第7章04 謎の人物
次の日の午前中。
護とカルロスはターさんの吊り下げ木箱に載って空を運ばれている。下を見ると山腹の街が点々と見え、山の上に近づくにつれて航空貨物船や、飛んでいる有翼種の数が多くなる。
やがて、やや大きな街が見えて来る。ターさんは「あれがコクマの街か。それにしても上の方のエネルギーが凄い……。ここでこんなエネルギーって事は、山頂はどんななんだろ」と言いつつ街へ近付く。
「全くだな」カルロスが同意して「いつか行ってみたいな、源泉」
「だねぇ。まぁ源泉は無理でも、少し下にある首都ケテルはいつか行きたい」
ターさんは何か探しながらゆっくりと街の上空を飛ぶ。
「ええと……。うーん、中央広場はどこだ?」
「真っ直ぐ」カルロスが前方を指差す。
「流石。よく分かるねぇ」
護が「地図要らんやん……」と呟き、ターさんから渡されたB5サイズの地図から目を上げる。
カルロスは「人型探知機ですから。おや? なんかこっちを気にしてる人がいるぞ。あっ、来た」と再び前方を指差す。
前方から男女二人連れの有翼種が近づいて来る。
女性の有翼種は木箱の二人を見て「あっ、やっぱり人工種だ」と呟き、ターさんを見て「おはよう。ターメリックさんですね」と言うなり苦笑して「そんな木箱で来るとは……」と困ったように言う。
男性の有翼種も若干笑いながら「定期連絡船に言えば、乗せてくれたのに」
ターさんはちょっと赤面しつつ「……そういうのあるんですか」
「うん。遠距離とか荷物が多い時には皆、船を使うよ」
「……俺は、いつも遠距離を、コレ吊るして飛んでるもんで……」
男性有翼種はアハハと笑い「そうか凄いな鍛えられてるね。流石は採掘師!」と言い「さて、その木箱、どこに置こうかな」
女性有翼種も笑いながら「図書館の裏庭にしましょう。誰も盗まないと思うし!」
一同は、大きな建物の裏庭に着地する。
護は建物を見上げて「随分大きな図書館ですね」
女性有翼種は「イェソドで一番大きな図書館です。コクマは学問の街ですから」と言うと「じゃあ図書館の中を通って表通りへ行きます。あ、その前に身分証明書を。新しいのは受け取りましたね?」
護達は新しい身分証明書を相手に見せ、古い方を渡す。
「役所に行かなくて済んだね、カルさん」
「うん。ところで我々に会いたい方とは? 一体どんな用件で」
カルロスが聞くと二人の有翼種は「それは現地に着いてからお話しします」とニコニコする。
「はぁ」
一同は立派な図書館の中を歩いて表通りに出る。
イェソドに車は無く、船は屋上に停まるので表通りと言ってもそんなに広い訳では無い。小奇麗な通りを歩いてすぐに、木の板に石と妖精の絵が描かれた『カナンの店』という石茶カフェの看板が見えて来る。一同はその店の前で立ち止まる。
女性有翼種が言う。
「ここに、人工種に会いたいという方が居るんです」
ドアを開けるとリリリン、というドアベルの涼やかな音がして、パンが焼ける時のようないい匂いが漂ってくる。入って左手にはレジと、パンが並ぶ小さな棚と、カウンター。右手の窓際にはテーブル席が三つあり、入り口近くの棚と、店の奥の棚には石茶用の道具やカップ、そして小さな袋に小分けにした様々な石茶石が売り物として並んでいる。それを見て少し嬉し気に顔を綻ばせるカルロス。
店員の壮年男性がカウンターの奥から出て来て「いらっしゃい……」と言いかけて一同を見て「おや!」と酷く驚く。
女性有翼種が「おはようございます。噂の二人を連れて来ちゃいました」とニッコリ笑う。
店員は驚いたまま「……まぁ……」と呟き「何てこった。わざわざ、大変だったんじゃ」
「いいんですよ。ちなみに、彼らにはまだ何も教えていません!」
店員は「え」と言い「しかしまぁ……よくいらっしゃって……」とカルロスと護を交互に見ると「ともかく中へ。皆、好きな所へ座って」と護達を促す。
するとカルロスが驚きを隠せないといった様子で「失礼ですが、あの、貴方は……、翼が、無い」
