第4章 03

一方、その頃カルロスは。

必死に探知しながら森の中の獣道を走る。

カルロス(…黒船が動いた。護が流された川を頼りに、あの湖を目指している。流石だ上総、気づいたか。お蔭で管理も付いて来る訳だが!)


その頃、黒船では。上総が必死に探知している

上総「…カルロスさん…。…もう、どこなんだよカルロスさん!」と全力探知

駿河「あまり、無理しなくていい…。アンバーも探してくれているし」

上総「嫌です!アンバーには絶対負けない。」というと「もし仮にあの人が護さんが流れた方へ行ったなら、川の流れに沿って湖を目指す筈、だからこの辺に絶対いる!」

駿河「…。」

上総「例えどんなに探知妨害されても絶対に見つけてやりますよ。だってそれが、あの人の望みだから!」

駿河(…カルロスさん、どうして…。なぜ、俺に何の相談もなく…。)と思ってから(…7年も一緒に居たのに、信頼、無かったんだな…。俺も、何も気づかなかったしな…。)と暗い表情をする。

その時、突然、上総が「あ!これは…!」と何かに気づくが「こんなの今は関係ない。」

総司「何だ、何があった?」

上総「これ…、もしかして、前にカルロスさんが言ってた遺跡かも。」

駿河「遺跡?」ふと思い出す。


 カルロス『巨大な人工建造物らしきものが…でも人が居ない。これは何かの遺跡ですね、多分。』


駿河「ああ…。」と言ってからふと「いや、でも。」と言うと「もしかしたら彼はそこに向かうかもしれないぞ。」

上総「え」

駿河「だって徒歩だろ。どこかで休むとしたら」

上総「…遺跡!」

総司「なるほど。」

駿河「とりあえずちょっと行ってみよう。」


一方、管理の船の後方を飛ぶアンバーでは

剣菱、呆れたように「…まーったく。護の時は『前科があるからアンバーは来るな』と言った管理が、カルロスさんだと『一緒に外地に来い』だと。」

穣「大事にされてんなぁカルロス。」

剣菱「しかしなぁ。黒船さんは明言しないが、断片的に聞いた話から考えると。…なにゆえ逃亡したのか。」

マリア「やっぱりそうなのかな。」

剣菱「だって森の中とはいえ探知が二人いる時に片方を見失うって、有り得ないだろ。しかも護も見つからないし。」

穣「うーん…。でも、ちょっと信じられねぇけどな。あいつが黒船から逃亡するなんて。」

ネイビー「何かよほど嫌な事でもあったのかな…」

穣「んでも一人で外地に出るのは」

剣菱「そこなんだよ。いくら凄い探知でも一人で外地ってのは無謀だろ? つまり、どうしても外地に出たい理由があったんだな」

透「…人生嫌になっちゃったとか」

穣「アレは自殺するようなタイプじゃないな」

剣菱「…あの人は以前、護を探知した。恐らく護が生きてるってのは嘘じゃないと思う。」と言い「…彼はそこに向かったんじゃないかなぁ」

透「なぜ」

剣菱「さぁ」

穣「あいつ一体、何を探知したんだよ…。」



再び黒船。だんだん周囲が薄暗くなってくる。

総司「視界が悪くなって来た。」

するとレーダーを見ていた駿河が「…航空管理の船が速度を落とした。」

総司もレーダーを見て「もしかして止まるのかな。」

駿河「こんな状況、前にもあったな。」

総司「ありましたね。まさか管理はまた天候悪化で捜索中止とか言わないだろうな。」

上総「そんなの嫌です!とにかく行ける所まで…」と言うと「あっ、そうだ!」と何かに気づいて「今回はアンバーが居るので、アンバーを中継すれば、黒船は遺跡の所まで行けます!」

駿河たち「!」

駿河「そうか、管理と黒船の間にアンバーを置いて、探知人工種同士で繋がるのか。そういう手があったか!」と言うと「よし管理とアンバーに連絡する。」

すると総司が慌てて「最初にアンバーに連絡を!」

駿河「わかってる。管理は後だろ。大丈夫。」


暫く後、管理の船を追い越して、黒船の所に飛んでくるアンバー

誰かと電話していた剣菱、受話器を置きつつ「やっと許可が出たー…。全くもう管理ってのは…。」と言うと「危険だから遺跡に行くなとかアホな事ばっか言いやがって!何で15分も不毛な電話交渉せにゃならん!」

