第12章03 剣菱の想い

 全速力で死然雲海を飛び続けるアンバー。

 護は真っ白な窓を見ながら思う。

 (結構カッ飛ばしてるなぁ。これだと結構早くターさん家に着きそうだ)

 景色が無いので窓を見ても速度感はあまり無いが、エンジン音で結構な速度を出していると分かる。

 (なんかホッとする。やっぱり自分はイェソドがいい。管理と全く関係無い所で暮らしたい。でもジャスパー側と断絶はしたくない。だからアンバーも、出来れば黒船も、アッチとコッチを繋ぐ船になってくれたらいいなぁ……)


 マリアが探知を続けながら言う。

「もう少しで雲海が無くなるみたい」

 カルロスは溜息をついて「随分早くイェソドに着くなぁ。地上を走ってイェソドへ行った身としては、こんなに近かったかと感じてしまう。これは距離感が掴み辛い、というか雲海のせいで探知も歪むし誤探知しても仕方がないというか」

 ブツブツと独り言を呟いていると、護が一言。

「まぁ、エンジンが違うからねぇ」

 その時、突然バッと白い雲が消えて太陽の光が差し込み、一気に視界が広がると同時に森の木々が疎らになり草原が広がる。

「わぁ!」

 ネイビーと同時に剣菱や穣達が「おお!」と声を上げ、マリアが「抜けたー!」とパチパチ拍手する。

 カルロスはネイビーに「じゃあターさんの家に行こう。高度を下げながら、このまま直進」と指示。

「はーい!」

「って、採掘船だともうあっという間だな」

 護は笑いながら「エンジンが違うからねぇ!」と言い、前方に見える山を指差してブリッジの一同に「あれがイェソド山。あの手前にターさんの家がある」と説明する。

「山の中じゃないんだ?」と穣が聞くと、護は「うん」と頷いて「ターさんはイェソドの『壁』の外に家を建てた珍しい有翼種なんだよ。だから何も無い所にポツンと一軒」

 マリアが「あっほんとだ一軒しかない!」と言い「ネイビーさん、すこーし左」と指示。

 護がブリッジ内の一同に言う。

「有翼種はそれまで『壁』の中でだけ採掘してたんだけど、ターさんはどうしても外に出たくて、頑張って外に出たら他の有翼種や採掘船まで外に出るようになったという」

 すると剣菱が「なんだなんだ、どっかの誰かと同じだな!」と穣を見る。

 穣もニヤリと笑って剣菱と目を合わせる。

「そろそろ見えるぞ」というカルロスの声と同時にネイビーが「あ、見えた!」と叫ぶ。

「船長、これもう家の前に船、停めちゃっていいよね? なーんも無いし」

「うん。ご自由にお任せする」


 ターさんの家へ近付くアンバー。

 ブリッジ入り口の野次馬マゼンタが叫ぶ。

「うわぁいいなぁ自宅前に船! 絶対遅刻しない!」

 透が「そう言う問題か」と突っ込む。

 エンジン音を聞いたターさんが家の玄関から出て来てアンバーの方に手を振る。アンバーは船首を家に向けたまま家の真ん前に着陸すると、採掘口からタラップを下ろし、すぐに護が船内から走り出て来る。ターさんも護の方へ駆け寄る。

