第19章03 ターさんと駿河

 ターさんは駿河を店の奥のアクセサリー注文カウンターへ連れて行く。

 選んだ瓶を店員に渡し、駿河にカウンター前の丸椅子に座るよう促して、自分はその横に立って言う。

「手首周りを測るから、手を出して」

 駿河が指示通りにすると、年配の男性店員が駿河の手首を見て「お。いい中和石の腕輪着けてますね」と驚く。

 駿河は「あっ」と気づいて

「そうだオブシディアンと中和石にすればよかった。そしたら中和の効果も」

 ターさんが「いやアクセ用の中和石は弱いよ。これ相当強い中和石だからね」と駿河の手首の腕輪を指差し、店員も「うん、これは凄い。なかなか市場に出回らないレベルの石ですよ。ウチで扱ってるアクセ用のとは比較にならない」

 そう言われて駿河は「そうか。飾り物に効果を期待しちゃダメか。……しかし、なんか凄いもの頂いたんだな」と中和石を見る。

 ターさんは「そりゃそうだよ、だってほら、何かあったら困るし」と苦笑。

「そ、そうか」

 店員は「じゃあちょっと手首測りますね」と言ってメジャーを取り出す。

 手早く駿河の手首周りを測ると、重ね着け用に長めに作るか、標準的に作るかを聞き、ビーズを通すゴム紐や、ワイヤー、長さ調節が出来る留め金具等の見本と料金表を見せて説明しながら、どれにするか選ばせる。

 駿河はゴム紐を選び、店員は8つの小瓶からブレスレット製作用トレーにビーズを出して石の配置をどのようにするか、駿河に聞きながらデザインを決めて行く。配置が決まると店員は手際良くビーズにゴム紐を通してブレスレットに仕立てて行く。その間に駿河はレジ側に居た、若い女性店員に代金を渡して支払いを済ませる。

「それにしても、この中和石、そんな凄かったのか……」

 ブレスレットが出来るのを待ちながら、駿河は手首の中和石の腕輪を見てしみじみと呟く。

 ターさんを見て、やや心配気に「これ、お高いのかな?」

「んー……」

 ターさんはちょっと悩んで「宝飾品ほどバカ高くはない筈だけど……、どうでしょう?」と男性店員に聞く。店員も「んー」と唸ってから

「値段というより、中和石は日常よく使うものだし専門業者の取り扱いで、質の良いのは一般に出回らないから……。まぁ、それなりの値段はすると思うけど、バカ高くは無いですよ」

