第4章 01
一方、採掘船アンバーでは。
森の中で崖下の鉱石層の採掘をしているメンバー達。皆ダラダラと作業していて覇気が無い。
穣も疲れたような溜息をつきつつ鉱石をスコップでコンテナの中に入れる。
悠斗、コンテナを運びつつ、ふぅと溜息ついてコンテナを降ろすと「なんか力が出ないなぁ」
穣(…そりゃヤル気も失せるわな。)と思いつつ、一同に「…皆、お疲れだなー」
一同「…。」答えない
穣「今日はこの辺で切り上げるか。」
悠斗「…でも。」
穣「疲れてる時に無理して頑張って、また事故っても困るしさ。ちょい船長と相談するわー」と言うと、耳に着けたインカムでブリッジを呼び出して「…あ、船長。今日はこの辺で撤収しようと思います。皆、疲れ気味なので。」
ブリッジの剣菱、受話器を持って「…了解です。」と返答すると、受話器を置きながら「撤収だとさ。ちょいと早いような気もするなぁ…。」と呟く
剣宮「皆、お疲れなんですよ」
剣菱「それはよく分かるんだが。しかしなぁ…。」と言い、腕組みして深い溜息をつき「どうしたもんやらな…。」
暫しの沈黙。
そこへトゥルルルと電話が鳴る。剣菱思わず「うわ!」とビビって「来た!」というと、「剣宮君、出てくれないか」
剣宮「嫌ですよ、だってブルーの満さんでしょ!?」
剣菱「頼む!剣菱はちょっと機関室を見に行ったと」
剣宮「船長!!早く出ないとー」
剣菱「君が出れば丸く収まる、頼む剣宮君!」
剣宮「くぅぅぅ仕方ない」と言いつつ操縦席のボタンを操作すると、インカムのマイクに「はいアンバーの操縦士、剣宮です。」
満『出るのが遅い。規定では呼び出しコール5回以内に応答する事が定められている。』
剣宮「それは緊急コールの場合です。」
満『最近、アンバーに連絡すると操縦士が応答する事が多いのだが本来は船長が応答すべきであり、そもそも船長が頻繁にブリッジを離れるのは如何なものかと』
剣宮「…多忙なもので。」
満『なるほど。御多忙の所、失礼した。ではまた。』
剣宮、ため息ついて「通信終わりましたー…。」
剣菱「ありがとう。流石だ剣宮君。」
そこへブリッジに穣とマリアが入って来て「船長、明日の採掘場所ですが」そこへトゥルルルと電話が鳴る。
剣菱と剣宮、思わず「えええ!」
剣菱「どこの船からの電話や!」
剣宮「船長、そのうち呼び出し音を個別設定できる電話機に替えましょう!」
剣菱「とりあえず剣宮君!」
剣宮「俺が出たら、また来るかもぉぉ」
すると穣が「わかった俺が出る。」
剣菱「え!」と言った瞬間、穣が受話器を取る。
穣「はいアンバーです。」
満『おお。ブルーアゲートの満です。最近アンバーは採掘量が激減しているので心配でたまらん。大丈夫か?穣。』
穣「…ご心配なく。」
満『お前は以前、失態を犯して採掘監督から降ろされた訳だが、そのお前を採掘船本部は再び監督にしてくれたのだ。辛うじて取り戻した信頼を二度と失ってはならない。』
穣「…。」怒りで拳を固く握り締める
満『護の代わりに採掘監督になったのだから、もっと頑張らねば。大体、次男のお前が付いていながらなぜ護を危険な目に遭わせた。透はともかくお前は次男、製造師を悲しませるような事を』
穣、歯ぎしりして怒り心頭で「み、満…」と言った所で剣菱がバッと受話器を奪い取ると「代わりました剣菱です。申し訳ないが今からミーティングなので重要な要件でなければこの辺で。ええ。はい。では」と言い電話を切ると、穣にむかって「大丈夫か。」
穣「ちとトイレ行ってきます。」と言いブリッジから出ると大股で通路を歩きつつ
穣(あのクソッタレ…言いたい放題言いやがって、ブッ殺してやりてぇ…)と拳を握りしめてそのままダッと通路を走るが階段の近くで透に出くわす。
