第9章03 管理との再会
アンバーのブリッジではカルロスが至極恥ずかしいと言った様子で何やらブツクサ呟いている。
「やれやれ全く。何だか知らんが色々喋ってしまった」
隣に立つ護がニコニコしながら言う。
「そんな照れなくても」
「ウルサイ」腕組みして護に背を向けるカルロス。
「良かったやん、黒船と話できてー」
「あっ、ところで!」
カルロスはバッと振り向き操縦席の剣宮に言う。
「電話してる間に黒船を追い越しましたよ!」
「えっ? ……はい、近距離だとレーダーに出るから認識してますが」
戸惑いがちに答える剣宮。
カルロスは更に真っ赤になって「そうかレーダーに出る距離だったかマリアさんも居るし大丈夫だな、うん」と一息で言い、また腕組みして窓の方を向く。その様子を見つつ護は内心、カルロスが思いっきり照れているのが面白くてたまらない。
(恥ずかしがり屋さんだなー、もう!)
穣も護と同じ事を思いつつ「おい、カルさんよ」と呼び掛ける。
「アンタ色々と悩んで来たんだなー。今初めて知ったわ」
カルロスはチョビッと穣の方を見て怒る。
「私だって悩みはある!」
「知っとるわい。昔、凄いイライラしてたしな」
護が穣に「イライラしてたの?」と聞くと穣はカルロスを指差して
「不機嫌の権化っすよこの人。んで俺も満の事でイライラしてたから、同じ船室にイライラが二人で大変な事に」
カルロスが「地獄だった」と呟く。
そこへ話を聞いていた剣菱が溜息をついてしみじみと言う。
「……アンタ、護のとこに逃げて、ほんっとに良かったな……」
カルロスは少しビックリした顔で怪訝そうに剣菱を見る。
穣が護に言う。
「ドンブラコして良かったな、護」
「違うよ、ターさんが助けてくれて良かったんだよ」
「そっか」
剣菱を見ながらカルロスは一応「は、はぁ……」と適当に返事をして、内心、非常に困りまくる。
(なんか予想外な反応ばっかりで一体どうしたらいいんだ! とにかく早急に話題を変えよう! ええと……そうだ)
「それより船の事ですが、免許取るのにどの位かかるんですか」
「ん? ……えーと、第三種だと航空船舶学校の短期集中コースなら1か月かな。あ、第三種ってのは定員8名までの小型個人船免許の事だが、ただまぁ人工種は第三種免許を取れない事にはなってる」
「何とかして取ります」
護は何となく興味を持ってブリッジ入り口に居るネイビーに聞く。
「ちなみにネイビーさんが持ってる免許ってどんなの?」
「私のは第二種2級航空船舶免許って奴で、これ人間だと船長免許も同時に取得可能なのよ。人工種の場合は一等操縦士、つまり副長までだけどね」
「ほぉ」
ネイビーはブリッジの天井を指差して「もし、このアンバーレベルの船の操縦士を目指すなら、最低でも航空船舶大学に2年間入らないとダメよ」と言いニヤリと笑う。
「うぉ」
護は両手を振りながら「む、無理っす」
剣菱がカルロスに言う。
「お急ぎでなければ採掘船でバイトしながら教習所に通って3か月位で小型船免許を取る事も出来るが」
「バイトと言いますと?」
「1週間のうち、黒船かウチの船に3日位乗って、残りの日は教習所とか」
護が嬉し気に「いいんですか、船長!」と大声を出す。
「勿論。そうするとウチの船もイェソドに行けるし、アンタらも稼げるし」
「カルさん!」
バッ、と護はカルロスを見る。
カルロスは「うーん。でもな」と考えて「私は短期集中で1か月みっちり頑張る方がいい」
「あらま。じゃあそうしよう」
「ってお前はいいのか?」
「うん、一緒に航空船舶学校に入ろう」
ネイビーが口を挟む。
「マルクトに大規模な学校があるから、そこがいいかも」
