第16章03 三隻合同採掘 1

 上空に上がったブルートパーズとアンバーと黒船の三隻は、アンバーを先頭に背後に黒船、その上空にブルートパーズという体制で雲海に向かって飛び始める。

 アンバーの甲板にはマリアや護、穣達アンバーズの他にマゼンタにくっついて来た妖精が数匹、更にターさんとカルナギも居て、カルナギは耳に着けたブルートパーズ用の通信機、言わば『イェソドで使われているインカム』で船や仲間と通信し、ターさんは以前、穣から渡されたアンバーのインカムでカルナギの進路指示をアンバーのブリッジに伝えている。


 甲板の縁に荷崩れ防止用の『ガード』と呼ばれる安全柵を立てる作業を終えた穣は、隣に立つ悠斗に言う。

「しかし皆で甲板に乗って現場に行くって珍しいわな、初めてじゃね? 浮き石着けてるからガード無くても大丈夫ではあるけど、何はともあれ落ちないようにしないとな」

 悠斗は思わずアハハと笑って

「黒船の甲板で兄弟喧嘩の大バトルした人が何を言う!」

「えっ? あー……」

 穣は若干恥ずかし気な顔をして「まぁこれ荷崩れ防止用だし、荷物が落ちなければいいのだ!」

「うむ! さて皆が居るカルナギさんの所へ行こう」

 言いながら悠斗が振り向いた瞬間、目の前をダダダとマゼンタが走って行く。続いて跳ねながらマゼンタを追う妖精達。甲板ハッチの手前でUターンしたマゼンタは妖精達にポコポコ体当たりされながら戻って来て悠斗と穣の前を通り過ぎ、皆が集う船首側へ走る。

「むぁー! お前らしつこい! あんまりポコポコすると船から落とすぞ!」

 マゼンタの嘆きにターさんが苦笑しながら「まぁ妖精は落ちてもダイジョブだけどね……」

 マリアも「大人気じゃん良かったね!」とニッコリ。

 悠斗はマゼンタの方に歩きつつパチパチと拍手して

「妖精のアイドルになったなマゼンタ君!」

 そこへ後方上空を飛ぶブルートパーズから、黒石剣を持ったドゥリーや木箱を持った有翼種達がアンバーの甲板へ飛んで来る。

 カルナギはそれを見て「ドゥリー! ここだ」と手を上げる。

「はいな」

 飛んできた有翼種メンバー達はカルナギとターさんの前に着地し、ドゥリーがカルナギの前に進み出る。

 カルナギが「ターから通信する奴を受け取って、進路指示を頼む」と言うと、ターさんは自分の耳からアンバーのインカムを外して「これ、アンバーのブリッジと通信する奴」と言いつつドゥリーに渡し、ドゥリーはそれを耳に着けて「このまま話していいの?」

 インカムから『大丈夫です!』という声が聞こえる。

「おっ、聞こえた。ドゥリーです、よろしくー。船の先導しまっす!」

『操縦士のネイビーです、宜しくね!』

 通常この時間の操縦は二等操縦士の受け持ちなのだが、剣菱の『どんな作業をするのかワカランから副長の方が良いかも』という判断でネイビーが引き続き操縦を受け持っている。同じく黒船でも駿河が同様の判断をして総司が操縦を受け持っている。

