第15章 04

二隻は『大樹の森』の前の広場に横一列に隣り合わせに着陸する。

各船の採掘口のタラップから乗員全員がゾロゾロと出て来る。

レトラ、自分の前を指差し「ここを中心に代表四人を前、他の人はその後ろに横一列に並んで下さい。…あ、ター君、貴方は我々警備と一緒に見学です。」

ターさん「はい」

ジェッソ「操縦士と機関士の皆さんこちらへ」一同、並び始める

穣「採掘メンバーはまぁいつも通り適当に」

カナン、レトラに「我々は」

レトラ「副長の後ろに並んで下さい。」

レトラを中心に駿河と剣菱、それを挟むようにカルロスと護、その列の後ろに副長を中心にメンバー達が横一列に並ぶ。その列の後ろにカナンと周防

レトラ「中に入る時は適当で構いませんが、調印式の時はこのように並んで下さい。」

一同「はい」

剣菱、建物を見て「…しかし、鉱石の中に入るんか…。」

駿河「昔、有翼種とケンカした人間って無謀ですよね。」

剣菱「全くだ。こんなとこ人間、無理だって、普通は…。」

そこへラウニーがやって来ると「皆さんようこそケテルへ。私は『壁』の警備隊長、ラウニーと申します。これから調印式を行いますが、その模様はニュースでイェソド中に配信されますので」

その瞬間、悠斗やマゼンタたちが「ニュース!」

剣菱「なんてこった」

護「カルさんやったよニュースだよ!」

カルロス「これは私の探知と関係ないだろ!」

穣「せっかくなら採掘師らしくスコップでも持ちたかったー」

透「髪をちゃんと整えたいー」

その反応にラウニー、ちょっと面喰いつつ「まぁ…だから今後はどの街に行っても君達への理解はある筈。」

駿河「なるほど」

ラウニー「では行きましょう。付いて来て下さい。」と言ってレトラと並んで歩き出す。

一同、ラウニーとレトラに続いて建物の中に入る。数人の警備が一同を緩く囲むように歩く。

中に入ると吹き抜けの広いロビーがある。あちこちにケテル石やイェソド鉱石などのクラスターが、まるで生えているかのようにオブジェとして配置されている。

穣「…やっぱ、ここの石は採掘しちゃアカンのでしょうな」

マゼンタ「やってみれば!」

穣「有翼種に怒られたくない」

一同は巨大な扉の先へ入る。そこは劇場ホールのような議事堂。正面奥の壁の前には3本の鉱石柱があり、中央の鉱石柱の中には美しい形の黒石剣が入っている。

穣、目ざとくそれを見つけて「あの中央の柱、洞窟で見た奴だ!」

マゼンタ「ドンブラコの元になった奴!」

カルロス「あんな感じになってたのか。でもあの黒石剣、凄い綺麗な形だな。」

駿河「なんか直線みたいに真っ直ぐですもんね。…あ、撮られてる。」

キョロキョロと周囲を観賞しながら前の方に進む一同の様子を、数人の有翼種が撮影機材で撮っている。

一段と高くなった議長席の前にはどっしりとしたテーブルがあり、所々にペンが置いてある。

レトラとラウニーはそのテーブルの前で止まると一同の方に振り向き「ここで先程のように並んで下さい」

一同が並び終えた所でその様子を有翼種のカメラマンが撮る。

そこへ左側の大きな扉が開き、数人の有翼種たちが中に入って来ると、テーブルを挟んで採掘船メンバー達と向かい合って並び立つ。最後に左の扉から威厳を感じさせる有翼種の男が入って来ると、並んだ有翼種達の前に立つ

ラウニー、その男に「人工種と人間の採掘船、オブシディアンとアンバーの船長と乗員を連れて参りました。」と言い、一礼して駿河たちの前から去り、テーブルの左サイドに立つ。

するとその男が駿河達を見て「人間を見るのは82年ぶりだ。ついに首都ケテルまで来たか。…よく、来たな。」と凄みのある声音でゆっくりと言う。

駿河「…皆に連れてきてもらったようなものです。」

剣菱「あなた方が許可して下さらなければ我々はこんな所にいられませんよ。」

有翼種はフ、と笑うと「私はダグラス・ジオード。イェソドを治める大長老です。…調印式の前に少し雑談をしよう。」と言い、テーブル脇を通って駿河の前まで来ると「若いな。失礼だが歳は」

