第19章06 図書館の後、夕飯時。

 暫し後。

 鉱石大図鑑を見ていた四人が受付カウンターに移動すると、複写冊子が出来上がった所だった。

 司書が受付カウンターの上に、かなりの厚さの冊子を出す。

「出来ました。先程の冊子と合わせて複写代が16000ケテラと冊子製本代500ケテラで、合計16500ケテラです」

 周防は一瞬、エッという顔をしてから気まずそうに「結構かかりましたね……」と呟く。

 カナンは「まぁ重要資料の複写が通常の三倍の料金だしな」と言いつつ上着の内ポケットから財布を出す。

「カナン申し訳ない!」

 頭を下げる周防。その瞬間、カルロスがカナンに「待って下さい5000ケテラは出せます!」と言いつつポケットから財布を出して「今日、宿に泊まらなくても良くなったし」

 護も「俺にも1000ケテラ出させて下さい!」と言うが、カルロスが「1000だけか!」と突っ込む。

「いや、ちと手持ちがあんまりないのだー」

 渋い顔をする護に、駿河が「じゃ俺も1000ケテラ出します!」と言いターさんも「じゃあ俺も」

 慌てて周防が「カルロスはともかく他の皆は」と皆を止めようとするが、カルロスが「いいから!」と周防を制止し「アンタの研究は皆に関係がある」と財布から5000ケテラを取り出す。

「そ、そう、かな」

「うむ」

 皆でお金を出し合って、支払いを済ませると、カナンがふと駿河を見て「あれ? そういや貴方は何でイェソドのお金を持ってるの?」と怪訝な顔をする。

「昨日、あの後、有翼種の採掘船と一緒に採掘して、給料を頂いたんです」

「へぇ!」驚くカナンと周防。

 周防は「そんな事があったのか」と言い、カナンが「いくら頂いたの?」と尋ねる。

「一人当たり5950ケテラです」

「ほぉ」

 周防は申し訳なさそうに

「せっかく稼いだお金を……。皆、ありがとう。そしてカナン、本当にありがとう……」

 カナンは「まぁとにかく出よう」と周防を促して書庫から出る。

 皆が書庫から出た所で駿河が「でもその複写、ホントは16500ケテラの価値じゃないですよね、霧島研とかに持ってったら」と言い、周防は「うん」と頷いて「値段はつかないな。もうそういうレベルじゃない。……あ、ところで」周防は立ち止まると「私が今夜もカナンの家に泊まるなら、これからどうする?」と駿河を見る。

 一同、その場に立ち止まる。

 駿河は「我々は船に戻るだけですが、ちなみにもうすぐ18時で、船では夕飯の開始時間です。お二人を黒船の食堂にご招待、という事も出来ますけれども」と言い、カルロスが「多分、混んでるけどな」と付け加える。

 護は「ターさん、ウチの船で夕飯食べたら」と誘う。

 ターさんは手を振って「いやいいよ、俺はどっかで食べて来るから」

 カナンが「ならター君、我々と一緒に食事に行こう!」と言い、駿河に「今夜の予定はどうなってるの?」と尋ねる。

「……まぁ臨機応変なので。なぜですか?」

「ウチでお茶会でもどうかなと」

 駿河はパッと明るい顔になり

「おお! いいですね、ぜひぜひ。希望者募って参加します。何時から?」

「じゃあこれから私とセフィリアと周防さんとター君で食事に行くから、もし良かったら後でウチにおいで。石茶をご馳走するよ。まぁ20時頃に来てくれるといいかな」

 カルロスが「店に何人くらいまで来てもいい?」と聞く。

「席は12席あるから10人かな。もしそれ以上来たら何とかするよ」

「了解です。じゃあ一旦ここで別れるという事で」

 ターさんが「ちょい待って」と言い

「皆で一緒に下の受付に行って、書庫から出たっていうサインしなきゃならない」

「あ、そうなのか」

 カナンが「上の、屋上入り口の受付でも大丈夫だよ」と口を挟んで「ター君が一旦皆と一緒に上に行って、それからウチに来ればいい」と提案する。

「なるほど!」

「ああ、あとお茶会に来る場合、20時だと図書館の入り口もう閉まるから、来る時は駐機場の脇の階段を使って」

 駿河とカルロス、護が「了解です」と返事し、皆「よし、じゃあ行こう」と螺旋階段に向かって歩き出す。

 カルロス達は螺旋階段でカナン達と別れ、階段を上がって最上階へ。

 駿河が何となく「有翼種の建物にエレベーターってもんはあるのかな」と呟くと、ターさんが「荷物上げたりする奴か。あるよ」

「んじゃエスカレーターは無いに違いない」

「なにそれ」

「動く階段」

「へぇ」

 話をしながら一同は屋上入り口脇にある受付カウンターへ。

 ターさんが「書庫の鍵を返却しに来ました」とカウンターに鍵のカードを出すと、係員が四角いタブレット端末を出して「こちらに書庫を利用した方のサインと、今の時間を書いて下さい」と言う。

