第7章02 作戦会議
翌日、午前9時。
本部の駐機場に停まっているアンバーの採掘準備室では、剣菱とその隣に立つ穣の周囲に皆が集まり、穣が昨日SSFで周防先生から聞いた話を皆で聞くという長い『朝礼』が行われていた。いつもの朝礼とは打って変わって皆、真剣な表情で穣の話に耳を傾けている。
やがて穣は「……まぁそんな訳で、御剣研ってのは人工有翼種が作られたとこらしい。その人工有翼種達がどうなったのかは分からないけど、とにかく護とカルロスはイェソドの有翼種の所にいるんじゃないかと」と言って話を終えて皆を見るが、皆、唖然とした顔で穣を見つめたまま、誰も何も喋らない。
「……」
「……皆、大丈夫か……?」
穣が聞くと、皆が口々に「うんまぁ」「そりゃ大丈夫だけど」「一応」等と返事し、場の雰囲気が和らぐ。
マゼンタが「質問でーす!」と手を挙げて穣に「そのイェソドって、イェソド鉱石とかのイェソド?」
「まぁそうだろうな、それしかないわな」
「って事は、護さんが居るとこには超絶にイェソド鉱石があるの?」
「……周防先生は源泉については詳しく知らんと言ってたが、話の流れからしてイェソド鉱石、というかイェソドエネルギーの源泉っぽいよな。とはいえ、それなら護のとこに行って採掘しようってのはダメだ。なぜなら」
剣宮が「ハイッ」と手を挙げ「人間が居てゴメンナサイ。もし人間が居なくて、人工種だけの船ならOKだと思います」
マゼンタがなるほど、というように「そっか、それで人工種が有翼種側に付いたらヤバイっていう……」と呟く。
ションボリした顔の剣宮は「人間と有翼種が大喧嘩してたなんて……あーもぅ何やってんだ昔の人間」と悔し気に言い「人工種が船長になれない理由が分かってしまった……」
隣に立つネイビーが剣宮に「んでもほら、人工有翼種が三つに分かれたように、個々人それぞれ事情があるから一括りに人間が悪いって事にはならんと思うのよ」と言ってから「まぁでも、難しいわねぇ……」と溜息をつく。
穣の隣で険しい顔で話を聞いていた剣菱は、うーんと唸って腕組みをすると「一体、管理は何を隠してんだと思っていたが、凄いモン隠してたな」
ネイビーも「予想の斜め上を行く凄さだった」と呟く。
マリアは「管理が捜索をやめたのはそういう事だったのね……」と言い「でも、そこに一人で行っちゃうカルロスさん、凄いなぁ……」と感嘆の溜息をつく。
するとマリアの隣に立つ三等操縦士、バイオレットが「黒船が嫌だから行っちゃったのかもよ?」
「え。どゆこと?」
「だって、黒船ごと行くとか、お仲間数人と一緒に行くっていう手もあったのに、一人で無断で行くのはさ?」
「あぁ……」頷くマリア。
穣は「まぁ何があったか知らねぇが」と言い、苦笑いを浮かべつつ「もしも俺に言ってくれたらご相談に乗ったのに!」
そこへ透が手を挙げて穣に質問する。
「あのさ、有翼種の所まで、どの位の距離があるのかな」
「それは分からねぇなぁ……」
穣が答えると、マリアが
「カルロスさんが歩いて行けると判断した位の距離じゃない?」
続いて悠斗が真面目な顔で「冗談抜きで、あの人ホントに護さんの所に辿り着いたのかなぁ。途中で野垂れ死んでたりして」
穣は思案気に「あいつ、そんな危険な賭けするかな……」と呟いてから「とにかく行ってみないとわかんねぇし」
「え」
皆、驚きの声を発して穣を見る。
「ええ?」「ほぇ?」「な、なぬ?」
「今、なんて?」
穣は一同を見回すと、皆に向かって尋ねる。
「昨日、俺は周防先生から護のとこに行く為のアドバイスをもらってきた。もし本当に危ないなら周防先生は、行くなと止める筈。しかし周防先生は行く為のアドバイスをしてくれた。……以前、アンバーはチョコッと外地に出たやん。冒険したやん。ならば今、カルロスが飛び出たみたいに大冒険してみない?」
