第15章 01
その頃、アンバーでは。
タラップから護たちアンバーメンバーが駆け下りて来ると、カナンとターさんの元へ。
護「ターさん、カナンさん!」
カナン「やぁ、久しぶり」
ターさん「おかえりー」
護、穣たちに「この方がカナンさん!」と紹介する。
穣、ちと驚いて「ど、どうも。これで120…?」
するとカナン笑って「歳なんか気にしない!」
マゼンタ「いやいやいや!」
穣「気にしまっさぁ!」
護、黒船の方を見て「周防先生まだかな。」
ターさん「黒船は今、手続き中だよ。」と言い「黒船ってホント黒いんだね!予想してたけど」と笑う
カナン「昔からああだよ。真っ黒なんだ。」
護「…手続き遅いなぁ。ちょっと見に行っちゃおうか」
カナン「もう行っちゃうか」
穣「行きましょう!」
一同、テクテクと黒船のタラップの方へ。
するとその時、黒船のタラップからレトラが降りて来ると、続いてカルロスを先頭に駿河、周防が出て来る。カルロスは周防の手荷物のショルダーバッグを肩に掛けている。
駿河、耳に着けたインカムに「じゃあ行って来る。留守番宜しく頼みます、副長!」
総司『了解。』
護、カルロス達を見て「あ、出て来た。」と言い、「カナンさん」とカナンの方を見る。
カナン「うん」と言い、立ち止まってじっとカルロス達の方を見る。
カナン、周防を見て目を細めると(ああ…。)
護、何かを察してカナンから少し離れて立ち止まる。穣たちもカナンを取り巻くようにちょっと離れて立つ。
タラップを降りた周防、カナン達の方を見て「あっ」と小さく声を上げると思わず立ち止まる。
先頭のカルロス、周防の方を振り向くと「…あれがカナンさん。」
周防「…わかる。」と呟くと、静かに歩き始める。カルロス、周防を先に行かせる。周防はカナンの方へ。その少し後を、駿河やカルロス、上総たち黒船メンバーが付いて歩く。
周防、カナンのやや手前で立ち止まる。
カナン、周防を見つつ(…相当、重いものを背負って生きたな…)
暫しの沈黙。カナンと周防を取り巻くように、少し離れて立つ黒船とアンバーのメンバー達。
カナン、笑って「大きくなったねぇ!『和也君』が『周防さん』になっちゃったか…」
すると周防、何か感極まったような表情をすると、ゆっくりとカナンの前に膝を付き、それから両手を地面につくと、土下座するように地面に頭をつけて
周防「…仲間を沢山、殺してしまいました。」と言い、堪えきれずに涙する。カナン慌てて周防を支えるように屈み、周防の身体に両手を添える。
周防、涙しつつ「あの時、貴方と一緒に飛び降りていたら、沢山の人工種を苦しめる事も殺す事も無かったのに。私は最低最悪の残酷な製造師になりました。」
カナン、周防を抱くようにしながら「でもお蔭でこんなに素晴らしい子供たちが生まれたじゃありませんか。貴方があの時、船に残ったお蔭です。」
周防「私の人生は、…貴方に軽蔑されてもおかしくない。」
カナン「何を言う。…軽蔑と言うなら。」と言い周防を見て大きな溜息をつくと、突然、凛とした声で「とても残酷な話をしましょう。貴方の製造師の和臣さんは、貴方に対してあれだけの事をしておきながら、貴方に対して罪悪感の欠片も持っていなかった!だから、連れて行きたかったのに。でも、本当に、よく、残った」と言い、涙する。
周防「…。」
カナン「あの世界に、たった一人で」というとハンカチを出して涙を拭いつつ「…よく、生き延びた…」と周防の肩を抱き寄せて暫し泣く。
周防「…カナン」
カナン、ハンカチで涙を拭って周防を見ると、カルロスを指差しつつ涙声で「あの子が貴方の息子だと知った時、本当に、本当に驚いた。…何も知らずに私の店に来て…、楽しそうにしてるんですよ、貴方の息子が!」と言うと「それだけでもう、本当に偉大な事です。」
周防「しかし、…苦しんで亡くなって行った子もいる」
カナン「貴方はそうやって苦しむ、しかし貴方を作った製造師は、あれだけの事をしておきながら、貴方に対して罪悪感が全く無かったんですよ!?」と言うと「私はその理不尽さに耐えられず、貴方を連れてイェソドに逃げる事を決意した。つまり私は貴方をイェソドに逃がしたかったんです!」
