第16章04 三隻合同採掘 2

「完全に忘れられたのかと思った……」

 ターさんによって甲板に引き上げられた護は悲し気な顔でションボリと呟く。

 カルロスが大きく頷く。

「うん、若干忘れられていた」

 マゼンタも「うん、しっかり忘れてた!」と言い、穣は「まー人型探知機がいるから問題ない!」とニッコリ。

 カルナギは「さてと。時間的に考えると……」と言って思案気にちょっと黙る。

 そこへドゥリーがインカムでアンバーのブリッジに指示しつつカルナギに言う。

「そろそろ停まる、速度緩めてー」

「よし」

 耳の通信機の回線を開いたカルナギは「全体に連絡、次の柱を採ったら、ちょっと深いとこ行って一本デカイの採って黒船に載せる。そしたら人工種が石茶石を採れるんで」と言い「ブルートパーズと黒船はここで一時停止、アンバーはもう少し行ったら停まる」と指示する。

 黒船とブルートパーズはその場に停止し、アンバーはドゥリーの指示で雲海の霧の中にぼんやり見える二本の柱に近付いて停止する。

 カルロスが柱を指差して言う。

「あれも分割して採るのかな、何となく柱の上と下でエネルギーが微妙に違う」

 ドゥリーが「正解!」と微笑み「右の柱は三分割、左のは半分」

 カルナギはアンバーの一同を見回して何か言い掛けるが、耳の通信機の呼び出し音が鳴ったので手を当てて回線を開き「……はい。ああ、あまり接近しないように。うん」と言い、再びアンバーの一同に向かって言う。

「黒船が、作業の様子が見たいってんで、横に来る」

「おぉ?!」とどよめくアンバーズ。穣が言う。

「黒船が見学に来るってよ!」

 マゼンタが叫ぶ。

「頑張らなくっちゃあー!」

 その間に黒船がアンバーの左舷側に前進して来て、アンバーと距離を置いて並んで停止する。

 それを確認したカルナギはアンバーの皆に「さっきのでやり方は分かったと思うんで、台木の準備を頼む」と言うと、有翼種メンバーの方を見て「皆、いつもの調子で行くぞー!」

「おー!」

 気勢を上げる有翼種メンバー達。黒石剣を構えたドゥリーが言う。

「じゃあ雲海切りいっくよー左から採ってねー」

 カルロスを見て「3、2、1、ゼロ!」で一緒に雲海切りをする。

 前方の視界が拓けて二本の柱が見えた瞬間、カルナギがピーッと笛を鳴らし、有翼種達が飛んで、左右の柱に一気に活かし切りをかける。続いてカルナギがピーッと笛を吹くと同時に何人かの有翼種が左の柱の上部に落下防止のベルトを巻き付け、他の人が柱を手で押さえる。

 白石斧を構えたカルナギは左側の柱の真ん中辺りに飛んで行くと「切るぞ!」と叫び、柱をガン、ガンと叩き切る。それからゆっくりと柱をアンバーの甲板側に倒し、穣や悠斗達が柱を受けて、台木の上に運ぶ。

「固定ベルト付けろー」

 穣の号令で、皆で柱を台木に固定する作業をしていると、誰かが護の背後に来てガッと身体を抱き寄せる。

「うぉ!?」

 目を丸くする護。カルナギは護を抱えて飛び上がり

「お前、柱の根元を切れ! 練習させてやる!」

「いいけど斧、おーのー! そこにあーる!」

 近くに居たオリオンが甲板に置かれた白石斧を取って空中の護に渡す。

 カルナギは護を抱えたまま降下すると、柱の根元に護を降ろす。

「おっ、これは一気に切れそうな」

 すぐに護は鉱石柱の根元を手でコンコン叩いて「よし……ココだ!」

 その間に有翼種メンバーが柱にベルトを括り付ける。カルナギが護に聞く。

「決まったか?」

「ほいさ!」

「じゃあ切ってくれ」

 カルナギはピーッと笛を吹く。

 護は「うりゃあ!」と叫んでガンと柱を叩き切るが

「うげ! 輝き減った」

「惜しいっ! 切り所がズレた」

 カルナギは柱を抑えつつ「もう一本もやらせるけど、活かし切りするから少し待て!」と言い、仲間と共に柱を持ち上げて船に向かって上昇していく。

「くぅ……」悔し気な顔の護。

 甲板に上がったカルナギ達は、柱を台木に置きながら

「ベルト待った! アイツがちと失敗したんで活かす、ター!」

「ほいさー」

 ターさんに「活かしてくれ」と指示し、カルナギは有翼種メンバー達に「皆、右の柱だ!」と言いピーッと笛を吹く。

 ブルートパーズの有翼種達は手際よく柱の上部の1段目と2段目を切り、アンバーに積んでいく。

 下に居る護の所には、柱を切る時に出た小さなケテル石の破片が落ちてくるが、腕に着けたバリア石のバリアに弾かれ身体には当たらない。護は上を見上げて独り言を言う。

「これバリア石が無かったら危ないよなー。飛べる人々との採掘は、上に注意しとかないと。さて、そろそろ最後の段か」

 柱の根元に行くと、真剣な顔でコンコンコンコン叩き始める。一気に切るのはまずいと判断し、切り場所を見極めて、斧でガンガンと数カ所に切り込みを入れ始める。

 少しして、カルナギとドゥリーと数人の有翼種メンバーが飛んでくる。

「出番が来たぞ人工種、いい具合に切り込み入れたな、今度は大丈夫だな!」

 護は斧を構え直して「よっしゃー、任しとけ!」

「よぉーし」

 カルナギはピーッと笛を吹く。

「たぁ!」

 気合を込めてガンと鉱石柱の根元を切り抜く護。有翼種達が倒れる柱を押さえる。

「よし、お見事!」

 切った柱にベルトを掛けて運搬を始めるカルナギ達。

「ドゥリーは護の運搬!」

「運搬て!」と反論する護をドゥリーが背後から抱えて「はーい運搬ー!」

 