穣「!」
透「あ。…ウチの船、今日は何時に本部に戻るの?」
穣「えっ。今日は本部に戻らねぇよ。明日の採掘場所に移動して停泊。」
透「戻らないの?」と言うとため息ついて「…街に行けると思ったんだけどなぁ。船に泊まりか。」
穣「…。」暫し黙って「お前、最近ちょっと遊び過ぎじゃないか?」
透「前からだよ」
穣「見たぜ。明け方にキレイなお友達と店から出て来る所を。」
透、ギクッとして「へぇ。でも穣があんなとこにいるなんて珍しい。何してたの、明け方に。」
穣「酒飲んでただけ。」
透「彼女いる癖に。言おうかな、大事な彼女に」
穣「俺は酒を飲んでただけだ!」と言うと透の胸倉をガッと掴んで「お前な、ヤバイ事はマジでするなよ。コレが付いてんだからな」とタグリングを指差し「遊ぶのはいいが、間違ってもヤバイ事になるなよ。お前まで失ったら俺は死ぬぞ」と物凄い気迫で透に言う。
透「…。」暫し黙って「だけどさ。」と言い「…四人になったのに、あいつは」
穣、壁をダンと叩いて「わかる!だからって、満への当てつけに自分をボロボロにすんな!」
透「…」
穣「そんなの、バカバカしいだろ」
透「…だけど、俺達、何の為に生きてんのさ。…誰も護を助けてくれない。」
穣「…。」悔し気に俯く。
暫しの沈黙
透「…穣もあんまり酒飲むなよ。ボロボロになるぜ。」
穣「わ、…わかってるよ。」と言うと、はぁ…、と溜息をついて「そうだな、そうだよな!もっと、ちゃんとしねぇとな!」と言いつつ(…俺がボロボロになったら喜ぶのはアイツかよ…!)
穣「畜生!」と吐き捨てるように呟き「頑張ってやらぁ!」と叫んで透に背を向けブリッジへと戻って行く。
その頃、黒船では。
荒れ地の岩場の鉱石を手際良く採っているメンバー達。
昴、爆破で崩した鉱石をスコップで掻き集めつつ「ふー…。忙しいな。」
夏樹「しゃーない。本部にアンバーの分まで頼まれてる。」
ジェッソ「黒船としては採ってやらねばなるまい。」
昴「それはそうだけどー。」
夏樹「ちょっと忙しい」
レンブラント「でもティム船長の時代はもっと忙しかった。」
昴「あれは異常だったかも」
ジェッソ「今から思うと異常だな。でも当時はあれが当たり前だったから」
レンブラント「今の船長になって緩くなったもんなぁ。」
昴「一度緩むと厳しさには戻れない。」
夏樹「わかる。」
そこへメリッサが「ねぇ覚えてる?駿河君が船長になった時、うちらブーイングしたよね。」
夏樹たち「あー。」
話を聞いていた上総「ブーイング?」
レンブラント「船長もっと厳しくしなきゃダメですって。」
上総「え。」と驚く
昴、ジェッソを指差し「ジェッソが言ってた。」
ジェッソ「昴も言ってたぞ。」
レンブラント「いけね、俺達ちょっと緩み過ぎた。昔に戻らねぇと。」
昴「ウン。気合入れ直す。」
ジェッソ「アンバーの分をガンガン採ってやろう。」
上総、ちょっと辟易した顔をしてから、黙々と作業をしているカルロスの所に来ると「…皆、厳しいのが好きなんですね。」
カルロス「…かもな。でも」と言って暫し作業の手を止めて黙るが「…なんでもない。」
上総「なんですか。」
カルロス「…厳しすぎるのも良くないなと思っただけだ。」と言うと作業を始める。
上総「…はぁ。」
カルロス、黙々と作業しつつ(…我々が当時あの厳しさに従ったのは、黒船から降ろされたら終わりだという恐怖があったからだ。ティム船長は確かに立派な船長だったが、当時、数人居た人間の乗組員は、その厳しさに付いていけず、駿河を除いて全員降りて行った。しかしあいつ、よく残ったよな…。)と思ってから(…人間は自分で職を選べる。だが人工種は選べない。しかも黒船は人工種を代表する特別な船、そこから降ろされる事は人工種にとって致命的な恥…)
