第14章 01

そして、金曜の朝。

採掘船本部の駐機場に泊まっている黒船の採掘準備室では、一同が朝の朝礼中。

ジェッソを先頭にメンバー達が横一列に並び、その端にちょっと離れてカルロスが立っている。

久々に黒船の制服を着ているカルロス。黒石剣が入ったホルダーを肩から下げている。

駿河はメンバー達の前に立つと「皆さん、おはようございます。今日はこれから…」と言い暫し間を置くと「周防先生を連れてアンバーと一緒にイェソドに行きます!」

一同「おお!」パチパチと拍手が起こる。

レンブラント「やっとイェソドだ」

夏樹「やっとだなー!」

駿河「恐らく道中、管理が色々言ってくると思いますが、臨機応変にしましょう。もう俺には何がどうなるかわかりません!」

ジェッソ「うむ!」

駿河「という事で」と言うとカルロスの前に行き「黒船に臨時のバイトで入った周防カルロスさんです!」

一同「おおー!」

カルロス「…再びこの服を着るとは思わんかった…。」と呟く

駿河「イェソドまでの道案内、宜しくお願い致します。」

カルロス「…はい。」

駿河「それではSSFへ周防先生を迎えに行きましょう。今日も一日宜しく!」

そこへカルロスが「あ、ちょっと待って下さい。」

駿河「何か?」

カルロス「イェソドで有翼種から皆に身分証明書が発行されますが、まぁ、良かったら、このケース使って下さい。」と言い、後ろ手に持っていた布袋からカードケースを出すと駿河に渡す。

