第22章 01
暫し後。
入り口付近から通路まで野次馬メンバーが集っている黒船のブリッジでは。
上総、ちょっと溜息つきつつ「…『駿河船長』と一緒に黒船に乗るの、これが最後なのかな…。」
駿河「多分ね。でも『ただの駿河』なら、いつか黒船にバイトに来るかも」
上総「船長がいいです。」と言うと「カルロスさんも駿河船長も居なくなっちゃうのかー…。」
カルロス「いや、バイトには来る」
駿河「あ、よく考えたら俺がバイトに来ても仕事も寝る部屋も無かった。」
上総「掃除とか食事作りの手伝いとかあるよ!」
カルロス「何なら中和石着けて一緒に採掘すりゃいいんだ」
駿河「いいけど俺、そんなに腕力ないですよ。」
静流「え!いいんですか」
レンブラント「マジで採掘します?」
駿河「…やってみるかなぁ。石拾いレベルだと思うけど…。」
一同「おおー!」数人がパチパチと拍手をする。
ジェッソ「じゃあ是非バイトにいらして下さい。お待ちしております!」
そこへ上総が「あ、そろそろ目印の湖です。総司船長、やや一時の方向へ」と進行方向を指差す。
総司「まだ副長です。ところで管理の船は?」
上総、探知しつつ「いないよー。まだ死然雲海の中だし」
総司「あいつら以前、死然雲海の中まで来たぞ」
上総「そっか。…でもいないなぁ」
カルロスも探知しつつ「雲海を出た先にも居ない。かなりジャスパーに近づかないとダメか?…何ならこっちからお知らせしてやるか」
駿河「いや、どの辺りで来るか見てみたい。もし万が一、本部に着くまで管理が来なかったら悲しいな。」
ジェッソ「それは悲しすぎる。」
総司「ってか職務怠慢では」
昴「来てほしいー」
その時、雲海が晴れて視界が拓けてくる。
上総「死然雲海を出ました。」
二隻は目印の湖の上空を通り過ぎて行く。
…それから暫く経って…。
探知していたカルロス、「おっ」と何かに気づく。
それから上総も「お!」と言うと「やっと見つけた、遠方に管理の船をはっけーん!」
カルロス「…なんか、やたらゆっくり飛んでるな…」
上総「しかもこっちに来ないし!」
カルロス「もしかして我々が行くのを待ってるとか?」
総司「つまり管理波の届くとこまで来い、と…。」
すると駿河が「…随分とナメられたもんだよな」と言うと「俺の首輪は外れてるんで、もう遠慮はしねぇよ?」
上総「…?」ちと怪訝そうに駿河を見てから「そろそろ管理波の中に入ります。」
そこへ警告音が鳴って『管理区域外警告』の表示が出て、航路レーダーが復活する。
総司「…管理波の中に入った。」
その時、緊急電話のコールが鳴る。
駿河、総司に「副長、ここで一旦停止」と言い、そのまま腕組みして鳴り続ける電話をじっと見る。
上総「出ないの?」
駿河「…少しは待たせてやろうかなーと思って。」と言うと、「そろそろ出るか。」とやっと受話器を取って「はい、オブシディアンの駿河です。」と言いつつ外部スピーカーをオンにする。
管理『我々の制止を振り切って出て行った癖にわざわざ戻って来るとは。一体何しに戻って来たんです?』
駿河「…は?」
管理『随分、鉱石を採って来たようだが、それで許してもらおうなんて考えが甘いですよ。』
途端に駿河、受話器を持つ手を握り締めて怒りを堪える。「………。」
管理『この数日どこで何をしていた』
駿河「イェソドに行って有翼種と和解をしてきたんですよ、人工種が。」
管理『我々に何の相談も無く勝手にそんな事をされては困ります!黒船は貴方の船じゃないし、人間の代表でも無い癖に勝手に有翼種と交渉するとは何様のつもりですか。貴方を即刻、黒船から降ろしたい位ですが、まぁ一応、事情を聞いてからにしましょう。これから船内のチェックを行います。我々が指定する場所に着陸しなさい。』
駿河「・・・・・・・・。」立ち上がって受話器を握り締める。
管理『…船長?我々の命令に従わないと厳罰に』
駿河、天を仰いで「…一体、カルさん達が霧島研に殴り込みしたのは何だったんだろう…。」とうわ言のように言うと、俯いて、はぁ…と深い溜息をついてから受話器を持ち直すと、「…いい加減にしとかないと人工種が爆裂しますぜマジで。アンタらが人工種の意思をガン無視するから人工種だって強硬手段を取らなきゃならなくなる訳ですよ。大体、鉱石が無かったら人間生きていけないのに何でその鉱石を採る人工種を粗末にするんですか。自分らが人工種を作ったからとかアホな特権意識があるならそんなバカ野郎は一回死んで来いって話です。大体、人工種ってのは有翼種と人間が一緒に作ったもんで、有翼種が人工種を尊重すんのに人間が人工種を支配するって意味がワカラン。言っとくが有翼種が和解したのは人工種です。人間とは和解しちゃいませんよ!俺と剣菱さんは有翼種に怒られましたからね!」と一気にほぼ叫びながら言うと、息を吸って「アンタらは人工種を支配する事で貧弱な自己価値を保ってる。だから人工種に何だかんだとウザイちょっかい出して来る。人工種が居なくなったら、または人工種が自己意志で生きはじめたら管理もへったくれもない。アンタらは人工種が自分らと対等になる事が恐い、だから何とかして上に立とうとする!」と絶叫に近い声で言うと「ハッキリ言ってハリボテの虚勢張ってんの、みっともないんですけど!」と怒鳴って、はぁ!と大きなため息をつく。
その気迫に総司やカルロス達、「・・・・・・」全員タジタジ
ちなみにブリッジ前通路にはいつしかメンバー達の殆どが集まっていて、周防もいる。
総司(す、凄い…)
上総(凄い…。)
昴(すげぇ…)
カルロス(そう、そうだ、駿河は本来、こんな奴だった)
ジェッソたち(7年前の駿河がバージョンアップして帰って来たあぁ!)
