第5章 03
リビングに行くと、護が椅子に腰かけてテーブルの上に本を置いて読んでいる。
カルロス「何を読んでる」
護「石図鑑」と言いつつ本の表紙を見せて「俺の知らない石がいっぱい載ってて面白い。死然雲海でしか採れない石とか」
カルロス「ほぅ。」
護「俺、昔はこういう本を見るの好きだったんだ。でもいつの間にかイェソド鉱石しか眼中に無くなってて。採掘量、採掘量ってさぁ。…ホントはもっと色んな石を採りたかった。」
カルロス、テーブルを挟んで護の正面の椅子に腰かけつつ「ちなみに、…向こうに戻りたいと思った事は?」
護「今はもうこっちで採掘師して生きてるから戻りたいとは思わないけど、…まぁ、気にはなるよね。」
カルロス「…そうか。」
護「ところで、何か食べる?」
カルロス「いや、水だけでいい。」
護「じゃあ石茶でも淹れるかな」と言って立ち上がり、ヤカンに水を入れコンロにかけてお湯を沸かす
カルロス「石茶?」
護「うん。イェソドのお茶で、有翼種がよく飲む。」と言いつつ、棚から小瓶と手のひらサイズの紅茶ポットのようなガラス容器を取り出す。ガラス容器の中には目の細かい金属製の茶こし網の篭がついている。
小瓶には紅茶のような細かい葉と小さめの石が一緒に入っている。
護「この葉っぱは薬草で…名前は忘れた。石は元気石と言われるイェソド鉱石の変種だって」と言いつつ茶こし網の篭の中に小瓶からいくつか石を入れ、お茶の葉を入れると「あとはお湯が沸いたらこれに注いで5分待って出来上がり。」
カルロス「人間は絶対に飲めない茶だな」
護「うん」と言い「クッキー食べる?俺が作った奴だけど」
カルロス「いや」
護「実は失敗したのであまり美味くは無い」と言いつつ棚の上の小さな缶を持ってきて開ける。中にはキッチンペーパーに包まれたクッキーが数個。暫くすると、お湯が沸く。護はコンロの火を止めると石茶ポットにお湯を注ぎ蓋をして、ヤカンをコンロの上に戻す。そしてクッキーを一つ摘まんでボリボリと食べると「…メッチャ甘い…。砂糖入れすぎた。」
カルロス「…お前、そういうの、よく作るのか」
護、棚からマグカップを二つ出してテーブルに置きつつ「いや。前は作らなかった。何せウチの長兄が『男がスイーツ作りなんて恥だ』っていう人なので、俺もそうだった。んでも末子の透がスイーツ作りが好きで、長兄に屈する事無くスイーツ作ってさ。」と、そこでふと時計を見て「おっと、そろそろ五分だな」と言いマグカップに石茶を注ぎつつ「俺は透に『お前またこんなもの作って!』とか怒りながら、そのスイーツをガツガツ食っていたという。」
するとカルロスが思わず「ふ」と吹き出してハハハと笑いだす。
護「なに笑ってんだよ、はい石茶」とマグカップを勧める
カルロス、笑いつつ「面白い兄弟だな」と言い、マグカップの石茶を少し口に含むと「お」と驚いた表情をする
カルロス「これ、…美味いな。」
護「そう?何なら俺の激甘クッキーもどうぞ」と勧める
カルロス「それは要らんが、これは美味い。」
護「それはってアンタ」
カルロス「いや、まぁ…、じゃあちょっとだけ」とクッキーを一つつまむと割ろうとするがなかなか割れない
護「貴方には割れませんよ。石のように固いクッキーですから。」
カルロス、その言葉にまた笑いだす。
護「俺が割りましょう!」と言い、クッキー缶の蓋の上でクッキーをバキンと割ると「貴方に噛めるか分かりませんがどうぞ」とカルロスに差し出す。カルロス爆笑
護「何でこんなに固くなったんだろうなぁ…。鉱石クッキーにするつもりは無かったのに」と言い、爆笑カルロスに「そんなに笑わなくても」
カルロス「いや、…凄い久々に、笑った!」
夕方…。
木箱を吊り下げて飛んで来るターさん。物置近くに木箱を置くと、中からパンパンに膨らんだ買い物袋をいくつか持って玄関に回り、家の中へ
ターさん「ただいま。」
すると、ハハハという笑い声が。見ればキッチンで料理をしている護の隣でカルロスが爆笑している。
護「おかえりターさん。」
ターさん「何で笑ってんの?」
護「知らん。勝手に笑ってる。」
カルロス、爆笑しながら「野菜、切り過ぎだ!」見れば丸いザルの中に切った野菜が山盛り。
護「いいんだよ俺が食うから!」
ターさん「なになに」
護「この人と話しながら切ってたら、こんななった。今日は野菜炒めと野菜スープとサラダで行く。」と言いカルロスに「アンタも食べろよ!」