護も「そうそれ! ……言っていいのかなって思ってた」と言い、ターさんも「うん、同じく」と頷く。
店員はフッと笑って「翼を隠すのが特技なんですよ。ねぇ?」と有翼種達を見る。
クスクスと笑う二人の有翼種。
カルロスは「そ、……そう、ですか」と腑に落ちない顔で言う。
「さてさて座って下さいな」
店員は窓際の席を勧めるが、男性有翼種は「我々は仕事の時間なので、この辺で失礼します」と言い、店員が「え。そうなの?」と残念そうな顔をする。
女性有翼種が「はい」と頷き、護達に笑顔で「では皆さん、ごゆっくり!」
「……はい」
護達は戸惑いつつ返事し、店員は有翼種達に「わざわざ本当にありがとう」と礼を言う。
二人の有翼種は「またねー」と手を振ってドアを開け、店から出ていく。
手を振ってそれを見送った護達は、窓際の席に着く。ターさんとカルロスが向き合って奥に座り、護はターさんの隣に座る。店員が言う。
「じゃあまず、皆さんのお名前を聞かせて下さいな」
「MF SU MA1023周防カルロスです」
「ALF IZ ALAd454十六夜護です」
「ターメリック・エン・セバスです」
店員は一同を見回しニッコリ微笑むと
「それでは今から、一番美味しい石茶を淹れてあげるから、ちょっと待っててくれ」
ターさんが思わず「えっ、あの、いいんですか?」と戸惑い顔で聞く。
「うん」
店員はカウンターの内側へ。
護達三人は、頭にハテナマークを浮かべたまま店内を見回したり店員の様子を伺ったりして待つ。
少しして突然、レジの後ろの壁際にある引き戸のドアが静かに開き、続く廊下から有翼種の壮年女性が焼きたてスコーンを乗せたトレーを持って出て来ると、カウンター脇のパンが置いてある棚にトレーを置き、ふと護達の方を見て「あら?」と少し驚く。
男の店員は、女性に「この子達、人工種の子だよ! さっきレシュさん達がわざわざ連れてきてくれたんだ」と言い女性は驚いて「あらまぁ! よくイェソドへ……」と言うと「スコーン食べる? 焼きたての」
護が「はい!」と元気に返事して慌てて「あっ、お代はちゃんと払いますから」
「いいよ今日はサービスだ」
男の店員が言うと、女性も「そうよ。ちょっと待っててね」とカウンター内の食器棚から小皿を三枚出してスコーンを二つずつ盛り付け、棚の下の冷蔵庫からクリームを出してスコーンの脇に盛り、トレーに乗せて護達のテーブルに持ってきて三人の前に置きながら「私はセフィリア。宜しく」と言い、ターさんに「貴方は彼らのお友達?」と尋ねる。
「はい」
護がターさんを指差して「俺達を助けてくれたのが彼なんです。今、二人で彼の家にお世話になってます」と言うと早速スコーンを摘まんでパクリと一口。幸せそうな顔をする。
「お家はどこなの?」
そこへ男の店員がマグカップを乗せたトレーを持ってやってきて、三人それぞれの前に石茶が入ったマグカップを置く。カルロスは早速それを手に取り、石茶を口に含んで微笑む。
「イェソドの『壁』の外です」
ターさんが答えると、男の店員とセフィリアが「え?」と同時に驚く。
「『壁』の外って……」
「珍しいでしょう。そんなの俺だけですから」
ふと、男の店員が「ん? そういえば……」と首を傾げて「以前、ニュースで『壁』の外に家を建てた人がいると」
「それ俺です」
「君なのか!」
カルロスが「ターさん意外と有名人だな」と呟く。
護は「彼が『壁』の外に暮らしてたお蔭で、俺達、助けてもらえました」と言い、男の店員は「そうか、なるほどそうだよねぇ……」と頷く。
そこへマグカップを手にカルロスが
「ところでこの石茶、凄く美味しいです!」
「だろ! 君なら分かると思った」
護はカルロスを指差して「この人、最近すっかり石茶にハマってしまって」
ターさんもマグカップを手に取り石茶を飲み
「あ、これ本当に美味しい。こんな美味しい石茶、初めて飲んだ」
それを聞いて護も石茶を少し飲む。ちょっと言い難そうに
「う、うん。お茶としては美味しいけど、でも俺、スコーンの方がもっと美味い」
店員とセフィリアが笑う。
