第4章 02

翌朝。早朝の晴れた空を飛んでいる黒船

採掘準備室では一同が作業の準備をしている。

そこへ船内スピーカーからピピーという音が鳴ると同時に『現場到着まであと10分です。』

ジェッソ、壁際に道具の入ったコンテナを置くと「そろそろ整列するかー」と一同に呼びかける。

昴「うい。」

レン「ほーい。」と言いつつ各自横並びに並び始める。

ジェッソ「今日の現場はどんな所やら。」

そこへ「遅れましたぁ!」という声と共に上総が採掘準備室に走り込んで来ると、ふと立ち止まり「アレ?監督は?」

メリッサ「まだ来てない。」

上総「…急ぐ事無かった。」

メリッサ「ってか探知しなさいよ、監督を!」

上総「え。」

そこへカルロスが採掘準備室に入って来ると「皆さん、おはようございます。」

一同「おはようございます!」

カルロス、一同の前に立つと「…もうすぐ今日の現場に着きますが…」と言って、何か考えるような仕草をすると、暫し黙る。

ジェッソ「どうかしましたか。」

カルロス「気になるものを探知してしまった。」

ジェッソ「何ですか?」

カルロス「…上総、これを知覚できるか?」

上総「知覚?」と言うと「あっ、探知します!」と言ってから首をかしげて「…何を?」

カルロス「…十六夜護のエネルギーを。」

瞬間、メンバーが唖然とした顔になる。

上総「…って」

レン「そんな!」

ジェッソ「本当に!?」

カルロス「…私も信じられないが、外地の彼方に護らしきエネルギーを感じる。確定は出来ないが、恐らく彼だ。どうしたものか。」

ジェッソ「どうって、…確かめなければ!」

レン「とにかく船長に連絡を!」

カルロス「そうだな。ちょっとブリッジに行って来る。」と採掘準備室の出口へと足早に歩き始める。

上総「お、俺も行きます。」


カルロス、船内通路を走りながら(私の嘘を皆が信じる。…皮肉な話だ…。)と思いつつブリッジの扉をノックしてドアを開けると「船長、緊急事態です。」

駿河「えっ。」

カルロス「外地の奥に、アンバーの行方不明者らしきエネルギーを感知しました。」

駿河、驚いて「…本当に?!」

カルロス「確定は出来ませんが恐らくそうだと思います。」

すると総司が「それは、生きてる、って事ですよね?」

カルロス「うん。」と言うと「出来れば確認しに行きたい。」

駿河「そ、それは勿論、確認しないと」と言うと「まずは管理だ。管理に連絡して、それからアンバーに…」と電話の受話器を取る。



数分後

駿河が誰かと電話で話をしている。「…はい、護さんがこちらに向かっていると」

すると受話器から剣菱の大声『なんですと?!本当ですかっ!!』

駿河「はい。なので本船は今、管理の許可を得てカルロスさんの探知を頼りに護さんを救助すべく外地へ向かっています。」

剣菱『わかりました、アンバーもすぐそちらに向かいます!』

駿河、受話器を置いてカルロスに「彼の位置は」

カルロス、探知しつつ「相変わらず微妙な速度でこちらに向かっている。」


アンバーの採掘準備室では

メンバー一同、「護さんが見つかった?!」と驚く

穣「だから今日の仕事は中止!採掘口閉めるぞ!」と言い壁の操作盤のレバーを引く。

透「護は無事なの?」

穣「ワカラン!とにかくカルロスが探知したんだってよ!今、黒船が救助に向かってる。」

健「よ…喜ぶべきなのかどうか」

マゼンタ「何で、今頃…。」

穣「カルロスが嘘を言う訳ねぇし、…あとは護の無事を祈るだけだ!」


再び黒船

カルロス、探知しつつ(…来た。黒船の遥か後方に、管理の船…。予想外に速いな、そろそろ行かねば。)