駿河、キョトンとして「え?」

カルロス、ジェッソや上総にも渡し始める。

ジェッソ「おお…ケテル石だ」

昴「これ本物のケテル?」

カルロス「うん。本物のケテル。だから頑丈だよ。」

総司、カルロスに「これ…、どうしたんです?」

カルロス「この間イェソド行った時に、…買って来た。」

駿河たち「え!」とビックリ仰天

上総「わざわざ買ってきてくれたの?」

カルロス「…イェソドだとそんな高くない!普通に買える。」

一同、ちとビックリの面持ちでカルロスを見る。

カルロス焦って「と、逃亡したお詫びに。以前、迷惑を掛けたから」と言うと駿河に「船長、時間ですよ!早くSSF行かないと!」

駿河、目を丸くしたまま「あー…うん。カルロスさん、ありがとう。」

ジェッソ「大事に使わせて頂きます。」

上総「大事にします、ありがとうカルロスさん!」

他のメンバーも「ありがとう!」「ありがとうございます!」

カルロス「と、とにかく時間ですって早く行きましょう!」

メリッサ「そんな照れなくても」ニヤニヤ

アメジスト「実は結構恥ずかしがり屋さんなんですね」ニコニコ

カルロス「…。」



その頃、SSFの屋上では。

屋上出入り口のドアが開いてキャスター付きのスーツケースを引いた周防が出て来ると、続いて紫剣、月宮、事務員のカモミール、育成師の愛美たちが出て来る。

少しすると遠方の空に黒船とアンバーが飛んで来るのが見える。

紫剣「来た来た。」

周防「…まさか私がイェソドに行く日が来ようとは。」

紫剣「まぁゆっくり行って来て下さい。何なら帰って来なくても構いませんよ。」

周防「なんですと」

紫剣「好きなだけ遊んで来ればいいんです。なぁ月宮君」

月宮「うん」

カモミール「こちらの事はご心配なく!」

紫剣「SSFは貴方が居なくても全然大丈夫ですから」

周防「SSFが紫剣さん達に乗っ取られるのは嫌なので戻ってきます」

紫剣「バレたか。くっ!せっかくSSFからSを取ってSFにしようと思ったのに」

月宮「周防ファクトリーですか」

紫剣「違う違う」

そこへ黒船が来てSSFの屋上に着陸すると採掘口のタラップを降ろし、中から駿河やカルロス、ジェッソが出て来て「おはようございます。」

周防「おはよう」

紫剣たち「おはよう」と言うと「皆さん、周防先生を宜しく」

駿河「はい。責任持ってお預かり致します。…では周防先生、黒船へどうぞ」

周防「お世話になります。」と言いタラップを上がりつつ紫剣たちに「行って来る」

すると紫剣「さようならー御達者でー!今までありがとうー!」

周防、立ち止まって「ってアンタ、永遠の別れじゃないんだから」

紫剣「まぁゆっくり行って来なさいって」

周防「ちゃんと絶対帰ってきますからね!」

紫剣「アンタずーっと仕事ばっかで旅行も行かないし、この際もう思いっきり楽しんで下さいよ。いってらっしゃーい」

月宮たち「いってらっしゃーい」

周防「行ってきます!」と言い中に入る。

駿河、紫剣たちに「それでは行ってきます」と一礼し、カルロス達と共に中に入る

タラップをあげ採掘口を閉じて上昇する黒船。アンバーと共に飛び去る。それを見送る紫剣たち


駿河は周防を船室へ案内する。周防のスーツケースはカルロスが引いて運んでいる。

駿河、周防を船室内へと促しつつ「先生の船室は、機関長のリキテクスさんと一緒の部屋になります。」

カルロス、ベッドの脇に周防の荷物を置きつつ「ここは以前、私が黒船に居た時に使っていた部屋です。」

周防、カルロスに「いいのか?お前の寝る場所は」

カルロス「私はイェソドのターさんの家に部屋があるのでそこで寝る。」

周防「なるほど」

駿河「では私はブリッジに戻りますので一旦失礼します。」と言い一礼して船室から出て行く。

入れ替わりにジュリアが戸口から「先生、何か飲み物をお持ちします。紅茶とコーヒーどちらがいいですか?」

周防「ん。まだいいよ。」と言うと、カルロスに「ところでちょっとお願いがあるんだけど」

カルロス「何か」

周防「採掘船の中をあちこち見学したいんだけど、いいかな。」

すると戸口に居たジェッソが「勿論です。では案内します。」


一方ブリッジでは…

上総が探知をかけている。

駿河「上総、管理の動きは?」

上総「今の所は特に何も。」

駿河「それも不気味だな。黒船とアンバーが揃ってSSFに行った事は明白、周防先生を乗せる時にずっと探知妨害していたとはいえ、何があったか不審がって寄って来てもおかしくないのに。」

総司「何にせよ、外地に出たら来ますよ。来なかったら逆にビックリ」


黒船とアンバーは、黒船を先頭に一列になって飛ぶ。


コンコンとノックがあってブリッジにカルロスが入って来ると、駿河に「船長。そのうち周防がブリッジに来るぞ。」

駿河「え。なぜ?」

カルロス「船内を見たいんだとさ。今、皆でご案内中。」

駿河「ブリッジはこれからイベントが始まりそうなんですが。気になる船が接近中なので。」

カルロス「面白くなりそうだ。」

総司、レーダーを見つつ「ブルーが凄い速さでカッ飛んで来る。」

駿河「あの船は本来は黒船やアンバーよりも速い船だ。何しに来るんだろう」と、そこへ電話が鳴る。

駿河、受話器を取りかけて手を止めると「待てよ。これって武藤と、満さんと、どっちなんだろう。」

カルロス「満さんに一票」

駿河「み、満さん、か…」と言うと受話器を取って「はい、採掘船オブシディアン、駿河です。…お久しぶりです満さん…。」と言いちょっと引きつった顔をする。そこへ周防たちがやって来る。

満『貴方が武藤君と一緒にブルーに来たのは確か8年前。あの頃は反抗的で困った新人だったが、たった1年でブルーから黒船に飛ばされて、いつの間にやら船長に。おめでとうございます。』

