第15章 03
カルロス「…ところで、そろそろ有翼種の方々が来ますよ」
ターさん「身分証明できたかな」
そこへ玄関にマリアが来て「有翼種の方が来ました」というと入れ替わりにレトラが入って来る。
上総や護が席を立ち玄関へ。
レトラ「歓談中失礼します。黒船の方の身分証明をお持ちしました。」と封筒を差し出す。
上総、封筒を受け取って「ありがとうございます。」
レトラ「それと、こちらを読んで頂いて意見や要望があれば」とA4サイズの紙を出し「有翼種が人工種と和解するにあたっての条件です。基本的にはこれに同意頂きたいのですが、若干の変更は可能ですので皆さんで協議して下さい。」と言って上総に5枚の紙を渡す。
上総、穣に1枚渡し、ジェッソ、駿河、周防、カルロスにも渡す。
穣、用紙を見つつ「おー!雲海で指定の石を採ってきたらケセドの街の石屋で取引できるって、ありがてぇ!」
護「でもケテル石だけは人工種だけで勝手に採っちゃイカンと」
カルロス「勝手にガンガン採って人間側の世界で売るなって事だろ」
レトラ「そうです。採る場合は必ず有翼種の石屋が認める採掘師と一緒に採る。その分は人間側の世界で売っても構いません。」
駿河、用紙を見つつ「キチンとこういう事を考えてくれるとは…。」
周防、レトラに「すみません、有翼種・人工有翼種・人工ヒト種の遺伝子の、研究目的の為の情報共有、というのを追加したいのですが。」
レトラ「なるほど」と言い、タブレット石を出してメモする。
周防「有翼種側に、人工種についての研究をしている方は」
カナン「今は殆どいないねぇ。」と言い「でも、これから交流が始まると興味もって研究する人が出て来るかもしれない。」
周防「じゃあその時には協力を惜しみません。とりあえずターメリックさん。」
ターさん「はい?」
周防「私がイェソドから帰る前に、ちょっとだけ採血させて頂けませんか。…実は採血する道具を持ってきたので」
ターさん「い、いいですよ。はい。」
カルロス「なんて用意周到な」
周防「いやカナンの血を…あ、カナンも宜しくお願いします」
カナン、笑って「あいよ。」
レトラ「他に何かありませんか」
穣「俺は特に無し。」
ジェッソ「これでいいと思う。」
そこへ駿河が「あの、これって今後、状況の変化によって追記や修正できるんでしょうか」
レトラ「勿論。今後、様々な事が起こって来るでしょうから。その都度見直していくという事で。」
駿河「ありがたや…どこぞの管理に見習わせたい…。」
カルロス「ならこれでオッケーでいいかな」
一同「うん」
レトラ「ではその紙は回収します。あと…」と言って後ろに待機していた有翼種から布袋を受け取ると、「駿河さん」
駿河「はい」
レトラ、布袋から透明な液体の入った瓶を出して見せると「ケテルはイェソドエネルギーが強いので、これを首と手足に塗って下さい。それからこの袋の中に入っている中和石の腕輪を、両腕に着けて下さい。」と言って瓶を袋に入れて袋ごと駿河に渡す。
駿河、袋の中を見つつ「何ですかこの液体は」
レトラ「まぁ、言わばエネルギー的な酔い止めです。」
駿河「酔い止め?」
レトラ「はい。有翼種の子供がよく使う奴を、人間用にちょっと強くしました。」
カナン「イェソド山は下と上でエネルギーが違うから、麓の街で生まれた子が突然、上の方の街に行くと、慣れてないから酔っちゃうんだ。そんな時にそれを使う。」
駿河「なるほど…?」
レトラ、護に「これはアンバーに乗っている人間の分です。」と袋を3つ護に渡すと全員に向かって「あと、ケテルでは船から全員降りて、各船の人間代表と人工種代表に合意書にサインして頂きますので代表を決めて下さい。」
穣「人間代表は船長2人だな。」
カルロス「人工種は…。」と言って周防を見る
護「カナンさんと周防先生とか」
カナン「我々の役目はケテルに行く所までだ。なぁ?」と周防を見る
周防「うん。そろそろ隠居するから後は頼む」
カルロス「するとSSFは紫剣さんの天下だな」
昴「やったぁ」
周防「それは困る」
ジェッソ「まぁ人工種代表は小型船コンビで」
穣「護とカルさんで決まり。」
レトラ「では約40分後にケテルに向かって出発しますので準備して下さい。」
暫し後。
イェソドの方からターさんの家へ、採掘船の半分程のサイズの有翼種の船が3隻やってくる。ほぼ三角の形をした3隻は、進行方向を揃えて黒船とアンバーの前に出ると停止する。
黒船のブリッジにはレトラとカナン、周防が居て、その後方の入り口から通路には、いつもの如くカルロスと上総、ジェッソ達がいる。
レトラ、駿河に「あの真ん中の船に続いて飛んで下さい。」
黒船が上空に浮き始めると3隻の真ん中の船がイェソドに向かって前進を始める。それに続いて飛ぶ黒船とアンバー。有翼種の残り2隻の船は、黒船とアンバーを囲むように左右に別れて二隻の後方につく。その船団の更に後方にカルナギの船。
アンバーのブリッジでは
剣菱、ため息ついて「しかし何なんだこの予想外な展開は…。俺は堅苦しい場所は苦手なんだが!」
