第6章 01

数日後。

採掘現場に停まっている採掘船アンバー。

作業場ではメンバー達が一ヶ所に集まって話をしている。

穣「結局、管理はカルロスの捜索を打ち切っちまったなー。」

するとマリアが「本当に打ち切りなのかな。管理があの人を簡単に諦めるとは思えないけど…」

悠斗「あの人、無事なのかね」

透「野垂れ死にしてたりして」

穣「とにかく全ての謎を解くカギは、『御剣人工種研究所』だ。なーんか手掛かりねぇかなぁ。」

透「ネットで調べても出て来ないし。」

マリア「図書館行ったけど、人工種の本は難しくてよく分からないし」

悠斗、頷いて「タイトルだけでギブアップした。」

マゼンタ「俺の製造師に電話して聞いても分かんないって言うし。」

健「俺の製造師も分からないと」

穣「…俺は、製造師に連絡したくねぇし」

悠斗「でも十六夜先生なら何か知っていそうな気はする。」

穣「御年90の年寄りだしな。でも連絡したくねぇ。」と言うと「マゼンタ君、電話番号を教えるから俺の代わりに電話して聞いて」

マゼンタ「嫌です!」

透「嫌だよなー」

悠斗「他に何か知っていそうな製造師というと…やっぱ周防先生か。」

透「御年97歳、人工種最高齢の現役製造師だし。」

マリア「そもそもカルロスさんの製造師!」

穣「問題は、アンバーに周防先生に作られた人工種が居ねえって事だ。」

透「アンバーにはいないけど、SSFに穣の彼女がいるじゃん。」

穣「へ?!」

悠斗「おっ」

マゼンタ「誰?!」

透「ベルガモットさん。SSFで育成師してるだろ」

穣「いあ、彼女な、今ちとMFに行ってまして」

透「ケンカでもしたの」

穣「してねーよ仕事だよ!」

透「彼女に周防先生に聞いてもらったら」

穣「う、…うーん」悩む

マゼンタ「ちなみにSSFの正式名称って何だっけ」

悠斗「周防紫剣(しづるぎ)人工種製造所。人工種の周防先生と、人間の紫剣先生が、共同で建てた所。」

穣「ホントに共同なのかねぇ。なんか人間の紫剣先生が、人工種の周防先生を飼い慣らしたという黒い噂があったりしますが」

健「えええ」

悠斗「マゼンタ君、MFの正式名は?」

マゼンタ「マルクトファクトリー」

悠斗「ALFは?」

マゼンタ「人工生命研究所内製造所でっす!」

悠斗「よくできましたー」

マゼンタ「アンバーってALFの人工種ばっかだよね」

そこへ穣が「うーんまぁ仕方ねぇ、ベルガモットに頼んでアポ取ってもらってSSFの周防先生に直接突撃するかぁ!」と叫ぶ。内心で(周防先生はベルガモットの製造師だから会うのが不安なんだが、ある意味でチャンスでもある…)と思いつつ、一同に「今度の休みに誰か一緒にSSFに行かん?」

一同「……。」

穣「あのカルロスの製造師だぞ!人工種で初めて製造師になって超沢山の人工種を作ったスゴイ大先生に会いにいこーよ!」

悠斗「休みは休みたい!」

マゼンタ「寝たい!」

透「穣、一人で行きたくないから」

穣「俺が自らSSFに行った事がバレると、ブルーの非常にウザい満って奴が騒ぐので嫌なんだよ!」

悠斗「あ!SSFって人工種の緊急メンテ施設に指定されてるから、穣さんが大怪我すれば自ら行った事にはならない」

穣「それこそ満に大騒ぎされるし大体メンテするのが周防先生って限らないし!紫剣先生だったらどうする」

悠斗「その時は代わりにマゼンタが」

マゼンタ「はぁ?!」

穣「誰も付いて来ないなら、この間、黒船に乗った時に昴にメルアド教わったし、昴とか上総君とか誘うかなぁ!」

マゼンタ&悠斗&透「いってらっしゃい!」

穣「くぅ」

そこへ健が「あのー、そろそろ真面目に仕事しないと、お昼になっちゃいます。」

穣「イカン皆、少しは仕事するべ!…どうせ黒船がアンバーの分まで採ってくれるからサボってもいいけど!」

悠斗「んでもあんまりサボると剣菱船長が本部から文句言われる」

穣「んだ。船長の為に採るべ!」

一同「はい!」いそいそと作業に励む一同。

穣、ふと。(あっ、そうだ!ベルガモットじゃなく上総君に、周防先生のアポを頼めばいいんだ…!)



