第19章04 駿河と剣菱の想い
午後3時半近く。
小さな紙袋を抱えたジェッソと、大きめの紙袋を抱えた穣が、パンを食べながら採掘船停泊所への道を歩いている。
「やっぱ色々見聞すると視野が広がるわな。街に行ってよかった」
穣が言うと、ジェッソは右手に持った薄紫の丸いパンを食べて
「うん。最初は、そんな遊んでるヒマあるかと思ったりしたが、やりたい事はやってみるもんだな。強制的に街に行く事を決めたカルロスさんに感謝だ。とはいえ」
そこで落胆した顔になると、フゥと溜息をついて言う。
「こうやって色々経験すると、自分達がどれだけ管理に縛られてるかを痛感してしまって益々向こうに戻りたくなくなるなぁ」
穣も「全くだよな」と言いつつ自分の持つ紙袋から丸くて白いパンを取り出すと「……まぁ夕飯後、また二隻の皆で集まる筈だから、そこでここからどうするか管理さん対策会議だな。だけど正直、戻りたくねぇなぁ……」ションボリしながらパンを齧ってモグモグして「適当に選んだけどこれ美味いな。リンゴのやつ」
「ブルーベリーも美味いぞ、モチモチしてて。それにしても、二隻の皆、随分仲良くなったなぁ」
「ライバルと仲良くなるとは」苦笑する穣。
「エッ? ライバルって誰が?」
「うるせ。そもそもライバルが居ないとそっちも本気出せねーだろ」
「なにぃ……って、あれは!」
ジェッソは何かに気づいて空を見上げる。
「んん?」
穣も空を見上げて「あ、ターさんが飛んでる。……背中に誰か背負ってんな。あれ誰だ? 制服なら分かり易いんだが……」
「何となくウチの船長っぽい……」
「へ? 駿河船長?」
上空で、しかもやや遠方なので分かり難いがよくよく見ると、ターさんの背中に重なっている人物は髪の色が黒い。二隻の中で髪が黒いのは数人、服の色も確かに駿河が着ていた服の色だ。
「なんだなんだ?」
穣は不思議そうに「何かあったんかな。ターさんに送ってもらうなんて」
ジェッソは「って訳でも無いような。なんか空の上グルグルしてるぞ」
二人は「何をしてるんだ?」と首を傾げる。
ショルダーバックを身体の前側に下げ、両腕を広げて大の字で飛ぶターさん。
駿河はその上に重なり、両腕をターさんの両肩から前側に回しておぶさるようにターさんに掴まっている。
「気持ちいいー! やっぱ空っていいよな!」
駿河が叫ぶと、ターさんも
「風が気持ちいいよね!」
「俺いつもブリッジだから風なんて感じられないよ、いいなぁ有翼種って。自分で飛べるって羨ましい!」
ターさんは「いいだろ」と笑う。駿河は楽し気に
「そういや俺、昔は休みに小型船レンタルして一人でアチコチ飛んでたなー。いつの間にかやらなくなったけど」
「空が好きなの?」
「だって空って広いじゃん。広すぎて、位置を見失うと怖いけど、凄く解放感あるよね。あと色が綺麗で、青空とか、夕焼けとか、星空とか、何でこんなに綺麗なんだろうって思うんだ」
「それで空の船乗りになったんだね!」
駿河はアハハと笑って「あと人工種が好きだってのもあるよ。なんかさ、人間には無い能力を持ってて凄いなって。でも彼らは人間の為に窮屈な生活をしていて、じゃあ俺は人工種の自由の為に頑張るぞーとか思ってたんだよ最初は。ところが実際に採掘船に乗ったらそんな理想は吹っ飛んで、日々必死に自分の仕事するだけで精一杯……」そう言って少し暗い顔になる。
ターさんは、少し間を置いてから
「……採掘船に乗って、後悔したの?」
「いや。船は好きだよ、操縦するの楽しいし……。ただ船長になると、色々とやる事が増えて大変にはなる、けど、でも……」
駿河は暫し黙ってから、独り言のように呟く。
「ずーっと副長やってるよりは、一度は船長を経験した方がいいと思うんだ……いやまぁずっと船長のままでもいいけど、その後もっと大きな船に副長として入るってのも有り得るし……何にせよ、船長やると、色々学んで成長するから、チャンスがあるなら掴ませたいし掴んで欲しいんだけどな……」
