第15章02 団欒(だんらん)
ターさんの家の中に入った面々は、キッチンのすぐ前に置かれたダイニングテーブルの席に着く。テーブルの真ん中には、お菓子の入った大き目の四角い缶が置かれている。
テーブルの右側の椅子にはカナン、周防、ジェッソが並んで座り、ジェッソの隣には小さな折り畳みの丸椅子に腰掛けたメリッサが、その背後には昴と夏樹がそれぞれ丸椅子に腰掛ける。
テーブルの左側の椅子には駿河と上総が座り、ダイニングのすぐ隣のリビング側の三人掛けのソファには穣と透が座る。
カルロスとターさんは、お茶を淹れる為にキッチンの前に立つ。護も手伝いの為にキッチンの近くへ。
ターさんはカナンが持ってきたデリバリー用の綺麗な柄の紙コップをいくつか調理台の上に並べると、台の上に置かれた保温ポットを手に取り、カルロスに見せる。
「これカナンさんが持ってきた石茶専用の保温ポットなんだ。これに石茶を淹れると、1時間は温かいまま美味しく飲めるんだって」
「ほぉ。今日はどんな石茶なんだ?」
「えっと……」とターさんがカナンの方に目をやると、カナンが話し出す。
「爽快石、中和石、葉っぱはイェソドリーフで、エネルギーの薄いイェソド鉱石水で15分かけて水出ししてから沸騰させてる」
「15分?」とカルロスが聞き返す。
「量が多いからね。この量だとその位かけないとイェソドエネルギーが残っちゃうから。今日は人間さんがいるだろ? 念には念を入れて。……イェソドリーフは甘みがあるので石茶を知らない方も飲みやすい。お茶、って感じになるから」
護がボソッと「普通の石茶は殆どお湯、って感じだし!」と呟く。
そこへ「あのぅ……」という声がして、皆、声の主の駿河を見る。
「なんかイェソドエネルギーとか……それ、どういったお茶なんですか?」
途端にターさんとカルロスが笑い出す。
カナンも苦笑し、護は三人を見ながら「コラ失礼ですよ船長に向かって笑うとか!」
ターさんは慌てて「いや申し訳ない! 人間は怖いですよねイェソドエネルギー……」と言いつつ笑いを収める。
護は真面目な顔で駿河に「これはですね、石茶という有翼種が飲むお茶で、イェソド鉱石水で淹れる、恐ろしい茶……」と言ってからハッ、として「ああごめんなさいカナンさん!」と慌ててカナンに謝ってから駿河に「大丈夫です、カナンさんはプロの石茶屋なので、人間でも全く問題ない石茶を作ってくれます!」
「それならいいんですが……」
カナンは護の慌てぶりにアッハッハと大笑いしてから「確かに人間さんには怖いお茶ではあるよね、うん。まぁ普通のお湯で淹れるレシピもあるけど」と言い「……大丈夫です、殺しはしませんから!」
その言葉に一同がドッと笑い、駿河は微妙な顔で爆笑する皆を見つめる。
場が和んだ所でターさんは石茶を紙コップに注ぎ、それをカルロスと護が皆に配り始める。
カルロスは石茶を駿河の前に置き、続いて上総に渡しながら、……なんか船長とか黒船の皆がここに居るって妙な感じだなと思っていると、上総が「ここが、カルロスさんが暮らしている家?」と聞く。
「うん」
すると石茶を手にした周防がハッとして「あ、ターメリックさん」と言い、石茶をテーブルに置き椅子から立ち上がると「カルロスと護君を助けて頂き、ありがとうございます」とターさんに深々とお辞儀をする。
「えっ」
ターさんは一瞬、目を丸くして驚き、それから「ああ、助けたんだった」と笑って「お蔭で採掘師が二人も増えて大変ですよ。カルさんは探知しまくるし護君は石を採りまくるし」
護が「だってせめて家賃分は稼がないとー」と主張。
ターさんは護に「十分稼いでるってば」と言い、周防を見て「お蔭で家が賑やかになりましたが一つ困った事があって。……俺、適当な性格なんで整理整頓そんなにしないんですけど、護君とカルさんが来てから家の中がキッチリ片付いてしまって散らかす事が出来なくなった」
護が「だって」と言い掛けた所で穣が「それ良く分かる、同じ船室になった事ある奴はよーくわかる!」と主張。
護が大声で
「だって俺、以前、ブルーで長兄に鍛えられたし!」