「ただいまターさん!」

「おかえりー」二人はハグして喜び合う。

「なんか予想外に早いお帰りだね」

 護はウンと頷いて「向こう行ったら色々あってさ、小型船買う前にアンバーで戻る事になった」

「そっか。まぁ何でもいいよ、会えて嬉しい」

 そんな二人の頭の上に、妖精が乗ってポコポコと喜ぶ。

 そこへカルロスが「ただいまー」と言いつつテクテク歩いて来て立ち止まる。

 ターさんが「おかえりカルさん。妖精が待ってたよ」と言った途端にカルロスの頭にゴツゴツ妖精が飛び乗り、ボンボン跳ねて、それから肩に降りて頬にスリスリする。

 アンバーのタラップから剣菱と穣を先頭に、コンテナを持った悠斗と、透やマゼンタ達が降りて来る。それに気づいた妖精達はポコポコ跳ねて剣菱達の前へ。

「お?」

 驚いて立ち止まる剣菱。目を丸くしながら「ゴ、ゴロゴロ転がってる……もしや、これが」

「妖精です」と穣が言う。

 剣菱は屈んで妖精を見ながら「……これ、が……護とかを助けたと?」

「そうらしいです。まぁ落ちてドンブラコの原因にもなったけど!」

「ほぉ……。これは管理さんに説明しても難し過ぎるべ……」

「ですよねぇ」

「不思議な生き物だな。ありがとうなー」と言いつつ剣菱は丸い妖精とゴツゴツ妖精の頭を優しくポンポンと叩き、それから立ち上がってターさんの方へ歩く。

「こんにちはターメリックさん!」

「ようこそ剣菱船長!」

 剣菱はターさんの前に立つと、悠斗が抱えるコンテナを指差して

「これ、護とカルロスさんを助けてくれた、お礼を兼ねたお土産です。どうぞ」

 悠斗がマルクト石を満載したコンテナをターさんの横に置く。

「わぁマルクト石!」

 ターさんは驚いて「これ、こっちでは滅多に無い石材なんですよ。良いんですか、こんなに!」

 するとコンテナの周囲に妖精がポコポコ集まって来る。

 剣菱は「勿論です」と大きく頷く。

 続けて護が「皆で採って来たんだって。俺が知らない間に」

「ほぉ……」

 ターさんは感嘆の声を漏らしてコンテナの中のマルクト石を撫でる。

「こんな大きいマルクト石、初めて見た。何に使おうかなぁ」

 カルロスがボソッと呟く。

「売れば高値が付くぞ」

「嫌だよせっかく皆が採って来てくれたのに。大きいのは、このまま庭石にしよう」

 カルロスがボソッと「また庭石が増える」

 護が「いいやん! コレクションは沢山あってもいいの!」と主張。

 会話の間にどこからか現れて10匹程になった妖精達が、コンテナのマルクト石の上に飛び乗る。

「お?」

 剣菱や護達が見守る中、妖精達はヨイショ、ヨイショと中から小振りなマルクト石を一つ運び出し、頭に載せてトコトコとどこかへ持って行く。

「また持ってった」

 護が言うと、悠斗が「常習犯か」

 ターさんが剣菱に「気に入った石があると、時々勝手に持っていくんですよ」と説明し、マルクト石を見て「良い石だからなぁ」と呟いて「貴重な石を、ありがとうございます!」と礼を言う。

「う、うん。こっちだと貴重でもない……」

「じゃあとりあえず……このコンテナは後で返しますから」

「いつでもいいですよ。何なら護達が船を持った時にでも」

 護が「うん、俺がアンバーでバイトする時に使おう」と言い「じゃあこれ小屋に運ぶね」と言ってマルクト石の入ったコンテナを持ち上げて作業小屋の方へ歩き始める。

「うん。ありがとう」

 そこへカルロスが「ところでターさん、実はちょっと相談事が」

「鉱石の事かな?」

「え」

 少し驚くカルロスに、ターさんが尋ねる。

「イェソドで鉱石採掘したいって事じゃないの?」

「ああ、それもある。採掘させてもらえそうかな」

「それはもう直接行って聞くしかないよ」

「そうか」

「大丈夫、今は、貴方と護君のお蔭で信用があるから。何とかなるさ」

 ニッコリ微笑むターさん。

 カルロスは「しかし今回は……」と言って右手で剣菱の方を指し示して「人間」と言い掛けた所に剣菱の「人間が居るのですが」という声が重なる。

「あ、そうか」

 ターさんは少し表情を曇らせて「ちなみに……イェソドに来る人、今後もっと増えるのかな」

「あと一隻来る」

「えっ」

 真剣な顔で驚くターさんに、カルロスは申し訳なさそうに「そうだな、あまり来られてもイェソドも困るよな」と言い「私が護と一緒に船を持つので、それとアンバーと黒船の三隻、これが今後イェソドとジャスパーを行き来出来るようにしたい。勝手な要望ではあるんだが……」

