第8章04 発見!

「いやぁ結構な距離を飛んだねぇ。ダアトは遠いなー」

 そう言ってターさんは水筒から小さなコップに注いだ石茶を飲む。

 死然雲海を切り開いた森の中、古代の遺跡らしき巨大な石の上に座って石茶を飲んでいる三人。

 カルロスは護を指差し「スマン、ターさん。護が妖精と遊んでばっかりで」

 護は怒って「えぇ俺も時々チョビッと雲海切りしてたやん!」

 ターさんは楽し気にアハハと笑い、しみじみと言う。

「かなり遠いとは聞いてたけど予想以上だったよ。しかしカルさん、相当な距離を歩いて来たんだねぇ……」

「……まぁ、今から思うと無謀な事をしたなと思う。妖精が居なかったらどうなっていた事やら。私の必死の呼び掛けも無視されたし」

 カルロスはそう言って護をじーっと見る。

「何か?」

「石茶の味もワカラン奴め!」

「お茶はお茶だ」

 護は涼しい顔でコップに注いだ石茶を飲む。

 ターさんも再び水筒の石茶をコップに注ぐと一口飲んで「やっぱカルさんの石茶は美味いや」と言い、カルロスに「まぁゆっくり行こう!」

「多分、途中までしか行けないが」

「雲海探検、面白いから何でもいいや」

「では、もう少し雲海のエネルギーが落ち着いてきたら、また探知を掛ける」

 カルロスも自分のコップに石茶を注ぐ。ゆったりとした、安らぎの時間。

 (幸せだな……)

 護はその辺で転がったり跳ねたりしている妖精達を楽し気に見ている。

 ターさんは周囲の風景を見てノンビリと寛いでいる。

 石茶を味わいながら、カルロスは思う。

 (この幸せを、皆に教えてやりたいな……。でもな、人の幸せの価値観は色々だしな。そもそも皆、黒船で満足している。過去の私がそうだった。それを捨てる事は死と同義だった。だから余程の事が無ければ飛び出さない)

 ふぅ、と短く静かな溜息をつく。

 (……そして私は責められる。皆を捨てて逃げた逃亡者を、誰も許しはしない……)

 ふと気づくと、雲海のエネルギーが落ち着いている。

 罪悪感や苦しい思いを振り切るように「よし、雲海のエネルギーが落ち着いたから、ダアトらしき人工建造物の位置を確認しよう」と言って石茶を飲みつつ探知エネルギーを上げる。体の周囲が青く光る。

「って茶を飲みながら探知かい!」

 護のツッコミにカルロスは「フッ。たまに寝ながら探知してる事も……おや?」と言って「なんだこれ」と驚く。

 ターさんが「何か見つけた?」とカルロスを見る。

「美味い石かな」

 護の言を「違う」と否定し、暫し目をパチパチさせる。

「なんか、大変なものを見つけてしまった。……アンバーと、オブシディアンがいる」

「えっ!」

 護が真面目な顔で真剣に驚く。

「お、俺達の採掘船!」

 カルロスも真顔で言う。

「アンバーは我々が目指すダアトらしき場所へ向かっている。それを黒船が妨害している。なんでだ?」

「アンバーが、ダアトへ?」

 ターさんが二人に「どうする? ……会いに行く?」と尋ねる。

 暫し黙る三人。

 やおらターさんが「つまり、向こうに戻れるチャンス、って事だよね?」と再び二人に問う。

「まぁ、……な」

 カルロスは若干暗い顔で言葉を濁す。

 (護は良いが、私は、罪人なんだ……おや?)