カルロスは護を指差して
「私はコイツに感化されたんだ! コイツのキッチリぶりはなかなか凄くて」
穣はカルロスを指差して言う。
「いやアンタも相当几帳面だったぞ、昔!」
ターさんが笑って「まぁ何にしても、掃除もホントきちんとやるし凄いよこの2人。助けてよかった!」
穣がすかさず言う。
「家賃分、こき使ってやって下さい!」
「うむ!」
ターさんは頷いて再び石茶を紙コップに注ぎ始める。
周防は椅子に腰掛けると、カナンを見ながら「……タグリング、取れたんですね」
カナンは石茶を一口飲むと、テーブルに置き、周防を見る。
「ああ。ある日、朝起きたら自然に取れたんですよ、ポロッと」
「取れたタグリングはどうしたんですか」
「もう一度着けようとしたけど、くっ付かなくてねぇ。記念に残しときました。ウチにあるので後で見せます」
駿河が怪訝そうに「あの、なぜ取れたんでしょうか?」と周防を見て尋ねる。
カナンが「長い事メンテしなかったからかな」と言い、周防も「壊れたんでしょうね」
「すると……、人工種のメンテって、実は要らないとか?」
周防は石茶を一口飲んでから
「何をメンテするかですよ。身体のメンテは必要ですが、タグリングのメンテは要らないかなと」
「えっ」
「タグリングが壊れても、自分できちんと身体のメンテをしていれば、カナンのように元気に生きられる。でも身体のメンテはどうでもいいからタグリングのメンテをしろと言うのが、どっかの管理の人間達」
「ちなみに身体のメンテとは?」
今度はカナンが「そんなの人間と一緒ですよ」と笑って「何か不調があればゆっくり休んで栄養のあるもの食べたり温泉行ったり」
「はぁ」
少し唖然とした様子の駿河は「メンテって絶対必要で、何か特別な事をするのかと思ってました……」
周防が苦笑いして言う。
「まぁ表向きはそういう事になってるからね……」
話の間に護とカルロスは、キッチン側とリビング側に居る全員に石茶を配り終え、続いて外で遊んでいる連中にも石茶を配り始める。
ターさんはテーブルの真ん中を指差して「あ、真ん中に置いてある缶の中のお菓子、自由に食べて下さいね。カナンさんが持ってきてくれたお菓子です。……奥さんが作ったんだって」
周防が少し驚いたように「ほぉ」と言い、皆は、それぞれ「頂きます」と四角い缶に盛られた個包装のお菓子を摘まむ。
上総も一つ摘まみ、両端をねじった白い紙の包みを開けると中から四角いチョコクッキーが出て来る。
「チョコかなと思ったらクッキーだった」
パクリと口に入れ、モグモグ食べてから石茶を飲むと、パッと顔を輝かせる。
「カナンさん、このお茶すごい美味しいです。クッキーと合わせると最高!」
カルロスが「お」と上総を見る。
護も上総を見て「流石はカルさんの弟子……」
周防は「うん、さっきから美味いなと思いつつ石茶を飲んでましたが、珍しいお茶ですよね」とカナンに言うと、駿河を見て「人間はこれを、どう感じるのかな?」と尋ねる。
「どう感じる?」
駿河は少しキョトンとした顔をすると「……緑茶っぽいけど緑茶でも無いし、不思議な味で……ほのかに甘くてサッパリしてて美味しいけど、……普通のお茶です」
周防は笑って「そうですか」
カナンは周防に「これは人間の世界では絶対流行らないお茶だよねぇ」と言って苦笑する。
「そうですねぇ」周防も苦笑して「……しかし貴方が喫茶店とは」
「うん、まぁイェソドに来てから色んな職をやったけども、最終的に石茶の店に落ち着いた。カルロス君と同じく石茶にハマってしまってね。石茶には薬効のあるものもあるし、自分の健康の為も兼ねて」
「ほぉ」
「ちょっと聞いてみるかな」
カナンは一同を見回しながら「皆さん、石茶が美味しいと感じる人は、手を挙げてー」
上総は元より、穣と透、メリッサと夏樹が手を挙げる。
護が「えっ、そこの二人、美味しいの?」と穣と透を指差して驚く。
穣は頷き「うん。これ、メッチャ美味いぞ」続けて透も「うん。美味しい」
「なんですと……?」
