリッジでは。

透「…何だか不思議な光景だなぁ…。船の前に人がいるって。」

悠斗「普通は居ないもんな!」

その時、マリアが「…何だか…沢山の人がこっちに意識を向けてる感じが」

カルロス「警備の有翼種だな。」

すると前を飛ぶターさんが振り向いてブリッジの方を見ると同時に『止まって下さーい』とブリッジのスピーカーからターさんの声が響く

ネイビー「停船します」

ターさん『この先に「壁」があるんだけど、ちょっと様子見しましょう。』

そこへマリアが「何か来ます。」と同時に

カルロスが「採掘船だ」

剣菱「採掘船?」

カルロス「ターさんの友達の採掘船が来ます。」


暫くするとアンバーから見て右手前方の街のほうにブルートパーズの船影が見え、その手前に何人かの有翼種が飛んでいるのが見えて来る。

護、それを指差して「あれが有翼種の採掘船、ブルートパーズ」

剣菱たち「えええ」

マリア「あれ採掘船なの?」

穣「ほぉぉぉ、面白いな!」

ブルートパーズの前を飛ぶ有翼種たちの中から、一人がターさんに向かって飛び出て来る

カルナギ「こらぁ!ター、ター、ター、ター!」

ターさん「な、なんだよ!」

カルナギ「お前また変なモン連れてきやがって!」

ターさん「俺が連れてきた訳じゃなーーい!」

カルナギ「なんだこれは!」とアンバーを指差す

ターさん「人工種の採掘船だよ!アンバーっていう」

カルナギ「採掘船?これが?変な形してんな。」


その頃のアンバーブリッジ

剣菱「うん、あっちも同じ事を言っている!」

スピーカーからはターさんとカルナギの会話が聞こえて来る

ターさん『ちなみに、実は人間も乗ってたり』

カルナギ『何だって?人間って、人工種を支配する酷い奴らか!』

ターさん『そうじゃないのもいるってば』

という会話をしている間に街の方から何人かの有翼種がアンバーに近づいて来る。

カルロス「なんか警備の有翼種が近づいてきた」

護「カルさん、甲板に出よう!」

カルロス「え。あ、そうだな!」と言い護と共に通路に出て走り出す


外ではカルナギがターさんに「おいおい、人工種はともかく人間はマズイぞ!人間だけどっかに降ろしてしまえ」

ターさん「そんな事、出来ないよ!大丈夫だってば!護君やカルさんの船の人たちだから信頼できるってば」

そこへ。アンバーの甲板に護とカルロスが出て来て船体前方に走りつつ

護「カルナギさーん!」と叫んで手を振る

カルナギ「おっ。人工種」と言って護たちの所に来ると「お前ら!こんな妙なモンを連れて来やがって、どーするつもりなんだ」

護「これ、俺の大事な採掘船だよ、どうしてもイェソド鉱石が欲しいんだ。」

カルナギ「人間が居るとか」

護「大丈夫だよ!ホント信頼できる人達だから!」

カルナギ「本当だな?」

護「うん!」

カルロス「本当です。それなりの覚悟でイェソドに来た人々です。」

カルナギ、ため息ついて「そーか。」

そこへ、カルナギの背後に飛んで来た女性の有翼種が「信頼できるかどうかはこちらが判断します。」

護「あ」

女性の有翼種「船の中を確認させてもらいます!」

護「は、はい。」

カルロス「こちらからどうぞ」とハッチを指し示す。

女性の有翼種、カルナギに「カルナギさんありがとう。後は私達にお任せを。」と言うと、共に飛んで来た3人の有翼種と共にカルロス達についてアンバーの中に入る

カルナギ、ターさんに「ターが変なモン連れて来たから見て来いって事で出て来たんだが、まさか人間だとは。」

ターさん「んー、まぁ…。」と言い「あそこの窓から中の様子を見よう」とブリッジの窓を指差す


ハッチから船内に入った女性の有翼種は階段を下りた所で立ち止まると「人間は3人ですね。」

護「はい。」と返事しつつ(…探知したのか)

すると一緒に来た警備の有翼種が「確認しました。他には居ません。」

ブリッジへの通路にはアンバーメンバーが壁際に一列に並び、ブリッジの扉の前には剣菱と剣宮が立っている。

有翼種たちはメンバーの前を歩いて剣菱達の前へ

剣菱「ようこそ採掘船アンバーへ。私は船長の剣菱夏生と申します。」

すると女性の有翼種、「…船長が人間だとは!」と語気強く言う。

剣菱「…種族は関係ないかと。私は単に船が好きで船長をしておりまして。」

女性有翼種「イェソドに来た目的は」

剣菱「彼らが行きたいと強く望んだからです。」とメンバーを手で示して言う。

一同「!」

剣菱「イェソドには良質の鉱石があると聞いた彼らが、それを採りたいと言い出しまして。それに、私も有翼種の住むイェソドとはどんな所か見たいと思って参りました。」

有翼種「…人間と有翼種の歴史をご存じですか」

剣菱「恥ずかしながら、詳しくは存じ上げません。」と言うと「お願いです、何とか彼らの望みを叶えてやって下さい。その為にせっかくここまで来たのです。」と頭を下げる。

すると女性有翼種「…なるほど。」と言い、周囲のメンバー達を見てから「では鉱石の採れる場所へ案内します。」

剣菱「いや、あのー。実は今回だけではなく、…今後、ウチの船はイェソドで鉱石採掘をしたいんです。」

女性の有翼種「つまり、わざわざイェソドまで来て採って帰ると?」

剣菱「はい。しかし鉱石を採らせて頂くだけでは申し訳ないので、こちらも何か」

女性有翼種「たかが船一隻が採る鉱石の量などイェソドにとっては微々たるものです」

剣菱「いやいや。…実は鉱石採掘だけが目的なのではありません。何とかイェソドと交流をしたいのです!」

女性有翼種「交流?なぜ」

剣菱「なぜって…。」と言い暫し悩んで「…交流したいから、としか言いようがありません。興味がある、交流したい、一緒に何かやりたい。ただそれだけです。」

女性有翼種、暫し黙ると「…では。」と言い「とりあえずケセドの街へ来て頂きます。私の指示に従って飛んで下さい。申し遅れましたが私は『壁』の警備の副隊長をしておりますレトラ・アレクシスと申します。」


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