護が「なるほ! よし、あとは管理を納得させるだけだな!」と言うと、カルロスが「丁度それが近づいて来た所だ。そろそろ管理波が来る」と言い溜息をつく。
「よっしゃー頑張るぞ、管理さんと交渉だ!」
拳を握って気合を入れる護に、穣が少し心配気に聞く。
「ま、護よ。首にタグリング付いてんだけど、大丈夫か?」
一瞬キョトンとした護は「ああ!」と気づいて自分のタグリングを指差して叫ぶ。
「そういえば、あったなこんなの!」
「え」
カルロスも「すっかり忘れていた。まぁこんなのどーでもいい」と面倒臭げに言う。
途端に「えええ!!」と大声を上げるアンバーの面々に、ビックリするカルロスと護。
穣は二人を指差して「すげぇわコイツら全く気にしてねぇ!」
マゼンタが二人に向かって大声で「苦しくないの? 怖くないの?」と目を丸くしながら問い掛ける。
カルロスは「んー、だってこんなのに屈してたら何も出来んし」と言い、護も「そーだよ、もし苦しくなったら俺はターさんとこに逃げる」と笑う。
穣は思わずパチパチと拍手し「すげぇ! 流石は死を覚悟した奴らだけある!」続いてマゼンタも「ドンブラコしただけある!」と拍手。
皆が拍手し、カルロスはまた恥ずかしそうに照れて叫ぶ。
「誰だって本気になれば何とかなる!」
続けて護が「人生何がどうなるやらだからねぇ。死んだと思ったら生きてたし」とニコニコし、皆もちょっと笑ってしまう。
穣は胸が熱くなるのを感じつつ、思う。
(今、まさに実感するよ、ラメッシュさん。人は変わる。人生何がどうなるやらだ。『わからない』、未知は可能性の宝庫……。まさかあの護とカルロスがそれを体現するなんて!)
そこへ警報と『管理区域外警告』の表示が出て緊急電話のコールが鳴る。
剣宮が「レーダー復活!」と叫び、剣菱が「早速、管理様からのお電話か」と受話器を取る。
「はいアンバー剣菱です。……ああー申し訳ありません実は有翼種に妨害されて通信が出来なかったのです。……はいそうです有翼種です、実在したんですよ驚きました!」
その口調にネイビーが苦笑し「わざとらし過ぎる!」と小声で呟く。
剣菱は続けて「行方不明になった二人はその有翼種に保護されておりまして、先程、実際に有翼種と会って今、二人を連れて戻って来ました。……はい、ここにおりますよ。元気でピンピンしております。……えっ? ……了解しました」と言い受話器を置く。
「管理が二人に会いに来る。霧が晴れるまで停船して待ってろと」
カルロスは「じゃあこっちから行きます。行くぞ護」と言い、「ほい」と返事した護は「あっ、ちょい待ったカルさん、あの事を言ってない! イェソドにもう一人、人工種が」
「待て護。それは今はまだ、言わないでおこう」
「あ、そう? んじゃ後にする」
穣が怪訝そうに「人工種がもう一人?」と聞き返す。
カルロスは「まぁこれは皆がイェソドに行った時のお楽しみという事で。……行こう護」とブリッジの入り口へ。
「ほい。まず採掘準備室に置いといた斧を取って来ないと」
途端に剣菱が慌てて「ちょ、ちょい待った。荒っぽい事はアカン!」
護は笑顔で剣菱に「大丈夫です」と言い、カルロスに続いてブリッジから出る。
穣も剣菱に「俺も行ってきます」と言ってブリッジから出ながら「あいつら、何をやらかすんだ?」と呟く。
透や悠斗、マゼンタ達も野次馬として楽し気に後に続く。
白石斧を持った護と黒石剣を背負ったカルロスはハッチを開けて甲板上に出る。辺り一面、霧で真っ白。
その後から野次馬の穣やマゼンタ達も甲板に出て来る。
「真っ白だぁ」とオーキッドが言うと、悠斗も「こんなとこで何すんの?」と不思議そうに尋ねる。
