第10章 01
暫し後。
4人の管理に付き添われて廊下を歩く護たち。カルロスは首を抑えて辛そうにしている。
すると前方のドアが開き、周防が出て来て立ち止まって護たちの方を向くと
周防「やれやれ。私も忙しいんだが」
カルロス「…周防…。」その瞬間、護がバッと管理の腕を振り払って周防に向かって走り込むとタックルしてその身体を引き倒しつつ背後に回って周防の首に腕を回し「動くな!」
と同時にカルロスも管理の腕を振り払って護の元へ走りつつ自分の腰のベルトを外して護に投げる。
護、そのベルトを周防の首に巻き付けると「動くと絞め殺す!」周防は床に膝をついて正座状態
カルロス「コイツを殺されたくなければ俺達を霧島研に連れていけ!」と怒鳴る
管理一同、唖然として言葉が出ない。
カルロス「早く!」と怒鳴る
管理「な、…なんてこと、を。」
管理「バカな事はよせ!その人はお前の」
カルロス「製造師だからやってんだよ。私は、こいつなら殺せる。」
管理「…虚勢を」
カルロス「まぁ殺すと周防が作った人工種全員から恨まれるかも知らんがそんな事はどうでもいい。護、ちょっと締めとけ」
護「了解。」といいベルトを引っ張る。
周防「う…」と首に手を当てて苦悶の表情をする。
管理「や、やめろ!…本気なのか?」
護「本気だ。ここを突破できなければ俺達は生きていても意味が無い。」と言い「管理が俺達を殺すなら、俺達も!」
管理「って、そいつはお前達と同じ人工種だぞ?」
護「俺達は人間を殺す事は出来ないが」と言い「管理側の人工種なら、殺せる。」
管理「…。」
護「人工種の癖に管理の言いなりになって俺達にタグリングを付ける存在…。」
カルロス「そんな奴は殺してしまった方がいい。」
管理、唖然としながら「ま、待て。…落ち着け。」
管理「と、とりあえず、霧島研に連絡するからちょっと待つんだ!」と言い、元来た方へ廊下を走って行く
護「急いだ方がいい。俺は怪力なんで、間違って締め過ぎるかもしれない。」
SSFのエントランスでは
管理「畜生、まさかこんな事になるとは。ちゃんとメンテしたのか」
月宮「あの時点までは問題は無かった。データを見て頂ければわかります。」
管理「どうする。紫剣先生に説得してもらうか…。」
月宮「人間に説得させるのは意味が無いかと。彼らと親しい人工種仲間に説得させた方が」
管理「確かに。では黒船を」
月宮「彼らを黒船で霧島研に送る事にしたらどうでしょうか。とりあえず船に乗せて、船内で仲間の人工種に説得させると。黒船にはSSFで生まれたSUの人工種も居るので説得には最適かと。」
管理「それだ!」
廊下では
カルロス、イライラしつつ管理に「…で、霧島研の回答は?」
管理「まだだ、ちょっと待ってくれ」
カルロス、ため息つくと「ここで待っていても埒が明かない。こっちから行こう。」
管理「待ってくれ!」
護「周防先生、立って下さい。」周防、ゆっくりと立ち上がる。
カルロス「屋上へ行こう。管理の船へ」と管理達とは反対側の、階段のある方へと歩き出す。
管理「ちょっと待て!」
すると別の管理が廊下の後方から走って来つつ「今、黒船が来る!」と叫ぶ。その声に
護「黒船?」
カルロス「説得は聞かん!」
管理「いや、黒船で霧島研まで送る!仲間がお前を心配していた!」
するとカルロス、ハハハと笑って「そんな訳がなかろーう!」
SSF屋上では。
管理の小型船が駐機している。一人の管理官が、そのタラップの所で携帯で電話しつつ「わかりました。黒船が来るまで何とかここで足止めを」と、そこへ屋上への出入り口のドアが開き、カルロスたちが出て来る。
管理「こちらに来た」と言うと、電話しつつカルロス達に「今、黒船がこちらに向かっている。それで霧島研へ」
カルロス「その船でいいから乗せていけ」
管理「今、操縦士が居ない。」
カルロス「あれ。船の中に居るのって操縦士じゃないのか。」
管理「…」青ざめると「そ、そうなんだ。ちょっと、この船は、飛べなくてな。」と言い「頼む、黒船を待ってくれ!」
カルロス「じゃあ5分だけ待ってやる。」
護「…周防先生、地面に膝をついて下さい。貴方、背が高くて。」
周防、言われたとおりにする。
管理「しかし無謀な事を。…こんな事をすれば人工種への締め付けが更に厳しくなるだけだ。」
カルロス「…。」