穣「適当にやりゃあいいんです。…それにしても…。」と剣菱を見る
剣菱「何かな。」
穣「…いい香りがしますなぁ。」
剣菱「有翼種が付けろっつったあの液体のせいだ!」
護「でもホントいい匂いだ…。」
マリア「いいなー私も付けたい」
剣菱「…今度アレ、無香料にしてくれって文句言おう。」
ネイビー&マリア「えー!」ブーイング
一方黒船では
レトラ「もうすぐイェソドを守る『壁』です。」
駿河「…なにか、あるんですか?」
レトラ「人間には見えませんよ。何も知らずに突っ込めば弾かれます。」
周防「見えないバリアみたいなものです。」
レトラ「…まぁ、人間に見えたら意味が無い。」
駿河「…。」
レトラ「今、『壁』を越えました。すぐ前に見えるのがケセドの街。遥か昔、人間と有翼種が争った時に最前線となった街です。今は石屋や加工業者そして採掘師が多く住む『石の街』になりましたが。…特に最近は、外に出たいという採掘師が増えて。」
するとカナンが「あれ。それはもしや、ター君が出たからかな」
レトラ「ええまぁ。…今まで、ひっそりと外に出る人は居ましたが、彼のように堂々と出た人は初めてです。」
カナン「堂々と?」
レトラ「…彼は毎日毎日『壁』の警備の我々の所に来て。どうしても採りたい石が死然雲海にあるから、出してくれと。」
カナン「ああ。ター君に聞いた」
レトラ「熱意に根負けしてちょっと出してあげたら、凄い石を沢山採って戻って来た。石屋が大喜びで外に出して採掘させてやれと言い出して、大騒ぎでしたよ。」と言って「まぁ、とにかく何を起こすかわからない人です。」
カナン笑って「全くだねぇ」
船団はコクマの街に近づく。
総司「…なんかエネルギーが凄くなってきた。」
カナン「ケテルが近いからね。でもまだコクマの街の手前だよ。」と言うと、周防を見て「この辺りから、だったかな。」
周防「そうですね…」
カナンと周防、立ったままブリッジの船窓から見える景色を見ながら
カナン「で、コクマの街の上で止まって、落ちたんだ。」
周防「…。」暫し黙って「あれは。…。」と言って言葉に詰まる。
周防、船窓の景色を見たまま涙を流し「…あれは地獄の始まりだった…。」と呟く。
周防の横に立つカナン、ぽんと周防の肩に手を置く。
2人は立ってブリッジの外の風景を見たまま、ただ、静かに涙を流す。
カナン、ハンカチで涙をぬぐい「さてさてコクマを過ぎてしまったよ。いよいよケテルだ。」
周防も涙をハンカチで拭う。そしてふと駿河を見てから「…人間と人工種が」と言いまた感極まって涙して「いかん、また」と言いハンカチで涙を拭うと「…同じ黒船で」と言って「…誰も倒れずにケテルへ行くとは」
カナン、周防の腕を叩いて「貴方があの時、貴方の意思で、黒船に残ったからだよ!」
周防「…良かった。」と心底嬉しそうに泣き笑いしながら呟く
船団は山の頂上付近の大都市へと近づいていく
総司「…凄いエネルギーだ…。」と言って前方の大都市を見つつ、街の中の建物の間に規則正しく建っているオブジェのような数本の太く大きな柱を見て「あ…。…あの柱…、イェソド鉱石?」
レトラ「いえ。あれは御柱(みはしら)と呼ばれるケテル・イェソド混合石柱です。」
駿河「凄いな、どうやって作ったんだろう」
レトラ「作った? …あれは原石ですよ」
すると一同「原石?!」と驚愕
ジェッソ「あ、あの。甲板に出ても宜しいでしょうか!あれをもっと良く見たい!」
黒船の甲板ハッチが開きジェッソ達が上半身を出す。
ジェッソ、黒船の前方に見える御柱を見て「…すごい!」
レンブラント「でっけぇ…。これが原石ってウソだろ?」
昴「…採って来たの?それとも元からここに生えてたの?」
メリッサ「どっちなんだろう!」
一方、アンバーのブリッジでは
ターさんと護、ブリッジの窓の外の御柱を見て「うわぁぁぁすごいいい!」と感動
ターさん「写真とかで見た事はあるけど実物はやっぱ凄かった!あんな柱、大死然でも滅多に無いよ!」
穣「あっ!黒船の奴ら甲板に出てる!俺達も行くべ!」
穣たちは甲板のハッチを開けて、ターさんと共に外を見る。
ターさん「首都ケテルだぁぁ!初めて来たー!」
悠斗「俺達よりターさんの方がはしゃいでる」
穣「しかしすっごいなぁ。建物全部ケテル石だし!」
護「うわ何だあれ!」と前方を指差す。見れば都市の中央に大きな広場があり、その先にまるで建物からイェソド鉱石のクラスターが生えているような荘厳な建物がある。
護「建物と鉱石が合体しとる!」
ターさん「大長老がいる『大樹の森』ていう建物だー!」
護「大長老?」
ターさん「イェソドの有翼種の長じゃあ!」
すると穣が「おや?」と怪訝な顔をして「そういや人工種の長って誰なんだ?人間の長は色々いるけど」
透「ってか人工種に首都とか街とか無いし」
穣「そっか。…なら作っちまえ」
透「じゃあ穣が人工種の長になる?」
穣「…。…俺かぁぁぁぁ」悩む
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