カルロス「護の位置が近づいてきた。速度を落として。この先の開けた場所に着陸しましょう。」

総司「はい。」

カルロス、チラリと駿河を見ると(…私が逃亡すれば、こいつは管理に責められるだろう…。)

駿河、カルロスの視線に気づいて「何か?」

カルロス「いや。」と言いつつ(…すまん。逃げる私を許してくれ…。)


黒船は高度を下げて森の中の開けた場所に停止する。その後方に航空管理の船が来る。

カルロス、駿河に「では救助に行ってきます。」

すると上総が「俺も行きます!」

駿河「上総はここで待機を。」

上総「はあ。」

カルロス、暫し上総を見ると、駿河に「まぁ、良い経験になるので上総も連れて行きます。」

駿河「ん。じゃあそういう事で。宜しくお願いします。」

カルロス「では。」(…さようなら、駿河船長。お別れです。)

そして上総と共に、ブリッジを出て通路を歩く。

カルロスは少し歩いて自分の船室の前に行くとドアを開け、ドアの傍に置いてあった小さなショルダーバッグを手に持つとドアを閉めて再び通路を歩きながら

カルロス「上総」

上総「はい」

カルロス「私はこれから逃亡するので、黒船を宜しく頼む。」

上総「え?」

カルロス「できれば、本気で死ぬ気で全力で、私を探知して欲しい。」

上総「ど、どういうことですか?」

カルロスは何も言わずにそのまま階段を降りてメンバーが待つ採掘準備室へ。一同に「これから護の救助に行きます。」と言うと、操作盤の所へ行き開閉レバーを動かす。

船底の採掘口が開くと同時にカルロスはバッと採掘口から地面に飛び降りる。続いてメンバーも飛び降りる。

カルロスは皆が着地するのを待たずに森の中へ歩いていく。

ジェッソ「あ、待って下さい、監督。」と言いつつカルロスを追う。他のメンバーも小走りにカルロスを追いかける。

カルロスを先頭に一同は徐々に深い森の中へ。すると突然カルロスの姿が消える。

ジェッソ「あっ…」と言い慌ててカルロスの居た場所に行くとそこはジェッソの背丈ほどの小さな崖。崖下に飛び降りるが周囲は大きな岩と木々でカルロスの姿が見えない。

ジェッソ「監督!どこですか!」と叫ぶと、崖上にいる上総に「監督は?」

上総、ちょっと戸惑って「え…」と言い、「あれ…?探知してるんですけど」と言って、それから「あれ…?」と驚いた表情になる。

ジェッソ「どうした?」

上総「う、嘘だろ。なんで」と言い、焦って「カルロスさん!」と叫んで壮絶な探知をかけると「いない、カルロスさんを見失った、っていうか、こんな近い場所で見失う訳ないじゃん!」

ジェッソも焦って「どう言う事だ?」

上総「どうしよう、カルロスさんが分からない!なんで、なんで?」とパニックを起こす。

メリッサ「落ち着いて!」

上総、さっきカルロスが言った『逃亡するので』という言葉を思い出しつつ

上総「嘘だろ、あれってマジなの?!」と言うと「なんで、どうして探知妨害してんのカルロスさん!」と絶叫


一方、テクテクと森の中を歩くカルロス

カルロス(…やってしまった。)その目から一筋の涙が零れる。

カルロス「あは、はは。ははっ…。」と泣き笑いして「上総…。死ぬ気で探知しろと言ったのに。そんなんじゃ弱すぎる…。」と言ったその瞬間「う!」とタグリングを抑える「な、なんだこれ。…う…」苦し気に首を抑える。

カルロス(…これは、管理波!管理が私を探している。い、いかん…。)と走り出す。森の中を必死に走りつつ(…捕まってなるものか…私の全身全霊を懸けた探知妨害を突破できると思うなよ!)と物凄い形相でバン!とエネルギーを上げる。