管理「君達が、我々の望むラインに従っていてくれれば」
護「従えなくなったからこんな事をしているんです。」
管理「一体何が不満だったんだ。…特に君は黒船で最高の地位と待遇が与えられて居た筈」とカルロスを指差す
カルロス「…語ると長い。」
管理「人工種と人間、それぞれ不満はあるだろう。しかしそこを何とか擦り合わせて、協力して行かなければ社会は成り立たない。個人の勝手なワガママを通されては」
護「それはわかります。特に採掘船なんか乗ってるとね。」と言い「でも、その人が本当に自分の心に従って生きてたら、勝手に協力しちゃうもんなんです。無理なんかしなくても。」
管理「というと」
護「だって、無理すると壊れますよ。いくら待遇が良くても。」と言い「この人なんかモノが食べられなくなったんです。」とカルロスを指差し「無理して食べても吐いてしまう、そんな状態になっても黒船の為にって頑張ってたんですよ。」
すると周防が驚いたようにカルロスを見る
管理「メンテを受ければ」
護「メンテすら出来ない状態になってたの。」
管理「いや、しかしメンテを受けたら良くなった筈だ。」
そこへ周防が「それで人工種は短命だったんだ。」
管理と護「えっ」
周防「身体が壊れてもすぐに治せるので無理してしまう。つまり苦痛に対して麻痺してしまう。それで限界までやりすぎて、ある日突然、倒れる。…昔は人工種は本当に短命だった。」
一同「…。」暫しの沈黙
そこへピーピーと管理の携帯が鳴る。
管理「はい。」と言うと「えっ」と驚いて「…り、了解です。」
カルロス「どうした」
管理「いや、…大した事では無い。」
カルロス「しかし遅いなぁ黒船は。すぐそこが採掘船本部なんだが」と、少し離れた所の巨大な建物群を指差す
管理「ちょっと手間取っている。」
護「正直に言った方がいいよ。この人、高性能な人型探知機だから」
カルロス「とりあえず黒船がこっちに向かってない事はわかる。」
護「あらま。」
管理「…。」焦ってから「と、とにかく色々手間取っているんだ」
護「ホントに?」
管理「ああ!」
その頃、黒船では。
ブリッジに集っているメンバー達。そこへ緊急電話のコールが鳴り響く。
ジェッソ「やれやれ。ウルサイ管理だ。」
駿河「…出た方がいいんじゃ」
ジェッソ「船長は口出ししないで頂こう。」
上総「騒ぐとベルトで縛っちゃいますよ。」
駿河「…いやまぁ…。」
ジェッソ、ため息ついて「仕方がない、五月蠅いからちょっと出るか。」と言い緊急電話の受話器を取ると「はい。」
管理『はい、じゃない!緊急の用事だ船長を出してくれ!』
ジェッソ「ですから船長は今、多忙で」
管理『早くSSFに来い!カルロスを説得しろ、周防先生がどうなってもいいのか!』
ジェッソ、内心(エラソウに怒鳴りやがって)と思いつつ「周防先生は大事な方です。ですから我々は霧島研へ行って」
管理『違う!まずSSFだ、お前じゃ話にならん船長を出せ!』
ジェッソ「船長は…。監禁しました。」
駿河「!」
管理『なにい?』
ジェッソ「SSFに行けとウルサイので監禁してしまいました。」はっはっはっ
管理『貴様ぁ!』と受話器から怒鳴られる
駿河「…。」ぱちくり
ジェッソ「カルロスさんは黒船から逃亡した方ですよ。我々には彼を説得する自信がありません。行けばむしろ怒らせてしまうかもしれない。ですので我らは霧島研に彼の要求を呑むように直談判に行きます。」
管理『それは方向が違う』と言うがジェッソは受話器を置いて電話を切ってしまう。
駿河「…俺は監禁されたのか。」
上総「はい!」
駿河「うーん。…いいのだろうか…」と若干悩む
ジェッソ「いいかどうかは知りません!」ニヤニヤ
駿河「まぁいいや…。」と言い「…後で結局、俺が管理に説教されるんだろうな…。」とカックリ
ジェッソ「大丈夫、今回は私も共に叱られますから」はっはっはっ
総司「副長の俺もご一緒にー」
その頃、本部格納庫のアンバーでは
穣「ええ?護とカルロスが周防先生を人質に?」
ネイビー「何でそんな事を!」
管理「詳しい事情は知らん。とにかく早急にSSFへ行き、彼らを説得して欲しい。すぐに出航準備を。」
ネイビーと良太、立ち上がるが
管理、ネイビーを止めて「アンタはいい。操縦は人間の奴にやらせる。」といい良太に「機関士のアンタは急いで」