 カルナギは「さて、じゃあ……あれ?」と言って怪訝そうに甲板に居る一同を見回して気づく。

「あ、あいつ黒船か」

 ターさんも「ああ」と気づいて「カルさん黒船だった。ちょっとカルさん連れて来るー!」と言いバッと上空に飛び上がり、後ろの黒船へ飛んでいく。


 黒船の甲板では有翼種のトゥインタを囲んでメンバー達が話をしている。

 トゥインタはメリッサと夏樹を指差して

「君たちが風使いだっていうのは一発で分かった。俺も風使いだから」

「え、そうなんですか」

 夏樹がパッと明るい顔になり、メリッサが「お仲間!」と嬉し気に言う。

 カルロスは皆に「でもトゥインタさんの場合は他にも色々な能力が、ちょこっと使える」と言ってから、トゥインタを見て「メインの能力が風使いっていう事なんですよね?」

「うん。怪力や探知もほんの少しだけ、ある……あっ、ちょっと待ってね。リーダーから通信だ」

 トゥインタは耳に着けている通信機に手を当てて「トゥインタです、あぁカルさんね、はい」と言って通信機から手を離し、カルロスに言う。

「雲海切りするからアンバーに来いってカルナギさんが」

「ああそれでターさんがこっちへ」とカルロスが言った途端にターさんの「カルさーん」という声が聞こえて来る。

 ターさんはカルロスの真上に来るなり「黒石剣は背負ってるな、よし運ぼう」と言いつつ降下し、カルロスを背後から抱いて上空へ飛び上がると「アンバーへお届け物だ!」と叫んで飛んで行く。それを面白そうに見送る黒船のメンバー達。上総が笑いながら言う。

「カルロスさんが荷物になって飛んでった!」

 ジェッソも笑って「凄い、流石は有翼種の世界だ!」

 トゥインタが皆に言う。

「笑っちゃダメだ、あれはいつもの光景だ!」

「えっ、いつも?」

 夏樹が少しビックリしたように尋ねると、トゥインタは頷いて

「人工種は木箱で運ばれたり、抱き抱えて運搬されるもんだ。ここはそういう世界なんだ」

「そ、そうなんですか。あれがデフォルトとは……」

 微妙な顔で苦笑する夏樹の隣で、なぜか上総が爆笑する。

「凄い! 有翼種の世界、面白い!」


 アンバーの甲板に戻ってきたターさんは「お届け物でーす」と言いつつカルロスを甲板に降ろして「配達完了!」

 護は「流石はターさん、速達だ」と拍手する。

 カルナギは船の前方を見たまま「少し先が真っ白だ。そろそろ雲海に入るな」と呟いて「じゃあ探知の人工種!」と叫んだ途端、マリアとカルロスが「はい!」と返事。

「あ。黒石剣持った奴だけだ」

 カルナギが言うと、カルロスが

「名前で呼ばないから混乱する!」

「……なんだっけ名前」

 すかさず護が「カルさんです!」

 即座にカルロスが「違うMFSUMA1023周防カルロスだ!」

 カルナギが「長い! 人と同じような名前しやがって!」

 護が頷いて「どっちもカルさんっていう!」

 カルナギは大声で「とにかくそこの金髪頭の探知人工種!」とカルロスをビシッと指差し「仕事だ雲海切り! 探知はドゥリーに同調!」

 ドゥリーがカルロスに言う。

「私が探知した石を一緒に探知するって感じだー」

「はい」

 その間に船は死然雲海に入り、三隻は白い霧に包まれる。探知を始めるカルロスとドゥリー。

 少しするとドゥリーが「よーし見つけた、前方に背の高いの一本あるよー!」と叫び、耳に着けたアンバーのインカムに「もっと船上げてー上昇上昇!」

 インカムから『了解です!』というネイビーの声。

「もうちょっと上昇……ここまでー、そのまま直進!」

 指示し終わるとドゥリーは探知しつつ「この柱、半分だな」と呟き、周囲で待機する有翼種メンバー達に大声で言う。

「皆、半分切りでぇーす!」

 ターさん達が「ほーい!」と返事する。

 カルナギはアンバーズに「採ったら柱を固定する為の台木(だいぎ)の上に置く。……今、見せる」と言い、ターさん達が木箱から木製の台座のようなものに皮ベルトが付いた台木を出して甲板に並べ、穣達に説明する。

「これが台木ね。柱の位置決めしたらベルトで柱にしっかり括り付ける」

 ドゥリーはインカムでネイビーに「速度落としてーもうそろそろだー」と指示をすると「見えて来た!」と前方を指差す。白い濃霧の中にうっすらと光る柱が見える。カルナギはバッと飛んでアンバーの船体後方に行くと、後続の黒船とブルートパーズに停止するように両腕で合図しつつ、耳の通信機で「止まるぞ! 速度落とせー!」と指示。