周防、目を見開き「…私…を?」と驚く
その言葉に、カナン「…。」暫し黙り拳を固く握って周防を見ると「…そう、貴方を。」と言い周防を見て「あの残酷な製造師の為に自分を殺して生きていた貴方を…。」と言うと「それでも貴方の意思を尊重して良かった。例え、その先が地獄である事が見えていたとしても、本人が強く望むなら…。」と言うと「何がどうなるかわからない。イェソドで幸せに生きられる保証も無い。確実な事など一つも無い。…だから私は貴方を残して船から飛び降りた。…私はイェソドで生きたかった。」と言うと周防の腕を掴んで「さぁ立って下さい!…しかし随分、大きくなったなぁ」と言いつつ周防を立たせる。
周防「…そうですね」とちょっと微笑む
カナン、周防の目をじっと見据えて「周防さん。貴方は一人じゃありません。…私は、貴方が死ぬまでは絶対に死にません。」
周防、驚いたようにカナンを見る「…。」
カナン「例えどんなに離れていようと、私は貴方が死ぬまでは絶対に死なない。そう固く心に決めて生きてきました。」
周防「…。」
カナン「私は貴方を一人にはしません。貴方を残して逝く事はしません。」
周防「…。」再び周防の目から涙が零れ落ちる
カナン「だからここからは幸せに生きるんです!」
周防、涙しつつ「はい」と言うとハンカチで涙を拭って「貴方は、昔と変わらない…。」
カナン「…外見は歳くっちゃいましたけどね」
周防「私はずっと、貴方の事を心の支えに生きてきました。孤独な中で、誰も私を理解しなくても、イェソドにカナンが居る…だから、頑張ろうと…。」
カナン「…。」
周防「…何度か貴方を夢で見た。有翼種の世界で幸せに暮らす貴方を。…まさか現実になるとは」
カナン「貴方の子供達が連れて来てくれたんです。…奇跡ですよ」
周防「不思議だ。…憎まれてもおかしくないのに」
するとカナンが「憎むも憎まないも、その子が決める事です。貴方は関係ない。昔の人工種はそれすらできなかった。でも今の子達は、その選択の自由があるんです。だから余計な罪悪感は、とっとと捨ててしまいなさい。」
周防「…はい。」
カナン、笑って周防の腕をポンポンと叩くと「昔に比べて素直になったなぁ。」
周防「なんだか、…82年ぶりに会った気がしませんね。」
カナン「全くだなぁ。」と笑うと「…まぁ、あの時代を生き抜いた戦友ですからね。…例え離れても」
周防「本当に長い戦いでした…。」
カナン、感慨深げに深く「…うん。」と頷くと「…さてさて!とにかくお茶でも飲みましょう!今日はこれから大事な用事があるんですから」
周防「用事…?」
カナン「ええ。貴方と私はこの後、黒船でイェソドの首都ケテルへ行くのです!」
周防思わず「えっ」と言ってカナンを見つめる。採掘船のメンバー達もビックリ仰天
カナン「そして人工種と有翼種は和解をするのですよ!勿論、人工種が認めた人間との和解も含みます。」
周防、唖然としたままカナンを見つめる。
カナン「だって貴方と私は元々、その為に作られた人工種ですからね!役目を果たさないと」
周防「その…為?」
カナン「そうですよ。実は我々はイェソドを探す為に作られたんじゃありません。だって神谷さんは既にイェソドの有翼種と密かにコッソリ交流をしていたから」
一同「!」
周防「や、やっぱり、そうだったのか…。それで原体B型は」
カナン「人工種の基礎原体に純血有翼種の遺伝子をブチ込んだのが原体B型です。だから有翼種と同じ寿命なんです。ちなみに有翼種の最高齢は200歳以上で、180歳位まで生きる方も結構いますからね。120なんてまだまだですよ。」と言い「歪んでしまった人工種を元の真っ当な状態に戻して有翼種と和解させよう、それが神谷さんがやろうとした事です。その為には人工種が自己意志を回復する事が必須で」
すると周防が「回復?」