駿河「28才です。」

するとダグラス笑って「28か。」と言い「有翼種と人間の間に何があったかも知らずに和解とは。」と言い、今度は剣菱の前に立つと「82年前の事をご存じか」

剣菱「…多少は。」

ダグラス、やや凄みを効かせた声でゆっくりと「よく、ここへ来たな、人間。」

剣菱「…私は人間ではありますが、採掘船アンバーの船長ですので。皆がイェソドに行きたい、有翼種と一緒に採掘したいというなら、それに対して出来るだけ善処するのが役目、といいますか、それが私の喜びです。種族が何だとかは関係ありません!」

ダグラス「なるほど」

剣菱「ただ、イェソド鉱石を採らないと、アンバーの存続そのものが危うくなりますので、そこは譲れない一線です。何とか鉱石を採らせて頂きたい、その為に和解をしたい。」

ダグラス「我々は人工種との和解は望むが、人間との和解は望まない。」

剣菱「え」

駿河「!」

ダグラス「人間という種が、本当に有翼種と和解をしたいのなら、人間が人工種に、イェソドへ連れて行ってくれと頭を下げて懇願しなければならない。」

剣菱・駿河「…。」

ダグラス「そしてその人間達をイェソドへ連れて行くかどうかは、人工種が決める事だ。…それが全く逆になったのが82年前。人間は人工種の意思を奪い、さらに人工種を脅してまでイェソドへ来た。しかし」と言って暫し駿河と剣菱をじっと見ると「あなた方にそれについて問うても仕方がない。我々有翼種は人間という種とは和解しないが、個人とは和解する。」

剣菱「…。」

ダグラス、再び駿河の前に来ると「ところで。こちらの船は船長以外全員、人工種のようだが。」と言い、駿河の目を見据えて「人工種に殺されるという恐怖を感じた事はありませんか?」

駿河、目を見開いて「…ある訳ないでしょう。」

ダグラス「無知とは素晴らしい」と言い「なぜこんな若い船長に、これだけの人工種が黙って従っているのか。」

駿河「それは貴方には全く関係の無い事です。」

ダグラス「ほぅ。」

駿河「ウチの船にはウチの船の事情があります。…それに、俺は、黒船の船長としてなら皆に殺されても構いません。それが全員の望みであれば」と言って「…ただ、殺す前に出来れば話し合いをして頂きたいですが。」

すると有翼種たちがちょっと笑う

ジェッソ達(…船長…(汗))

ダグラス「まぁ、我々が人工種との和解を決断した理由は、過去の柵によって若い世代の夢や情熱を潰してはならないと判断したからです。有翼種の中から、そして人工種の中から、自発的に、共に関わろうとする者が出て来た。その芽は育てなければならない。」と言い「だがお互いが真に深く関わろうとするなら、過去に何があったのかを直視する事も必要です。」

駿河「はい。」

剣菱「確かに。」

ダグラス、ちょっと溜息をつき「…これだけの数の人工種が乗る船の船長をしていながら何も知らないとは。人間は82年経っても何も変わっていないようだ。事実を伝えていない!」と言い「ある日偶然、人工種が有翼種に助けられイェソドに来た、もしそれが無かったなら有翼種は永遠に忘れられていたに違いない。」

駿河と剣菱「…。」

ダグラス「しかし知らないからこそ、何の先入観も偏見も無く純粋な交流が起きたとも言える。信頼を培った後に、共に過去の事実を知って行く。それもまた一つの道だ。我らは今、その為に和解をしよう。…合意書を」

するとテーブルの右サイドに立っていた有翼種が「それでは今から和解の調印式を行います。」と言うとテーブルに近寄り、A4サイズの黒い表紙の合意書と、アンバー色の表紙の合意書をダグラス側に一冊ずつ置き、それから駿河の前に黒い合意書を、剣菱の前にアンバー色の合意書を置く。