カルロス「要らん!」
護「ったく俺のクッキーも俺の料理も食べないとは。」
ターさん「あのクッキーはダメだよね」
護「…。」渋い顔の護、その隣で笑うカルロス。
暫し後。テーブルに野菜尽くしの料理が並ぶ。
護「いただきます!」と言いパクパクと食べ始める。そして「よし、普通に美味しい。」
ターさん、野菜炒めとスープを食して「キャベツだらけだけどね。」と言うと「今日さ、役所でカルロスさんの事を話して来たよ。そしたら実際に本人と会ってから街に入れるかどうか決めるって。」
護「じゃあカルさん…あら。」
見ればカルロスはソファの背もたれに寄り掛かったままスヤスヤと寝ている
護「笑い疲れたのかな」
ターさん「え」
護、カルロスを指差して「今日は何か知らんが爆笑しまくってた。」
翌朝…
カルロス、無精ひげとボサボサ頭で「またソファで寝てしまった…。」
ターさん「ぐっすり寝てたねぇ。俺達もう朝ごはん食べちゃったよ。…貴方の食欲は?」
カルロス「ありません。」
ターさん「じゃあこっち来て。」と手招きしてカルロスを呼ぶ。歩きながら「俺達、仕事に行くけど、家に貴方だけ置いときたくないので一緒に来てもらいます。」
カルロス「はい」
ターさんに付いて玄関を出て裏に回って小屋へ行くと、丁度、護が斧と剣と妖精を持って出て来る所だった。
護、カルロスに「おはよう。この中に入って」と木箱を指差す。カルロスと護、木箱に入る。
ターさん「飛ぶよー」と言って木箱を吊り下げて飛び上がる。
護、カルロスを見てちょっと笑うと「起きぬけに強制連行されてるし。目、覚めてる?」
カルロス「当たり前だ」と言い「ん…?」と怪訝な顔をして「なんだそれ」と黒石剣を指差す。
護「黒石剣っていう石で、採掘道具の一つだよ。」と言って黒石剣を手に取ると、「アンバーで採掘中に川に落ちたのは、この石が原因。」
カルロス「ああ、変な動物が石を持って行こうとしたのを追いかけて、誤って川に落ちたとか。」
護「んん?…正確には妖精がこれを耳に挟んで持って行こうとしたんだよ。」と、丸い妖精の耳を掴んで持ち上げる
カルロス、またプッと笑って「耳か!」と言うと「でも良かったな、流されて。」
護「まぁね!」その時、前方に浮島が見えて来る。
カルロス、それを見て「面白いな、島が浮いてる。」
護「ってそれだけかい!もうちょっとビックリしようよ。」
浮島に到着すると、ターさんはケテル鉱石柱のある場所に降下し着地する。護とカルロスは木箱から出る。
ターさん「護君、ケテル頼むよ。俺、今日は違う石を採るから。」
護「へい」
ターさんは斧と布袋を持ってやや離れた場所へ飛んでいく。
護も斧を持って近くのケテル鉱石柱をコンコンと叩き始める。
カルロス「こんな大きなケテル…。向こうに持っていったら幾らの値がつくか」
護「でもここではメジャーな石材なので、上手く採らないと、売れない」と言い「これ、いいかも」と目星を付けるとカルロスに「ちょい離れてて」
カルロス、ちょっと離れる。護は一気にガンと鉱石柱を切り、柱をゴロンと地面に倒す。
カルロス「…採掘というよりは伐採のような」
護「有翼種の採掘船の採掘みたらもっとビックリするよ」と言いつつ、ケテル柱を木箱に入れると「ところで探知のカルロスさん。売れそうな石を探してくれませんか」
カルロス「…売れそう…というと…それなら…」とちょっと歩いて、大きめのケテル鉱石柱を指差すと「あれだ」
護、その柱の所に行くと、コンコンと叩いてから「これは…ちょっと違うと思うなぁ」
カルロス「なに?」と怒ったような声で言う
護、ポコポコと跳ね回る妖精に「なぁ、売れそうな石ってどれかな」と聞くと、妖精はポンと跳ねてからトコトコと歩いて一本の小ぶりな鉱石柱の元へ。
護「これか」と言い、コンコンと叩いて「おお!」と言うと
カルロスが「ちょっと待て」と言いコンコンと石を叩き、さっきの石柱へ戻ってコンコン、再び小さい柱に来てコンコン、そして「うーむ。」と言い「エネルギーの強い石が売れるんじゃないのか」
護「ちょっと離れて。」と言い、カンカンと活かし切りをする。石が輝きだす。
カルロス、驚いて「…さっきとエネルギーが全く違う。」
護「これ『活かし切り』っていうんだけど、あっちの石は、切ってもあんまり光らないと思う。」と、さっきの柱を指差しつつ言う。