 四人それぞれ名前を書き、タブレットを受付に返す。係員はそれをチェックして

「確認しました、これで返却完了です」

 ターさんは護達に「じゃあ俺はカナンさんの所に行くよ。また後で!」と言い、護は「ほいさー」、カルロスと駿河は「うん」と返事。

 ターさんと別れたカルロス達はすぐ脇の屋上出入口から駐機場に出る。

 歩きながら駿河が護に言う。

「では護さん、剣菱船長にダアトの件を伝えといて下さい」

「うん。……ちなみにアンバーはすぐそこ、黒船はその奥に停まってるやん。このまま俺と一緒にアンバー行って直接話すという手もあったりするけど」

「え。俺がアンバーの中に? まぁ他の採掘船の中に入る事って滅多に無いから興味はあるけど」

「お」

 続いてカルロスも「お」

 護は楽し気に「他の船って興味あるよね、行っちゃう?」とニヤリ。

 駿河も「行っちゃうか」とニヤリ。

「ヨシ行こう!」

 護はアンバーへ走り出し、駿河も「行ってしまえ」と走り出す。続いてカルロスも走り出す。



 図書館屋上の駐機場に停まっているアンバーのブリッジには剣菱が一人だけで、他は誰も居ない。

 船長席でのんびり鉱石図鑑を眺めながら、時折時計に目をやる。

 (……もうすぐ夕飯スタートの時間なんだが黒船から連絡ないなぁ。護も戻って来ないし。まぁ話に華が咲いて長居してんだろうな)

 そんな事を思っていると、開け放たれたブリッジ入り口から通路を駆けて来る足音が聞こえる。

 護の「船長、ただいま戻りました!」という声と同時に「お邪魔します!」という駿河の声。

 剣菱は「おか……」と言い掛けてブリッジの入り口を見て「え?」と驚く。

 護の隣に駿河が居て「黒船に戻るついでにアンバーに寄ってみました!」とニッコリ。

「はぁ」

 意表を突かれた剣菱は「い、一体、どしたん?!」と怪訝な顔で聞く。

「実は明日、向こうに戻る時に周防先生がダアトの遺跡に寄りたいというので、どうしたもんかと」

「ほぉ。俺は別にいいけど、一応皆に聞かないと。あ、周防先生は?」

「周防先生は今夜もカナンさんの家に泊まりで、この後20時からカナンさんの家で石茶のお茶会をするので参加したい人はどうぞ、と」

 通路に居たカルロスが入り口からブリッジ内に顔を出して「先着10人位だけれども」と付け足す。

 剣菱は「あ、やっぱりアンタも居たんか」と言ってから駿河に

「夜は管理さん対策会議だった気がするんだが」

「カナンさんのお茶会でも対策会議は出来ますし、むしろ周防先生もカナンさんも居るからご意見伺えますし」

「そう、そこだよな。そこ大事」

 大きく頷いた剣菱は

「まぁ全体で会議すんのは明日でもいいって事で、とりあえず皆に聞かないとな!」

 そう言って立ち上がるとブリッジを出てドアを閉め、ドアに鍵を掛けてから駿河を見て言う。

「しかしビックリした。まさかアンタが来るとは」

 駿河は剣菱と並んで通路を歩きつつ

「こんな時でもないとアンバー入れませんから」

「入りたかったんか」

「やっぱ他船って興味あるじゃないですか。どんなかなって」

「そうかな」

 首を傾げる剣菱の背後から、護が尋ねる。

「ちなみに船長、その鉱石図鑑は船長のですか?」

 剣菱は手に持った鉱石図鑑を少し上に掲げて見せて

「いや機関長が買ったのを借りて見てただけ。アンタらが戻って来るの遅いから、一人でブリッジで留守番してたんだ」

 通路の先に食堂の入り口が見えて来る。駿河が剣菱に言う。

「実は周防先生を迎えに行ったらカナンさんと図書館に行ったと言われて」

「あらま」

「図書館に行ったら周防先生が人工有翼種の本の複写を」

「人工有翼種?」

 食堂に入りかけた剣菱は、ちょっと入り口で立ち止まって駿河を見る。

「はい。ダアトの御剣研の」

「御剣研って、アレか」

 たまたま食堂の入り口付近に居た穣が、怪訝な顔で「俺が遺跡で見つけた奴です」と口を挟む。

 駿河は「つまり霧島研にも無い情報を図書館で得たと」と言い、剣菱は「ほぉ……お宝発見だな周防先生」と呟く。

 穣は駿河を見て「何の話? ってか何で黒船の船長が居るの」

「俺は単にアンバーの中に入ってみたかっただけ」

「ほぇ?」

 夕飯開始時刻なので食堂内は混んでいて、既に席に着いた数人以外は配膳カウンター前に並んでいる。

 剣菱がその場で皆に向かって「あー……とりあえず、明日、本部に戻る時に周防先生がダアトの御剣研に寄りたいんだと。いいかな皆」と尋ねると、各自「はーい」「オッケー」「いいですよー」等と返事をする。