有翼種「双方、こちらに目を通し、異議が無ければ署名して下さい。」

駿河・剣菱・カルロス・護は合意書に目を通すとそれぞれ署名をする。

ダグラスも黒い合意書とアンバー色の合意書に署名をする。

それから合意書を交換して、再び署名する。

有翼種「では最後にもう一度交換してから、それぞれ合意書を手に持って下さい。」と言い、剣菱と駿河に小さな声で「そちらはあなた方の控えとなります」

ダグラス、そして剣菱と駿河がそれぞれ合意書を手に取る。

有翼種「最後に和解の握手を」

ダグラス「私は彼らとは握手しない。」

駿河たち「…。」

ダグラス「私が有翼種の代表、イェソド大長老として和解の握手をするのは」と言って総司達の後ろのカナンと周防の方を見ると「カナンさん。」

カナン「え」と驚く

ダグラス「生き別れた貴方の兄弟はそちらの方ですね」と周防を指し示す。

カナン「はい。」

有翼種「お二人とも、前へ。」

周防とカナンは剣菱と駿河の間に立ち、ダグラスと向き合う。

カナン、周防を見つつ「私の弟分、B02の周防和也さんです。」

ダグラス、じっと周防を見ると「私がカナンさんと出会ったのは82年前、まさにあの時です。あれからずっと、カナンさんは貴方の事を気に掛けていました。」と言い「やっとケテルへ来ましたね。お待ちしておりました。」と手を差し出す。