カルロスは船尾側へ歩いて行くと立ち止まり「後ろに黒船がいる。まずはこっちから」と言いホルダーから黒石剣を抜き、切っ先を後方に向ける。護も白石斧の保護カバーを外して斧を後方に向けて構える。
「なんだなんだ」
野次馬メンバー達は二人の背後で興味津々。
カルロスが叫ぶ。
「行くぞ護!」
「ほいさ!」
「3、2、1、GO!」
同時にバッと雲海を切ると、周囲が拓けて後方を飛ぶ黒船の小さな船影が見える。
「!!!」
衝撃を受ける野次馬達。穣と悠斗とマゼンタが同時に叫ぶ。
「うっそぉぉーーーーー!」
黒船のブリッジでも驚きが広がる。
操縦席では総司と交代した静流が「えっ、突然晴れた?」と首を傾げ、船長席では駿河が「しかもアンバーに向かって晴れてる気が……」と前方を凝視する。
操縦席の横に居る上総は「うん、一瞬アンバーから変なエネルギーが出た」と言い、ジェッソと共に船長席の横にいる総司が「え、それってアンバーが、霧を晴らしたって事?」と尋ねると、上総は眉間に皺を寄せまくって「んー……甲板にカルロスさん達が居ますけど……、探知で霧が晴れるかなぁ?」と思いっきり首を傾げる。
アンバーの甲板では一同が船首側へ走って移動しながら、護が解説をしている。
「今のが雲海切り! 有翼種の採掘ではこれがカルさんの役目!」
またまた驚く野次馬メンバー達。穣が呟く。
「マジでお前ら一体、どんな世界で暮らしてるんよ……?」
一同は甲板のブリッジ手前に集まる。カルロスはニヤニヤ笑って「さーて管理の船が来たぞ。ガッツリ雲海切りしてやろう」と黒石剣を構える。
「おっしゃー!」
護も白石斧を構える。
「3、2、1、GO!」
二人の雲海切りで周囲が拓け、遠方に航空管理の船影が現れる。パチパチと拍手する野次馬メンバー。悠斗が笑いながら言う。
「何だかワカランけど凄いなぁ!」
カルロスは黒石剣をホルダーに仕舞うと、それを身体から外しながら穣に言う。
「これ、預かっててくれ。管理に取られると取り返すのが面倒だ。……護の斧も」
穣は黒石剣をしっかりと受け取る。
「確かに預かった」
護も白石斧に保護カバーを付けて透に「頼む」と言って渡す。
「うん。任せろ」
航空管理の船が近づき、アンバーは速度を緩めて停船する。続いて黒船もアンバーの後方に停船する。
アンバー上空に来た航空管理の船はゆっくりと甲板に接近し、下部を開けてアンバーの甲板にタラップを下ろす。
三人の人工種管理の男がタラップの中程まで降りて来て、先頭に立つ男が護とカルロスを指差して言う。
「ロストした人工種だな。MF SU MA1023とALF IZ ALAd454」
「はい」
二人が返事をすると「事情聴取とタグリングのメンテをするのでこちらへ」とタラップの方へ手招きする。
カルロスはその場に留まったまま相手に尋ねる。
「誰が我々のメンテをするんです?」
「SSFだ」
途端に顔を顰めたカルロスは、物凄く嫌そうに「って事は周防か。なんてこった」と呟く。
護は自分を指差しながら「あのー、俺、ALF出身なんですが?」
管理の男は淡々と「あぁ十六夜先生に連絡した所、都合が悪いのでALF以外の所でメンテして欲しいと」
「エッ」
護のみならず穣や透、他のメンバー達も目を丸くする。
マゼンタが「せっかく戻って来たのに……」と呟き、透は護を気遣うように「気にするな護!」と叫ぶ。
穣も護に近付き、励まそうとした瞬間。
「別にいいよ。俺も会いたくなかったし!」
ニッコリ笑って言い放つ護に、穣と透は思わず「ほぇ?!」と声を発して目を丸くする。
(な、なにぃ?! 以前は製造師が、って言いまくっていた奴が……!)
