第19章05 図書館にて
やがてコクマの街の上空に到達した二隻は、図書館の屋上駐機場に横並びに着陸する。
アンバーと黒船のタラップが下りて、黒船からはA4サイズの封筒を持った駿河に続いてレトラとカルロスが、アンバーからは護と、ショルダーバッグを肩から下げたターさんが出て来る。護は駿河を見て「あれ、船長まで来たの?」と少し怪訝そうに言う。
「うん、まぁ一応、周防先生を預かった代表として迎えに行こうかなと。あとカナンさんに挨拶もしたいし。もしかすると今回はここでカナンさんとお別れになるかもしれないから」
「あ、そうか」
レトラは皆に「では私はこれで。また明日の朝来ます」と言うと、ちょっと手を振ってからバッと飛び上がり、去って行く。
「お疲れ様です」
皆でレトラを見送り、図書館の屋上入り口へ歩き出そうとした瞬間、ターさんが「待った!」と声を上げて「最短ルートがあるよ、護君とカルさんは浮き石着けてるじゃん。俺が駿河船長を抱えて飛ぶから二人はそこから飛び降りる!」と屋上の端を指差す。
護が「なるほ」、カルロスが「そういう手があったか。よし飛び降りよう」と言い二人は屋上の端へ走って行く。
ターさんは駿河を背後から抱えて屋上の端まで飛び、二人に続いて屋上からゆっくり下へ飛び降りて地面に着地する。カルロスと護は少し驚いた様子で、護が駿河に「この高さ、よく飛び降りましたね、怖くなかったですか?」と尋ねる。
「ん? ……だって自分で飛び降りる訳じゃないし、さっき街で同じ事してターさんと空飛んだから、今はそんなに怖くないな」
「ほぉ?」
一同はカナンの店に向かって歩き出しつつ、ターさんが言う。
「アクセ屋の後、駿河さんと二人になったし、面倒だから抱えて飛んで移動してた」
「なるほ」
四人はテクテク歩いてカナンの店へ。
店のドアを開けると、中には何人かの客がいる。
カウンターに居るセフィリアが四人を見て「いらっしゃい……あら」
護が「周防先生を迎えに来ました」と言うと、セフィリアは少し困った顔で「今、二人ともここに居ないのよ」
「いない?」
「お昼過ぎに図書館に行ったまま、まだ戻って来ないの。閉館時間は夜7時だからその頃には戻って来ると思うけど」
「あらま。ちなみに荷物はここに?」
「うん、荷物はウチに置いてあるわ」
カルロスが「分かりました。とにかく図書館に行ってみます。では」と言い、四人は店を出る。
「さっき探知すりゃ良かった。てっきり店に居るモンだと思って油断した!」
悔しそうに言うカルロスに護が呆れる。
「そこまでこだわるか。流石は探知マニア」
ターさんが「さっき飛び降りないで図書館の中に入ってたら出会ってたかもねぇ……」と渋い顔をする。
護は「まぁええやん、すぐそこだし。行くぞ走れー!」と言いダダダと走り出す。
一同は図書館の正面入り口から中へ。
駿河は「ホントでっかい図書館だなぁ……」と周囲をキョロキョロ見回す。
カルロスは「カナンさんたちは3階の奥の部屋に居る」と言いつつ受付から少し行った所にある螺旋階段を上がり、皆もそれに続く。そして3階の奥へ。
「あれ」
進路の先のドアに『関係者以外立ち入り禁止』と書かれているのを見て立ち止まるカルロス。ドアの上を見ると、『書庫』と書かれたプレートが。
「これは探知出来なかった……」
護は「しゃーない」と言い「立ち入り禁止の書庫かぁ。どうやって入るんだ、これ」
ターさんはショルダーバッグを肩から外して床に置くと「いいよ俺、下の受付で聞いて来る」と言いバッと飛んで通路を戻り、螺旋階段へ。カルロスはドアの小窓から書庫の中を覗く。
「ここで一体何をやってんだカナンさん達は」
護が言う。
「そういや、ここに鉱石大図鑑とかいう凄い本があるって言ってたから、それかな。俺も見たい」
「……周防は鉱石には興味なしだぞ?」
「あら」
やれやれ、と言ってドアから離れたカルロスは、床に置かれたターさんのショルダーバッグに目を留める。
「これ、ターさん、何を持ち歩いてんだ」
すると駿河が「どこで泊まってもいいように、お泊りセットだって」と言い、護も「うん、遅くなって実家に泊まれない時とかの為に持って来たと。アンバーに置いといたら? って言ったら、いや宿に泊まるから持ち歩くって」
そこへターさんがクリップボードとペンを持って急ぎ飛んで戻って来る。
「皆、これに名前書いてー」
三人はクリップボードの『書庫利用者名簿』に名前を書く。