「なるほど……。じゃあその辺りを皆とキッチリ話し合わなきゃダメだね」

 カルロスと剣菱が同時に「うん」と頷く。カルロスは続けて

「で、黒船がこちらに来る理由なんだが、実は私の製造師をカナンさんに会わせたくて」

「ああ、カナンさんと同じB型の……」

 剣菱が「分かり難いから兄弟にしとこう」と口を挟み、カルロスを指差しながらターさんに言う。

「この人の親である製造師は、カナンさんの弟なんだけど、もうかなり昔に生き別れたので兄弟を何とか会わせたいんです」

 話をしている間に、作業小屋から護が出てきてターさん達の所に戻って来る。

 ターさんは「なるほど」と頷いてから「何はともあれ、ケセドの街へ行こう。まずはアンバーそのものが街に入る許可を取らないと」

「では船へどうぞ」

 剣菱が船の方へ誘うと、ターさんは「あ、俺は船の前を飛びますから」と言い「イェソドには『壁』があるし、俺が船の前を飛ばないとまずいと思います」

「そうなんですか」

「うん、先に飛んでて下さい。俺ちょっと準備してから行きますので」

 ターさんが踵を返し、剣菱も「では」と言った所でカルロスが「あっ、ちょっと」と剣菱を呼び止め、ターさんの家を指差して「こっちの家から取ってきたい物があるので、一旦こっち行ってすぐ船に戻りますから」

「分かった」

 護も「俺も……何かあったかな」とちょっと考え「とりあえず一旦、ターさんの家に行ってから船に乗ります」

 剣菱は「了解したが、ちょっと待て」と返事をすると、自分の斜め後ろに立つ穣に「インカムちょっと貸してくれ。連絡用にターさんに渡す」

「あ、なるほ!」

 穣は腰のポーチからインカムを出し、様子を伺って立ち止まって待っていたターさんに駆け寄ると「これ、船との連絡用に耳に着けといて下さい。通信する時、この真ん中のボタンずっと触ってると、ピーって鳴って回線開きますんで」と説明する。

「わかった」

 ターさんはインカムを受け取ると、その場で耳に着ける。

 剣菱はターさんに「ではまた後で」と言い「皆、船に戻るぞー」と言いながらアンバーへ戻り始める。



 それから暫く後。

 アンバーは、船の前を飛ぶターさんを先頭に、ケセドの街へ向かってゆっくりと飛んでいる。

 ブリッジ入り口では野次馬達が窓の外に見えるターさんを見つつ大騒ぎ。

 透が「何だか不思議な光景だなぁ、船の前に人がいるって」と言うと、悠斗が「普通は居ないもんな!」と言い、剣宮は「航空法的にどーなんだろう。管理さん怒るのかな」と首を傾げ、マゼンタは「いいなぁいいなぁ空飛べるって!」オーキッドは「俺も翼が欲しいー!」

 マリアが探知を掛けつつ言う。

「あっ、何だか沢山の人がこっちに意識を向けてる感じが!」

 カルロスが「警備の有翼種だな」と言い、同時に前を飛ぶターさんが振り向いてブリッジに向かって叫ぶ。ブリッジ内スピーカーから『止まって下さーい』とターさんの声。

 ネイビーが「停船します」と言いつつ船を停止させる。

『この先に「壁」があるんだけど、ちょっと様子見しましょう』

「『壁』……って、どの辺なのかな?」とネイビーが言うと、護が「見えないよ」と答える。

「あ、見えないのか。怖いな」

 マリアが叫ぶ。「何か船が来ます!」

 続いてカルロスが「採掘船だ」

 剣菱が怪訝そうに「採掘船?」

「はい。ターさんの友達の採掘船が来ます」


 アンバーから見て右前方、街の近くにカルナギの採掘船ブルートパーズの小さな船影が見えて来る。

 護がそれを指差して言う。

「あれが有翼種の採掘船、ブルートパーズ」

「えぇ」

 ブリッジの皆が目を丸くする。

「あれが採掘船なの?」「ほぉぉ、面白いな!」等と皆が声を上げて驚いていると、ブルートパーズから有翼種が数人、船の前に飛び出し、その内の一人がターさんに向かって勢い良く飛び出て来る。

