第21章01 帰路へ

 翌朝。

 採掘船の制服姿のカルロスと護がテクテクとカナンの店に向かって歩いている。

 二人は店の入り口に着くと、護がドアを開けつつ「おはようございまーす!」と挨拶。

「おはよう!」

 入り口近くのテーブル席に座っていた周防、ターさん、カナン、セフィリアが二人を見て挨拶を返す。

 ターさんは椅子から立ち上がりつつ護に「何だかすっかりカナンさん達にお世話になっちゃったよ。まさか泊まるなんて」と言い、隣のテーブルの椅子に置いたショルダーバッグを持って肩から掛け、護の方へ歩く。

 護が「お泊りセット持ち歩いてて良かったね」と言うとターさんは「まぁね」と苦笑。

 カナンとセフィリアも席を立ち、カナンが「だって昨日、片づけを手伝ってくれたしなぁ」と言い、周防も「そもそもター君の家にカルロスと護君が世話になってるし」と言いながら席を立って傍らに置いたスーツケースに手を掛ける。

 護が真面目な顔で言う。

「俺が家を建てるまではお世話になります、ターさん!」

 ターさんは「どんな家が建つのかなぁ」と微笑む。

 周防は「さて、じゃあ行こうかな」とスーツケースを引いて護達の方へ。

 一同は店の外に出る。

 玄関の所でセフィリアは「周防さん、また是非、イェソドに来て下さいね」と言って周防と軽くハグする。

「はい。必ずまた来ますから」

 続いてセフィリアはターさんと護、カルロスを見て言う。

「皆もまた来てね」

「はい!」

 ターさんと護が元気良く返事し、カルロスは

「昨日、カナンさんの石茶とセフィリアさんのお茶菓子を食い損ねたので、絶対に来ます!」

 その真剣さに、皆、笑ってしまう。

 セフィリアは「ぜひ」と返事しカナンは「うん、待ってるよ!」とカルロスに言ってから、セフィリアに「見送りに行って来る」と言い、周防に「じゃ、行こうか」と言いつつ歩き出す。

 周防は玄関前のセフィリアに「ではまた!」と手を振り、護達もセフィリアに手を振りながらカナンに続いてテクテクと歩き出す。護は周防に「荷物、俺が持ちます」と言いスーツケースを持つ。

 ターさんが歩きながら皆に言う。

「俺、この後ケセドの街に寄って帰るから、皆とは図書館の上でお別れだ」

 護が「わかった」、カルロスが「了解」と返事。

 ターさんは続けて「ちなみに次はいつ頃イェソドに来る予定?」と二人に尋ねる。

 カルロスは「んー、多分アンバーは、1週間以内にはまた来ると思うが……」と言葉を濁し、護は「ワカラン。戻って何が起こるやら、だからねぇ」と苦笑。

「了解した。適当に待ってるぞ!」

 ターさんはそう言ってからカルロスに「ところで駿河さんは? 昨日は一緒に迎えに来たのに。朝はやっぱ多忙かな」と聞く。

「うん、朝だし、出航前だしな」

 ふと護が上を見て「お。あの船は」と声を上げ、一同が上空に目をやると、図書館の上空に『壁』の警備の船が近づいて来るのが見える。

 カルロスが言う。

「レトラさんだ。今日は船で来た」

 警備の船は上空に停止し、待機する。

 

 図書館の建物に近付く一同。

 この時間、まだ図書館は開いていないので、一同は図書館脇の外階段を上がり始める。

 ターさんが「カナンさん、階段、俺が抱えて飛びましょうか?」と言うと、カナンは笑って「大丈夫だよ。慣れてるから」

「ほい」

 カルロスは周防に「アンタは大丈夫か?」と聞く。

「勿論、大丈夫に決まっている」

「カナンさんが大丈夫だからって、無理するなよ」

「していない!」


 階段を上がり切って屋上駐機場に着くと、アンバーと黒船の船体の間に皆が集っているのが見える。

 周防が「朝礼の最中か」と言うと、周防達が来たのに気づいた皆が一斉に「おはようございまーす!」と言いつつ周防とカナンの方へ小走りにやって来て、周防は若干驚きつつ「おはよう!」と返し、カナンはアハハと笑って「皆、元気だな! おはよう!」と挨拶。