皆は、穣に向けていた視線を一斉に剣菱に向ける。
「ん?」
剣菱はチラッと皆を見ると、額に右手を当て「うーん」と唸ってから「行きたい人は手を挙げて」
「はいっ!」
穣は手を挙げる。少し遅れてマリアとマゼンタ、透も手を挙げ、剣宮とアキ、健、オーキッドの4人はエッ! と驚いた顔をする。他のメンバーはちょこっと手を挙げたり挙げなかったり挙げかけて止めたりやっぱり挙げたり。
剣菱は微笑み「皆、素直でとっても宜しいな」
穣は「皆、行こうよー。1年前、外地にはみ出したじゃーん!」
悠斗は「んでメッチャ怒られたけど!」
穣は悠斗の方を見て「んでもカルロスなんて黒船捨てて行っちまったし、ってかそのカルロスと護に事情聴取に行くって事で、管理に大義名分も立つ!」
「立った瞬間へし折られそう……何でそんなに行きたいの?」
「だってこのままだと俺らは狭い人生を生きる事になるんよ! 管理に制限されたまま、決まりきったコースを……黒船の奴らはまぁ、採掘量トップ維持が目標で、管理にも認められててイイコって褒められて満足かもしれないが、俺は何かもっと違う世界を見たい。そのチャンスが今この時で……、カルロスと護がその可能性の場所に居ると思うと我慢できねぇんだ……」
悠斗は若干苦笑気味に「うぉぉ」と唸ると「カッコイイ事言うねぇ……」
機関長の良太が「全くだな」と呟いて拍手し、ネイビーも拍手しながら「やっぱハチマキしてるだけあるわねぇ!」
マリアも「うんうん!」と頷いて拍手。
バイオレットも「かっこいい!」と拍手。
マゼンタは「なんかどっかの物語の主人公っぽい!」と拍手。
穣は剣菱を見て「……という事で船長!」
「ん?」
剣菱は腕組みしたまま「んー……」と唸り
「管理にメッチャ怒られるから、行きたくない」
一同「ええー!」と声を上げる。
「行かないの?」「船長!」「なんで!」「どうして?」
皆が様々に問い掛けると剣菱は
「だって俺の首が危ないべ」
すかさず穣が「首は俺が差し出しますので!」
「んでも航空管理の管理波が無いから遭難するかも」
マリアがバッと進み出て「私、頑張ります!」
「しかし、本当にいいのか! ぶっちゃけ俺はすんごい怖いぞ、どうなっちまうか分からんし!」
剣菱は一同を見回し「正直に言え! 怖いから嫌だと思っている人は手を挙げろ!」
すると剣宮と健、オーキッドがサッと手を挙げ、続いて透や悠斗が手を挙げる。
マゼンタは「んー、怖いことは怖いけど挑戦はしてみたい!」
オリオンが「うん。怖いけど挑戦はしたい」と頷く。
剣菱が言う。
「いいか皆、強がっちゃアカン。怖いときは、恐々行くんだ」
穣は思わず「え。行く?」と聞き返す。
「そう、怖いけど行く。ぶっちゃけ俺はスンゴイ怖いー!」
機関長の良太と機関士のシナモンが、同時に「ですよねぇ」
剣菱は大声で「未知に挑戦するのに怖くねぇって奴がいるかい!」
マゼンタが「ここに!」と穣を指差す。
穣は小声で「いや俺も怖ぇ事は怖ぇよ……?」
剣菱は一同を見回しながら
「どうしても嫌だって奴には有休取らせてあげるから無理すんな」
途端に悠斗がハッとして「なんですと有休ですと」
マゼンタも「それはちょっと心が揺れる」
「まぁでも」と言って剣菱は暫し黙ると「何が何でも行きたくない、という固い自己意志を押し通せる自信が、無い方は、スマンが諦めてご一緒にお願いします」と言いニヤリと笑う。
一同に笑いが起こる。
マゼンタが剣菱に叫ぶ。
「それ殆ど強制連行じゃん!」
「アンバーという船に乗っちまったのが運の尽きだ!」
ネイビーが「ここで尽きてもー!」
「ところであのー」良太が剣菱の方に進み出ながら「その死然雲海ってのを突破する為に、鉱石弾を撃つんですよね?」