穣「管理と満とどっちが面倒なんだろう」

剣菱「どっちもだ!」と言うと「本気でカルロスさんを探したいならとっとと許可出せや、管理め」

そこへ穣が「船長、ひとつ提案があるんですが」

剣菱「ん」

穣「その遺跡って所に黒船の連中だけ行かせるのは心配なんで、俺も行かせてくれませんか。黒船に打診して欲しいんです。『何かに役立つかもしれんから、バリア職人を一緒に連れてってくれ』と」


数分後…。

曇り空の中、停止している黒船の上に近づくアンバーの船体。黒船の甲板にアンバーの船底が近づくと、アンバーの採掘口が開いて、穣が黒船の甲板に飛び降りてくる。甲板ハッチで待機していたレンブラントと夏樹が出迎える。

穣「いあーすまんねぇ突然。ちょいとお邪魔しますわ」

夏樹「中へどうぞ」

穣、夏樹に続いて甲板のハッチから中に入りつつ「レンブラント君は出身が同じだから知ってるけど、貴方、名前は?」

夏樹「夏樹です。風使いの紫剣夏樹」

穣「ほぅ。製造師は紫剣先生か」

夏樹、通路を歩きつつ「目的地に着くまで食堂で待機です。」と言って穣を食堂へ案内する。

食堂にはジェッソ達がいる。穣はつかつかとジェッソがいるテーブルに近づきジェッソの斜め向かいの席に座ると脚を組んで腕組みをして

穣「お久しぶりでござんすなぁジェッソ君!…何やら黒船もお困りのようなのでアンバーから助っ人に参りました!」

ジェッソ「まぁ黒船はアンバーがお困りの時に助けてやったからな」

穣「単刀直入に。あのカルロスが黒船から逃亡した理由って何なの」

ジェッソ「…逃亡かどうかは」

穣「あのカルロスなら普通は何がどうでも黒船に戻ろうとする筈だ。なのにこっちが探しても音沙汰無いって事は、黒船に戻りたくねぇって事だろ。」

ジェッソ「…。」暫し黙って「理由は本人に聞かなければ分からない。」

穣「でもまぁ凄いわな。自らこんな事態を起こす、その意思が。」

ジェッソ「それは言える」

穣「無事だといいっすねぇ!」



アンバーから離れて真っ白な雲の中を飛ぶ黒船。

黒船のブリッジでは上総が探知をかけつつ「…この遺跡…。なんか凄いな…」

駿河「凄い?」

上総「カルロスさんの気配は無いけど、凄いもの見つけた…。」と言い「総司さん、この辺りで一時停止して下さい。」

総司「了解」

上総「どこに着陸しようかな」

駿河「視界ゼロで着陸か…」

その時、総司が「あ、霧が若干晴れて…」と言うと「建物が!」と前方を指差して驚く

見ればボンヤリと、まるで都市のような建物群が見えてくる

駿河「えっ…これ、遺跡…?」

上総「凄いですよね!」

駿河「まるでどこかの都市…」と言い「…ともかく、どこに着陸する?」


暫し後、大きなビルのような建物の上に着陸している黒船。上総を先頭に、メンバー達が採掘口のタラップから建物の屋上に降りてくる。

レンブラント「なんだここは…。」

ジェッソ「これはかなり予想外だった。人の気配は無いのか?」

上総、探知しつつ「はい。…これだけの建物で全く人がいないって、不気味ですね。あんまり詳しく探知したくない…。」

昴はスマホで周囲の写真を撮っている。

するとその時、再び霧が出てきてメンバーを包みはじめる。

上総「あ、また霧が」

ジェッソ「長居は出来ないな」

昴「記録写真は撮っといた。」

穣「こんな事なら俺もアンバーからスマホ持ってくるんだった。」と言い隣の昴を見て「昴君」

昴「写真あげないよ」

穣「そんなー」と言って「あれ?」と昴の背後の何かに気づくと「あれぇ?」と昴を通り越して屋上の端へ走って行くと「いけねぇ、霧が! あ、カメラ!こっち来て、あれ撮って!早く!」とやや下の方の背の低い建物を指さす

