第19章 03
そして4時。
カルロスと上総が戻って来て黒船の中に入る。上総はタラップを上げる作業をする。
カルロス、船内電話の受話器を取って「船長、カルロスです。全員戻ったのでタラップ上げました。」
すると受話器から『待った、まだ来てない人がいる!』
カルロス「え?」と探知をかけて「全員いるけど…。誰ですか?」
駿河『レトラさんです。黒船とアンバーだけではイェソドの上空を飛べない』
カルロス「あ、そうか。ビックリした。探知ミスったのかと思いました。」と言い「上総、タラップ下げてくれ。レトラさんが来る。」
五分後…。
レトラが黒船の船内に入ってくる「4時の予定が少し遅れた、申し訳ない。」
上総「忙しいんですか?」
レトラ「まぁ今は珍しい船が二隻もいるので」
上総「あら。」と言いつつタラップを上げる作業をする
カルロス「すみませんねぇ」
レトラ「突然、大勢で街に行くし。」
カルロス「何か問題でも?」
レトラ「大勢の人工種と人間が街で何をしているんだ、何かあったのか、と問い合わせが来ました。」
カルロス「なんと」
レトラ「まぁこちらは今朝、駿河船長から連絡を受けていたので『単に遊んでいるだけだ』と説明しておきましたが。」
タラップが上がり採掘口が完全に閉まる。
カルロス「じゃあブリッジ行きましょう。」と階段へ歩き出す
レトラ、歩きつつ「街の、どんな所へ行ったんですか」
カルロス「色々です。スイーツ食べまくったり石茶飲んだり」
レトラ「…いいですねぇ。」
カルロス、思わず「今度ご一緒します?」
レトラ「…では、機会があれば。」
3人はブリッジに入る。
カルロス「失礼します。採掘口、閉めて来ました。」
上総「ただいま戻りましたー!」
駿河「了解」と言うと「わざわざすみません、レトラさん」
レトラ「こちらこそ遅れて申し訳ない」
駿河「じゃあコクマの街へ行きましょうか。」
レトラ「その前に、これをどうぞ」とショルダーバッグから新聞の号外のような紙を取り出して駿河に渡す。そこには和解の写真と記事が!
駿河「おお!和解の記事だ!」と言うと操縦席に近寄り総司にも見せつつ「これ!」
総司「おおー!」
レトラ「一応、あと5枚ほど持ってきました。」とカルロス達にも渡すと「ダアトの事も載ってますよ」
上総「ホントだ、裏に載ってる。昴さんが撮った写真だー!」
カルロス「誰が探知したとかは書いとらんな。当たり前だが」
上総「最初に探知したのカルロスさんですよね」
カルロス「だが実際に行ったのは上総だな…ここは一緒に師弟探知って事で。」
上総「うん!」
駿河「じゃあこれ黒船とアンバーで3枚ずつだな、上総、これ掲示板に貼って来て。表と裏で」と上総に2枚渡す。
上総「はい!」
駿河「では出発しますか副長!」
総司「行きましょう!」
黒船はゆっくりと停泊所から離陸し前進を始める。続いてアンバーも離陸し黒船に続いて飛び始める。
黒船のブリッジでは
レトラ「高度はこのままで。やや右側に寄って飛んで下さい。」
総司「はい。」
そこで突然、駿河が「あ!しまった。カルロスさん」と言いカルロスを見る
カルロス「はい?」
駿河「今夜はコクマの街に停泊するけど、以前貴方が使ってたベッドを周防先生に使って頂く事にしたから貴方が寝る場所が無い!」
カルロス「うん。別に食堂でイス並べて寝ててもいいし。またはコクマの宿に泊まるって手もあるけどケセドより宿代高そうだな…。」
レトラ「いや、コクマは学生の多い街なのでそんなに高くは無い」
カルロス「んじゃ適当に宿探して泊まろう。まぁ自分で何とかしますから船長、ご心配なく」
駿河「わかった」
カルロス「それにしても。」と言い「私服だと何か変な感じだな。こんなブリッジ初めて見た」
総司「私服で採掘船を操縦したの初めてです!」
駿河「俺も初めて私服でここ座ってます。管理や本部が見たら激怒するなぁ」
カルロス「むしろ見せてやりたい。…なんてな」
総司「…明日、私服で採掘しちゃうとか」
駿河「それはメリッサさんとかオシャレ系の人が嫌がるから止めた方がいい」
総司「なるほど」
暫くして二隻はコクマの図書館の上の駐機場に着陸する。
アンバーと黒船の下部のタラップが降りて、黒船からは駿河とレトラとカルロスが、アンバーからはターさんと護が出て来る。駿河はA4サイズの封筒を持っている。
