第7章02
翌日。
本部の駐機場に停まっているアンバーの採掘準備室では、剣菱以下全員が集まり穣の話を聞いている。
剣菱は腕組みをすると「一体、管理は何を隠してんだと思っていたが、凄いモン隠してたな」
ネイビーも「予想の斜め上を行く凄さだった」と呟く。
マリアは「管理が捜索をやめたのはそういう事だったのね」と言い「でも、そこに一人で行っちゃうカルロスさん、凄いなぁ……」と感嘆の溜息をつく。
するとマリアの隣に立つ三等操縦士、バイオレットが呟く。
「黒船が嫌だから行っちゃったのかもよ?」
「え。どゆこと?」
マリアが首を傾げると、ネイビーが
「だって、黒船ごと行くという手もあったのに、一人で無断で行くのはさ?」
続けて穣も「どうせ言っても阻止されるだろ。だったら一人で行っちまえと。……もしも俺に言ってくれたらご相談に乗ったのに!ってまぁ無理だわな。そんな事すりゃ黒船のお仲間に裏切り者扱いされる」
マリアは「そっか」と頷いて「なかなか大変だったのね……」
そこへ透が手を上げて穣に質問する。
「あのさ、有翼種の所まで、どの位の距離があるのかな」
「それは分からねぇなぁ……」
穣が困ったように答えると、マリアが
「カルロスさんが歩いて行けると判断した位の距離じゃない?」
続いて悠斗が「でも有翼種の所に行く途中で野垂れ死んでたりして」
穣は思案気に「……あいつ、そんな危険な賭けするかな……」と呟いてから
「とにかく行ってみないとわかんねぇし」
その言葉にメンバー達が「えっ」「ええっ」とそれぞれ驚きの声を発する。
「い、行くってどこへ?」透が聞く。
「もしかして、カルロスさんが行ったとこ?」マリアが聞く。
「ホントに行くの?」悠斗が聞く。
「マジですか!」とマゼンタ。
穣は一同に向かって
「だってな、本当に危ない事なら周防先生は行くなと止める筈。しかし周防先生は行く為のアドバイスをしてくれた、つまり行きたいなら行けという事だ!」それから剣菱に向かって言う。
「あのカルロスも突っ込んで行ったんですから、我々も突撃しましょう!」
剣菱は額に右手を当て「うーん」と唸ってから「行きたい人は手を上げて」と皆を見る。
「はいっ!」
穣は手を上げる。少し遅れてマリアも手を上げ、それを見た他のメンバーがちょこっと手を上げたり上げなかったり上げかけて止めたりやっぱり上げたり。
剣菱は頷いて「皆、素直でとっても宜しいな」と同時に穣が「皆、行こうよー。1年前、外地にはみ出したじゃーん!」と騒ぐ。
悠斗が「んでメッチャ怒られたけど!」
穣は悠斗の方を見て「んでもカルロスなんて黒船捨てて行っちまったし、ってかそのカルロスと護に事情聴取に行くって事で、管理に大義名分も立つ!」と拳を握る。
「立てた瞬間へし折られそう……」と悠斗。
ううーん!、と頭を抱えてから腕組みして何か考えた穣は「だってこのままだと俺らは狭い人生を生きる事になるんよ!管理に制限されたまま、決まりきったコースを……。黒船の奴らはまぁ、採掘量トップ維持が目標で、管理にも認められてイイコって褒められて満足かもしれないが、俺は何かもっと違う世界を見たい。そのチャンスが今この時で……」そこで大きな溜息をつくと「カルロスと護がその可能性の場所に居ると思うと、我慢できねぇんだ……」
すると機関長の良太が拍手し、続いてネイビーや透、マリア、更に全員がパチパチと拍手をする。
「よく言った!」と良太。
「穣、いいこと言う!」と透。
ネイビーも「やっぱハチマキしてるだけあるわねぇ!」
マリアも「うんうん!」
バイオレットも「かっこいい!」
マゼンタが「どっかの漫画の主人公になれる!」
すると悠斗が「じゃあ俺達はサブキャラとして主人公をヨイショしないと」
穣は照れ臭さ満載を隠すように「という事で行こうよ皆、船長!」と剣菱を見る。
剣菱は腕組みしたまま「んん?ん……」と唸り、「管理にメッチャ怒られるから、行きたくない」
一同が「ええー!」と声を上げる。
「行かないの?」「船長!」「なんで!」「どうして?」
皆が様々な問いの言葉を投げると剣菱は
「だって俺の首が危ないべ」
バッ、と穣が剣菱の前に進み出る。
「首は俺が差し出しますので!」
「んでも航空管理の管理波が無いから遭難するかも」
マリアがバッと進み出て「私、頑張ります!」
「しかし、本当にいいのか!ぶっちゃけ俺はすんごい怖いぞ!どうなっちまうか分からんし!」剣菱はそう言ってから「正直に言え!怖いから嫌だと思っている人は手を上げろ!」
すると剣宮と健、オーキッドがサッと手を上げ、続いて透や悠斗が手を上げる。