 ブルートパーズは速度を落とし、黒船の甲板ではトゥインタがジェッソに「止まるぞ、速度落とせ!」と言いジェッソがインカムでブリッジの総司にそれを伝える。近距離はレーダーで付近の船の位置や速度が見えているので指示が無くとも相手の減速や動きが分かるが、それでも指示は伝える。

「止まるから速度落とせと」

『了解です』


 カルナギは皆が居るアンバーの船首付近へ戻ってくると、自分の船と通信しながらアンバーの皆にも説明する。

「雲海切りして柱が見えたら黒船とウチの船は、柱が見えた所で停まる。アンバーは柱のすぐ傍に行って停まる」

 ドゥリーはインカムでそれをネイビーに伝える。

「聞こえたかもだけど、雲海切りして柱が見えたら柱のすぐ傍に行って停まる」

『ピッタリくっつける感じ?』

「ん。最初に活かし切りするから、ちょっと離れて停止しといて。後はまた指示する」

『分かった』

 黒船でもトゥインタがカルナギの指示をジェッソに伝え、ジェッソがそれをブリッジに伝える。

 ドゥリーは「じゃあー雲海切り行くよー!」と言って自分の黒石剣を構えると「カルさん準備だー!」

 ターさんが護を見て言う。

「護君も活かし切りしよう!」

 するとドゥリーが「待った、護に柱、切らせてみよーう!」

「え!」と驚く護とターさん。

 カルナギが護に言う。

「やらせてみっか、失敗するなよ人工種!」

「ちょ、ちょっと」

 戸惑い顔で焦る護にカルナギは「大丈夫だ人工種、やってみ!」と言い「ドゥリー、雲海切ってくれ!」と叫ぶ。

「金髪の人、いいかな?」

 ドゥリーは隣に並んだカルロスに確認する。

 黒石剣を構えたカルロスは「はい!」と返事。

「んではカウントしてゼロで切るよー、行きまっす! ……3、2、1、ゼロ!」

 二人の黒石剣から物凄いエネルギーが放散され、雲海が切り拓かれると前方に、やや細身の背の高いケテル鉱石柱が現れる。雲の中の一部分が一瞬晴れたような状態で、柱のある場所の少し先はまだ曇ったまま。

「おおー!」

「ってか、なんつーデカイ柱!」

 アンバーズが歓声を上げつつ拍手する。

 カルナギは「活かし切り行けー!」と叫び、ブルートパーズのメンバー達が飛んで柱に近付き数カ所を切って石を輝かせると、二人の有翼種が太く長い皮ベルトのようなものを柱の上部に巻き付ける。

 後方の黒船とブルートパーズは停止し、アンバーはそのまま微速で柱に近付く。

 ドゥリーは「よぉーし、活きたぁ」と言うとインカムに

「ネイビーさん、高さこのままで、船を柱に横付けできる?」

『うん、ブリッジの後方、翼の手前辺りに柱が来るって感じでいいのよね?』

「うん」

『じゃあこのまま若干右寄りに前進するから停止位置の指示お願いします』

「まかせとけー!」

 アンバーはゆっくりと前進し、柱の右側へ。ブリッジ左舷の窓のすぐ傍に柱が見え、そしてドゥリーの「ここで停まれー」で停止すると、左舷の翼と船首の間に柱が来て、甲板のすぐ前に柱がある状態になる。