カナン「そう、回復。元々は自己意志あったんだから。…人工種が真っ当に生きるには、有翼種と人間と対等に立たなければならない、その為には自己意志が必須だけれども、それは自発的に起こらなければならない」
周防「…はい。」
カナン「だから神谷さんは『イェソドを探す為』という名目で原体B型を作った。その存在が周囲の人工種に何かしらの影響を与える事を狙って。尚且つ希少価値を持たせる事で簡単には殺されないようにした」
周防、大きくため息をついて「…なるほど。確かに私は殺されなかった…。」
カナン「私は殺されかけた。だからイェソドに逃げるしか無かった。」
周防「…。」
カナン、安堵したようにふぅと息を吐くと「やっと貴方に伝える事が出来た。これは82年前のあの時、貴方にイェソドで言おうと思っていた事なんですよ。我々は本来、自己を確立する為に作られた存在だという事を。」と言って周囲のメンバーを見ながら「…この状況を見たら、製造師の神谷さんが泣いて喜びます。」
周防「…私も驚いた。」と言い、「…本当に、本当に…、長かった…。」
カナン、ちょっと微笑むと、周防の両腕をポンポンと叩きつつ「再び会えるなんて夢のようです。本当によくイェソドに来た!」と言ってちょっと周防をハグする。それから「さて。ケテルに行く準備が整うまでまだ時間があります。その間ちょっとター君のお宅にお邪魔して休みましょう。」と周防をターさんの家の方へと促す。
ターさん「周防先生、ウチへどうぞ。」と言い、メンバー達に「ゴメン、全員は入れない」
穣、カルロス達に「ウチはSUの人工種いないし黒船さんが中へどうぞ」
カルロス「じゃあそうする」
駿河「でもアンバーの人も誰か居た方がいい」
カルロス「なら護が」と言って「あっ」と気づいて「ターさん、カナンさん、こちらが黒船の船長で」と駿河を前に出す。
駿河「申し遅れました、駿河匠と申します。」
ターさん「ターメリックです、ようこそイェソドへ!」
カナン、駿河の手を取り握手すると「カナンと申します。今日は宜しくお願いします。」
駿河「こちらこそ。」というと「あの、先ほど首都ケテルへ行くとか」
カナン、ニコニコしながら「ビックリしたでしょう?行くんですよ!」
駿河「私は人間ですが、大丈夫なのでしょうか」
カナン「ご心配なく!後で警備の方が中和石を持ってきてくれますから。」と言い「ケテルに行って、イェソドを治める長と会って和解の話をするだけです。やはりこれだけの人数になるとね、双方が交流するに当たっての、けじめを付けておかないと。」
駿河「…は、はぁ」
カナン「大丈夫ですよ、そんな緊張しないで」と笑う
カルロス「この船長、真面目ですから」
カナン「じゃあお茶でも飲んでリラックス。行きましょう。」と言い駿河を促して周防と共にターさんの家の方へ歩きつつ、周防に「いやぁ久々に人間さんと会ったけど、やはり人工種とは違うもんだねぇ。」
周防「分かるんですか」
カナン「わかるわかる。エネルギーの感じが違う。」
周防「私はいつも人間と一緒に居る為か、わからなくなりました。」
と、そこへ家の玄関から丸いものとゴツゴツしたものが出て来る。
周防「…な、なんですか、あれは。」
カナン「ああ、鉱石の妖精と呼ばれてる、石好きの変な生き物だ。」
すると駿河が「えっ、…もしかしてこれが妖精?」
カルロス「うん。」
駿河「想像してたのと全然違った」
カルロス「どんなのを想像してたんだ」
駿河「人型かと。まさかこんな変なモンだとは。これがカルロスさんを助けた…?」
カルロス「うむ。」
ターさん、一同に「皆さん、玄関で靴を脱いでくださいね。狭くて申し訳ないけど」
カルロス「じゃあ入りたい人、入って。」
大和「俺は外で待ってます。」
オーカー「俺も」
皆の靴を揃えて並べていた護、レンブラントに「…立っててもいいなら入れそうだぞ」
レンブラント「いいっす。堅苦しい席は苦手で」
穣「んじゃ俺、中に入る。」
護「十六夜3人、入るか。透もおいで。」
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