レトラ「では私はこれで。また明日の朝来ます。」と言い飛び去る
駿河たち「お疲れ様です!」と言って見送ると図書館の中へ入る入り口へと歩き出そうとするが
ターさん「待った!最短ルートがあるよ。護君とカルさんは浮き石着けてるじゃん。俺が駿河船長を抱えて飛ぶから2人はそこから飛び降りる!」
護「なるほ」
カルロス「そういう手があったか。よし飛び降りよう」と言い屋上の端へ走って行く。護もそれに続く。
ターさんは駿河を抱えて飛んで下に着地する。4人はテクテクとカナンの店へ歩いていく。
カナンの店のドアを開けると、中には何人かの客がいて、セフィリアが「いらっしゃい…あら。」
護「周防先生を迎えに来ました。」
するとセフィリアが「今、二人ともここに居ないのよ。」
護「いない?」
セフィリア「お昼過ぎに図書館に行ったまま、まだ戻って来ないの。閉館時間は夜7時だからその頃には戻って来ると思うけど」
護「あらま。ちなみに荷物はここに?」
セフィリア「うん、荷物はウチに置いてあるわ」
カルロス「分かりました。とにかく図書館に行ってみます。」と言い一同は店を出ると
カルロス「さっき探知すりゃ良かった。てっきり店に居るモンだと思って油断した!」
護「そこまでこだわるか。流石は探知マニア」
ターさん「…さっき飛び降りないで図書館の中に入ってたら出会ってたかもねぇ」
護「まぁええやん、すぐそこだし」
一同はテクテク歩いて図書館の中へ
駿河「ホントでっかい図書館だなぁ…」と周囲をキョロキョロ。
カルロス「カナンさんたちは3階の奥の部屋に居る」と言いつつ螺旋階段を上がっていく
そして3階の奥へ…しかしそこには『書庫』というプレートと共に『立ち入り禁止』の表示が。
護「『関係者以外立ち入り禁止』だって」
カルロス「これは探知出来なかった」
ターさん「いいよ俺、下の受付で聞いて来る」と言いバッと飛んでいく。
カルロス「ここで一体何をやってんだカナンさん達は」
護「そういやここに鉱石大図鑑とかいう凄い本があるって言ってたから、それかな。俺も見たい」
カルロス「…周防は鉱石には興味なしだぞ」
護「あら」
そこへターさんがクリップボードとペンを持って飛んでやって来ると「皆、これに名前書いて」
3人はクリップボードの『書庫利用者名簿』に名前を書く
ターさん「行って来る!」と言って飛んで再び下へ行く
護、駿河に「その封筒、なんですか」
駿河「これは、さっきレトラさんが持ってきてくれたもので」と言って中の新聞を出すと護に見せる
護「おお!」
カルロス「ダアトの記事もあるぞ」と裏を見せる
護「おー!ニュースになった!」
駿河「それ、アンバーの分ですから、そのまま貴方にあげます。」
護「ありがとうございます」と言いつつ新聞を封筒に戻す。
そこへターさんが戻って来て「鍵もらって来た!」と言い四角いカードを書庫の入り口の扉の上の四角い部分にかざすと、四角い部分が光ってカチャッと音がしてドアが開く。
ターさん「開いた。入ろう」
一同は書庫の中へ。中に入ると右手に書庫受付があり、左手に本棚の並ぶ通路が伸びている。
本棚の横の通路を少し歩くと大型本の本棚が見えて来る。
護「あ!鉱石大図鑑だ!」と前方の壁の本立てに立てかけてある大きな本を指差し「こんなでっかいのか!」と本の傍に駆け寄ると、表紙をめくって「うわぁ…。」と中表紙の美しい石の写真に目を輝かせる。
駿河「凄いリアルな写真だ」
ターさん「これケテル・イェソド混合石だ。」
駿河「ああ、首都ケテルにあった柱か」
ターさん「うん。この混合石は大死然にしか無くて、しかも滅多に見つからない貴重な石なんだ。」と言い「いつか見つけて採りたいなぁ…。」と溜息をつく
護「採ろう!大死然に行って」
カルロス「それより一旦、周防とカナンさんの所に行かないか」
護「そうだった」と言い本をゆっくり閉じる。一同はその横の階段から上の階へ。
すると本を抱えて歩いてくる周防と出くわす。
護たち「あ」
周防「あれ。どうした…って迎えに来たのか」
護「はい」
周防「もう夕方か…。」と言うと「ちょっとこの本の複写を頼んで来る。」
護「複写?」と言い「あ、その本、俺が持ちます」と言い周防から本を受け取る。すると一番上に書類を挟んだクリップボードがある。
護「複写申請書?」
駿河「図書館の本のコピー取る時は申請しなきゃダメ、って奴かな」