「よし行って来る!」
再び飛んで通路を戻るターさん。ふと護は駿河の持つA4サイズの封筒を指差す。
「その封筒、なんですか?」
「あ、これはさっきレトラさんが持ってきてくれたもので」
封筒から号外を出して護に見せる。
「おお!」
号外を受け取って、表を見て驚く護にカルロスが「裏にダアトの記事もあるぞ」
護は号外の裏を見て「おー! ニュースになった!」
駿河は「それアンバーの分ですから、そのまま貴方にあげます。これも」と封筒を護に差し出す。
「ありがとうございます」
封筒を受け取り、号外をそれに戻した所にターさんが「鍵もらって来たー!」と言いつつ飛んで来る。自分のショルダーバッグを拾い、ドアの前に立ち、四角いカードをドアノブの上の四角い部分にかざすと、そこが光ってカチャッという音と共にドアが開く。
「開いた。入ろう」
一同は書庫の中へ。入ってすぐの右手には書庫受付があり、左手には本棚の並ぶ通路が伸びている。その通路を少し歩くと大型本のコーナーが見えて来て、護が「あ! 鉱石大図鑑だ!」と前方の四角い柱の前に設置された本立てに立て掛けてある大きな本を指差す。
「こんなデカイのか!」
護は本の傍に駆け寄り、表紙をめくって「うわぁ」と中表紙の美しい石の写真に目を輝かせる。
護の隣に来た駿河もそれを見て「何だか凄いリアルな写真だ」と呟く。
ターさんが二人の背後からそれを見て言う。
「これケテル・イェソド混合石だ」
駿河がターさんの方に振り向いて
「ああ、首都ケテルにあった柱か」
「うん。この混合石は、首都以外には大死然にしか無くて、しかも滅多に見つからない貴重な石なんだ。いつか見つけて採りたいなぁ……」
護も振り向いてターさんに言う。
「採ろう! 大死然に行って」
三人の背後からカルロスが「それより一旦、周防とカナンさんの所に行かないか」と言い、護は「そうだった」とゆっくり本を閉じる。一同は、そのすぐ横の階段から上の階へ。階段を上がり切った途端、何冊も平積みにした本を抱えて歩いて来る周防と出くわす。
「あ」という護の声と同時に周防が
「あれ。どうした……って迎えに来たのか」
「はい。そろそろ夕方なので」
「もう夕方か……」
周防は溜息混じりに呟いてから
「ちょっとこの本の複写を頼んで来る」
護は「複写?」と言って「あっ、その本、俺が持ちます」と周防から本を受け取る。平積みの本の一番上には書類を挟んだクリップボードがあり、護はそれを見て「複写申請書?」と怪訝そうに言う。
護の背後の駿河が「図書館の本のコピー取る時は申請しなきゃダメ、って奴かな」と言い、護は周防に「やっぱイェソドでもそうなの?」と怪訝そうに聞いて、周防は「うん」と頷き「本当は借りたいんだけど無理だからね……」と残念そうに呟きつつ、先頭に立って階段を下り始める。
続いて護も階段を下りつつ複写申請書に書かれた本のタイトルを見て
「『人工有翼種遺伝子概説』……なんか凄そうな本ですね」
「凄すぎる。何せあの霧島研に無い情報が詰まった本だからな」
駿河と護が同時に「えっ!」と驚いて、慌てて駿河は口元に手を当てる。
「静かにしないと」
階段を下りた周防は二人の方に振り向いて言う。
「カナンが図書館に人工種の本があるというので来てみたら、とんでもない本が沢山あった」
「ほぉ……」と驚きの声を漏らす二人。
ふと駿河が「あれ。ターさん達は」と気づいて背後を振り向き階段の方を見ると、「まだ上か」と呟く。
その頃、カルロスとターさんは書庫の更に奥、椅子とテーブルが置いてある閲覧コーナーにカナンと一緒に居た。
カナンはテーブルの上に置いた数冊の本の中から一冊手に取り目次を見ると、「うーん……この本には無いな。じゃあ複写はこの三冊だけ」と選んだ三冊の本と複写申請書のクリップボードをカルロスに渡す。
「残りの本は片付けだ」
ターさんが「はい」と返事して残った本を積み重ねて両手で持ち上げる。
カナンは本棚の近くへ歩いて行き「全部、ここの棚の奥の方の本だよ。ラベル見ると分かる」と言いつつ手で指し示す。
「ほいー」
ターさんは本棚と本棚の間の通路へ。
カナンはカルロスに「この後、君達はどうするの?」と尋ねる。
「今晩はコクマに泊まって明日、鉱石採掘して向こうに戻ります」
「え。じゃあ周防さん、今日は採掘船に泊まるのか」
「はい」
カナンは、少し名残惜し気にカルロスに言う。