カルロス「…私は、何が何でも護の所へ辿り着く!」


一方その頃、黒船では。

ブリッジにメンバーが押しかけている。上総やジェッソの他に通路までメンバーがいる。

駿河が船長席で、立ったまま上総の話を聞いている。

駿河「…本当…に?」

上総「本当です!聞き間違ってない!」

駿河「本当に、カルロスさんが、そんな事を…。」

上総「言った!逃亡するから黒船を宜しくって。そして俺に、死ぬ気で探知しろって。だけどあの人にマジで妨害されたら俺が探知できる訳ないじゃないですか!」

駿河、呆然としつつ「…つまり、あの人は、嘘、を…?」

ジェッソ「…恐らく…」

駿河「でも、なぜ…。」

上総「知りませんよ!」

駿河「…本当に、逃亡なのかな。」

上総「あの人が行方不明になる訳が無い!」

ジェッソ「…この状況では、そう考えるしかないかと…。」

駿河「じゃあ…。」と言い言葉を切ると「…もう、戻って来ないのか…?」と、そこへ突然、リリリと緊急電話のコールが鳴る。

一同、ハッとする

駿河、受話器を取って「はい」と言うと「え。…いや…、カルロスさんは、ここには居ません。彼は、…その…」と言い、言葉に詰まる。

そこへ上総が「逃げたんです!」と叫ぶ

駿河「に、…逃げたらしいです。理由は分かりません…。…えっ。」と言うとメンバー一同に向かって「…カルロスさんのタグリングの反応が消えたと。」

一同「!」

ジェッソ、思わず「…そんな…。」

駿河、受話器に「はい、上総に探してもらいま」と言い終わらないうちに

上総が「探してます!」というと泣きながら「本気で死ぬ気であの人を探知してやります!」とエネルギー全開で探知をかける。



一方、アンバーのブリッジでは。

マリアが探知をかけながら「…うーん…。んーー。おかしいな…。」と悩み中。

剣菱「…マリアさん。さっきから、おかしいおかしいって、何がヘンなんだ。」

マリア「んー…。」と悩んで「なんか黒船がおかしいの。」

ネイビー「あの船はいつもオカシイ。」

穣「しかし黒船から連絡ねぇな。」

剣菱「いつもの事だろ。黒船と管理がベッタリくっついて、ウチの船は仲間外れ。」

マリア「んー、やっぱりヘン!…黒船のブリッジに人が集まってるんだけど、カルロスさんだけいないの。」

穣「…カルロスだけ…?」

マリア「あとね、黒船に別の探知がいて」

ネイビー「別の探知?」と、そこに緊急電話のコールが鳴る

剣菱「管理からだ」と言い受話器を取り「はいアンバーの剣菱です。」と言って「はぁ?…どういう事ですか?」

穣「なんだなんだ」

剣菱「でも…彼は探知ですよ?自分で探知すれば戻れる…、はあ、まぁ気絶とかしてたら探知は出来ませんが…」

穣&ネイビー「気絶?」

剣菱「んー…とにかく、わかりました。」と言うと受話器を置きつつ、マリアに向かって「マリアさん大当たり。カルロスさんが行方不明になった。」

全員「ええ!?」

剣菱「黒船では今、カルロスさんの後輩の上総君が探知をしてるそうだ。」

ネイビー&マリア「ああー!」

穣「カルロスの弟子か。居たなそんなの。」

マリア「いつも存在感無いから忘れてた。あの子、本気出すと結構パワーあったのね。」

穣、剣菱に「つか、カルロス何でいなくなったん?」

剣菱「護を助けに行って行方不明になったと。」

穣「なんだそりゃ!黒船の連中なにやってんだよ!」

透「護の時みたいに、川にドボンでもしたとか。」

剣菱「とにかく護とカルロスさんを見つけてくれと。」

マリア、探知をしながら「あれ?この地形イメージに見覚えが…。」と言うと「黒船の近くの地下に川が…。あっ、これ護さんが落ちた川から繋がってるじゃん!」

穣「え、マジでドボン?!」