セフィリアは「ありがとう」と微笑み、店員は「いいんだ石茶の感じ方は人による」
「感じ方?」護が聞くと
「エネルギーを感じるのが石茶の醍醐味だからね!」
そう言って店員は持っていたトレーをセフィリアに渡してカルロスの隣の席に着き、セフィリアはカウンターの中へ戻る。
「いやぁしかし、本当によくここへ来たねぇ」
三人を見ながらしみじみと言う店員に、護は「俺はたまたま事故で川に流されて来たんですけど、この人は自力で歩いてきましたからね……」とカルロスを指差す。
店員は首を傾げて「……二人共、川に流されたって聞いたけど?」
カルロスが「いえ」と否定し「私は自分からここに来ました。人間に管理されるのが嫌になったもんで」
途端に店員がアッハッハッと笑う。
「そうかそうか! しかし大変だったろう……。よく辿り着いたなぁ」カルロスを見つめながら「自分で探知して、ここへねぇ……」
「……なぜ私が探知人工種だとわかるんです?」
「ん? まぁ勘かな」
いたずらっぽく言う店員に、カルロスは真顔で
「私には、わかるんです。教えて頂けませんか、貴方の人工種ナンバーを」
ターさんと護が「えっ!」と驚く。
店員はニコニコしながら「いやぁバレちゃったかー」と言うと「私はATL KA B01神谷可南と申します。カナンと呼んでくれ」
その瞬間、カルロスが驚いた顔になって「B01……」と呟く。
護もビックリ顔で「首輪はどうしたんですかタグリングは!」と自分のタグリングを指差しながら詰め寄る。
「取れちゃった」
「ええっ?! どうやって?!」
「ある日、ポロッと取れた。まぁ全然メンテしてなかったから壊れたんだろうねぇ」
「な、ん、で、す、と……?」
唖然とする護。
ターさんも驚きながら「な、なぜイェソドへ?」
カナンは「たまたま流されて来たのさ。君達と同じ」と微笑む。
そこへカルロスが「あっ、あの!」と言い「実は、私の製造師の名はATL SK-KA B02周防和也と」
「えっ!」カナンが目を見開く。
「ご存知ですか?」
「……製造師? ……SK、KA、B02が、君の?」
「はい」
大きく見開いた目で、信じられない、というようにカルロスを真っ直ぐ見つめながら、カナンは呟く。
「……つまり、あの子が、製造師になって、君を作った、と……?」
「あの子……?」
カルロスは戸惑い気味に「……まぁ、周防和也って人が、作りました。はい」
「おぉ」
カナンは感慨深げに立ち上がると、カルロスの肩に右手を置いて「君は、あの子の息子なのか!」
「……む、息子……」
その言葉に若干、反発心を抱きながら「ええまぁ……息子、です」ときまり悪げに答える。
「……あの子の息子がここに……」
目頭を熱くして震える声で呟いたカナンは、静かな声で問う。
「お父さんは、元気?」
反射的に渋い顔になったカルロスは、嫌悪感露わに「お父さんでは……」
カナンはアッハッハと笑い、涙を拭って「そうか人工種は『お父さん』とは言わないか!」
「ま、まぁ……」
カルロスは渋々と「……製造師は元気ですよ。まだ現役ですし」
「おお!」再び目を見開くカナン。
そこでターさんが「あの、あの……」と話に割り込み「つまりB01とB02で、兄弟みたいなモンだとすると、カナンさんはカルロスさんの叔父さん、という事でしょうか?」
カナンは笑って「うん、そういう事だ」と大きく頷く。
「えぇ」
驚くターさん。護は不思議そうに「人工種の、叔父さん……って、いまいちピンと来ない。だって俺の製造師、人間だから」
「ほぇ?」
今度はターさんが不思議そうに護を見る。護はターさんに
「だって人工種なのに製造師って周防先生だけだからさ。俺の場合だと、叔父さんは人間って事に」
「ああ! そういう事か」
「うん。でも種族が違うと叔父さんとかにならないから、俺に叔父さんは居ない」
「え、そうなの?!」
カルロスが「いやちょっと待て」と話に割り込み「私も叔父さんなんて居ないと思っていたぞ。ってか周防一族全員もれなくそう思ってるぞ。今、はじめて……」と言ってカナンを見て「そもそも貴方がここに居る事を、周防先生は知っているんですか?」