「むぅ? 誰に?」
なんか途中から話がすっ飛んだぞ、とターさんは怪訝に思いつつ、ふと「あっ、最初から副長さんの事を言ってたのか……」と気づく。
「うん。まぁ総司君の事でもあるし、自分の事でもある。だって俺……、この歳で黒船船長って、早過ぎるよ。って言ったら怒られそうだけど」
「いや、分かるよ。もっと別の世界を見てからでも良かったって事だろ」
「うん。この歳で黒船船長になった事は凄まじく大きな経験だけど、ずっと居座るのは……いやまぁ、このままずっと黒船船長を続けるのも大きな学びと経験ではあるけどさ。……どっちでもいいんだろうなぁ……」
突然出て来た駿河の本音に驚きながら、ターさんは「なるほど……」と呟く。
駿河は少し恥ずかし気にアハハと苦笑して
「ターさんは、二隻のメンバーじゃないし、有翼種だから、ちょっと話してしまった」
「まぁね。有翼種の目から見ると、アンバーはともかく、黒船は『何で船長だけ人間?』って思う人も居るしね。でもそれは皆に言えないよね」
驚いた顔になる駿河。
「……そう、そうなんだよ」
理解された驚きと嬉しさを噛み締めつつ
「でも迷っててさ。だって船長って大変だし、人工種だと、尚更……。彼に物凄い重荷を背負わせる気がして言い出せない」
「でも俺は人工種だけの黒船って見てみたいなぁ。貴方が黒船から居なくなるのは寂しいけど」
アハハ、と駿河は満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう、ターさん。……とりあえず今は、ジャスパーに戻って管理とどうするかが第一なので、その色々が落ち着いたら……いつか、言い出そうと思ってる」
「うん。まぁでも、彼を支えたい人は多々いると思うよ」
「……そうだね……ただ、期待は、時に重荷にもなるから……」
微笑して、黙った駿河はふと、下に目をやってジェッソと穣に気づく。
「あれ。ジェッソさん達がこっちを見てる」
「あの二人、さっきからずーっと見てたぞ」
ターさんは笑って「よし、そろそろ降りよう」
「そのうちまた一緒に飛んで下さい!」
「勿論!」
ターさんは身体を横にしたままゆっくりと降下し、徐々に身体を立てながら、採掘船停泊所の入り口で二人を見ていたジェッソと穣の前に駿河と共に着地する。
穣が「一体、何してたん?」と聞くと、ターさんが「空の散歩!」、駿河が「です!」と言って二人共ニッコリ笑う。
「はぁ。なんか珍しい組み合わせ」という穣の言葉が終わらない内にターさんはジェッソの持つ小さな紙袋を指差して「それ妖精クッキーだな!」
駿河が「なにそれ」と言い、ジェッソは「こんなのです。少し食っていいですよ」と駿河の前に紙袋を差し出す。
「おぉ」
駿河は中のクッキーを一つ摘まんで「カワイイクッキーだなぁ」と言い、パクリと口に入れる。
ターさんは「可愛くて、美味いのだ」と言ってから
「街でよく売ってる名物クッキーだから、紙袋見ると多分それだと分かる」
「なるほど」
ジェッソは穣に「パンもう一個くれ」と言いつつ穣の持つ大きな紙袋に手を突っ込み、白い丸パンを取り出す。
穣がターさんと駿河に言う。
「石屋巡りしてたら昼飯食べる時間無くなったので、さっき適当にパン買って来た」
ターさんが「え、じゃあそれ昼飯?」と聞くと
「うん、あとその妖精クッキーな。そっちはどこ行ってきたの」
「……宝石屋」
「えっ?」
穣が怪訝そうに聞き返し、丁度パンを齧って口に入れたジェッソも驚いた顔をする。ターさんと駿河はアハハと笑い出し、駿河が「後で女性メンバーに聞くといいよ」と言ってから「まぁこっちは途中から各自自由行動になったんで、俺はちょっと店寄ってからターさんと昼飯食べてお茶して空の散歩しながら戻った」と答える。そこへ遠方から話し声が聞こえて来て、見れば剣菱とマゼンタ達が停泊所への道を歩いて来る。
ターさんがそれを指差して言う。