ショックで呆然と護を見ていると、管理の男が諭すように護に言う。
「十六夜先生が、管理の方に大変なご迷惑をかけて申し訳ないと謝っておられたぞ」
「……はぁ」
まぁ何でもいいや、と護が思っていると、透が自分のタグリングを指差しながら「ってか基本的にコレ着けられてる事自体が傍迷惑なんですけど!」と管理に言い、穣も「だよなぁ!」と大きく頷く。
マゼンタ達は、透が、あまりにも自然に普通に管理に文句を言った事に驚く。
(穣さんならともかく、あの透さんが反抗した!)
管理の男はムッとした顔になり、きつい口調でカルロスと護に指示する。
「さっさと来い。行くぞ!」
護は「よし行こう、SSFでカルさんの製造師に会うの、楽しみだなー!」とニッコリ。
「なにぃ……」至極嫌そうな顔をするカルロス。
「んじゃ皆、行ってきまぁーす!」
皆に手を振り、楽し気にタラップを上がる護。
続いてカルロスも「行ってくる」とタラップを上がる。
野次馬メンバー達は手を振って二人を見送る。
「行って来いー!」「行ってらっさーい!」
二人が船内に入り、管理の男達も船内に戻ってタラップが上がる。
透が穣に呟く。
「まるで別人になったよね、護。人ってあんなに変われるんだな……」
「大体あのカルロスと護が一緒に居るのが不思議でタマラン。何がどうなったんだ一体」
ゆっくりと上昇を始める航空管理の船。船の安定の為に、風使いの透は周囲の風の流れを安定させる。
「イェソド行きたいなぁ……」
透に続いて穣も言う。
「どんな所なんだろうな。マジ行きてぇ……」
航空管理の船の中では護とカルロスが狭い船室で人工種管理の二人の男から事情聴取を受けていた。
男はタブレット型の小型端末を見ながら護に問う。
「動物を追いかけて川に落ちたというのは本当?」
「はい。とにかく原因は自分のミスです。他のメンバーは関係ありません!」
カルロスが「ったく採掘監督の癖に!」と突っ込む。
「しょうがないやん!」
男はやや大きな声で「それからどうなった?」と護に先を促す。
「流されてどこかの川岸に辿り着き、歩き疲れて倒れた所を有翼種に助けて頂きました」
カルロスが「いやその前に妖精だろ! 命の恩人を忘れるな!」とまた突っ込む。
男は怪訝そうに「妖精?」と護に尋ねる。
「はい。丸くて長い耳の、カワイイ奴とか」
カルロスが仏頂面で割り込んで「私の場合はゴツゴツした、かわいくない妖精でした」
「え、あれカワイイよ!」
「いやあいつ、人に頭突きしたりキックしたり全然かわいくない」
「あの足でキックとかカワイイやん!」
管理の男は厳しい口調で「君達、真面目に答えてくれるかな」と言い「本当の事を言わないと、君達が不利になるぞ?」と二人を睨む。
護は「真面目です!」カルロスは「真実です!」と同時に言う。
管理の男は暫し黙り、それから「言葉だと説明不足で分かり難い。その妖精という存在の図を描いてくれ」と自分の持つタブレット端末を二人の前に差し出す。
護が「どっちが描く?」とカルロスに言うと、カルロスは護を指差す。
護は管理の男からタブレットとペンを受け取り真面目な顔でササッと図を描き「こんなかな」とカルロスに見せる。
「んー、イマイチだな」
「んじゃアンタ描いて」
カルロスは護からタブレットとペンを受け取ってササッと図を描く。
護はそれを見て「おぉ!」と驚き「さ、さすが」と呟く。
「描けたか。見せろ」
カルロスは男にタブレットとペンを返す。
人工種管理の二人の男はタブレットに描かれた妖精の図を見て言葉を失う。
「……」
奇妙な長い沈黙の後、片方の男が拳を握り締めて「ふざけるな!」と怒鳴り、護が慌てて「いやふざけてませんって!」と真顔で反論する。
もう片方の男も肩を怒らせ二人を叱る。
「いい歳をして、こんな落書きをするんじゃない!」
「ふざけていません!」
カルロスは管理達の怒りに負けず劣らずな気迫で言うと、毅然とした態度で言う。
「私も41歳になって、まさかそんな適当な落書きのような全然かわいくない存在に命を救われるとは思いもしませんでしたが、厳然たる事実なのです!」
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