更にメリッサが「私も美味しい! クッキーも美味しい」と言い、後ろの夏樹も「美味しい」と言うが、夏樹の隣の昴は首を傾げて「なんとなく変なお茶」そして周防の隣のジェッソも「うーむ……お茶はお茶です」と首を傾げる。
護は「ヨシ、お仲間が居たぞ!」と呟くと、外に居るメンバー達の為に、缶の蓋にチョコクッキーを取り分け始める。
カナンが皆に言う。
「有翼種でも感じる人と感じない人がいますからね。でもこれ、ただのお茶だと思って飲み過ぎると酔っちゃうから」
駿河が「これで?」と驚く。
周防が「酔うと言っても酒で酔うのとはちょっと違うけど」と言い、続けてカナンが「まぁ人間さんは、よっぽど濃いのを飲まなきゃ大丈夫」と言ってから「ところでちょっと自己紹介してもらえるかな。……貴方から」と上総を指差す。
「はい」
姿勢を正した上総は、カナンに元気良く自己紹介する。
「はじめましてカナンさん! SSF SU SSC03周防上総と申します!」
カナンは首を傾げて「SSFっていうと……どこの製造所だっけ?」
上総はサッと周防を指差して「周防紫剣人工種製造所です!」
「え!」
周防を見て目を丸くして驚くカナン。
「貴方、そんなの建てたの?」
「はい」
「……カルロス君から、貴方が製造師になったというのは聞いたけど……」
暫し呆然と周防を見つめてから、心配気な顔になって言う。
「建てるのに、色々と苦労しただろう?」
「いや、紫剣さんという人間の製造師と一緒でしたから、結構すんなりと」
「あ、それでSSFか。周防紫剣……人工種の名前を頭に持ってくるとは珍しい。その紫剣さんという方は、どのような」
「元々は私の教え子で」
カナンは再び目を丸くして「教え子? ……貴方、先生してたの?」と驚く。
「はぁ。まぁ大学などで、製造師を目指す連中に人工種について色々教えていました。んでも製造師になる奴はごく僅かで殆どは人工種管理になりますが」
今度は駿河が「えっ?」と驚き「管理って、元々は製造師志望者だったんですか?」
「……うんまぁ大体はそうだよ」
周防はそう答えてから自分を指差して
「中には、この人工種の講師に落とされた事を恨んで管理になって人工種を縛るという奴も居たな」
「ええ……」
「仮にそんな奴が製造師になったらトンでもない人工種を作るだろ。だから厳しくしたんだけども」
「はぁ……」呆れ顔の駿河。
そこへ外の連中に石茶とお菓子を配り終えた護とカルロスが中に入って来る。護はリビングのソファの透の隣に座り、カルロスは上総の後ろの壁際に立つ。上総の隣の席にカルロスが座らないので、そこにターさんが座る。
周防はカナンを見て言う。
「紫剣さんとの最初の出会いは彼が中央大の人工種学科に入った学生の頃です。彼は最初全くヤル気が無くボケーッとしていたので結構厳しくしたら、何か知らんけど突然、原体B型の研究がしたいとか言い出して、以後しつこく私を追いかけ回して、ついに製造師になりました」
するとメリッサがニヤリと笑って「周防先生みたいな人工種を作りたかったんですよ。有名な話です!」と周防を指差す。
周防が「いや」と反論しかけるが、夏樹が「原体B型というより、周防先生みたいな人工種を作りたいと」更に昴が「ウン。その為に原体B型の研究してるって、皆知ってる」
周防はヤケ気味に「いや、あの人が勝手に色々と」
メリッサが「照れてるし!」と周防の言葉を遮って「どっかの誰かと似てるわねぇ……」とカルロスを見る。思わず目を逸らすカルロス。
カナンは笑って「何やら、いい方と出会ったねぇ!」と周防の肩をポンと叩く。
「腐れ縁です……」
渋い顔で呟いた周防は隣のジェッソの肩をつついて「自己紹介を」
「はい。ALF KUR D05ジェッソ・レストールと申します」
周防はジェッソを指差しながら、カナンに説明する。
「我々が作られたATLが、80年前に移転してALF、人工生命研究所内製造所になりました」
カナンは「おや。あれから2年後か」と言い「ATL、古かったもんねぇ……」と苦笑いする。