「あ、皆、戻って来た」
ワイワイと楽し気に騒ぎながら道を歩くマゼンタ達7人。カルロスと上総は居ない。
悠斗はファァと欠伸して「船に戻ったら個人的な雑用して、あとはメシまでゴロゴロかな。順番次第では早めにシャワー浴びて寝れそう。なんか幸せだー」と両腕を上げて万歳する。
隣を歩くオーカーが「なんか、普通の休みの日よりも自由な感じがする。なんでだろ」と言うと、悠斗は「そりゃー管理さんのお目目が無いからさー」と返してアハハと笑い、少し前を歩くオリオンも振り向いて「告げ口されませんしね、人工種が街で好き放題してても」とニッコリ笑う。
剣菱の背後を歩くマゼンタは、至極真面目な顔になると
「俺は今日、船長の為に物凄く頑張るって決意した」
「ほぇ?」
思わず驚きの声を発する剣菱。
マゼンタの隣のオーキッドも「俺も船長の為に頑張る! 大人になる!」と言い、悠斗がニヤニヤしながらマゼンタ達を見て「なんだなんだー?」続いてオーカーが「カルロスさんにも感謝しとけよ?」と一言。
マゼンタはオーカーを見て「うん、カルロスさんにも感謝するけど俺、アンバーだから」と言い、剣菱の背中に「船長、今日はありがとうございます! また遊びに来ましょう! 仕事を頑張って、今度は俺達が船長に美味しいものをご馳走します!」
続けてオーキッドも言う。
「俺達のワガママに付き合ってくれた恩返しします!」
二人の真面目ぶりにオリオンも慌てて「船長、今日はありがとうございました!」と言い、大和も「ありがとうございます!」と言い、悠斗とオーカーも少し照れ臭げに、二人共「船長、本日はありがとうございました!」と感謝を述べる。
「なんだなんだ、お前ら一体どうした?」
剣菱は恥ずかし気に苦笑して「お前らイイコ過ぎるぞ……!」と言いつつちょっと皆の方に振り向くと「照れ臭いからあんまり言うなや。俺はノンビリしてただけだ、お前ら普通に頑張ってたらそれでヨシだからな!」
「はいっ!」
「はぁーい」
マゼンタ達はそれぞれ嬉しそうに返事する。
停泊所入り口の穣達の所に近付くと、マゼンタが目敏く穣を指差して
「パン食ってる!」
「あげないぞ!」
ジェッソが「クッキーならちょっとあげよう」と言った途端、大和がサッと紙袋を指差す。
「妖精クッキーだ!」
剣菱が苦笑しながらジェッソに言う。
「こいつら、もう散々食ったので何もあげないで下さい」
穣が「何を食べて来たの」と聞くと、オーキッドが「色々!」と言い、マゼンタが「アイスとかスイーツ食べ歩き!」と言い、悠斗が「さらにハンバーグとかガッツリ食ってた」と付け足す。
「流石は食べ盛り……」と呆れる穣。
駿河は剣菱に「カルロスさんは?」と尋ねる。
「あぁ上総君と一緒に二軒目の石茶屋に行った」
剣菱はそう答えてから穣とジェッソの方を見て
「石屋はどうだった?」
穣は「凄い色々勉強になった」と言い、ジェッソは「可能性が広がりましたよ、そのうちジャスパーの石屋に石の売り込みをしましょう!」と言って剣菱と駿河を交互に見る。
「売り込み?」「何を?」
剣菱と駿河が怪訝な顔で尋ねると
「何を売るかはこれからですが、仕事の幅……つまり扱う石の種類を広げる為にはまず石屋を味方につけないと」
ジェッソの言葉を聞き剣菱は感心したように「ほぉ」と言い、駿河は「いいけど俺、石のことはよくワカラン……」と首を傾げる。
穣が「大丈夫、それ採掘監督がやりますから」と言い、ジェッソも「石の事は採掘監督の仕事、船の事は船長の仕事」と言って、駿河はふと「あ、そういやカルナギさんって船長だけど採掘監督でもあるような」と呟く。
剣菱が言う。
「そうそう、カルナギさんは元から採掘師で後から自分の船を持った人だからな。船によって色々で採掘師が船長してない場合は別々もあると」
「そうでしたか」
そこへ「ただいまー!」と大きな声が聞こえ、一同が声の方向を見ると護が皆の方へ走って来る。その背後にはマリアと透。