立ったままのカナンは、ゆっくりと椅子に腰掛けてから「……さぁねぇ。私がここに来たのは遥かに昔の話だしねぇ。知らないと思うよ」とニッコリ微笑む。
ターさんは微妙な顔で「って事は、なんか凄いなこの偶然の出会い」と呟く。
護はカナンに「向こうに戻りたいと思った事は?」と尋ねる。
「無いねぇ。ここで色んな人に助けてもらったし、妻も居るしな」とカウンターの奥で仕事をしているセフィリアを指差す。
「え、奥さんだったの?!」思わず叫ぶ護。
セフィリアは「そうよ?」とニコニコ。
「何だと思ってたんだ」とカナンに言われて護は非常に焦りまくりながら
「いやその単なる店員さんかなって、だって有翼種と人工種が結婚なんて!」
「まぁ子供は出来なかったが、代わりに養子を育てた」
ターさんと護が「へぇぇー……!」と感嘆の声を上げる。
「好きな石茶で店も持てたし。ここでは全ては自分次第さ」
ターさんが「凄い……」と呟く。
護はカルロスに「頑張ろうカルさん! アンタも石茶を極めれば店が持てる!」
「え。いや、そこまでは」
カナンは三人を見て「君達は今、イェソドで何をしてるの?」
カルロスが「採掘師です」と答える。
「ここに来る前から採掘師でしたので」
「ああそうか。イェソド鉱石を採ってたのか」
「はい」
続いて護が「今は死然雲海でターさんとケテル石を採ってます」
カナンは護とカルロスを交互に見つつ「二人とも飛べないから有翼種と一緒に採掘するのは大変だろう?」
護が「いや、浮き石が使えるので問題ありません!」と張り切って答えると、カルロスが「ただ移動が問題で。いつも木箱に乗ってターさんに運んでもらうのが」
「木箱!」カナンが驚いて苦笑する。
ターさんも苦笑して「さっき、笑われましたよ。木箱吊り下げて飛んで来るとは思わなかったって」
「それはある意味凄い! 流石は採掘師だねぇ!」
「……ってさっきの方々にも言われました」
カルロスが続けて「だからそのうち何とかして小型船を買おうと計画中です」
カナンは微笑みながらウンウンと頷き「船でも木箱でも、もうアチコチ探知して好きな所に飛んでくといい!」
ターさんはカルロスを指差すと「彼の探知は凄いですよ。雲海を越えてイェソドを探知する位ですから」
「え。じゃあそのうち雲海でダアトでも見つけちゃうかな?」
カナンの言葉に三人は「ダアト?」と怪訝な顔をする。
「あれ、君、ダアトって知らない?」と言ってカナンはターさんを指差す。
「……ダアト……?」
ターさんは少し考えて「何かで聞いたような。あぁ……もしかして、人工有翼種の遺跡ですか」
「うん、それ。今もう探す人、居なくなったろ」
護が「じ、人工、有翼種? って何ですか?」とカナンに尋ねる。
「あれ? 知らないのか。……遥か昔、人間と有翼種を掛け合わせて人工有翼種を作ったの」
「え」
驚く護。カルロスも「な、なぜ?」と問う。
カナンはフッと笑って「愛の力だよ」と言い「とある御剣って人間と、どっかの有翼種が自分達の子供を作りたいって情熱燃やして出来上がったのが人工有翼種、しかし! 愛の力で出来た人工有翼種を、人間達は私利私欲の為に改造し、人間の操り人形にしてしまった。それで怒った有翼種は人間を追っ払って『壁』を作っちまったという」
護は「はぁ」とキョトンとする。
カルロスは怪訝そうに「……『壁』が出来たのは人工種と人間が源泉を攻めたからでは?」
カナンは笑って「色んな伝説があるんだよ」
ターさんは「何にせよ人間って悪役なんだね……」と苦笑。
そこでカルロスがハッと何か思い出して、護を指差しながら言う。
「以前、護を探知してた時に、人工建造物が沢山ある場所を探知したけれども、あれは何だったのか……」
「お。流石は人型探知機」コソッと護が呟く。
ターさんは「もしかしてダアト? でも雲海って遺跡が沢山あるからねぇ」と言い、カルロスはウーンと唸ってカナンに尋ねる。