 カルナギが護に言う。

「出番だぞ人工種、この柱はまず上半分を切る。切り所はわかるか!」

 自分の白石斧を持った護は「ち、ちと待って」と真剣かつ焦り顔で柱を凝視する。

 そこへ「あ、また雲海が」というカルロスの声。じわじわと周囲が曇り始める。

 ドゥリーがニヤニヤ笑いながら「この辺り、すぐ曇る。急げ急げー」と護を急かす。

「む、むぅ……」

 眉間に皺を寄せて焦る護。

 ドゥリーは「よしヒントを教えてあげよう」と言うと、マゼンタの近くに転がっている妖精達を見る。

「妖精さぁーん! この柱、どの辺切ったらいいかなぁー」

 カルロスが苦い顔で「また妖精に聞くのか……」と呟く。

 妖精達は楽し気にポコポコとジャンプすると、柱の一部分に当たり、甲板に跳ね戻る。

 護は神妙な顔で「なるほど」と頷く。

 悠斗や透が「これってヒントなのか?」と首を傾げ、マゼンタが「答え、って言わない?」

 護が叫ぶ。

「位置は分かっても切り方が問題なのじゃあー!」

 カルナギが「まぁいいから切ってみ! 曇っちまう」と言い、柱の上部に巻いた太いベルトの両端を持つ二人の有翼種と、柱そのものを抑えている有翼種に「上、抑えてろよ!」と叫ぶ。

 護は「じゃあ皆ちと離れて!」と一同を下がらせると、自分もやや後方に下がって「行くぞー!」と叫び、斧を構えて柱に向かって走り、斧を振ってガキンと鉱石柱を一気に叩き切ると、勢い余って船から落ち、そのまま下へ落下していく。

「おおお!」

 目を丸くして驚きの声を上げるアンバーズ。

 マゼンタは「って落ちたけどー!」と叫び、ターさんが「落ちながら切るのが特技だからね!」とニッコリ。

「そんな特技がぁぁ!」

「どんな切り方だ!」爆笑する透や悠斗。

 有翼種達は切られた柱を横倒しにして甲板の上へ。

 穣は「助っ人しまっさぁ!」とバリアを展開して柱の運搬を支える。

 マゼンタや透、オリオン達は、ドゥリーの指示で甲板中央に台木を並べ、皆で協力して柱を四本の台木の上に置く。カルナギを残して他の有翼種達は、すぐに甲板から船の下へ飛び降りる。

 カルナギは皆に「台木に付いてるベルトで、柱に台木を固定する」と言いつつ自分も台木のベルトを柱に巻き、バックルに通して締め付けながら「締め過ぎると台木が折れるんでベルトが張る程度に!」と指示。

 残り三カ所の台木で同じ作業をしているアンバーズが「はい!」と返事をする。

 甲板上でその作業が行われている間、船体の下の森の中では護と有翼種メンバー達が、残った柱の下の部分を切っていた。下は上より太いので一気には切れない。護が白石斧で柱に丁寧に切り込みを入れていると、上からカルナギが飛び降りて来る。

「どんな感じだー?」

 有翼種メンバーの一人が「今、護が切るとこです」と言うと、護は周囲の皆を見ながら「準備できた。では最後の一撃、行きますよ!」

 カルナギは「ちょい待て」と言って首から下げている小さな笛をくわえ、ピーッと吹くと「よし、切れ!」

 護はガンと斧の刃を柱に叩き込む。

「よし!」

 倒れる柱を抑えつつ有翼種達が運搬用の太いベルトを掛け、飛びながらそれを引き上げて柱をアンバーの甲板へ。

 甲板では既に穣達アンバーズがカルナギの指示通りに台木の準備を終えていて、カルナギ達は柱をその台木の上に下ろし、皆で柱を台木に固定する作業をする。

 アンバーの甲板に、上下に分けて採ったケテル鉱石柱が一本載る。

 マゼンタが嬉し気に言う。

「一本、ドーンと載ったぁ!」

 穣も「載ったな!」と笑って「しかし船首からハッチを跨いで後ろまで……こんな長いの載せたの初めてだ」

 マリアも「ながーい! すごーい!」と拍手。

 カルナギは「よし、じゃあ次の柱を採るか。あれを」と言い、濃霧の彼方にうっすら見える鉱石柱の影を指差す。

 ドゥリーは「うん」と頷き、インカムに「ネイビーさん、少し先に二本の柱があるの見える? あれを採るからゆっくり1時の方向へ」

 途端にカルロスが大声を出す。

「待った、護を忘れているぞ!」

「あっ」と気づく甲板の一同。

 ドゥリーも「下に置いたままだったぁー」

 ターさんが「俺が取って来るー」と甲板から飛び降りる。