「こらぁター、ター、ター、ター!」

 カルナギは叫びながらターさんに近付き「お前また変なモン連れてきやがって!」

「俺が連れてきた訳じゃなーーい!」

 カルナギは「なんだこれは!」とアンバーを指差す。

「人工種の採掘船だよ! アンバーっていう」

「採掘船? これが? 変な形してんな」


「うん、あっちも同じ事を言っている!」

 アンバーのブリッジで、剣菱が大きく頷く。スピーカーからターさんとカルナギの会話が聞こえて来る。

『実は人間も乗ってたり』

『何だって? 人間って、人工種を支配する酷い奴らか!』

『そうじゃないのもいるってば』

 二人が会話をしている間に別の有翼種達がアンバーに近づいて来る。

 カルロスはそれに気づいて「なんか『壁』の警備の有翼種が」最後まで言わせず護が「カルさん甲板に出よう!」

「え。あっ、そうだな!」

 カルロスと護は、急ぎブリッジから通路に出て走り出す。

 剣菱は溜息をつき「警備の有翼種か。人間はマズイよなぁ……」と言い、ハッと気づいて「イカン! 船内見せろって絶対来る!」と叫ぶなりバッと立ち上がって入り口付近のメンバー達に「アキさんをここに連れて来てくれ、ウチの人間は敵じゃねぇって証明せんとイカン!」


 外ではターさんがカルナギに詰め寄られている。

「おいおい人工種はともかく人間はマズイぞ、人間だけどっかに降ろしてしまえ!」

「そんな事、出来ないよ! 大丈夫だってば護君やカルさんの船の人達だから信頼できるってば!」

 そこへアンバーの甲板に護とカルロスが出て来て、船首側に走りつつ「カルナギさーん!」と叫んで手を振る。

「おっ。人工種」

 二人に気づいたカルナギは「お前ら! こんな妙なモンを連れて来やがって、どーするつもりなんだ!」と叫びつつ二人の元へ。

 護は必死に言う。

「これ、俺の大事な採掘船だよ、どうしてもイェソド鉱石が欲しいんだ」

「人間が居るとか」

「大丈夫だよ! ホント信頼できる人達だから!」

「本当だな?」

「うん!」力強く頷く護。

 カルロスも「本当です。それなりの覚悟でイェソドに来た人々です!」

「だがな」とカルナギが言い掛けた途端、その背後に飛んで来た女性の有翼種が「信頼できるかどうかはこちらが判断します!」と叫ぶ。

 護は慌てて「あの」と言い掛けるが女性の有翼種は有無を言わさず強い口調で「船の中を確認します。入り口は?」

 カルロスが「こちらからどうぞ」とハッチを指し示す。

 女性の有翼種はカルナギに「ありがとう。後は私達にお任せを」と言うと、共に飛んで来た警備の三人の男性有翼種と共にカルロスと護に続いてハッチからアンバーの船内へ入る。

 カルナギは上空のターさんの所へ行き「ターが変なモン連れて来たから見て来いって事で出て来たんだが、まさか人間だとは」と溜息をつく。

「んー、まぁ……。とりあえずブリッジの窓から中の様子を見よう」


 船内に入った女性有翼種はハッチ内の階段を下りて通路に出た所で立ち止まり、背後の護に言う。

「人間は三人ですね」

「はい」

 ……探知したのかな? と護が思っていると、一緒に来た警備の男性有翼種が「確認しました、他には居ません」と言い、やっぱ探知なのかと納得する。

 ブリッジへの通路には、いつの間にかアンバーの乗員一同が壁際にビシッと一列に並んでいて、ブリッジの入り口前には剣菱と剣宮、そしてアキが並んで立っている。その光景に驚いて立ち止まる護とカルロス。