「しかも小さかった。ALFはかなり大規模なファクトリーです。彼の製造師はクレス・ディーファ・レストールという人間の女性なんですが、かなり沢山の人工種を作っていて」
そこでジェッソが「いや周防一族の人数には負けます」と口を挟み、メリッサが続けて「だってウチの周防一族って何人いるのか分かんないじゃない」
ジェッソはウンと頷き「レストール一族は人数が把握できますから」
「……そう、か」
渋い顔の周防。
メリッサは手を挙げて「ちなみに私はMF SU C174周防メリッサでーす」
周防はメリッサを指差して「アレは私がMFに居た時の子です。MFはご存知ですよね?」とカナンに聞く。
「うん」
「ここの2人は結婚してますから」
周防はジェッソとメリッサを指差す。
「おぉ人工種も結婚できるように……」ふとカナンは周防を指差して「貴方は? 結婚は」
「え」
目を丸くした周防は非常に焦って「いや、まぁ、私は」
昴が「自分で墓穴掘った!」と周防を指差す。
メリッサもニヤリと笑って「複雑な事情があるんですよねー」
周防は「まぁ、その、語ると長いので自己紹介の続きを、そこ!」と昴を指差す。
「ALF SI ALA452 紫剣昴です」
「アレは紫剣さんがALFに居た時の子です。その隣は」
「MF SI MA1031紫剣夏樹です」その瞬間、周防が「え、紫剣?」と驚く。
「はい。俺、SIですよ。紫剣先生がMFに居た時に作った唯一のMA型」
「そうかそうだった。MA型に一人だけSIが居たのを忘れてた」
「誰の子と勘違いしたんですか?」
夏樹がニヤニヤしながら問う。周防は渋々と
「……SUかなと。MA型のSUって結構いるので」
それからカナンを見て「人数が多いとたまに間違えるんですよ」と言った途端。
「ええー?」
数人から否定のブーイングが巻き起こる。
上総が「たまにじゃありませーん!」
メリッサが「頻繁でーす!」
夏樹が「SSFの日常茶飯事!」
昴が「そうだそうだー!」
家の中の騒ぎに、外に居るメンバー達が何事かと玄関や窓から家の中を覗く。
周防は一同に向かって「皆、成長するし髪型変えたりするしで分からなくなる!」と言い「ああいう風に目印を付けてくれれば」と穣を指差す。
上総が「皆がハチマキつけたら意味ないじゃん!」と反論。
若干ヤケ気味に周防が言う。
「とにかく外見で分からなくても人工種ナンバーを聞くと思い出すんですよ、ああ、あの時の子だなと!」
カナンは爆笑しながら「ちなみに何人位いるの、貴方の子は……」
「……それが自分でも分からないんです。一年に5人作ってた時もありますし」
「ええ?!」
「しかもSSFになってからは紫剣さんと共同なので、最早どっちの子なのか」
ターさんが呆れ気味に口を挟む。
「……なんか有翼種的に聞くと、凄い話だなと思うんですけど」
続けて駿河も「人間的に聞いても凄い話に聞こえます」
周防はターさんと駿河を見て「ああ、まぁ人工種の場合は」
と言い掛けた途端、カルロスが周防を指差し
「コイツは遺伝子を組むだけで、実際に育てるのは他人に丸投げ」
「いや、昔は自由に育てられないというのがあって……でも近年は、私も育成してるぞ」
上総が「俺は周防先生に育成してもらった」と言うと、メリッサが「私はあんまり記憶になーい」
「まぁその」
周防は大きな溜息をつくと
「SSFになってからは、のーんびりやってるので上総とかはねぇ……。MF時代は死ぬほど忙しくて馬鹿みたいに殆ど寝ないで遺伝子組んでましたが。だからMFに居た頃は全然……」
するとカルロスが周防をビシッと指差して
「MF生まれだけど俺はコイツに散々厳しく育成されました!」
「あ」
周防はカルロスを見て「あぁ、まぁ、……カルロスの時は……。すまん……」とションボリする。
カルロスは腕組みをして周防に言い放つ。
「お蔭で今の俺があるから、良かったけど!」
思わず驚いた顔でカルロスを見る周防。
カルロスは「次、そこのハチマキ自己紹介!」と穣を指差す。
カナンは穣を見て「いつもそのハチマキしてるの?」
穣は「はい!」と頷いて立ち上がり、ソファの前にある小さなローテーブルに石茶を置く。