マゼンタは「んー、怖いことは怖いけど挑戦はしてみたい!」と手を半分上げる。
バイオレットも頷き「怖いことは怖いけど、行ってみたい気もする」と同様に半分手を上げる。
剣菱は「うん」と頷き「強がっちゃアカン。怖いときは、恐々行くんだ」
穣は思わず「え。行く?」と聞き返す。
「そう!怖いけど行く。ぶっちゃけ俺はスンゴイ怖いー!」
良太が頷く。「ですよねぇ」
剣菱は大声で「未知に挑戦するのに怖くねぇって奴がいるかい!」
するとマゼンタが「ここに!」と穣を指差す。穣は思わず小声で
「だって俺は、船長ほど責任負ってねぇし……」とモゴモゴ呟く。
剣菱は一同を見回しながら
「どうしても嫌だって奴には有休取らせてあげるから無理すんな」
途端に悠斗がハッとして「なんですと有休ですと」
マゼンタも「それはちょっと心が揺れる」
「まぁでも」と言って剣菱は暫し黙ると「何が何でも行きたくない、という自己意志を押し通す自信のない人は、スマンが諦めてご一緒にお願いします」そこでニヤリと笑う。
一同に笑いが起こる。
「それ殆ど強制連行じゃん!」マゼンタが叫ぶ。剣菱は
「アンバーという船に乗っちまったのが運の尽きだ!」
その言葉にネイビーが「まだ尽きてない!」
「ところであのー」良太が手を上げて剣菱の方に進み出ながら
「その死然雲海ってのを突破する為に、鉱石弾を撃つんですよね」
「そうらしいな。なぁ機関長、あれ、撃てるのか?」
「というより撃ってみたい」
「なるほど」頷いてから「すると船を一旦メンテに入れなきゃイカンなぁ」
「撃つ為のイェソド鉱石も大量に要ります」
すると穣が「それは採る!」
同時にネイビーが困り顔で言う。
「でも、そもそも撃ち方わかんないんですけど。どこ操作したら撃てるのそれ?」
剣菱も困り顔で「だよなぁ。分からんよな」と言い、うーん……と考え込む。それからやおら「……まぁ、護はドンブラコと流されて行ったし、カルロスさんは黒船を捨ててまで行っちまった……」と呟いて「とりあえず、まず整備に鉱石弾の事を聞いてみよう」と言い階段室の方へ歩いていく。
暫し後、メンバー達は船長室の入り口周辺に集っている。
誰かと電話していた剣菱は、受話器を置いて唸る。
「うーん……鉱石弾のメンテに少なく見積もっても3週間以上かぁ」
良太が頷き「まぁそうですよね、かなり大掛かりな作業になるから」
剣菱は「どうしたもんかー」と言い「そんな長期間、休めんし……」
「しかも鉱石弾のメンテってのが管理にバレたら、そんなのいいから採掘に戻れと言われそうだ」
「んー……」
そこへ穣が「……アンバーが行方不明になると多分、黒船が出動しますよね」
「多分な」
「黒船が来てくれたら、この間みたいに探知で連結してかなり遠くまでいけるんだけどな」
その言葉にマリアがハッとして「あそっか!黒船が管理の船と繋がっててくれたら!」
続いて透が「そういや穣、黒船の上総君に周防先生の話、伝えたの?」
「うん。メールしといた。でも特に音沙汰が無い」
そこへ入口の横にいる剣宮が手を上げて発言する。
「あのー。管理が護さん達の捜索を諦めたのは、有翼種と接触したくないからですよね。なら黒船と一緒に向こうまで行っちゃえば、管理は付いて来ないかも」
剣宮の背後からマゼンタが主張する。
「でも、黒船が途中で引き返したら?」
剣菱は「するとウチの船は外地で孤立しちまうがぁー」と頭を掻いて溜息をつき「まぁでも船一隻行方不明になって捜索中止って事はないだろうよ。だから必ず管理は来る。つまり帰る方向の目印がウロウロしててくれるって事だよな、マリアさん!」とマリアを見る。
「はい!」
「あと黒船がどこまで付いて来るかは……もう黒船さんにお祈りするしかないって事で」
悠斗が祈る。「オブシディアン様……」
「そもそも管理の奴ら、護とカルロスさんが生きてるのに何で探しに行かない!『管理』の癖に!仕事しろや!」
憤慨する剣菱にマゼンタが「そうだよこんな首輪つけといてさ!」と自分のタグリングを指差す。
「だから、ウチの船が頑張って行くんだよ!」
一同、剣菱を見てウンと頷く。
「マリアさん、あんたが頼みだ」
剣菱が言うとマリアは嬉しそうにガッツポーズして
「はい!お任せ下さい!」
「よし!じゃあ……いつ行く?」
一同を見ると、穣が「あ」と手を上げる。
「黒船の出航日と合わせた方がいい。あっちが休みの時に俺達が出ると、来てもらえない」
「そうだな。よし、そうしよう」
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