皆、「おかえりー」と返事する。
一同の元へ走って来るなり護は穣を指差して「パン食ってるし」
「皆して言う! 俺らの昼飯じゃい。石屋巡りで食うヒマ無かったの!」
穣がそう言っている間に護は剣菱の前に立ち、護に追いついたマリアと透がその両脇に立つ。
「船長! プレゼントがあります。俺と透とマリアさんで選んで作りました」
護は右隣のマリアに手で合図し、マリアは手に持ったベージュのコットン地のミニバッグからアンバー色の小さな巾着袋を取り出すと、両手に乗せて、「はい!」と剣菱に差し出す。
剣菱は「プレゼント? 何買って来たんだ」と小さな巾着袋を手に取り、開けて中を見る。
「おお」
中から濃い黄色とオレンジ色の石のブレスレットを取り出して
「……これ、アンバーやん」
護が「はい!」とニッコリ笑い、透も「そうです、アンバーのブレスレットです!」そしてマリアが「駿河船長がオブシディアンのブレスレット作ってたから」と言った所で剣菱が「えっ」と驚いて駿河を見る。
「アンタ、アクセ屋行ったんか」
「はい。作りたいものがあったので」
駿河は剣菱の方に左腕を出してオブシディアンのブレスレットを見せると、照れつつ「これ」と言う。
「ほぉ!」
ジェッソや穣達も「おぉ」と驚く。
マリアは「……だから剣菱船長にもアンバー着けて欲しいなって」と言い、それを聞いた剣菱は嬉し気な顔で「うんうん。着けるよ」と頷き、早速手首にブレスレットを着けて、満面の笑みで「ありがとう!」
護はそれを見て「ブレスレットのサイズ、いい感じ。きつくないですよね?」と尋ねる。
「うん、全く問題ないぞ」
「良かった」
護、透、マリアの三人は嬉し気に微笑む。穣は剣菱に「良かったですね、船長!」
「うん、いやぁ驚いた」
信じられない面持ちで皆の顔を見ながら、剣菱は、人生マジで奇想天外だな、と思う。
マゼンタ達が『ありがとう』と言ってくれたり、護達がプレゼントを買ってきたり。
自分はただ自分の信念に従って、やっているだけなのに。
苦悩したり、葛藤したり、失敗も多々あるが、それでも……
長い事、管理との狭間で耐えて来た甲斐があったな……。
剣菱はちょっぴり目頭を熱くしつつ、楽し気に話をする一同を見る。
穣がマリアに尋ねる。
「マリアさん、自分用のブレスレットは作ったの?」
「うん!」
マリアは左手首のブレスレットを皆に見せて
「これ! カーネリアンとシトリンとケテル石」
続いて耳元の細長い黄色い石のイヤリングを指差す。
「イエローケテルのイヤリングも作っちゃった!」
「あ、それ作ったんか。いいね! ……護は?」
護が「俺は」と言いかけた所で透が「アンバーのイヤリング作った!」と言い、護は慌てて「着けないぞ!」と叫ぶ。すかさず穣が「んじゃ何で作ったん」と突っ込むとマリアが笑いながら「透さんに誘導されたの!」と護を指差し、護はムキになって「だってイヤリングなんて持ってないし珍しいし、オススメされたし!」と透を指差し、透は「着ければいいのに。俺みたいにさ」と自分の耳元のアンバーのイヤリングを見せてから「俺のブレスレット、これ」と穣に右手首の淡い緑と青のブレスレットを見せる。
「聞いてねーよ」
「えー」
護は「よし、このイヤリング穣さんにプレゼントする」とポケットからイヤリングの入った小さな袋を取り出す。
「はぅ?!」
「アンバーの採掘監督の証だ!」
「い、いらねーよ、ハチマキとイヤリングってヘンだろ! 何なら船長に」
「なんですと?」
剣菱は「そしたら黒船の船長もオブシディアンのイヤリング着けるんだな!」と駿河を指差す。
「えっ」
穣は「そっか俺がイヤリング着ければジェッソも!」と笑顔でジェッソを指差す。
ジェッソは「なんですと?」と言ってから「さて皆さん、そろそろ船の中へ入りませんか!」
「よし、じゃあ入るか」
穣に続いて剣菱も「んだ、入るべ」と言ってから駿河を見て
「あ、この後は周防先生を迎えに行って、夕飯の後にまた集まって今後の予定の打ち合わせだよな?」