「何かそのダアトの特徴というか、決め手になるものは」
「んー? そうだねぇ」
カナンは考えて「伝説通りなら、多分その御剣っていう人に関連する何かがあるんじゃないかなぁ」
「なるほど」
護はニヤニヤしながらカルロスに「人型探知機の血が騒ぐ?」
「んん? まぁ、確認はしてみたい。どんな所だったのか」
カナンもニヤリとしてカルロスに「自分の探知が正確だったかどうか、確かめたいんだろう?」と言い「ダアトは今まで散々探しても見つからなかった遺跡だからね、もしもそれが本当に人工有翼種のダアトの遺跡だったなら、イェソド中の大ニュースになるかもしれないよ」
「エッ!」
ターさんが「お、顔色が変わったぞ」とカルロスを指差す。
護は腕組みをして「これは行かねばならんかぁ」と言いカルロスに、「行く?」
「う、うむ」恥ずかし気に頷く。
ターさんもカルロスに「じゃあ明日、行ってみようか?」
「う、うむ!」大きく頷く。
護とターさんが同時に「決まった!」
正午近く。
店のドアが開き、護達が外に出て来る。カルロスは石茶石が沢山入った布袋を抱えている。
見送りのセフィリアに護が「ランチすごく美味しかったです!」と言い、カルロスも「色々とご馳走になりました。ありがとうございます」そしてターさんも「美味しかったです、また来ます!」とお礼を言う。
カナンは自分も外に出ながらセフィリアに「ちょっと行って来る。彼らの木箱が見たい」と言い、セフィリアはカナンに「いってらっしゃい」と返事してから護達三人に向かって「また来てね」と手を振る。
「はい!」
三人もセフィリアに手を振りつつカナンと共に道を歩き始める。
カナンは隣を歩くターさんに「木箱、盗まれてないといいなぁ!」
ターさんは苦笑して「アレを持っていかれても……」
カルロスは石茶石の布袋を大事に持って歩きつつ、嬉しそうに護に言う。
「こんなに石茶石をもらってしまった」
「よかったなー」
カナンは後ろのカルロスを見て「石茶で何かワカラン事があったら、いつでも電話して聞いておくれ」と言い、カルロスは満面の笑みで「はい!」と返事する。
ターさんはカナンに「この二人も携帯通信機を持てればいいんだけど、今はまだ難しくて」と言い「そもそもウチは『壁』の外だから、電話が通じにくいんです。カナンさんに電話するのは街に出ればすぐ掛けられるけど、電話を受けるのは難しい……」
カナンはターさんの肩をポンと叩いて「まぁ何とかなるよ。必要な事は必要な時に伝わるもんさ」と笑う。
そんな話をしながら一同は図書館の中へ。
「しかし立派な図書館ですね」
カルロスが言うと、カナンが「ここのオススメはこんなデッカイ『鉱石大図鑑』だ。見ごたえがある」と腕を広げて大きさを示す。
「おぉ」
護が「それは絶対見たい。俺、鉱石の図鑑とか大好きなので」と言うとターさんも「同じく。いつか見たいな」と言い、カルロスは二人を指差して「この二人は石好きだから、よく図鑑見てマニアックな話してるんですよ」とカナンに言う。護はカルロスを指差して「アンタも石茶の本見るやん、あれ石の図鑑みたいなもんやん!」と反撃、ターさんも「そうだよ、石は石だ!」
「……むぅ」と唸るカルロス。カナンは笑う。
裏庭に出て木箱の近くに来ると、カナンが「え、もしかして、アレ?」と大きな木の下に置かれた木箱を指差す。
ターさんとカルロスが「はい」と言い、護は「うん」と頷く。
カナンはアッハッハと笑いながら「いや本当に木箱だね!」
ターさんは「そうですよ! 俺がずっと仕事で使ってる愛用の木箱です! まさかこれで人工種を運ぶとは夢にも思わなかった」と言い、その言葉にカナンが更に腹を抱えて笑う。
護は「カナンさん笑いすぎ!」と言って「だって仕方ないじゃないですか、人工種は飛べないし!」
「うん、そうだな! しかしなかなか良い案だ!」
カルロスと護は木箱の中に入る。
ターさんはそれを吊り上げて「こんな感じです!」
カナンは大拍手しながら「ステキだ! 流石は採掘師だ!」