周防「うん。」と言いつつ階段を降りながら「本当は借りたいんだけど無理だからね…。」
護、複写申請書に書かれたタイトルを見つつ「『人工有翼種遺伝子概説』…凄い本だ。」
周防「凄すぎる。何せあの霧島研に無い情報が詰まった本だからな」
駿河&護「ええ!」
周防「カナンが図書館に人工種の本があるというので来てみたら、トンでも無い本が沢山あった」
駿河&護「…。」驚き
ふと駿河、「あれ。ターさんたち、上か」
その頃、カルロスとターさんは書庫の更に奥、テーブルがある所にカナンと共に居た。
カナン、テーブルの上に置いた本の一冊を手に取り目次を見ると「うーん…この本には無いな。」と言って「じゃあ複写はこの三冊だけ」とカルロスに本を渡して「こっちの本は片付けだ。」
ターさん「はい」とテーブルに積んだ本を両手で持ち上げる。
カナン、とある本棚の近くに行き「全部ここの棚の本だよ」
ターさん「ほいー」と言いつつ本棚の間に入って行く
カナン、カルロスに「この後、君達はどうするの」
カルロス「今晩はコクマに泊まって明日、鉱石採掘して向こうに戻ります。」
カナン「え。じゃあ周防さん、今日は採掘船に泊まるのか」
カルロス「はい。」
カナン「もし良かったらもう一晩、周防さんをウチに泊めさせてくれないかな。明日の朝、お返しするから」
カルロス「いいですよ。じゃあそうしましょう。」
ターさん「本、戻しました」
カルロス「じゃあ下に行こう」
カナン、階段を降りつつ「おや」
見ると下の鉱石大図鑑の所に駿河と護がいる
カナン「それスゴイ本だろ」
護「はい!」
駿河「凄いです。」
カナン、カルロスに「申請してくるからアレ見てていいよ。」
カルロス「すぐそこだから大丈夫」
ターさん「じゃあ俺は大図鑑見てる」
カルロスとカナンは周防がいる書庫受付へ。カルロス、本を受付カウンターに置く
カナン、受付に「これも複写お願いします。」
周防「複写が出来るまで時間かかるから皆とあの本みてていいよ」
カルロス「どんだけ複写とったんだ」
周防、カウンターに置かれた薄い冊子を手に取り「これが重要資料保管庫の本の複写で、あとは…。出来上がらんと分かりません。」
カルロス、その冊子を手に取って「これが複写?」
周防「ここは複写を簡単な冊子にしてくれるサービスがある。実にありがたいんだが…」と言い「カナン、かなりの金額になると思う、申し訳ない!」
カナン「いいよ足りなかったら家に戻って取って来るから」
するとカルロスが「私が払っても構いませんよ」
周防「お」
カナン「おお」と言って「まぁまぁまぁ」とニヤニヤ笑いつつパンとカルロスの肩を叩く
カルロス、複写の冊子をパラパラと見て「何の本の複写?」
周防「御剣さんが書いた本だ」
カルロス「…御剣?もしかして」
カナン「黒船の皆がダアトに行ったそうじゃないか。そこに御剣研があったと」
カルロス「ていうと何年前に書かれた本」
周防「300年以上前だな。かなりボロボロな本なので複写は渋られたが何とか懇願して取ってもらった」
カルロス「…そんな貴重な複写なのか…。」と冊子を眺める
周防「この図書館には霧島研には無い人工種の情報が沢山ある!まぁ霧島研には今の人工種のデータがある訳だが」
カナン「つまりこの図書館と霧島研を足すと、人工種の昔と今が繋がるって感じだ」
周防、ふと「あ、そうだ。」と言い、カルロスに「帰りにダアトに寄ってもいいかな」
カルロス「船長に聞いてくれ。多分行くと思うけど。」
周防「あとター君の血液を採りたい」
カルロス「じゃあこの後だな」と言い冊子をカウンターに置いて鉱石大図鑑を見ている護たちの方へ行く。
すると。護、図鑑を見ながら「これ絶対カルさんが乘って来る」
ターさん「うん、これはカルさん興味津々」
そこへ来たカルロス「何が」
駿河「名前の無い石。」
護「死然雲海Aとか死然雲海Bとか暫定的につけてある。ケテル・イェソド混合石が更に変化した石なんだけど、まだ有翼種の誰も採った事が無いという。」
駿河「昔、人間が雲海で拾ってイェソドに持ってきたらしい」
カルロス「人間が?って事は、黒石剣みたいに人間が触れる石なのか」
駿河「だろうね」
護「現物はもう無くて、残ってるのはこの写真だけなんだってさ」
ターさん、カルロスに「人型探知機の血が騒ぐでしょ?」
カルロス「…うんまぁ。」
暫し後。カウンターからかなりの厚さの複写冊子を受け取る周防。