 ふと、カルロスは護を見る。

 護は「戻らなくてもいいけど……」と言い、「ん?」と言ってキョロキョロと辺りを見回してから傍の妖精を抱き上げて「キミかな?」

 妖精は「?」と頭にハテナマークを浮かべる。

 ターさんが苦笑して「だから妖精じゃないってば! カルさんの探知エネルギーも妖精と間違えたよね」

 カルロスも「人が必死に貴様を呼んだのに!」と怒る。

 護は首を傾げて「つまり誰かが俺を呼んでる?」

 カルロスは護をバシッと指差し「貴様と私を必死に探知しとる奴がいる! それを黒船が妨害しようと」

「なんと! あらまぁカルさん嫌われちゃったねぇ!」

 笑う護にカルロスはヤケ気味に「まぁ私はな! 自ら逃亡した奴だからな!」と言い「それにしても、どうする護!」

「どうするって」

 護は腕組みして「探してくれてるのか……」と呟くと、ウーンと悩んで「ちょこっと挨拶だけ、したいな。俺は元気だよって伝えたい」

 内心、参ったなと思うカルロス。

 しかし相手は必死にSOSを出しているし、これはもう逃亡を謝罪するチャンスだ、と腹を括って覚悟を決める。

「そうか。んじゃまぁアンバーを黒船から引き離すんで、ターさん、スマンが付き合ってくれ」

「いいよ。君達の採掘船を見てみたいし」

「では片付けて、行動開始だ」

 カルロスはコップの石茶を飲み干す。



 アンバーは少し霧が掛かった遺跡上空を飛んでいる。その遥か彼方にうっすら見える黒い船影。

 必死に探知するマリアは探知エネルギーの青い光を纏いながら「護さんかどうか分からないけど、何かの存在を感じた……あっ、またわかんなくなった! もぅウルサイな上総君、妨害やめてよ!」と叫び両手で顔を覆う。

 ネイビーが操縦しながら「マリア、落ち着いて」と言うが「だって!」と叫んだマリアは両拳を握り、目を開けて少し涙ぐみながら「カルロスさんの弟子に負けたら私がアンバーに乗ってる意味が……、せっかく皆でここまで来た意味が!」

「例え負けても船長は貴方を降ろさないし、仮に管理が何か言っても関係ない。大丈夫よマリア、落ち着いて」

 マリアはちょっと涙を拭い、再び目を閉じて

「……でも、でも……。そもそもこの一帯、おかしい。エネルギーが変で、そこに探知妨害まで来るから……」

 剣菱がボソッと呟く。

「ド最悪な場合は黒船に突撃しちまえ」

 ネイビーが「って何すんの?」と聞くと

「アンバーを黒船の上に着けてだな……」

 剣菱はチラリと隣に立つ穣を見る。穣が続きを語る。

「ウチの採掘口から黒船の上部甲板のハッチぶち破って中に押しかけるって感じ」

 悠斗が「ちょっと面白そう」とニッコリ笑う。

 剣菱も「何せそろそろ燃料がヤバイもんでね」とニッコリ不敵な笑みを浮かべる。

 ブリッジ入り口に立つ剣宮が「黒船から強奪?」と言った途端、マリアが「あれ、妨害が無くなった!」と声を上げる。

 穣が「上総も疲れたか」と言い、剣宮は「強奪の気配を察知したかな」と呟く。

「……」

 マリアが特に何も言わないので皆、ちょっと訝し気にマリアに注目する。

 少しして目を開けたマリアは、探知エネルギーを下げながら呆然とした様子で剣菱を見る。

「船長……」

「ん? どした?」

 マリアは剣菱を見つめたまま、次第に顔を綻ばせ、やがて満面の笑みを浮かべ、目頭を熱くして言う。

「カルロスさんです! カルロスさんが呼んでる!」

「ほぇ?」

「ネイビーさん、あっちへ!」と右手で方向指示をするマリア。

 ポカーンとする一同。

 剣菱は目を丸くして「え、ホントにカルロスさんなの?」

 穣は不安気に「だ、大丈夫かマリアさん。疲れてないか?」

 続いてネイビーも「大丈夫? ちょっと休む?」

 マリアは激怒して叫ぶ。

「ホントよホントにカルロスさんよ! もぉ、何でこんな時だけ皆、信じてくれないのぉー!」


 黒船では上総が首を傾げて「あ、あれ?」と呟く。

「どうした?」

 駿河が問うと、上総は目をパチパチさせて「アンバーの妨害が出来ないっていうか……おかしいな」と首を傾げる。船窓から見えるアンバーの船影を指差して「目視出来てるのにアンバーの位置が感じられない。なんで……?」と暫し考え、探知エネルギーを更に上げてハッと気づく。

「待てよ。もしかして、これ……」

 バッ、と船長席側に振り向いた上総は驚愕の表情で駿河に叫ぶ。

「船長、俺が探知妨害されてる!」

「誰に?」

「あの人です! だってこれ、あの人が散々俺にやった技……!」

 駿河と総司が目を見開く。

 (……生きていた……)