一方、黒船。

荒れ地に着陸している黒船のブリッジでは、駿河が少し疲れた様子で船長席に座ったまま、ぼーっと考え事をしている。

駿河(…船長って、何だろうな…。俺は一体、どういう船長であればいいんだろう…。)

目を伏せて、操縦席の静流に気づかれないように密かに小さな溜息を漏らす。

駿河(…散々責められたしな。)


≪回想シーン≫

ジャスパーの採掘船本部にて。

人工種管理官の一人が大きなため息をつくと『…貴方には期待してたんですけどねぇ。何せ、あのティム船長が強く推した人ですし、人工種からも人気がある。だからもっと上手くやってくれると思っていました。』

駿河『…。』

管理官『あのベテランのカルロスが逃げるとは…。しかもなぜ逃げたか理由も分からないと。』

駿河『…特に、思い当たる理由が無く…。』

管理官『そんな事だから人工種にナメられる。』

別の管理官も『君が船長になって1年半、特に何事も無かったので気が緩んだか。』と言うと『黒船は人工種のエリートが集まった船だからな、放っておけばいい気になって付け上がるんだ。船長がきちんと締めないと。』

駿河『…。』

管理官『…何の為に君を船長にしたと思っている。君はまだ若いし経験も浅いから、失敗は仕方がない。今回の事を教訓として、今後もっと精進するように。』

管理官『君には期待してるんだよ。いつかティム船長のような立派な船長になって欲しい。』


ブリッジの船長席でボーっとしている駿河、船窓から見える荒れ地を見ながら

(…立派な船長って何だろう…。剣菱船長みたいな人かな…。あの人は、何年も船長やっててベテランだしな…。

…あの時、カルロスさんに言われたな…。)


 カルロス『もし、アンバーの剣菱船長なら、何がどうでも護の所に行くだろう…私の能力を信じて!』


(信じてたけど、…行けなかった…。そしてあの人は、一人で行ってしまった…。)

それから密かに小さな溜息をつくと(…カルロスさん、ごめん…。俺は、本当に、ダメな船長だよ…。)


そこへ、ブリッジのドアがコンコンとノックされる。駿河、ハッとして我に返る。

「失礼します」という声と共に上総とジェッソが入って来る。

上総、「午後の採掘場所は」と言いつつ船長席のタッチディスプレイに表示された地図を指で触って目標地点を出すと「ここです。普通に飛んで15分位」と言い印をつける。「昨日のノルマに足りなかった分も、ここで採れるはず」