受付の司書「複写代が16000ケテラと冊子製本代500ケテラで、合計で16500ケテラになります。」
周防「…結構かかりましたね…。」
カナン「重要資料の複写が通常の三倍の料金だしな。」
周防「カナン申し訳ない!」
カナン「いやいや」
カルロス「待って下さい、5000ケテラは出せます!今日、宿に泊まらなくても良くなったし」
護「俺にも1000ケテラ出させて下さい!」
カルロス「1000だけか!」
護「いあ、ちと手持ちがあんまりないのだー」
駿河「じゃ俺も1000ケテラ出します!」とポケットから財布を取り出す
ターさん「じゃあ俺も」
周防「カルロスはともかく他の皆は」
カルロス「いいから!…アンタの研究は皆に関係がある。」と言い財布から5000ケテラを出す。
皆でお金を出す。そして支払いを済ませる。
一同、書庫から出ながら、カナンがふと駿河に「あれ?そういや貴方は何でイェソドのお金を持ってるの」
駿河「昨日あの後、有翼種の採掘船と一緒に採掘して、給料を頂いたんです。」
カナン&周防「へぇ!」と驚く
周防「そんな事があったのか」
カナン「いくら頂いたの」
駿河「一人当たり5330ケテラです。」
カナン&周防「ほぉ」
周防「せっかく稼いだお金を…。皆、ありがとう。そしてカナン、本当にありがとう…」
駿河「…でもその複写、ホントは16500ケテラの価値じゃないですよね。霧島研とかに持ってったら」
周防「うん。値段はつかないな。もうそういうレベルじゃない」と言い立ち止まり「あ、ところで私が今夜もカナンの家に泊まるなら、これからどうする?」
駿河「もうすぐ18時で採掘船では夕食の開始時間です。お2人を黒船の食堂にご招待、という事も出来ますが。」
カルロス「多分、混んでるけどな」
護「ターさん、ウチの船で夕飯食べたら」
ターさん「いいよ、俺はどっかで食べて来るから」
カナン「ならター君、我々と一緒に食事に行こう!」と言うと駿河達に「私とセフィリアと周防さんとター君で食事に行くから、もし良かったら後でウチにおいで。石茶をご馳走するよ。まぁ20時頃に来てくれるといいかな」
カルロス「店に何人くらいまで来てもいい?」
カナン「席は12席あるから10人かな。もしそれ以上来たら何とかするよ」
カルロス「じゃあ一旦ここで別れるという事で。」
ターさん「その前に皆で一緒に下の受付行って書庫から出たっていうサインしなきゃならない」
カルロス「あ、そうなのか」
カナン「上の入り口の受付でも大丈夫だよ。ター君が一旦皆と一緒に上に行って、後でウチに来ればいい」
ターさん「なるほど!」
カナン「ああ、あと20時だと図書館の入り口もう閉まるから、来る時は駐機場の脇の階段を使って」
護「了解です」
カルロス「よし、じゃあ行こう。」
カルロス達は階段を上がって最上階へ。
駿河「…ちなみに有翼種の建物にエレベーターってもんはあるのかな。」
ターさん「荷物上げたりする奴か。あるよ」
駿河「んじゃエスカレーターは無いに違いない」
ターさん「なにそれ」
駿河「動く階段。」
ターさん「へぇ」と話をしつつ、やや離れた所にある受付カウンターに行くと
ターさん「書庫の鍵を返却しに来ました」
受付の人「こちらに書庫を利用した方のサインと、今の時間を書いて下さい」と『書庫利用者チェック表』が挟まったクリップボードを渡される。4人それぞれ名前を書いて、受付に渡す。
受付の人、クリップボードを見て「はい大丈夫です。お疲れ様でした。」
ターさん、護達に「じゃあ俺はカナンさんの所に行くよ。また後で!」
護「ほいさー」
駿河「うん」
ターさんは下の階へと飛んでいく。カルロス達はすぐ脇の出口から駐機場に出る。
駿河、歩きつつ護に「では護さん、剣菱さんにダアトの件を伝えといて下さい」
護「うん。…まぁこのまま俺と一緒にアンバー行って直接話すという手もあったりするけど」
駿河「え。俺がアンバーの中に?…まぁ他の採掘船の中に入る事って滅多に無いからチト興味はあるけど」
護「お」
カルロス「お」
護「行っちゃう?」
駿河「行っちゃうか。」
護「ヨシ行こう!」とアンバーへ走り出す
駿河「行ってしまえ」続いて走り出す。
カルロスも走り出す。
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