「これは俺のトレードマークで気合入れでござんす!」
長いハチマキを手でヒラリとなびかせて
「どうも、十六夜五人兄弟の次男、ALF IZ ALAb447十六夜穣と申します!」
それから護を指差して「アレが四男の護、そしてコレが末子の透」と透を指差す。
周防が穣を指差しながら、カナンに言う。
「ここはちょっと反則技で、遺伝子の複製は禁止されてんですがそれを強引にやってしまったという」
穣、護、透の三人が目を丸くして「複製?」と驚く。
「満の遺伝子を元に作ったんじゃ」
「だからそれが複製だって」
「え……?」
唖然とする穣。
護も「本当に、複製なんですか?」と周防に尋ねる。
「だから五人兄弟と認定されたんだよ。全く同じ遺伝子使ってるから」
穣、護、透は、物凄く嫌そうに大声で
「えーーーーーー!」
「知らなかったとは……」
周防も驚く。
透が拳を握り締めて抗議する。
「だって今まで満の遺伝子を、『元に』、作ったと!」
ジェッソが「モノは言いようだな」と呟く。
周防は右手でまぁまぁと三人をなだめる仕草をしながら
「でも君達が出来て、完全な複製にはならない事が判明したと」
穣が「どういう事ですか」と問う。
「途中でどうしても変化が起きる。例えるなら一つの塊を五等分して育てても途中でそれぞれ変化して全く同じものにはならないと」
「ていうか満が五人いたら相当恐い」
透が「ちなみにあの」と割り込んで「五人それぞれ違った能力にしようとしたって聞いた事あるんですが!」
周防は「らしいね」と言い「遺伝子が変化し始めた時に、どうせならそうしようと思ったらしいけど結局そうならなかったと。よくある事ですよ」
透と護がムッとした表情で「どうせなら、って!」と同時に言い、護が「ちょい待って下さい! 三男の歩までは違う能力なんですよ、俺からダブりなんです! 俺は長兄と同じ怪力、透は歩と同じ風使い、これはどういう」
周防がビシッと護を指差す。
「苦情は貴方の製造師へ。私は知りません!」
「うぁぁ!」
護は天を仰ぎ、透は「くぅー!」と項垂れる。
周防は再びまぁまぁとなだめる仕草をしながら
「んでも五人兄弟が生まれたのは奇跡的な事なんだぞ。しかもこんなに立派に育って。十六夜先生は凄い人だよ、複製遺伝子が成功する確率は限りなく低いので、少なくとも私はやりたくない」
穣は力が抜けたように静かにストンとソファに座ると、頭を抱えて「……満の複製……」と呻く。
護もガックリして「今こんな所で明かされた衝撃の真実……」
透は「でもさモノは言いようだから『元に』作ったって事にしとこう!」と叫ぶ。
護も顔を上げて力強く「そうだ! 『複製』は嫌だ!」
穣も顔を上げて真剣な顔で「今まで通り、『元に』だ。『複製』なんて言葉は聞かなかった! って事で皆さん、宜しく!」と一同を指差す。
周防と何人かが「了解しました」と言う。
昴は「小耳には挟んじゃったけど」とニッコリ。
カナンは笑いながら「いや凄いねぇ。皆、個性豊かで素晴らしい!」と言ってパチパチと拍手してから「面白いねぇ……」と感慨深げに呟く。
すかさずジェッソが穣達を指差して「あの十六夜兄弟は面白いんですよ」
「コラそこ!」と穣がジェッソを指差して「コッチは全く面白くねぇぇい!」
「まぁまぁ」
ふとカナンが周防を見て尋ねる。
「あ、そういえばMKFだったかな。マルクトの霧島人工種研究所は?」
苦い顔で「あぁ……」と唸った周防は「今はもう人工種を作っていません。55年前に人工種製造をやめて、遺伝子等の管理部門だけが残りました。まぁ人工種に関するデータが山ほどある所なので、それらを管理するのはいいんですがね……」
溜息をつく周防に、駿河が「管理しすぎになったと」と言うと
「いやあれでも昔より緩くなったんですよ」
駿河はガクッとして「そ、そうですか」
隣の上総も溜息をついて言う。
「あそこは考えちゃダメなとこだよね……」
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