駿河「は、はぁ…。ところでご用件は」

満『貴方が去った後も武藤君はブルーで修行を続けてこちらも船長になりました。8年前ブルーに入った新人が、どちらも船長に』

駿河「あの、ご用件は!」

満『せっかく船長になられたのにその地位を捨てるとは』

駿河「え?いや、捨ててませんが」

満『周防先生をどこに連れて行くおつもりか!』

駿河「あー…。ちなみにどこからそれを聞いたんです?」

満『このまま外地に出れば貴方の首は確実に飛びますぞ!』

駿河「それはやってみないとわからない。」と言い「それより武藤船長を出して頂けませんか!船長と話がしたいのです!」


ブルーアゲートのブリッジ。

受話器を持った満、「わかりました。…駿河船長が貴方と話をしたいと」と言い武藤に受話器を渡すと、「いいですか、妙な事を言うと貴方の首まで危ない。お気をつけて」

武藤「はぁ」と言うと受話器を受け取り「もしもーし。武藤です。駿河君、生きてる?」


黒船ブリッジ

駿河「…生きてますよ。」

武藤『とりあえずヤバイ事は止めといた方がええって。』

駿河「…電話切っていいかな」

武藤『満さんが話したいって』

駿河、慌てて「いやいやいや満さんは出さないでくれ頼む!」

そこへ警報が鳴り、管理区域外警告が出る。さらに船窓の右側の端にブルーの船影が見えてくる。

駿河「…とにかく妨害するつもりなら、やめて欲しいんですけど。」

武藤『スマンけど妨害したるわー…。』

駿河「それはお前自身の意思なのか」

武藤『たぶーん…。』

駿河「…たぶーんって、お前、満さんに脅されてんじゃないだろうな!」

武藤『だってお前…』と言うと『逃亡者めー。お前が逃げた後、俺はここで7年間耐えたんじゃー。』

駿河「逃げてない!俺はブルーから黒船にブッ飛ばされたの!」

武藤『戻って来い駿河ー』

駿河「嫌です戻りません!」と言ったその時、リリリリと緊急電話が鳴る。

駿河、武藤に「ちょっと待ってくれ」と言うと受話器を持ってない方の左手で緊急電話の受話器を取り、「はい」

管理『駿河船長、周防先生をどこへ連れていく気ですか。』

駿河、辟易して「何でバレたんです?タグリングかな。管理波妨害してた筈なんですがね!」と言いつつ外部スピーカーに切り替えるボタンを押す。

管理『まぁ、SSFに電話したら居ないという。状況から見て判断した。』

駿河「なるほど。」

管理『アンバーはともかく黒船は行くなと言った筈だが』

駿河「なぜアンバーは良くて黒船はダメなんです?その明確な理由は!」

管理『採掘量が』

駿河「先日アンバーが大量の鉱石を採って戻ってきましたよね、黒船も行けば、あれが二隻分になるんですけど」

管理『周防先生を連れて行く理由は』

駿河「イェソドに会いたい人がいるという個人的な理由です。」

管理『長年断絶しているのに?…有翼種と会って何をするつもりなんだ。本当の事を教えてくれ』

駿河、辟易したように溜息をつくと「そんなに黒船が信用できませんかね…」

暫しの間。

管理『SSFや仲間の船がどうなってもいいんだな』

駿河「え」

管理『お前たちがイェソドに行った後、仲間の人工種や、SSFがどうなってもいいんだな。』

駿河「…。」暫し黙ると「…あんまり荒っぽい事をすると人工種が霧島研に大挙して押し寄せるから止めといた方がいいと思いますよ!人工種と仲良くした方が人間にメリットあるんじゃないですか!」と言うと緊急電話の受話器を置いて電話を切る。そして溜息ついて「ああもぅめんどくさい」と呟き、右手に持ったままのブルーと繋がっている受話器に「聞こえたか武藤!」と言いつつこちらも外部スピーカーに切り替える。

武藤『…うん。駿河君もうコッチ戻って来ないの?』

駿河「はい?」

武藤『俺はお前が黒船からブッ飛ばされてブルーにリターンして来るのを首をながーくして待ってたのに。なかなかブッ飛んで来ないから、ついに俺がブルーの船長になってしまった。』