 きちんと制服を着た黒船とアンバーの一同は、カナンと周防の前に集う。

 駿河がカナンの前に進み出て

「カナンさん、今回は本当にお世話になりました。そして今後とも、宜しくお願い致します!」とお辞儀する。

 続いて駿河の隣に立った剣菱が「また石茶を飲みに貴方の店に行きますよ!」と言い、剣菱の背後からマゼンタが「今度お茶会する時は、透さんがお菓子持って行きますから!」そして透も少し照れつつ「はい、今回のお礼に、次回は俺のお菓子を、ぜひ、も、持って頂かせて頂き……」と途中で噛みまくってマゼンタに「敬語なんてどうでもいいー!」と突っ込まれる。笑う一同。

 カナンも笑って「うんうん、セフィリアに伝えておくよ。楽しみだねぇ!」と言い、一同に

「皆、イェソドに来た時には気軽にウチの店に寄っておくれ。待ってるからね」

 一同「はい!」と返事する。

 ジェッソが「今後は頻繁にイェソドに来る事になる筈ですから」と言うと、穣が「そう、行き来するんじゃあ! 交流せねばならーん」と叫ぶ。

 カナンと周防の背後に立つカルロスが、隣のターさんを指差して皆に言う。

「ちなみに皆、ターさんともここでお別れだ」

 ターさんは皆に向かって

「俺、この後ケセドの街に寄って帰るから。皆、また会おうー!」

 駿河は「ターさんもありがとう!」と言い、剣菱も「色々ありがとうな!」そして他の皆も「ターさんありがとー!」「またねターさん!」等とターさんに挨拶する。

 周防も「ター君、色々とありがとう。また会おう!」と言いつつ右手を差し出してターさんと握手すると、カナンを見て「では……。カナン、必ず、また来ます!」

「まぁここに面白いものがあるしね!」

 カナンは笑って図書館屋上の床を指差す。

 周防は「そしていつか貴方をSSFに招待したい……紫剣さんにも会わせたいし。とにかく本当にありがとう」と右手を差し出す。

「うん」

 固い握手をする二人。周防の目をじっと見つめながら、カナンは穏やかな声で言う。

「心のままに。楽しく生きなさい。……また、おいで」

「はい」

 微笑した周防は、カナンの手を離して駿河と剣菱を見る。

「それでは、行きましょう、船長」

 駿河は一同に「じゃあ皆、船内に戻って。出発しますよ!」と言い、剣菱も皆に「イェソド鉱石採掘に行くぞー!」と叫ぶ。

「はい!」「了解でーす!」

 皆それぞれ返事して、カナンとターさんに手を振りながら船へと戻り始める。周防とカルロス、護も二人に手を振ってそれぞれの船の方へ。

 黒船のタラップ前で、護はカルロスに周防のスーツケースを渡すと、「んじゃまた」と言いアンバーへ走る。

 全員船内に入り、二隻はタラップを上げて船底の採掘口を閉じる。

 安全な距離から皆を見送るターさんとカナンの前で、ゆっくりと上昇を始める黒船とアンバー。

「かっこいいねぇ……」

 うっとりした目で二隻を見ながらカナンが呟く。

「あれは種を超えて新しい世界を創る船だよ。……何だかこれから色々と新しい事が始まるような気がする。楽しみだねぇ」

「そうですね!」

 二人は満面の笑みを浮かべ、警備のレトラの船に続いて空の彼方へ飛ぶ二隻に手を振る。



 コクマの街を後にし、鉱石採掘場に向かってじわじわと高度を下げつつ進む三隻。

 警備の船を先頭に、黒船、その後ろにアンバーと一列に並んでイェソドの空を飛ぶ。

 黒船のブリッジでは駿河が船長席の右側を見てちょっと苦笑していた。

「……最近すっかりブリッジの入り口が皆の溜まり場になってしまった……」

「ん?」

 入り口周辺にたむろするジェッソや昴、レンブラント達がニヤリと笑い、「前からですよ?」「デフォルトです」等と言葉を返す。周防は船室に、カルロスは上総に探知を任せて食堂へ行ったので溜まり場にはいない。