「……もし良かったらもう一晩、周防さんをウチに泊めさせてくれないかな。明日の朝、お返しするから」
「あ、いいですよ。じゃあそうしましょう」
ターさんが「本、戻しました」と言いつつ二人の元へ戻って来る。
カルロスは「では下の階へ」と言い、三人は通路を歩いて階段へ。階段を下りながら、カナンは鉱石大図鑑の所に駿河と護が居るのに気づく。
「それ、スゴイ本だろ」と声を掛けると護が「はい!」と頷き、駿河も「凄いですね」と返事する。
カナンは背後のカルロスに「それ申請してくるから、あの本見てていいよ」とカルロスの持つ本の前に両手を差し出す。
「いや大丈夫です、すぐそこだし」
後ろのターさんは「じゃあ俺は大図鑑を見てる」と言う。
カルロスとカナンは書庫受付へ。受付前には周防が立っていて複写が出来上がるのを待っている。カルロスは持っていた本とクリップボードを受付カウンターの上に置き、カナンが受付に「これも複写お願いします」と頼む。
「はい」
受付の司書がそれらを受け取る。
周防がカルロスに言う。
「複写が出来るまで時間かかるから、皆とあの本を見てていいよ」
「いや、いいよ。ちなみにどんだけ複写とったんだ」
「んん?」
周防はカウンターに置かれた薄い冊子を手に取って
「これが重要資料保管庫の本の複写で、あとは出来上がらんと分かりません」
「え、これ複写? 本かと思った」
「ここは複写を簡単な冊子にしてくれるサービスがある。実にありがたいんだが……」
そこでカナンを見て申し訳無さそうに
「カナン、かなりの金額になると思う、申し訳ない!」
カナンは笑って「いいよ足りなかったら家に戻って取って来るから」
カルロスが言う。
「私が払っても構いませんよ」
「お?」
興味深げにカルロスを見る周防。
カナンも「おお」と言ってニヤニヤ笑いつつ「まぁまぁまぁ」とカルロスの肩をパンと叩く。
カルロスは若干照れたように「それ見せてくれ」と周防から複写の冊子を受け取り、パラパラと見ながら聞く。
「何の本の複写?」
「御剣さんが書いた本だ」
「御剣っていうと、もしかして……」
カナンが「黒船の皆がダアトに行ったそうじゃないか。そこに御剣研があったと」と言い、カルロスは少し驚きつつ「すると何年前に書かれた本?」と尋ねる。
周防が「300年以上前だな。かなりボロボロな本なので複写は渋られたが何とか懇願して取ってもらった」と答える。
「300? ……写真を見ると、そこまで古くない建物だったが」
「いや建物は建て替えられるだろ、名前はそのままで」
「ああ」
カルロスは冊子を眺めつつ「そんな貴重な複写なのか……」
「うん。この図書館には霧島研には無い人工種の情報が沢山ある! まぁ霧島研には今の人工種のデータがある訳だが」
カナンが続けて「つまりこの図書館と霧島研を足すと、人工種の昔と今が繋がるって感じだ」
「ほぉ」
ふと周防が「あ、そうだ」と言い、カルロスに「帰りにダアトに寄ってもいいかな」と聞く。
「船長に聞いてくれ。多分行くと思うけど」
「あとター君の血液を採りたい」
「じゃあこの後だな。ちょっとあっち行ってくる」
カルロスは冊子をカウンターに置き、鉱石大図鑑を見ている護達三人の方へ。
三人の背後に近付くと、護とターさんの声が聞こえて来る。
「これはカルさん案件だ」
「うん、こういうのカルさん好きそう」
カルロスが「何が」と言うと、駿河が振り向いて「名前の無い石」
護はカルロスに手招きして「これ見てよ」と言い、大図鑑の石の写真を指差して
「ケテル・イェソド混合石が更に変化した石なんだけど、まだ有翼種の誰も採った事が無いという。名前が無いから死然雲海AとかBとか暫定的に付けてある」
「ほぉ」
駿河が言う。
「昔、人間が雲海で拾ってイェソドに持ってきたらしい」
カルロスは「人間が?」と驚いて「って事は黒石剣みたいに人間が触れる石なのか」
「だろうね」
護は「現物はもう無くて、残ってるのはこの写真だけなんだってさ」と言い、ターさんは「もし、これを見つけて採ってきたら、好きに名前を付けられるぞ! 人型探知機の血が騒ぐでしょ?」とカルロスを指差す。
「むぅ? ……ま、まぁな……!」
「図星だな」
ターさんはニヤリと笑い、護もニヤニヤ笑いながら
「いつか探しに行こう!」
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