「そうらしいな。なぁ機関長、あれ、撃てるのか?」
「というより撃ってみたい」
一瞬ガクッとした剣菱は「なるほど」と頷いてから「すると船を一旦メンテに入れなきゃイカンなぁ」
ネイビーが困り顔で言う。
「でも、そもそも撃ち方わかんないんですけど。どこ操作したら撃てるのそれ?」
剣菱も困り顔で「だよなぁ。分からんよな」と言い、うーん……と考え込む。それからやおら「まぁ、護はドンブラコと流されて行ったし、カルロスさんは黒船を捨ててまで行っちまった……」と呟いて「とりあえず、まず整備に鉱石弾の事を聞いてみよう」と言い階段室の方へ歩いていく。
暫し後、メンバー達は船長室の入り口周辺に集っている。
船長室の机に備え付けの電話で誰かと相談していた剣菱は、受話器を置くなり腕組みをして「鉱石弾の整備に少なく見積もっても3週間以上かぁ」
良太が言う。
「まぁそうですよね、かなり大掛かりな作業になるから」
「どうしたもんかー。そんな長期間、休めんし……」
「しかも鉱石弾の整備ってのが管理にバレたら、そんなのいいから採掘に戻れと言われそうだ」
「んー……」
悩む剣菱。穣が話に加わる。
「……アンバーが行方不明になると多分、黒船が出動しますよね」
「多分な」
「黒船が来てくれたら、この間みたいに探知で連結してかなり遠くまでいけるんだけどな」
マリアがハッとして「そっか! 黒船が管理の船と繋がっててくれたら!」
続いて透が「そういや穣、黒船の上総君に周防先生の話、伝えたの?」
「うん。メールしといた。でも特に音沙汰が無い」
そこへ入口の横にいる剣宮が手を挙げて
「あのー。管理が護さん達の捜索を諦めたのは、有翼種と接触したくないからですよね。なら黒船と一緒に向こうまで行っちゃえば、管理は付いて来ないかも」
剣宮の背後からマゼンタが「でも、黒船が途中で引き返したら?」と質問。
「んー……」
苦い顔で「どうすんべ」と呟く剣宮。
剣菱は「するとウチの船は外地で孤立しちまうがぁー」と頭を掻いて溜息をつき「まぁでも船一隻行方不明になって捜索中止って事はないだろうよ。だから必ず管理は来る。つまり帰る方向の目印がウロウロしててくれるって事だよな、マリアさん!」とマリアを見る。
「はい!」
「あと黒船がどこまで付いて来るかは……もう黒船さんにお祈りするしかないって事で」
悠斗が「オブシディアン様……」と祈る。
「そもそも管理の奴ら、護とカルロスさんが生きてるのに何で探しに行かない! 『管理』の癖に、仕事しろや!」
憤慨する剣菱にマゼンタが「そうだよこんな首輪つけといてさ!」と自分のタグリングを指差す。
「だから、ウチの船が頑張って行くんだよ!」
一同、剣菱を見つつウンと頷く。
「……それにな、俺は個人的に、その有翼種ってのと話がしたい。人間として、謝るべき事は謝りたいし、護を助けてくれたなら、ありがとうとお礼を言いたい。……本来、船がどこで鉱石を採るかは船長が決める事で、何とか規定量を採って戻って来れたら本部や管理に叱られる筋合いはない筈なんだ、本来は。いつぞやは、なぜか穣が怒られちまったが……」
一旦言葉を切り、ふぅと溜息をついて言う。
「不安はある。恐怖もある。だが、挑戦してみるべ! マリアさん、あんたが頼みだ」
剣菱はマリアを見る。
マリアは嬉しそうに「はい! お任せ下さい頑張ります!」とガッツポーズ。
「よし! じゃあ……いつ行く?」と一同を見ると、穣が「あっ」と手を挙げて
「黒船の出航日と合わせた方がいい。あっちが休みの時に俺達が出ると、来てもらえない」
「そうだな。よし、そうしよう」
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