「はい。まぁ管理に対してどうするかっていう」
「どうもこうも、毅然とした態度取りながら、鉱石が沢山あるとこで採掘するしか無いんだが」
「まぁそうなんですけどね」
「んじゃ船に戻ろう」
一同、船の方へ歩き出す。
歩きながら、ジェッソは穣の隣に来て「穣、最後のパンくれ」
穣は自分の持つ紙袋の中を見て「あれ。お前何個食った?」
「忘れた」
「俺3つしか食ってねーぞ。8個買ったんだから、最後の1個は俺のだ!」
「くぅ」
午後4時。
カルロスと上総が黒船に戻って来てタラップを上がり、船内に入る。
上総は採掘準備室内の壁際にあるタラップ開閉レバーの所に立ってタラップを上げ始め、カルロスは横の船内電話でブリッジに連絡する。
「あ、船長、カルロスです。全員戻ったのでタラップ上げました」
『待った、まだ来てない人がいる!』
「え?」
カルロスはサッと探知を掛けて「いや全員いるけど……誰ですか?」
『レトラさんです。黒船とアンバーだけではイェソドの上空を飛べない』
「あぁそうか、ビックリした。探知ミスったのかと思いました」
そこで上総を見て言う。
「タラップ一旦下げてくれ。レトラさんが来る」
「あぁ」上総も気づいて「はい」
5分後。
急ぎ飛んできたレトラが、採掘口からバッと飛び上がって船内に入って来る。
「4時の予定が少し遅れた、申し訳ない」
待っていたカルロスと上総は少し驚いた表情でレトラを見ている。
ショルダーバッグを肩に掛け直しつつ、レトラは不安気に
「どうしました?」
上総がパチパチと拍手して「凄い飛び方してきましたね!」
「えっ?」
カルロスも感心したように「上空から一気に黒船の下に降下して、そのまま滑るように船内へ……凄いです」と言い、レトラは「……そ、そうですか?」と首を傾げて「しかし探知されていたとは。こっちもビックリです」と恥ずかしそうに言う。
上総はタラップ開閉レバーの所に行き、タラップを上げる作業をしながら「忙しいんですか?」とレトラに聞く。同時にカルロスは船内電話でレトラが来た事をブリッジに報告する。
レトラは若干溜息混じりに
「まぁ今は珍しい船が二隻もいるので」
「あら」
「突然、大勢で街に行くし」
報告を終えたカルロスが受話器を置きつつ「何か問題でも?」と聞くと
「大勢の人工種と人間が街で何をしているんだ、何かあったのか、と問い合わせが来ました」
「なんと」
「まぁこちらは今朝、駿河船長から連絡を受けていたので『単に遊んでいるだけだ』と説明しておきましたが」
タラップが上がり、採掘口が完全に閉まる。上総とカルロスはそれを確認すると、カルロスが「じゃあブリッジへ行きましょう」とレトラを促して階段室へと歩き出す。
「忙しい中、すみませんねぇ」
階段を上がりながらカルロスが言うと、レトラは「街の、どんな所へ行ったんですか」と尋ねる。
「色々です。スイーツ食べまくったり石茶飲んだり」
「いいですねぇ……」
レトラの羨ましそうな声に、カルロスはちょっと驚きながら「……今度、ご一緒します?」と言ってみる。
レトラは小声で「馴れ合いはあまり宜しくないのですが」と呟いてから「まぁ、機会があれば」
カルロスは微笑んで「はい」と言い、上総は思いっきりニコニコして「はいっ!」と返事。
三人はブリッジへ。カルロスは開け放たれた入り口の横壁をノックして「失礼します」と言いブリッジの中に入り、続いて上総が「ただいま戻りましたー!」と言いながらレトラと一緒に中に入る。
カルロスは船長席の駿河に「採掘口閉鎖確認しました」と報告。
駿河は「了解」と言ってから、レトラを見て「わざわざすみません、レトラさん」
「こちらこそ遅れて申し訳ない」
「じゃあコクマの街へ行きましょうか」
「その前に、これをどうぞ」
レトラはショルダーバッグから新聞の号外のような紙を取り出して駿河に渡す。見ればケテルでの和解調印式の記事と写真が!