護はカナンを指差して「いやカナンさん笑ってるし!」
「いやカッコイイよ! 実にカッコイイ!」
ターさんは「じゃあそろそろ行きます、カナンさん、また!」と手を振る。
「うん、いつでもおいで!」
「はーいっ!」
護の返事に続いてカルロスも「また来ます!」と手を振る。
上空へ飛び立つターさん。カナンは両手を振ってそれを見送る。
翌日の午後。
ターさんはいつものようにカルロスと護入りの木箱を吊り下げて森の上を飛んでいる。
カルロスは真剣に何かを探知しているが、護はその隣で妖精達と戯れている。
少しずつ周囲に霧が出てきて、やがて前方が白い雲に覆われ始める。
ターさんがカルロスに言う。
「そろそろ死然雲海だ。ダアト見つかるといいね」
「見つけても、かなり遠いので今日は行けないが」
「いいよ。とにかく探知したいんだろ」
「うむ。ちょっと確認したいんだ。とりあえずこのまま直進」
「りょうかーい」
護が妖精を撫でながらコソッと「人型ナビ大活躍」と呟く。
カルロスは「うるさい」と一発ピシッと言ってから、難しい顔でうーんと唸り「しかしホントに遺跡が多いな」
「頑張れカルさん。ダアト見つけてニュースになろう」
「んー……」
暫し黙って探知を掛けていたカルロスは「あの時感じた人工建造物の場所……、そうだ湖だ! 湖を基点として探知をすれば、いい、が……」と悩み「あの湖は雲海の向こう側なんだよな。ターさん一旦止まって」
ターさんが停止すると、カルロスはエネルギー全開の本気モードで探知する。カルロスの身体の周囲が青く光り、護が「おお光っとる!」と喜ぶ。ターさんも楽し気に「凄い、雲海越え探知か!」
突然カルロスが叫ぶ。
「湖あった!」
更に探知を強めつつ「この湖を基点に、んー……僅かに感じる、あの時の感覚!」それから黒石剣を手に取って「恐らくダアトはあっちの方、かもしれない!」と黒石剣で方角を指し示す。
「何て曖昧な」
ターさんに続いて護も言う。
「カルさんには珍しく推測で終わった」
カルロスは「何せ雲海のエネルギーが不安定で、これ以上は難しい」と言い探知エネルギーを下げる。
ターさんは「確かにこの先、かなり濃くなってる感じだしね」と言い、木箱の二人に向かって「また日を改めて来ようか、次回は早朝から」
「うん、そうしよう」
「ほい」
カルロスと護の返事を聞いたターさんは「んじゃせっかくだから、雲海切りの練習しよう、カルさん」と提案。
「うむ」
黒石剣を構えたカルロスはエイッと前方に雲海切りをする。視界が拓けて眼下に森が現れ、所々にケテル石の柱が生えているのが見える。嬉しそうにカルロスが言う。
「いい感じに雲海切れた」
「うむ。つまり採掘の時間だ!」
ターさんはケテル石の柱の近くに降下し、着地する。
妖精と共に木箱から降りた護は早速近くの小振りなケテル鉱石柱に近づくと、指の関節でコンコンと叩いてから白石斧で活かし切りして根元をガンと叩き切り、それを倒して肩に担ぐと周囲を見回す。
「あれ。カルさんどこ行った。カルさーん!」
後方から「護!」と呼ぶ声。振り向くと木々の間からカルロスが走り出て来て「美味い石、採ったぞ!」と手に持った淡く透き通った緑色の石を見せる。
「石茶では爽快石って呼ばれる奴だ。このエネルギー、いい感じだろ?」
「う、うん」
一応頷くと、カルロスは「お前にはワカラン」と木箱の方へ走って行く。
護も柱を担いだまま木箱へ走りつつ「俺の採ったケテル石も見てくれよ、いい感じだろ?」
「うんまぁ」
「って! じゃあアンタ探知してくれよ! 売れる石!」
カルロスは探知をかけて「アレだ!」と近くのケテル鉱石柱の所へ走って行き「コレ!」と柱を叩く。
「えぇそれ違うよこっちだよ」
護はすぐ隣の柱を叩く。
「お前、私の探知が信頼できんってのか!」
「アンタの探知は美味い石じゃん! 俺は売れる石が」
「コレ売れるって! ほら見ろ妖精がニコニコしてる!」
「あっほんとだ!」
「ってお前、妖精と私の探知とどっちが大事なんだ!」
二人の会話にターさん爆笑。
0コメント