周防、驚いた表情で目を見開いたまま、おずおずと手を差し出す。ダグラスはその手を取りしっかりと握手をする。その様子を有翼種のカメラマンが撮影する。

ダグラス「これが、有翼種と人工種の和解の握手です。…使命を果たされましたね。」

周防「…はい。」

ダグラス、カナンに「貴方とも握手を」

カナンとダグラス、握手をする。

有翼種「ではこれで和解の調印式を終了致します。」

ダグラス「では」というと、入って来た左のドアへ向かい、部屋を出る。続いて並んだ有翼種たちもドアから退出する。

カナン、周防に「良かったなぁ」と呟く

周防「…驚きました。」

そこへラウニーが来ると、一同に「では皆さんにはこれからケセドの街に戻ってもらうが、途中、カナンさんと周防さんをコクマの街で降ろします。」

カナン、駿河達に「久々の茶飲み話をするから、周防さんを借りるよ。」

護「どうぞごゆっくり!」

カルロス「何時間でもどうぞ」

ラウニー「ケセドの街に着いた後は採掘するなり何なりご自由に。じゃあ行こう。」と言い、入って来た扉の方へ歩き出す。一同もそれに続いて歩き始める。

剣菱、駿河に「ケセドに着いたらまずメシだな。その後は採掘か。」

駿河「そうですね。それにしても…。」と言い、合意書を胸に抱えてはぁと溜息をつき「…怒られましたね」

剣菱もボソッと「あぁ。…有翼種に怒られちまった。」



暫し後。

首都ケテルの上空を飛んでいる黒船とアンバー。その先頭には航路を先導する有翼種の船が一隻。


アンバーの甲板ハッチでは

マゼンタ、眼下の都市を見ながら「凄いなぁ…。街の中に降りてみたいよぅ…。」と言うと、悠斗に「そういや、船長たち怒られてたね、有翼種に」

悠斗「まぁ確かに詳しい事情も知らずに和解ってのもなぁ。」

マゼンタ「でもさ和解しないと俺達、採掘出来ないしさ。」

悠斗「採掘はさせて欲しい。」と言い、「まぁ結果良ければ全て良しと!」


アンバーのブリッジでは

剣菱、ふーと溜息をつくと「…やれやれ…。」と言って「俺は一介の採掘船船長なんだがなぁ。」と言い「大体、いきなり和解の調印とか…。肩が凝って」

穣「お疲れ様っス!」

剣菱「人間も大変なんだぞ管理との板挟みで」

護「管理の人間に説教したいよねぇ」

剣菱「ていうか、大体アレだ、管理は有翼種が居るの知ってて隠してた訳だろ?だから有翼種に怒られる訳だよ!」

穣「全くです!」

剣菱「大体!管理は護が行方不明になった時に捜索打ち切りしたんだぞ!有翼種の事を隠す為に!」

ネイビー「船長、落ち着いてー」

剣菱「いつか管理をここに連れて来るべ!和解っつーなら管理と有翼種だろ!まぁ絶対和解しそうにねぇが」

護・穣「うむ」

剣菱「くっそー!なんか知らんがメッチャ腹が立つ!」

穣「帰ったら管理に有翼種に叱られたって文句言いましょう!」

剣菱「…。うーむ。」

穣「ってそこで意気消沈されても」

剣菱「だって俺の首がな」

穣「タグリング付いて無いじゃないっすか!」

剣菱「見えないタグリングが付いてんだよ!」


黒船のブリッジでは。

駿河も溜息ついて「…和解はしたものの…なんかこう…人間という種として恥ずかしい…。」

カナン「まぁそう気にしなさんな。」

駿河「そもそも、…正直に言ってしまえば。」と言って腕組みすると「…何で俺が有翼種に叱られねばならんのか、という…!」

カルロス「まぁな。」

総司「気持ちはわかるっすよ」

駿河「俺は何も知らんとイェソドに来て。そしたら突然、和解とか言われて」

カナン「うん、まぁ突然決まったしねぇ!ちなみに和解しようと言い出したのは私だよ」

駿河「え」

カナン「せっかく周防さんが来るなら和解しなきゃなぁと思って皆に提案したんです。…なにせ私と大長老のダグラスさんは古い友人ですし。」

駿河「ああ、それで…。」

カルロス「ありがとうございます。」

駿河、ため息ついて「しかしどこぞの管理が大事な事を隠したお蔭で…。もぅ…俺が周防先生を人質にとって霧島研に文句を言いに行きたい…!」

総司「過激な!」

カルロス「貴方が反抗した所で船長交代で終わるので止めといて下さい。」

駿河「くぅ。」と言い「あのティム船長も飛ばされたしな…。」

話を聞いていたレトラ、思わず「…人間も色々大変ですね。」

駿河「ええまぁ…。」と言うと「でもな、でもな…。俺が霧島研に激怒の直談判に行って船長降ろされたら総司君が船長になりゃあいいんですよ」

総司「俺っすか」

駿河「だって副長だろ!船長の代わりできるだろ!」

総司「いあー…。」

駿河「管理が人工種の船長はダメだとかゴタゴタ言ったらイェソドに行って二度と戻って来なきゃいい。」

総司「んじゃまぁ…イェソド行く前に駿河さんを管理から救出して連れて行きますよ。」

駿河「…おぉ。」

レトラ、しみじみと「…人間も大変なんですね…。」

駿河「……まぁ…。」



三隻の船はケテルを去りコクマの街に入る。甲板ハッチに居たメンバーは中に入る

レトラ「コクマの街に入りました。お二人は降りる準備を。」

カナン「どこに船を降ろすの?」

レトラ「図書館の上の駐機場です。」


船団はコクマの図書館の上で停止する。黒船のみ図書館の上の駐機場に着陸しタラップを降ろす。

採掘準備室のタラップ前に、小さなカバンとバスケットを持ったカナンと、スーツケースを引いた周防がいる。

周防、見送るカルロス達に「では、ちょっと行ってきます。」

カナン「ちょっとじゃなくて、何ならウチに泊まってもいいよ」

周防「え。いや、でも…。」

カナン「何か予定があるの?」

周防「特にありませんが、カナンが良ければ」

カナン「じゃあウチに泊まりだ。」と言うとカルロス達に「お迎えは明日でいいからね。何時でも好きな時間に」

上総「はーい!」

カルロス「了解した。」

カナン「じゃあ行こう、周防さん。ウチはすぐそこだから」

周防、笑顔で「はい。」と言い、元気よく「また明日!」と一同に手を振ると、2人はタラップを降りて歓談しつつ楽しそうに図書館入り口から中へ入って行く。カルロス、その様子を見つつ「…イェソドに連れてきて良かったな。」と呟く

上総「うん。…良かった。」と少し涙ぐむ。


黒船はタラップを上げて採掘口を閉じ上昇し、アンバーと有翼種の船と共にケセドの街へ向かって飛び始める。


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