「おお和解の記事だ!」
「一応あと5枚ほど持ってきました。ダアトの事も載ってますよ」
レトラはカルロスと上総にもそれを渡す。その間に駿河は席を立って操縦席に駆け寄り、総司にも見せつつ「これ!」
「おおー!」
上総は号外を見て「ホントだ、裏に昴さんが撮った写真がー!」
カルロスは記事を読みつつボソボソと呟く。
「誰が探知したとかは書いとらんな。当たり前だが」
「最初に探知したのカルロスさんですよね」と上総がカルロスを見る。
「だが実際に行ったのは上総だな……ここは一緒に師弟探知って事で」
「うん!」
駿河は「じゃあこれ黒船とアンバーで3枚ずつだな。上総、これ食堂の掲示板に貼って来て。表と裏を」と上総に号外を2枚渡す。
「はい、行ってきます!」
ブリッジを出て行く上総。駿河は船内に出航を知らせるボタンを押して
「では出発しますか副長!」
「行きましょう! 発進します!」
ゆっくりと停泊所を飛び立つ黒船。アンバーも離陸し黒船に続いて飛び始める。
黒船のブリッジではレトラが総司の右隣に立って進路を指示する。
「高度はこのままで。やや右側に寄って飛んで下さい」
「はい」
そこで突然、駿河が「あ! しまったカルロスさん」とカルロスを見る。
「はい?」
「今夜はコクマの街に停泊するけど、以前貴方が使ってたベッドを周防先生に使って頂く事にしたから貴方が寝る場所が無い!」
「うん。別に食堂でイス並べて寝ててもいいし」と言った所で総司がクスッと吹き出して笑うと「あっ、すみません! 以前の貴方だったら絶対出て来ないセリフが出てきたから」
キョトンとした顔のカルロスは「そうかな。アンバーの食堂で昼寝したけど特に笑われなかったぞ」
「そ、そうですか」
「うん。……話を戻して、またはコクマの宿に泊まるって手もあるけどケセドより宿代高そうだな……」
それを聞いてレトラが「いや、コクマは学生の多い街なのでそんなに高くは無い」と口を挟む。
「んじゃ適当に宿を探して泊まろう。まぁ自分で何とかしますから船長、ご心配なく」
「わかった」
「それにしても……」
カルロスは駿河と総司を交互に見る。
「何か?」
「船長も副長も私服で、全員私服だと何か変な感じだな。こんなブリッジ初めて見た」
総司が「ですよね! 俺、私服で採掘船を操縦したの初めてです!」と楽し気に言う。
駿河も「俺も初めて私服でここ座ってます。管理や本部が見たら激怒するかも?」とニヤリ。
カルロスが「まぁ、こればかりは本部にバレるとマジで怒られるからな」と言うと、総司が「俺達、ワルイコですから」
上総も「はい、ワルイコ!」と挙手。
そして駿河が「俺達、随分ワルイコになっちまったもんだ……」と呟いて皆が笑う。
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