 駿河は「そうだっけ?」と大袈裟に首を傾げて

「まぁ船の前方が見えるのはここしかないからなぁ」

 昴が「違う」と否定し「事件はブリッジで起こるから!」

 レンブラントが頷いて「どんな話してんのかなーって」

 ジェッソが胸を張って「つまり、野次馬です!」と主張する。

「ですよねぇ、そんな気がしてました」

 大きく頷いた駿河は皆を見回して「しかし制服の威力って凄いな」と呟く。

 操縦席の総司が「分かります」と反応して

「私服と違って気が引き締まりますね。完全な仕事モードになるというか」

「うん。特にウチは黒いから、何というか……プロ集団って感じでビシッと決まる。って言うとアンバーが怒りそうだけど!」

 ジェッソが「だってウチは一応、人工種を代表する採掘船ですし」と言ってから「ちなみにアンバーにはハチマキ男というビシッと気合の入った人が」

「ああ」駿河はちょっと笑って

「流石に私服の時はハチマキしてなかったな、あの人。……それにしてもあの長いハチマキ、どっかに引っ掛かったりしないのだろうか」

 レンブラントが「ですよねぇ」と頷く。

 ジェッソは神妙な顔になると

「それはですね、見ても見なかったフリをするんですよ。彼の気合を尊重して、木に絡まったのを外してあげても忘れてあげるんです」

「なるほど」

 駿河も神妙な顔で頷くと、小声でボソッと

「……絡まったんか……」



 暫く後。

 三隻の船は徐々に高度を落としながらゆっくりと山の麓に近付き、採掘場となっている河原近くの崖を目指す。鉱石だらけの川沿いを飛んでいると、青白く光る崖が見え、黒船のブリッジの一同は「おお!」と歓声を上げる。

 操縦席の左隣で、何やらずっと大人しかった上総も「わぁ!」と叫んで前方を指差し「崖から鉱石水が流れ出てる! 凄いエネルギー……こんなの、わっからーん!」

 総司が怪訝な顔で「え、分からない?」と聞くと、

「うん、探知はしてもエネルギーが高すぎて、どんな所なのか、ぜんっぜんイメージできなかった!」

「……でもイェソド鉱石があると分かってたなら」

 上総は総司の言葉を遮り

「んでも、あるって分かるだけじゃなくてイメージまで出来る探知になりたい」

「ほぉ?」

「もうちょっとレベルアップしたいなぁ……」

 溜息をつく上総を見て、総司だけでなく二人の会話を聞いていた駿河やジェッソ達も、上総、随分と向上心が出たなと密かに感心する。

 船窓から見える、輝く鉱石の崖を見ていたレンブラントは「しかし凄いな」と感嘆の声を漏らすと「確かにこんなに凄いとテンションが上がる。……朝から監督がご機嫌な理由が分かった」とジェッソを指差す。

 ジェッソは「まぁな」と笑い「だってカルロスさんが、相当凄い鉱石だと言うので。それを満載にして本部の驚く顔が見たいと思うと帰りたくない気持ちも吹っ飛ぶ」

「驚いてくれるといいが」

「驚かせるほど採るんだ。しかも今日はアンバーとタイマンだ。楽し過ぎるだろう」

 ジェッソ、ニヤリ。

 レンブラントも「まぁな」と微笑む。

 その時、船長席の電話の横に置かれた『壁』の警備との通信機が光ってリンリンリンと呼び出し音が鳴り、駿河はそれを手に取って画面を触り通話に出る。

「はい黒船の駿河です。……了解です! ありがとうレトラさん。また次回、イェソドに来た時には宜しくお願い致します」

 通話を終えるとブリッジの一同に向かって言う。

「この辺りで自由に採掘して下さい、だそうです」

 ジェッソ達が「よし!」と気合を入れる。


 警備の船と別れた二隻は崖に接近し、黒船が降下場所を決定すると、アンバーが黒船の左舷に並び、二隻は崖側に船首を向けてゆっくりと垂直降下を始める。同時に各船の船底の採掘口が開き、メンバー達が道具を持って船から飛び降り始める。