 有翼種達は、並ぶ一同の前を歩いて剣菱の前へ。

「ようこそ採掘船アンバーへ。私は船長の剣菱夏生と申します」

 言った瞬間、女性有翼種が鋭く声を発する。

「船長が人間だとは!」

 剣菱は冷静に「種族は関係ないかと。私は単に船が好きで船長をしておりまして」

「イェソドに来た目的は」

「彼らが行きたいと強く望んだからです」壁際に並ぶメンバー達を右手で指し示して「イェソドには良質の鉱石があると聞いた彼らが、それを採りたいと言い出しまして。それに、私も有翼種の住むイェソドとはどんな所か見たいと思って参りました」

 その右手が緊張で僅かに震える。

「……人間と有翼種の関係、歴史を、ご存じですか」

 女性有翼種の問いに、剣菱は

「恥ずかしながら、詳しくは存じ上げません。しかし……」

 一旦言葉を切り、間を置いて、意を決したように話し出す。

「聞けば人工種とは、人間と有翼種の間に出来た存在。であれば人工種にはぜひ、両方の世界で生きる存在となって欲しいのです。なぜなら人間の中には人工種に無理解な者も多く、彼らの生きる世界は狭い。だから二つの世界があれば、どちらで生きるかを個々人が決められる。その自由、一つよりも二つの可能性がある方が、彼らが楽に生きられるのではないかと思うのです。その為に、何とか、せめてイェソド鉱石の採掘だけでもさせて頂ければと。なぜならそれが、人間とは異なった世界で生きたいと願う人工種の生活の基盤になるからです」

 冷や汗を掻きつつ必死に語った剣菱は、最後に「な、何とか、お願いを、できませんでしょうか」と言い女性有翼種の目をじっ、と見つめる。

 女性有翼種は、少し驚いた顔で剣菱を見つめながら「……なるほど」と呟く。

「では鉱石の採れる場所へ案内します」

「いや、あの、鉱石採掘だけではなく……」

 剣菱は自分でも何を説明したいのか分からず、言葉に悩み、そして言う。

「何とかイェソドと交流をしたいのです!」

「交流?」

「人間の為では無く、人工種の為にです。先程も言ったように、彼らの生きる世界を広げてやりたい。……そもそも鉱石を採って良いと言われましても、勝手に採るだけ採ってイェソド側に何もお返ししないのでは」

「いや」と女性有翼種が剣菱の言葉を遮って

「たかが船一隻が採る鉱石の量などイェソドにとっては微々たるものです。お気になさらず」

「……それが、一隻では無いのです……」

「……」

 若干困ったように剣菱を見つめる女性有翼種。壁際に並ぶメンバー達は剣菱の必死の想いに感動を覚えつつ、自分達も何か声を発するべきか、しかし下手に何か言うと誤解を生むかもしれないと悩み、戸惑う。

 女性有翼種が口を開く。

「それ程までに懇願するという事は、人間の世界では、人工種が、人間の為に苦境にあるという理解で宜しいか?」

 一瞬、苦渋の表情をした剣菱は、目線を落として「……仰る通りです」と答える。

「ならば少し考えねばなりませんね。しかしなぜ貴方は、人間で、しかも船長であるのにそこまで人工種の事を想うのか?」

「種族、というよりも……」

 剣菱は目線を上げ、女性有翼種を見ながら「自分が過去に受けた恩を返しているだけです。私は若い頃から船乗りで、昔は未熟な荒くれ者でした。そんな私を育てて下さったのは船の船長で、私はそこで『育てる』という事がどのような事かを身をもって知りました。ですから、それと同じ事を、アンバーのメンバー達にしているだけの事です。たまたまメンバーが人工種だったというだけで」

「ほぅ……」

 女性有翼種の顔から厳しさが消える。

 暫くじっと剣菱を見たまま思案すると、壁際に並ぶメンバー一同を見回し、やがて静かに口を開く。

「わかりました。……それではまずケセドの街へ来て頂きます。私の指示に従って飛んで下さい。申し遅れましたが私は『壁』の警備の副隊長、レトラ・アレクシスと申します」


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