「だそうです」

「なるほど」

 駿河は溜息をついて「イェソドに人間が暮らすのは難しいなぁ」

「そうかな」

 ターさんは首を傾げて「ケセドみたいに麓の街なら住めると思うけどな。中和石の顧客も増えて業者さん喜ぶし」

 その言葉に店員がアハハと笑い、「はい、出来ましたよ」と完成したブレスレットを駿河に差し出す。

「ちょっと着けてみて」

 駿河はオブシディアンのブレスレットを受け取ると、左手首の中和石の腕輪の隣に着ける。

「なかなかいいな」

「いいね!」

 店員が「きついとか、ゆるいとか、あります?」と駿河に尋ねる。

「いえ、丁度良いです。ありがとうございます」

 そこへ護がやって来る。

「あ、出来たの?」

 駿河は護にブレスレットを見せながら

「うん、出来た。これ色んなオブシディアンがあってさ。なんかメンバーの個性色々って感じ」

「おお。いいねぇ」

 ターさんが「護君、なに選んだの」と尋ねる。

 護は選んだビーズの瓶をカウンターに置いて

「アンバーのブレスレット作って剣菱船長にプレゼントする事にした」

 ターさんと駿河が同時に「おお」と微笑む。

「あと俺のイヤリングもアンバーにした。着けないけど!」

「え、イヤリング作るんだ」とターさん。

 駿河は「着けて採掘すりゃいいのに」とニヤリ。

「なんでですか」

「穣さんのハチマキみたいなもんで、トレードマークになる」

「あれは気合入れでしょう。イヤリングで気合入らないし」

 護は店員を見ると「あのー、プレゼント用のブレスレットなんですけど、相手の手首のサイズが分からないので、自分で長さの調節出来る奴とかありますか」

「はい、そのタイプの留め具ありますよ。あとウチは保証期間内なら一回まで長さ再調整出来ますから」

「じゃあとりあえず、俺の手首で……」

 護は自分の手首を見ながら「剣菱船長の腕って、俺より太いかな。何となく俺より体格がいい気が」

 駿河は思わず「体格はいい感じだけど採掘師よりも太い腕とは……」と苦笑い。

 ターさんが「とりあえず、護君の手首にちょっと余裕ある感じで作っといたら? 中和石と重ね着けになるし」とアドバイス。

「うん、そうする。じゃあ俺の手首基準で」

 店員はメジャーを手に取り「はい、では手首測りますね」と計測を始める。

 ターさんが護に聞く。

「透君とマリアさんは、まだ?」

「うん、なんか悩んでたから、まだ時間かかりそう」

「んじゃ俺、ちょっとカルさんの方に行くよ。どんな事になってるのか見たい」

 駿河は「あっ、じゃあ俺も行く」と言い、護は「いってらっしゃい」と二人を見送る。


 店を出た二人は、通りを歩き始める。

「カルさん達は向こうの通りだな。さてと……」

 ターさんは歩きながら駿河を見て

「二人だけだから、俺が貴方を抱えて飛んでもいいんだけど」

「えっ……」ちょっと驚く駿河。

「……護さん達を抱えて飛ぶ事って、あります?」

「あるある。普通にある」

「じゃあ、お願いします」

「ほい」

 ターさんは肩から斜め掛けにしたショルダーバッグを少し背中側に回すと、駿河を背後から抱えて飛び上がる。

「うわ! す、すごい」

 楽し気な顔で驚く駿河。

 ターさんは通りを飛び越え、建物を越えて飲食店街へ。飛びながら下を見て

「カルさん達はどこかな。もうお昼だからこの辺りの店で食事だと思うんだけど」

 それから「多分、この店じゃないかな」と目星をつけ、店の前にゆっくりと、駿河と共に着地する。

「あ、ありがとう」

「ほい。ここサラダ食べ放題だから、昼は混むんだよー」

 ターさんが店のドアを開けると案の定、混んでいる。

「ホントだ」

 駿河とターさんが店内に入ってドアを閉めると店員が二人の所へ来て言う。

「今、満席なので」

 ターさんは「あの、知り合いを探してるので、中を見てもいいですか?」と言い、店員は「どうぞ」と二人を中へ通す。ターさんと駿河は店内を見回しつつ奥の席へ。

「いた」

 駿河がカルロス達を発見し、二人は9人が食事をしている4人掛けと6人掛けのテーブルの間へ。

 4人掛けの方にはカルロス、剣菱、悠斗が、隣の6人掛けの方にはオーカー、上総、オリオン、マゼンタ、オーキッド、大和が居て昼食を食べている。カルロス側の昼食は普通のハンバーグにパンまたはご飯、サラダ、飲み物のセットだが、オーカー以下6人の方はステーキやハンバーグ(大)にパンまたはご飯(大盛)、サラダ、スープのセット。

 ターさんが「見つけたぞ。やはりここだったか!」と言うと、カルロスが「ウム。食べ盛りが居る時はここだ」と答え、剣菱は駿河を見て「他の連中は?」と聞く。

「皆それぞれ好きなとこに行きました。こっちはどんな感じです?」

「こっちは食べてばっかりだ」

 呆れ顔で隣のテーブルを指差す剣菱。

 マゼンタは「だって育ち盛りだもん。美味いもんあったら食う! ここに来る前、カフェで美味いドーナツ食った!」と言い、続いてオリオンが「俺はチョコ入りの丸くて小さい妖精饅頭ってのを食べた」さらに上総が「公園でカワイイ妖精クッキー食べた」そして大和が「アイス食べた」

 駿河も呆れ気味に「そんなに食ってて今、ステーキとか食ってるのか……」と言うと、カルロスが「ここではサラダを食べまくるらしいぞ」

 オーキッドが「うん!」と頷く。

 悠斗がパンを齧りながら「なんかもう有翼種とかイェソドとか関係ねぇな」と言い、剣菱が「うむ」と頷く。

 ターさんはカルロスに尋ねる。

「この後どうするの?」

「そこの十字路曲がって、護たちが行った方の通りへ行く。あっちにケーキセットのある石茶屋があるだろ、そこへ行く」

「え、今度はケーキ?」

 すかさずオーキッドが「だって食べたいもん!」

 マゼンタが「うん、ケーキで締める」

「はぁ」

 苦笑するターさん。カルロスは「私は石茶、こいつらはケーキ。それで決まった。……あそこの石茶屋は普通の紅茶やハーブティもあるしな。しかし誰か『石茶が飲みたいです!』という奴が居るかと思ったのに誰もいないという……」とションボリする。

 上総はカルロスを元気付けるように真面目な顔で

「俺は飲みたいです! 石茶」

 マゼンタはカルロスを茶化す様に、ニヤニヤ笑いながら

「お茶にはお茶菓子が無いとね! お茶菓子があるなら行く」

 カルロスがマゼンタに「お前、コーヒーだけとか紅茶だけとか飲むだろが」と言うと、マゼンタは「お菓子があった方が美味しく飲めるよ?」とニッコリ。

「石茶は基本、石茶だけなの!」

 そこへオーカーが「サラダのお代わり取って来る」と皿を持って席を立つ。

 ターさんは駿河に「ここ満席だから、別の店でゴハン食べよう」と言う。

「うん」

 駿河は皆に「ではまた」と言い、ターさんは「じゃあまたねー」と言ってちょっと手を振り、カルロス達の所から離れる。

 店を出る二人。

 ターさんは通りの周囲を見回しつつ「どこ行こうかな。何か食べたいものある?」と駿河に尋ねる。

「いや、何でもいいよ」

「なら、とりあえずそこの店に入ってみようか」

 向かいの店を指差す。

「うん」

 