カルロス「そうかな」
護「何本も切ってると直感的にわかるようになってくる。」と言い、斧を構えて一気にガンと柱を切るが
護「うぁ!切り方失敗した!」と同時に
カルロス「エネルギーが大きく変わった」と言い「面白いな、これ!」
護「だろ?でもせっかくの良い石がぁ…勿体ないー!」
カルロス「これは探知が非常に難しい!何を基準に観ればいいんだ!」
護「妖精に聞いてみれば」
カルロス「…。」ちと妖精を見る
妖精「?」
カルロス「…いや。」と言うと護に「私も石を切ってみたい。ちょっと斧を貸してくれ」
護「あ、黒石剣でも切れるから、あれ使ったらいいよ。」
護とカルロス一緒に採掘。探知しては切り、探知しては切り…。
カルロス、黒石剣の刃を見つつ「しかしこれはまた面白い石だな。力を入れずに石が切れる」と言いつつ刃先をケテル石に当てる
護「え?」
カルロス「エネルギーを流した方向に石が切れる。これは良い…。」
護「俺は普通に力を入れて切ってたけど」
カルロス「お前は怪力だからな。でもこれ多分、本来はエネルギーを流して使うもんだぞ。お前より非力な私でもこうして石が切れる」と言ってケテル石を割る
護「…どうやって切ってんの」
カルロス「だからこの黒石剣に自分のエネルギーを流すんだよ」
護「それってどういう事」
カルロス「つまり探知の時のように…って怪力のお前にはワカランな」
護「分かる説明して」
カルロス「とにかく切れるんだからそれでいいだろう!」
暫し後、木箱はケテル石で満杯。
それを見たターさん「結構採ったねぇ!」
護「この人の探知の練習やってたら、こんななった」とカルロスを指差す
カルロス「ケテル石の探知はイェソド鉱石の探知より、よっぽど面白い」
ターさん「そうなの?」
カルロス「イェソド鉱石は、とにかくエネルギーの強い所を探知して突っ込んで行けばいいだけだった。」
ターさん「なんて大雑把な。石によってはそれでもいいけどケテルだとそれじゃ荒すぎてダメだよ。石の性質とか感じてる?」
カルロス「性質?」
ターさん「個性と言うか…。本質的な所を感じる。護君は最近それが上手くなったよね」
カルロス「…お前、探知じゃないだろう…。」と護を見る
ターさん「護君ね、石を観るセンスだけはいいから。」
護「だけ、って」
ターさん、カルロスに「ところでその黒石剣、使ってみてどう?」
カルロス「凄く使いやすい」
ターさん「だと思った。ちなみにその黒石剣を使いこなせるようになれば、有翼種の採掘船で相当、重宝される。」
カルロス「私は探知がメインで」
ターさん「うん、そうなんだけどね。もしここで採掘師をするなら黒石剣を使える事が必須だよ。貴方に白石斧は合わないから。」
護「そうなの?」
ターさん「うん。逆に、護君に黒石剣はあんまり合わない。」
カルロス「そうだな。」
ターさん「…でね、個人採掘師って沢山いるから最初は石屋になかなか顔を覚えてもらえないんだけど、君たちは人工種だから、ちょっと有利な訳だよ。」
護「うん。既に『ヘッポコな石しか採って来ない』って有名」
ターさん「今はね!」と言うと「ともかく、有翼種でも扱いが難しい黒石剣を使える人工種って、凄いと思うんだ。ここでは飛べないのはネックだけど活かせるスキルを活かして人工種ならではの事をやったらいいんだよ。せっかく人工種なんだし」
護「まぁねぇ。ところでハラ減った。」と言い木箱の中のケテル石の上に乗りつつ「戻ってお昼にしよう。」
カルロスも木箱に入る。ターさんは木箱についたワイヤーを持って、木箱を引き上げつつ飛び上がると「ちょっと重い…。」
カルロス「…ターさん、相当な怪力だな…」
ターさん「これ、翼の力なんだよ。地上で物を持ち上げる時の力とはちょっと違うんだー」
カルロス「ほぅ…。」
ターさん「しかし午前中だけでこんなに採れるなんて。流石に採掘師3人だと採れる量が違うね。」
護「ターさんにお世話になってるからさ、頑張らないと!」
カルロス「…ところで」と言うと「やっとハラが減った。私も昼飯を食べたい。」ググゥ
護&ターさん「良かった!」
護「よし、不味いもの食わせよう!」
カルロス「何でだ!」
笑うターさん。
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