「あいつの位置を探知します! 今度こそ見つけてやる!」

「いや、それよりアンバーだ!」

「アンバーを見失うな!」

 駿河と総司に言われて渋々「はい」と答えた上総は「でも何で俺の邪魔を……」と不機嫌そうに呟く。

 総司も内心、黒船を捨てた上にアンバーの味方までするのか、と密かに怒りを覚えつつ言う。

「恐らく護さんが一緒に居るからだろ。アンバーの味方するのは仕方ない」

「そうかなぁ? 護さんはアンバーだけどカルロスさんは黒船なのに!」

 上総は「あいつ絶対許さない」と険しい顔で呟く。

 総司も密かに同意する。

 (貴方だけ自由にはさせない……)



 護とカルロスはターさんの吊り下げ木箱で死然雲海を飛んでいる。

「むぅ……」

 唸ったカルロスは苦々しい顔で言う。

「ちょっと誤算が発生。黒船に見つかった。流石は私の後継機」

 護は妖精を撫でながら怪訝そうにカルロスを見る。

「アンタに珍しく探知ミスとか?」

「いや。しかし後継機なのだから本来は雲海越えが出来る筈なのに……向いてる方向が違う! 管理とベッタリくっつきやがって全く」

 イライラしつつ腰に両手を当て、はぁと溜息をつく。

 ターさんが面白そうに「なになにどしたん?」と聞くと、カルロスは渋い顔で「んー」と唸って「とりあえずアンバーが物凄い速度でこっちにブッ飛んでくる。船の燃料が心許無いので採掘して持って行こう。ターさん、ちょっとあっちへ」と方向指示をする。

「ほいさ」

「畜生、アイツに見つかるとは……」

 カルロスはブツクサと「いきなり腕を上げやがって、驚いたぞ全く!」と言い護を見て「採掘するぞ、まも……」

 護は抱いていた妖精の顔をカルロスに見せる。

  ( ̄▽ ̄)

「お前こんな時に妖精と遊んでんじゃねぇ!」

「遊んでねぇよ交流してんだよ!」

 ターさんは笑いながら指示された方向へ飛び続ける。暫し行くとカルロスが「よーしこの辺で雲海切りだ!」と黒石剣を構える。

「了解です、探知先生!」

 護も妖精を手放して白石斧を構える。

「誰が探知先生だ、勝手に命名するな! カウントするぞ、……3、2、1、GO!」

 二人は同時に雲海切りをする。周囲の霧が晴れて下の木立の中の崖に光るものが見える。

「ターさん、あそこ!」

 カルロスが黒石剣で指差すとターさんが「……って飛び降りたら?」

「なるほど!」

 木箱から飛び降りるカルロス。続いて護も飛び降りる。

 護はイェソド鉱石の層がある崖下に到着すると「行きます!」と叫び、白石斧でガンガンと鉱石に斧の刃を入れゴロンと塊を切り取る。カルロスも黒石剣で小さな塊を切り取る。ターさんも木箱を下に置くと、二人から少し離れてやや崖上の鉱石を切り取る。妖精はポリポリと鉱石の欠片を食っている。

 護が楽し気に叫ぶ。

「イェソド鉱石の採掘って、ラクだー!」

 カルロスも「だな。石材用じゃないから多少荒く採っても問題ない」

 ターさんが一言。

「でも大事に採ってあげた方がエネルギー上がるよ」

 三人の全力採掘で、あっという間に木箱がイェソド鉱石で一杯になる。

 護は木箱に積んだイェソド鉱石の上に立ち、両手を腰に当てて満足気に「よーし。お土産が出来た!」と微笑む。

 カルロスも黒石剣をホルダーに仕舞ってイェソド鉱石の上に乗りながら「いいタイミングでアンバーが来た」

 ターさんは飛び上がって空中でワイヤーを引き上げる。

「じゃあ出迎えに行くか」

 木箱が空中に浮かぶと、カルロスと護は鉱石山積みの木箱の両端のワイヤーを掴んでバランスを取る。

 護は皆に会える喜びではち切れんばかりの笑顔で叫ぶ。

「皆、ビックリするぞぉ!」

 カルロスは多大な不安で無表情になったまま、思う。

 (まぁ、なるようになるさ。行くしかない……)