「黒船の本領を発揮する時が来たぁぁ!」

 ジェッソが大きなスコップを持って飛び降りると、続けてレンブラント達も「出番だぁー!」「本業だー」等と叫びながらツルハシやスコップを持って飛び降りて来る。

 黒船から一瞬遅れて「行くぜぇアンバー、本業じゃあーー!」という叫びと共に穣がツルハシを持って長いハチマキをなびかせながら飛び降りると、続けて悠斗達が「アンバーの出番だー!」「打倒、黒船ー!」等と叫びながら道具を持って飛び降りて来る。

 ジェッソはニヤリとして「打倒とはよく言った!」と呟くと、崖を見て嬉し気に言う。

「くっ……もはやどこを採っても極上の石か! 昴、まずは正面の壁を発破だ!」

「了解です監督!」

 黒船メンバー達とやや距離を置いた左隣では、穣がアンバーの一同に大声で叫ぶ。

「皆、アンバーの底力を黒船に見せてやる時が来た! オリオン君、正面に発破ぁ!」

「はいっ! 皆、俺の後ろに下がって!」

 オリオンは崖の前へ。

 その間に採掘メンバー達の後方に黒船とアンバーの船体が静かに着陸し、船内待機していたメンバーが採掘口のタラップから空のコンテナを降ろし始める。

 穣はオリオンの横に並びつつ「透、爆風はアッチに流せ!」と黒船メンバーの方を思いっきり指差す。

 メリッサが「ちょっと!」と非難の声を上げ、昴の右隣に立つ夏樹に言う。

「爆風はアンバーに流すわよ、アッチにはバリア職人が居るから問題無いし!」

 夏樹は大きく「うむ!」と頷く。

 昴は崖に向かって手のひらを向け、両腕を真っ直ぐ伸ばし、真剣な眼差しで発破位置を見定める。

「よし決まった!」

 ライバルとはいえ相手の発破の邪魔をすると危険な為、昴はオリオンの準備が整うのを待つ。

 アンバーの方でもオリオンが両腕を伸ばして発破位置を見定めると、「位置、決まった!」と叫ぶ。

 昴は「よぉし、じゃあこっちがカウントするから合わせるんだぞ、アンバー君!」と叫び、オリオンも「分かったぞ、黒船さん!」と叫ぶ。

 穣も崖の前にバリアを張って叫ぶ。

「バリア職人の名に懸けてガチでバリアしてやらぁ! 来やがれ黒い風使い!」

 ジェッソは「ではゼロで発破、カウントするぞ!」と大声で叫んで「3、2、1」

 ゼロ、という声はドォォンという爆破音に掻き消される。粉塵が上がった瞬間、突風が起こり、粉塵を遥か彼方へと押し流す。

 現場が落ち着き、穣がバリアを解いて「ひぃ」と溜息混じりに呟いた瞬間、ジェッソの「よし、上手く崩れた、積み込め!」という声が聞こえて慌てて穣も「ナイス、オリオン君! こっちもガッツリ積むぞ!」と叫ぶ。

「よっしゃー!」

 早速、崩れたイェソド鉱石をスコップでコンテナに入れ始める一同。

 穣は黒船メンバー達の方へ思い切り叫ぶ。

「マジで爆風こっちに流して来やがってー! それを上手く流し切った透ってすげー!」

 透は若干クッタリ気味に「上手くバリアした職人、さっすがぁ!」と叫ぶ。

 メリッサは涼しい顔で「だってプロでしょ? この位、平気よね」と言い、夏樹は「腕は常に鍛えないと。試練は必要!」とニッコリ。

 穣は苦虫を噛み潰したような顔で「ちくしょー覚えてろ!」と呟く。

 そこへどこからか妖精が数匹現れると、アンバーの方にポコポコと寄って来て鉱石の欠片を食べたり一同の周りをポンポン跳ねたりする。マゼンタが「今は遊んでやらないぞ、仕事だ!」と言った途端、妖精達が一斉にマゼンタに向かって跳ねて来る。