昴「なになに」と言い穣の所に駆け寄りスマホのカメラをその方向に向けて「どれ?」

穣「壁の字だ!」

昴、字に気づいて「え!」と驚く「御剣(みつるぎ)人工種研究所?!」

一同「!」驚いて、穣たちの方に来る。同時に霧が濃くなり視界が悪くなってくる。

ジェッソ「霧が濃くなってきた。…上総、人の気配は」

上総「無いです。でも確かにあの建物の中、なんとなく人工種製造所っぽいような。」

夏樹「何でこんな所に」

ジェッソ「行って調査してみたいが、霧がな…。」

穣、昴に「写真撮れた?」

昴「勿論。でもあげないよ」

穣「発見したの俺なのに!」

昴「…じゃあ1枚だけあげるから、後で穣のメルアド教えて。」

穣「よし。」

上総「霧がどんどん濃くなる…。戻りましょう」

そこへメリッサが怪訝な顔をして「…この霧、なんか変よね。湿っぽくない。」

夏樹「言われてみれば。湿気が無い。」

ジェッソ、メンバーに向かって「とにかく全員、一旦船の中へ!」

採掘準備室へ戻る一同。

ジェッソ、上総に「どうする、霧が晴れるのを待って再び行くか?」

上総「…行きたいんですが、ずっと探知してるから、ちょっと疲れが…。」

穣「あんま無理すんなや。」

上総「でも」と言い「…うん、そうですね。じゃあアンバーの所に戻ります。」

ジェッソ「では採掘口を閉める。」

上総「…カルロスさん、どこ行ったんだろう…。」と溜息つくと、「ブリッジ行きます…。」とトボトボと階段の方へ歩きかけるが

穣が「ちょい待った!」と上総を呼び止めると「ここって管理波が届かない場所なんだよな。って事は、管理はこの遺跡を知ってんのかな…?」

上総「知らないと思います」

穣「って事はだよ。もし仮にこの遺跡に人が住んでたらさ、航空管理の把握してない街があるって事になるやん」

上総「う、うん」

穣「そしたらカルロスが居なくなるのも納得なんだけど」

上総「どうして」

穣「どうして、って…。」

上総「護さんは知りませんが、カルロスさんは戻って来て、皆に『こんな街があった』とか教えてくれてもいいじゃないですか」

穣「…んー…。」困り顔をしつつ「だって管理が把握してないって事はそこに住んでる人間は、管理と関係ない筈なんよ。それを管理に報告するってのはさ…。」と言い悩んで「うーん、この遺跡の事を管理に報告して良いのかなぁ…。」

上総「報告します。だって、研究所の事とか言わないと」

穣「それ!」と言うと「もし仮に。その御剣人工種研究所の事を管理も誰も知らなかったら、どうする?」

上総「え…?」

穣「仮にあそこで人工種が作られたとして、生まれた奴はどこへ行ったのか!」

その言葉に他のメンバー達も唖然とした顔をする

上総「…」暫し呆然としてから「あっ!」と声をあげて「そういえば、初めて感じる、って…。」と言うと「カルロスさんが、あの時に」


 カルロス『誰かが、いる…。わからない。これは、初めて感じる…。』

 駿河『護さんの近くに、人が…?』


上総「…カルロスさんは、人間が居る、とは言ってない…。皆が勝手に人間だと思い込んだ。」と言い「じゃあ、カルロスさんが、あの時あんなに強引に護さんの所へ行こうとしたのは」

穣「何だよそんな事があったのか。」

上総「その、謎の存在を、確かめたかったから…?」

ジェッソ「その為に、今、黒船から逃亡したと…?」

暫しの沈黙

穣「まぁ真偽はともかく、話の筋は一本通るわな!」

ジェッソ「確かにこれは…管理に報告すべきかどうか」

穣「報告してみよう。管理がどんな反応するか気になる。」

ジェッソ「だが…まぁ、そうだな。反応を見てみないと」

穣「もしそれで管理がカルロスまで捜索打ち切りにするようなら、ビンゴって事だ。」

上総「何が?」

穣「管理が隠しておきたい何かをカルロスが探知し、護がそこに関係するって事さ!」

上総、溜息ついて「そっか…。…あの時カルロスさんは、一体何を探知したんだろう…。」

穣「それを知る為に全てを捨てて飛び出したんだ、行かせてやろうぜ」

上総「え。」と驚き「…行かせる?」

穣「だってあいつ、自己意志で自ら行ったんだぜ」

上総「そんな!あの人が居なくなったら誰が黒船の探知を」

穣、上総をバシッと指差す

上総「お、俺はまだ全然…」

穣「嫌ならあいつみたいに黒船から逃げちまえ」

すると上総、激昂して「そんな事はしません!…だって、俺は、あの人の弟子ですから!ブリッジ行きます!」と言い、ツカツカと階段へ向かって歩き出す。

穣、コソッと「カワイイねぇ」ニヤニヤ

ジェッソ「あんまりイジメるなよ」

穣ニヤリ


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