駿河「そのノルマは本来、アンバーのものだけどな」と言うと「アンバー、もうちょっと頑張ってくれないかな…」

ジェッソ「…黒船がサボればアンバーは採るようになりますかね」

駿河「え」とジェッソを見る

ジェッソ「いや。黒船は何があろうと採ります。大丈夫ですよ、ティム船長の時代よりは楽だ。」

駿河「…何かあったら言って欲しい。突然、失踪する前に」

上総「逃げませんよ、俺は。」

ジェッソ「…じゃあ昼食と休憩を挟んで1時から午後の作業を開始します。」

駿河「なら船は12時半頃に移動開始する。静流さん、OK?」

操縦席の静流「はい」

ジェッソ「よし昼飯に行こう、上総」

上総「はい」と言ってブリッジから出て行く。

駿河 (…でもやっぱり二隻分はキツイよなぁ…。)と思ってちょっと溜息をつく。


通路を歩きつつ、ジェッソ、上総にボソッと「…あまり、無理するなよ。今は君が頼りだ。…大変だとは思うが」

上総「大丈夫です。だって俺、元々その為にここに入れられたし。」と言い「責任重大だけど、でもこれはカルロスさんも通った道なんだろうなって。」

ジェッソ「…。」

そこへ、階段の方から昴が上がって来ると「あ、上総君。」と言い「今、アンバーの穣から、君に連絡とりたいってメール来た。穣に上総君のメルアド教えてもいい?」

上総「穣さんが?」

そこへジェッソが「ちょい待て。」と言い「連絡なら今、食堂の一般用電話からアンバーに電話してしまえばいい。」

上総「え。」と曇り顔して「でも電話は…。」

ジェッソ「…個人携帯での通話は厳禁だけど、一般用電話なら」

上総、困り顔で「俺、他の船に電話した事なくて…、アンバーは知ってる人いないし緊張する」

ジェッソ、ちょっとガクッとして「掛け方、教えてやる。相手は穣だテキトーでいい」

上総「船長とか出たらどうするの」

ジェッソ「それも適当でいい」



その頃、アンバーの食堂では。

穣の他に何人かのメンバーがいる。穣以外はテーブルに突っ伏して寝たりイスを並べて寝たり。お休み中。

そこへ剣菱が入って来て「…皆さんお休みで」

スマホを見ていた穣、席を立って「あ、ここどうぞ」

剣菱、カウンターから昼ご飯が乗ったトレーを受け取って席に着くと昼飯を食べ始める。穣はその近くの壁際に立ってマグカップの茶を飲みつつスマホを見ている。

そこへトゥルルルと一般用電話が鳴る

穣と剣菱、ビクッとして固まる(…ま、まさか、ブルーの満…?!)

キッチンから出て来たアキが受話器を取って「はい採掘船アンバーです。…穣さんですか?」

それを聞いた瞬間、穣はマグカップをテーブルに置き食堂からダッと逃亡

剣菱「!」

アキ「あ…ちょっとお待ち下さい」と言って保留ボタンを押す

剣菱が腕でバツマークを作りつつ『穣は居ない!忙しい!』

アキ「黒船の上総さんからお電話ですけど」

剣菱「え?黒船?」とビックリする。そこへ穣が食堂の戸口に顔を出して「ブルーの満じゃないの?」

アキ「黒船の上総さんです。」

剣菱と穣、はぁとため息をつく

剣菱「最近、電話が恐いな…」

穣「うん。」と頷き電話の所に行くと、受話器を受け取り「代わりました、穣です。上総君わざわざ電話サンキュー!うん、実はさ。…俺、周防先生に直接会って、御剣人工種研究所の事を聞いてみたいんだけど、上総君も一緒にどうかなと。」


黒船の食堂ではジェッソの他、何人かが昼飯を食べている。

上総、受話器に「周防先生に?どうして」

穣『人工種最高齢だろ。何か知ってるかもしれない。ところでそっちは何か調べてないの?』

上総「特に何も…。」と言い「だって、あまり突っ込むと。…管理が。」

穣『なら俺一人で行くから』と言った所で

上総「ちと待って下さい!」と言って「何か分かった事があったら、教えて欲しいんですが」

穣『OK教えるけど、その代わり、周防先生にアポ取ってくれん?アンバーの穣が先生に会いたがってると』

上総「うん、それはいいけど、…周防先生に電話で聞くってのはダメなの?」

穣『深いとこまで突っ込むには直接会って聞かないと。』

上総「じゃあ後で俺が周防先生に連絡して、それから穣さんにメールします。また後で…。」と言って受話器を置く。

そこへジェッソが「穣の奴、何だって?」と上総を見る

上総「…周防先生に会いたいからアポとってくれって。あの遺跡について知りたいんだって」

ジェッソ「十六夜の穣が周防先生に突撃するとは。」

昴「穣ってチャレンジャー」

ジェッソ「あの長いハチマキは伊達じゃなかった」

上総「俺も遺跡に興味はあるけど、行くと管理が…。」

昴「今は自重しとこ」

上総「うん…」

ジェッソ「上総。穣にひとつ言い忘れた事があるぞ」

上総「…何ですか?」

ジェッソ「黒船はアンバーの分まで採ってやってんだから、それだけの情報を持って帰って来い、と」

上総「なるほどー!!!」