「まぁ賛成多数だな。あと今夜、20時からカナンさんの家で石茶のお茶会があるそうだが、行きたい人、どの位いる?」

「え、今夜は管理さん対策会議では?」

 穣の問いに剣菱が答える。

「それは明日でもいい。むしろカナンさんのお茶会の方が有意義な案が出そうな気がする」

「よっしゃ、行きたい!」

 穣が手を挙げ、透も「はい!」マゼンタも「行きたい!」マリアや、その他何人かが「行きたい」と手を挙げる。剣菱はそれを見て

「結構いるなぁ。俺も行きたいんだが先着10名だろ。黒船さんの希望者多そうだし」

 護が剣菱の背後から「じゃあ行きたい人は20時ちょっと前にタラップ下に集合して、そこでじゃんけんして決めたら」と言うと、穣が「それだ!」と言い、剣菱も「そうしよう」と護に同意。

 護は「ところで皆、ニュースだよー」と言いつつ持っていた封筒から号外を取り出して広げ、皆に見せる。

「これ!」

 一同「おお!」と号外に注目。

 マゼンタが「やった新聞載ったぁ!」と叫び、マリアが「ダアトの記事もあるー!」と指差し、穣は透に「写真、デカデカと使われたぜ!」と言い、透は「最高画質で出しといて良かったぁ」と安堵。

 皆の騒ぎを見ながら駿河は「では私は黒船に帰ります。お邪魔しました!」と一礼すると、カルロスと共に食堂の入り口から去る。穣が、少し苦笑しながら呟く。

「……あの人、だんだん面白い人になってきた」

 剣菱は「うむ」と頷いて「この先楽しみだな」とニヤリ。


 駿河はカルロスと共にアンバーのタラップを降りる。

「これでブルー、アンバー、黒船と、採掘船五隻の内、三隻制覇しました!」

 カルロスは思わず吹き出して

「ふっ! 私なんぞシトリン、レッドコーラル、ブルー、アンバー、黒船と五隻全て制覇しております」

「あれ、ブルーにもいたの?」

 駿河は立ち止まってカルロスを見る。

「1年だけ居ましたよ。その後アンバーに2年で黒船です。当時は穣より満の方がまだマシだと思ってましたが今、振り返ると満より穣の方がよっぽどマトモだった」

 それを聞いて笑い出す駿河。

 カルロスは「行こう」と言って走り出し、二人は黒船へ戻って行く。



 その頃、既に営業を終えたカナンの店では、周防がテーブルの上に採血器具を広げてターさんの腕から血液を採取していた。その様子をセフィリアは立ったまま、カナンは近くの椅子に座って見守っている。

 ターさんは採血中の腕を見ないように顔を背けたまま「まさかこんなとこで採血されるとはー」と渋い顔。

 周防は腕から採血器具の針を抜き、そこをアルコール綿で押さえると

「ここしっかり押さえて。血が止まるまで。止まったらそこの小さい絆創膏貼って」と言いつつ血の入った採血管を専用の保存容器に入れ、手早く後片付けを始める。

「はい」アルコール綿の上から腕を押さえつつ

「……採血したの何年振りだろう……」

「健康診断とか行かないの?」

「今は行かなくなった。昔、病気してた頃は行ってたけど」

「え」

 周防に続いてカナンも「病気?」と怪訝な顔。

「俺、昔はよく病気してたんです」

 カナンが少し驚いた様子で「……意外だねぇ」と言い、セフィリアは「どんな病気だったの?」と遠慮がちに尋ねる。

 ターさんは「まぁ色々……」と口籠り、

「でも原因が分からないし何でこんななのかなと色々悩んで、そしたらある先生が、好きな事を思いっきりやったら良くなるっていうから、好きな事をやり始めたら本当に治った」

 カナンは「ほぉ」と言い、周防はターさんを見つめながら内心、驚きつつ納得する。

 (……それでカルロスや護君に対して理解があったのか……)

 セフィリアが「いい先生に出会ったわね」と言い、ターさんは「うん」と深く頷いてから「好きな事って言われても、最初は自分が何をしたいか分からないし、周りの人にどう思われるか怖くてなかなか出来なかった。でもとにかく色々やってみた。そしたらなぜか採掘師になってて……病気がちだった奴が採掘師ですよ。あり得ないでしょう」とアハハと笑う。

 周防は真面目な顔で「いやいや」と言い、カナンは「人生は奇想天外だからねぇ」と笑みを浮かべる。

 ターさんは続けて言う。

「採掘師してたらどんどん健康になって、なぜかどうしても『壁』の外に出たくなって。出たらもう中に戻りたくなくなった。洞窟に寝泊まりしようが食べるものが無かろうが、とにかく楽しかったんです。仲間と一緒に変な小屋作って住んだり……今はあんな立派な家になりましたけどね!」

 カナンが「あの家、どうやってあそこに建てたの?」と興味深げに聞いた途端、セフィリアが「待って、そろそろ夕飯を食べに行かないと」と言い、カナンは慌てて椅子から立ち上がる。

「そうだった。じゃあ話の続きはレストランで食事しながらしよう!」


←第20章01へ