長い沈黙の後。
管理『…貴方の言い分は分かった。まぁ、今回は貴方の責任は問わない事にするが、イェソドで何があったか事情聴取をしたい』
駿河「そうやって人の事に何だかんだ突っ込もうとするの、やめたらどうですか。大体、事情聴取って」
管理『有翼種との関係の為にも事情を把握しておかないと』
駿河「有翼種と関わる気なんか全く無い癖に!」
暫しの沈黙
駿河「とにかくこれからSSFに周防先生を送り届けて、それから採掘船本部で鉱石を降ろさなきゃなりません。どうしても事情聴取したいならその後で。しかしせっかく二隻がこれだけの鉱石を採って戻って来たのにアンタら喜んでくれないんですね。」
管理『まぁそんなに困ってないからな』
駿河たち「えっ」
管理『マルクトの方には相当量の鉱石の備蓄があるし、万が一の時の為の発電の手段もある。だからそこまで人工種に頼らなければならない訳でも無い。…まぁ黒船のような有能な人工種達には残って欲しいが、どうしてもイェソドに行きたいというなら拒みはしない。』
駿河たち全員、呆然。
駿河、脱力したようにうな垂れてガックリすると、長い溜息をついてから「…総司。」
総司「は、はい?」
駿河「頑張れ!」と怒鳴ると息を吐き、受話器を持ち直して「ところで。俺は今日で黒船の船長を辞めます!」
管理『…そうか。残念だ。』
駿河「新しい船長は、人工種の江藤総司君に決まりました。」
管理『な…!勝手に!』
駿河「これは総司君自身の意思と、アンバーと黒船のメンバー全員の総意です!俺が勝手に決めた訳じゃない。だからダメだというなら二隻のメンバー全員と話し合い、全員を納得させて下さい。」
管理『しかし、人工種は船長に』と言いかけたのを遮るように
駿河「航空管理に総司君の船長免許の交付を申請します。人間と全く同じ試験に合格して副長を務めているのに人工種だから船長になれないなんて、そんなバカな決まりはない!」と怒鳴る。
管理『だが!』と言ったまま、暫し沈黙すると『…す、駿河、お前…。』と憎々し気な口調で言う。
駿河、キッパリと「俺の首輪はもう外れているのでアンタらに遠慮はしませんよ。」
管理『…。…後でまた追って連絡する!』と言うとプツッと通信が切れる。
駿河、受話器を置くと、ため息をついて「…管理がこんなに重症だったとは…!」と悲痛な叫びをあげる。
するとパチパチとメンバーから拍手が起こる。そして大拍手になる。
上総、涙を流しつつ「船長ぅ…。」
ジェッソも涙を零しつつ駿河に歩み寄り「…駿河船長!」と言いつつ両手で駿河の手を取って「ありがとう…!」
総司も涙ぐみながら「貴方は本当の黒船船長です!」
シトロネラ、ちょっと涙を拭って「7年前を思い出した…。」
駿河「え。…まぁ7年間、ここで鍛えられたんで。」
レンブラント、泣き笑いしつつ「バイトには来て下さいよ!」
駿河「うん。来るけど、それよりな。」と言うと「皆、もう管理に遠慮する事無いぞ!」
ジェッソ「はい!」
昴「管理、許さん」
そこへ周防が「あ、あのな一応…。」と言うと「管理も色々で、SSFで製造師見習いをしている月宮君みたいに、真っ当な管理もいるからな。」
駿河「それはわかってます。」
周防「彼も今は随分と図太くなったが、真面目で素直な月宮君は、霧島研で最初、本当に苦労したんだよ…。」と溜息
カルロス「真っ当な管理が苦しむってのがオカシイ。」
駿河「俺がイライラしてんのは、人工種を見下すあのバカ管理です。あンのクソ野郎が!」と叫び、「総司!もう首輪なんかねぇんだから堂々と戦え!」
総司「勿論!」
ジェッソ「戦います、戦います駿河船長!!」と駿河を抱きしめる。
駿河「もぅぅ…脅されてビクビクして相手の顔色伺って生きるのは真っ平ゴメンだ!カルさん!もう管理なんかガン無視してガンガン稼ごう、やりたい事しよう!」
カルロス「ああ!」
駿河「全くもぅ…ムカつく…。あのクソ管理いぃぃぃ!」絶叫
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