「えっちょっと! こらぁ!」

 その様子を見た黒船側のオーカーが妖精達に叫ぶ。

「もっと遊んでやれ!」

 妖精達にポコポコ体当たりされまくりのマゼンタは「しーごーとーがー!」と絶叫。


「しかしほんっとキレイな鉱石よね!」

 崩した鉱石をスコップでコンテナに入れながら、メリッサが言う。

「こんなの採っちゃったらもうジャスパー側では採掘出来なくなりそう」

 近くで作業している夏樹も「だよな、今まで採ってた鉱石とは段違いだもん。本部の奴ら驚くぞ」と言い、それを聞いた昴が「もうコッチだけで採掘しよう!」と叫ぶとメリッサも「そうしたーい」と叫び、ちょっと作業の手を止めてイェソド鉱石を眺めながら「さっきまで、戻るの嫌だなって思ってたけど、この鉱石は管理に見せてやりたいわよねぇ……。あいつらにドヤ顔出来るし!」と言い、夏樹と昴は「うむ!」と頷く。

 確かにジェッソや夏樹達が朝から機嫌が良いのは、凄い鉱石でドヤ顔したい、というのも理由の一つではあったが、真の理由は『人工種初の船長が黒船に誕生するかもしれない』という期待感だった。……史上初の人工種船長、人間と完全に対等に立つ第一歩、その結果何がどうなるかは分からないが、絶対に無理だと思っていた事が突破されるという『可能性の広がり』にワクワクしてしまう。その期待で、ジャスパーに戻る事が苦ではなくなった。

 大きなスコップで、崩した鉱石をコンテナに詰めながらジェッソは思う。

 ……人の幸せは観念次第だな。未来への希望を持つだけでこんなに元気になれるとは。……まぁ、彼がいつ、どのような決断をするかは分からないが、諦める事は無いだろう。とりあえず決断が訪れるまではカナンさんのお茶会メンバーだけの秘密だ……。

 詰めていたコンテナが満杯になったので、別のコンテナに入れようと周囲を見ると、メリッサや夏樹達の所にも満杯のコンテナが数個出来ている。

「皆、凄いペースだな!」

 ジェッソが言うと、夏樹が「本業ですからね、しかも隣に同業者がいるし!」とニヤリ。

 ジェッソも不敵な笑みを浮かべて言う。

「久しぶりに完全に同じ土俵で採ってるもんな。ライバルがいるって楽しいなぁ!」


 皆が張り切って作業している場所から若干離れて、カルロスは一人静かに黙々と黒石剣で崖の鉱石を切り、切り出した塊を持ち上げて傍に置いたコンテナに入れている。

 少し怪訝に思ったレンブラントが近くに来て言う。

「満杯になったコンテナ、あ……」

 ありますかと聞きかけて、カルロスが黒石剣で鉱石の壁にひび割れを入れたので驚いて言う。

「いつの間に怪力になったんです?」

「いや黒石剣は雲海切りだけでなくこういう事も出来るんだ」

 そう言って再度、黒石剣を鉱石の壁に当ててビシビシとひび割れを入れると、割れた部分が他から分離してゴトンと動く。一旦、黒石剣を置いたカルロスは両腕でその鉱石の塊を持ち上げようとして屈む……が、そのまま固まる。

「……」

 レンブラントが密かにクククと笑っていると、上総もやって来て、筋力全開でも塊を持ち上げられずに固まったカルロスを面白げに見る。

 ハァと溜息をついて持ち上げるのを断念したカルロスは、「無理せず小さく切ろう」と言い黒石剣を拾って構えようとしたその瞬間、レンブラントが「どいて」とカルロスを押し退け、塊をサクッと持ち上げる。

「流石」と言うカルロスに、レンブラントはニヤリとして「護が居ないとダメですねぇ」

 恥ずかし気に「ま、まぁな!」と呟くカルロス。

 傍のコンテナにレンブラントが鉱石の塊を入れると、ほぼ満杯状態になる。

「これ、持って行きますね」

 コンテナを持ち上げ、歩き出すレンブラント。

「うん、助かる」

 上総が笑いながらカルロスに言う。

「やっぱり非力なままだった」

「元から非力だ!」