駿河「…。」

武藤『逃亡者めー!今度は船ごと引き連れてどっかに逃げようっていうのかー』

駿河「いやいや」

武藤『二隻も居なくなったらブルーに来るノルマがトンでもねー事に』

駿河「いや鉱石採って戻るから」

武藤『とりあえずお前を止めないと俺が地獄なんじゃあ!ガチで妨害するから、それが嫌ならとっととブルーに戻って来い駿河ぁぁぁ』

駿河「なんでそうなる!」

武藤『俺とお前でウチの採掘監督に直訴を…あっ』その時、受話器の先から緊急電話のコール音が聞こえる

駿河「直訴て」

武藤『管理から電話来たから切るよ。またなー』プツッと電話が切れる。

駿河「はぁー…。」と疲れたように言うと受話器を置く。

ふと見ると、上総が爆笑しまくっている。

駿河「…上総、笑い過ぎ。」

上総、笑いつつ「だって!」

駿河、ふとブリッジの入り口を見て、周防が居た事に気づく。「周防先生いつの間に。しかも椅子まで」周防は入り口近くに置かれた椅子に座っている。

メリッサ「ここに居たいっていうから、持ってきてあげたの。」

周防、ちょっと笑いつつ「面白い通信をしていたので、つい長居を」

駿河、溜息ついて周防に「先生。もう種族なんか関係ないですよ。ブルーは人間の船長が人工種の採掘監督に仕切られてる船です。」

周防「ちなみに貴方はなぜブルーから黒船に?」

駿河「え。ブッ飛ばされた理由ですか?」と言うと「…理不尽な採掘監督に意見を言ったら」と、そこへ電話が鳴り、駿河、思わず「どっちだブルーかアンバーか」

カルロス笑顔で「ブルーに一票」

駿河「はぁ…」と溜息をついてから渋々受話器をとって「はい」

満『ブルーアゲートの満です。駿河船長。せっかくブルーから黒船に飛んで船長にまでなったのにその地位をむざむざ捨てるおつもりか。』

駿河、辟易しつつ「あの。…満さん…。」と言って外部スピーカーのボタンを押す。

満『黒船の以前の船長は相当厳しい方と聞いたがその厳しい指導に耐えてやっと船長になれたというのに今、その地位を捨てたら貴方を鍛えた以前の船長が泣きますぞ。そもそも船長というのは重責を担うものであり、それが嫌だといって勝手にイェソド等に逃げられては我ら人工種も困りますし先方にも大変なご迷惑をかける。ここは大人しく戻る事を強くお勧め致します。』

駿河「ご忠告感謝します。では」と言うと静かに受話器を置く。すると再び電話が鳴る。その間にもブルーはどんどん近づきほぼ黒船と並走して飛ぶ。

駿河、疲れたように「管理より恐ろしい電話攻撃…。もう無視します。」

カルロス、何となく考えて「船長、ちょっと私が出てもいいですか」

駿河「どうぞ」

カルロス、受話器を取ると「はい、黒船のカルロスと申します。満さんに一つお伺い…えっ。」と言うと「私は別に、護に何も吹き込んでいませんよ。…いやいや、私と護が関わったのは…」そこでハッ!と我に返って「そんな事はどうでもいいのですが!貴方はなぜアンバーに連絡しないのです?そもそも黒船がこんな事をする羽目になったのはアンバーの穣が原因なのです。穣は貴方の次男ですよね。黒船を止めたかったらまずアンバーを止めて頂けませんか!」と言ってガンと電話を切り「ふ。穣に回してやりました!」と駿河にガッツポーズする。

駿河「はぁ」と安堵の溜息

総司「流石!」

カルロス「しかし恐ろしい。向こうのペースに巻き込まれる所だった…。」

駿河「わかります!」

カルロス「ついでに緊急電話でアンバーに連絡しときましょう。」