カルロス、作業の手を止めて溜息をつくと(でも、もうそんな事はどうだっていい。私は明日ここを去るのだから。)
暫し後、船内通路をブリッジに向かって歩いているカルロス。
カルロス(…嘘はつきたくないが、…やるしか、ない…。)
ブリッジのドアの前で一旦立ち止まり、ふぅ、と溜息をつくと、短くノックして戸を開け「失礼します」と中に入る。
カルロス、駿河に「明日の採掘場所ですが」と言い、船長席のタッチディスプレイに表示された地図を指で触って目標地点を出すと「まずはここです。」とタッチして印をつける。
駿河「結構遠いな、外地の手前まで行くんですか。」
カルロス「ここは相当量の鉱石があります。遠出してでも行く価値はある。」
駿河「んー…。じゃあ今日はここに停泊するかな。外地の近くで停泊したくないから。船の移動は明日の朝って事で。」
カルロス「そうですね。では質問等が無ければ私は夕飯に行きますが。」
駿河「特に質問は無いけど、…ちなみに貴方、最近ちゃんとご飯を食べてます?」
カルロス、意表を突かれて「えっ」と驚く
駿河「ジュリアさんが心配してました。ご飯を残す事が多いって。」
カルロス、内心の動揺を悟られないように平静を装いつつ「…忙しいので、食べている暇が無いだけです。」
駿河「まぁ今はアンバーの分まで採らなきゃならないしな。」というと「でも無理しないで下さい。貴方は黒船にとって一番大事な人ですから。」
カルロス「…。」暫し困惑した顔で駿河を見ると「え、ええ。」と言うと「では、夕飯に行きます。」と言いそそくさとブリッジから出る。数歩歩いて立ち止まると、右手を胸元に当てて(…びっくりした…。バレたかと思った。)と溜息をつく。
カルロス(一番大事と言われても…。私は明日、大きな嘘をつく。)そしてうな垂れて、(…申し訳ない…。)
そこでふと、何かに気づく。(…ん?…上総が私を探している。探知の練習をしてるのか。)
カルロスはちょっと考えてから、通路を歩いて上総たちの船室の前に立つと、ガラリとドアを開ける。
すると上総が「わっ!」と驚く「び、びっくりした。…せめてノックして下さい! びびったー…」というと目を閉じて「すぐ前にいるのに、監督の気配が感じられない。…監督の探知妨害って凄いですね。」
カルロス「…お前それでも周防先生に作られた私の後継機か。」
上総、目を開けてカルロスを見ると「遺伝子的には…」
カルロス「黒船の採掘量はお前にかかっているというのに。」
上総「…いつかはそうなるんだろうけど、今はまだ」
カルロス「護のように私が突然いなくなったらどうするつもりだ。」
上総「え…」と目を見開く。「その時は、頑張るけど、でも…。」と言い「もし俺が使い物にならなかったら俺はここから降ろされて、他の探知人工種が来ると思う。」
カルロス「…お前がそれで良いなら、良いんだが。」
上総「…良い訳でもないけど」と言い「でも俺は貴方のようには」
カルロス「可能性を自分で潰すのはやめたらどうかと。」と言い「私がお前くらいの年齢だった時…」
すると上総が「採掘船に一生を捧げるのって嫌じゃないですか。」
その言葉にカルロス、ちょっと黙ると「…じゃあ、どうする。」
上総「どうって…」と言い「…どうにもならないけど。」
暫しの沈黙
カルロス「…そう、だな。…自分の能力をどう使うかはお前が決める事だな…。」というとバッと部屋を出てその場から去る
上総「…もう決められちゃってる気がする。」
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