 二人が店に入ると、店内は混んでいたが、通りに面した二階ベランダの二人掛けテーブル席が空いており、そこに案内される。ターさんと駿河が向かい合って席に着くと、店員がメニューを置いて去る。

 ベランダからは、下の通りと通りを挟んで先程入った店の二階が見え、駿河は楽し気に「いい席が空いてたね」と言い、ターさんは「うん。皆が食べ終わって店から出てきたら、ここから手を振ってやろう」と言って「さて何食べようかなー」とメニューを手に取って見る。

 駿河も二つ折りのメニューを開いて中を見ながら

「ふと思ったんだけど、この魚ってあのイェソド鉱石水の川を泳いでたやつ?」

「うん。……あ、大丈夫だよ、調理した段階でもうイェソドエネルギー無いから」

「そか。じゃあ俺はイェソドのお魚を食べる事にする」

「俺は鳥を食べる」

 ターさんは店員に手を挙げて「お願いしまーす」

「お決まりですか」

 やって来た店員に、ターさんは「鳥のから揚げのランチセットと……」と言い、続けて駿河が「焼き魚のランチセットお願いします」と注文する。

「はい、鳥と魚のランチセットですね」

 店員は注文をメモして去って行く。

 駿河は改めてターさんを見ながら「……有翼種と一緒に食事するの初めてだな」

「えっ? あぁ貴方はそうか。昨日の飲み会、居なかったもんな」

 ターさんはそう言ってから「そうだね」と微笑む。

 駿河は「なんか、不思議だ。少し前まで、こんなの想像もしなかった」と言いベランダから見える通りに目をやって「有翼種の街、か。……なんかイェソドって断絶してた割には俺達の方とよく似てる」

「まぁずーっと昔は、一緒に暮らしてたみたいだし。人間と有翼種は」

「そうか、そうだった。……昔は仲良しだったんだよな……」

 寂し気に微笑する駿河を見つつ、ターさんは「それにしても……」と言って少し間を置くと

「俺さ、以前、護君が、黒船は凄い船だっていうから船長はどんな人なのかなと思ってたんだよ」

「わかった。何でこんな若い奴がと」

「だってアンバーの剣菱さんがあんな感じだから」

 駿河はアハハと苦笑しながら「何でこんな奴が黒船の船長なのって、よく言われます!」と頭を掻く。

「まぁ黒船の船長ってのは納得なんだけど」

「えっ」

 意表を突かれて目を丸くした駿河は「どこらへんが……」と呟く。

「ん? んー……なんかそう感じる。貴方にピッタリだよね」

「え……?」

 目を見開き唖然としてターさんを見つめる駿河。ターさんは笑って

「って何でそんな顔するの!」

「いや、だって正直な所……、自信が無いまま何とかやってるもんで」

「いいんじゃない?」

「え?」

 驚く駿河に、ターさんは真面目な顔で

「だってその歳で黒船の船長やって自信あったらちょっと変かもだよ。メンバーの殆どは貴方より年上な感じがするし」

「……」

 呆然として言葉が出ずにいると、女性店員が料理を運んで来る。

「お待たせしました、焼き魚と、鶏のから揚げでーす」

 駿河の前には焼き魚と野菜の煮物とご飯が乗った四角いプレートと味噌スープのカップが置かれ、ターさんの前にはから揚げと野菜サラダとご飯が乗った丸いプレートと野菜スープのカップが置かれる。最後に伝票と、箸やフォーク等が入った細長いトレーを置いて、店員は去って行く。

 ターさんはトレーから箸を取って「よし食べよう!」と早速から揚げを摘まんで口へ。齧るとカリッといい音がする。

 駿河も箸を取り「いただきます」と言って魚の身を切ると、「鉱石水の中を泳いでた魚か」と言いパクリと口にほおばる。

「うん美味い」

「ちなみに魚は締めた段階でイェソドエネルギー無くなる。果物や野菜はそもそもエネルギーが残らない。だから安心して食べてね」

「うん」

「それにしてもここ、これでランチ500ケテルって安いな。美味いし」

 ご飯をほおばるターさん。駿河は少し言いづらそうに

「……さっきの話の続きだけど、実は俺が黒船の船長になったのには色々な事情があって」

「だろうねぇ。でもいいんじゃない?」

「……何が?」

「だって、カルさんって黒船から逃げてイェソドに来たんだよね? なのになぜか今、黒船に戻って凄く楽しそうにしてるから、なんか不思議で」

「……」

 駿河は箸を止め、ターさんを見て言葉の続きを待つ。

「カルさん、最初に出会った頃は本当にボロボロで痛々しかったのに、それが今やあんな感じだし。だからカルさんも変わったけど、貴方も変わったんだろうなぁと」

 驚いた表情になった駿河は「そう、かな」と呟く。ターさんは頷いて

「以前何があったか知らないけど、今、皆楽しそうだから、それでいいんじゃないかなぁ」

「そうか。……そうだな」

 駿河は何となく嬉しそうな顔になり、再び箸を動かして魚の身を摘まんで食べると「イェソドのお魚、美味い!」と微笑む。