良太、管理に「余計な邪魔が無ければ、3分でエンジン始動させます。」と言い機関室へ走って行く
穣「黒船も説得に行くのか?」
管理「ああ。もう行った。」
するとマリアが「嘘。行ってない。」
管理「えっ」と言い「お前、勝手に探知を!」
マリア「黒船は変な方向に向かって飛んでる」
管理「貴様!」
穣、マリアの前に進み出て「落ち着けや!荒っぽい事すると俺のバリアが炸裂するぜ」
管理「…これだから人工種は…。」
穣「黒船はどこに行ったんだ。」
管理「わからん。とにかくアンバーはSSFで説得だ!」
再びSSF屋上
カルロス「何だか知らんがモタモタと…」と言うと、カルロス達の背後にある屋上入り口を指差して「あそこに何人か居るが、なかなかこっちに来ない。一体、何やってんだ。」
管理「…。」
カルロス「全く。管理ってのは暇人の集団なんだな」
護、管理を指差し「貴方も嫌な役を引き受けちゃったねぇ…。」
カルロス「彼が可哀想だな。行くか、護。」
護「うん。じゃあ周防先生、立って下さい。」
周防、立ち上がる。その間にカルロスは誰も居ない方の屋上フェンスへと歩いていく。
管理「な、何をするつもりだ。」
護も周防の首に付けたベルトを引っ張るように周防と共にカルロスのほうへ。
護、カルロスに「ほい、踏み台」と右腕を真っ直ぐ伸ばす。カルロス、護の腕を踏み台にしてバッと屋上のフェンスを越える。
管理「え!」と驚く
護、周防の首にベルトを巻き付けるように止めると、管理に「ちょっとビックリすると思う」と言い、両手で周防を抱き抱え上げると、そのままブンとフェンスの外へ投げる。
管理「ええええーーーーーーーー!」
カルロスは落下する周防をキャッチし抱き抱えつつ自分も落下する
護、管理に「落ちても死なないから大丈夫!」と言うと一気にフェンスを越えて自分も落下。
管理「あ… あああ!」と愕然としつつ携帯に「落ちた、落ちました、下に!」と絶叫。
カルロスは浮き石を使って落下速度を緩めつつ、周防を立たせるように着地。
護も落下速度を緩めて着地。
カルロス「こっちだ」と言うと走り出す。護と周防もそれに続いて走り出す。そして建物の裏手に回ると、塀に梯子がかかっている。
カルロス「ここだ」3人は梯子を上って塀を越えるとそこには一台の小型車が。
周防、楽しそうに「いいね、SSFから逃亡!」
カルロス「早く乗れ。護と後ろに」と言いつつ自分は助手席へ。運転席には月宮がいる。
月宮「ここまでは予定通り。」
護、周防と後部座席に乗ると「ご協力ありがとう周防先生!ベルト外しましょう!」
周防「一応まだ付けといた方がいいかもな。」と言い「いやぁ浮き石を携帯していたとはいえ、ちょっとドキドキしたよ」と笑う
護「すみません高齢の方に荒っぽい事を」
周防ニコニコして「凄く楽しい」
護「は…?」
月宮「じゃあ出します。とりあえず裏道を通ってマルクト方面へ」と言いつつ車を走らせる。
カルロス、探知して「…ところで、黒船がマルクトに向かっているようだが」
月宮「え」と驚いて「黒船がマルクトに?なぜ」
カルロス「さぁ。まさか霧島研じゃないだろうな。」
護「ワカランよ。もしかしたら直談判しにいったのかも」
カルロス「何の直談判だ?」
護「ちなみにアンバーは?」
カルロス「さっき本部を出た。しかし管理が沢山乗ってるんだよなぁ…。」
月宮、そんなカルロスに「全部わかるのか。流石。」
護「とりあえずアンバーと連絡とってみようよ。」
月宮「どうやって?」
護「この人型探知機が何とかする」
カルロス「んー…アンバーの探知のマリアさんはずっとこっちを見ているので我々の動きに気づいてる。しかし向こうは管理に制圧されているらしく、好きに動けないんだな。」
周防「複数の人工種にSOS波を打ってみるとか」
護「何ですかそれ」
カルロス「お前が気づかなかった奴だ!」
護「あ」
周防「探知人工種が放つ緊急信号。人間でも敏感な人なら感じるよ。」
カルロス「人工種でも鈍感な奴は気づかない。護は私が全力で放ったSOS波に」
護「気づいてたよ!一応」
カルロス「ウソつけ。」と言うと「アンバーにSOS波やってみる」と言いエネルギー全開でSOSを打つ。
月宮、それを見て「…凄い。」と言い「…後でデータ取らせて欲しい…。」
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