 

 黒船の甲板ではメンバー達がトゥインタの説明を聞きながら、アンバーと有翼種達の作業を見ている。

 トゥインタが「あとは柱を台木に固定して作業終了だ」と言うと、レンブラントが感心したように「もう二本取っちまった。手際がいいな、しかしデカイ柱だなぁ」と言い、隣に立つ昴も「ウン」と頷いて「飛んでる人の採るものは一味違う!」

 昴の背後に立つジェッソは「うーん」と唸り「あれは採掘というより伐採のような気も……」と呟く。

 すかさずトゥインタが「あ、それ」とジェッソを指差し「どっかの人工種も言ってたぞ。これ伐採では? って。とりあえずこっちの世界では、伐採は木を切る場合で、石を切るのは採掘なんだよ」

「ほぉ」

「そもそも、そっちの世界では、石柱は滅多に採らないんだろ?」

 その場の黒船メンバー達が一斉にウンと頷き、上総が言う。

「そもそも俺は、こんなデカイ石柱、初めて見ました!」

 トゥインタはニッコリ笑って「これから黒船にもっとデカイ奴を採って載せるぞ」

「おぉ!」とどよめく一同。楽し気に「ワクワクするなぁ」と呟く上総。

 そこへトゥインタの耳の通信機が鳴る。

「リーダーから指示が来た。……はい。出発ですね、了解」

 それを聞いたジェッソは耳のインカムに「あ、ブリッジ……出発だそうです」と連絡。

『了解です』

 三隻の採掘船は、アンバーを先頭にゆっくりと前進を始める。



「この柱、いいなぁ……。やっぱり石は良い……」

 護はアンバーの甲板上に積まれた三本の柱の側面を見ながら、うっとりとした目で溜息をつく。

「何でこんなに綺麗なんだろう。これが自然に創られたって凄いな。自然は偉大だ……」

 柱を眺めて独り言を呟いていると、二匹の四角い妖精がやってきて興味深げに護を見る。柱を見ながら護がハッチの方へゆっくり歩き始めると、妖精達も面白げにテクテクと付いて来る。

「力強い柱だ……」

 ハッチの手前で立ち止まり、柱をペシペシ叩いていると「あれ、護」という声。見れば穣がハッチから出て来た所だった。

「何してるん?」

「柱を見てた。穣さんはブリッジ行ってきたの?」

「トイレ行って、ついでにブリッジ。……しかしデカイ柱だよなぁ」

 護は「うん」と頷くと、右手で柱を撫でて

「やっぱり俺は石が好きだー、この力強さがたまらん……」

 柱に寄り掛かるように身体を摺り寄せる。

 穣は若干唖然としつつ「はぁ」と返事し、思わずプッと吹き出してしまう。

「笑ったなー」

「いや笑って……るけど、お前そんなに石が好きだったんだなって」

「ウム。俺もイェソド来て気づいた。やっぱり石は良い!」

 四角い妖精達もウムと頷く。穣はそれを見て「妖精まで頷いてるし!」と笑い「しかしこの妖精、ガチで四角いな」と妖精を抱き上げる。

 護は柱を撫でながら

「この柱、幾らの値が付くかなぁ。皆で採った石だし、高値が付くといいなぁ」

「そうだなぁ」

「よし、じゃあ俺もちょっとトイレ行ってくる」

「いってらっさい」

 護は柱から離れてハッチの中へ。

 穣は四角い妖精を抱いたまま船首側へ歩き始める。

 船首付近の左側にはカルナギやターさん、悠斗やマゼンタ達が集い、右側にはカルロスとドゥリー、マリアが居る。何となく右側に近付いてみると、マリアの「同調探知?」という怪訝な声が聞こえて穣はカルロス達の手前で立ち止まる。

 ドゥリーが「うん」と頷き「代表となる人が皆の力を集めて探知して雲海切りするんだけど、今はとりあえず皆で巨大なケテル鉱石柱を探知する」

 そこでカルロスが「どうせなら上総も一緒にやった方が」と口を挟み、ドゥリーは「上総って誰?」と尋ね、カルロスが答える間もなく「あ、ああ感知したぞ。黒船に探知の子が居る。アレか、連れて来よう」と飛び上がって黒船の方へ飛んでいく。

 マリアが「飛べるって便利ですね……」と呟く。しかしカルロスが何も反応せずマリアをじっと見つめているので「何ですか?」と尋ねる。

「……君も黒石剣、持ってみる?」

 カルロスは自分の黒石剣の持ち手側を、マリアの方に差し出す。

 いきなり予想外な事を言われたマリアは「え?」と驚き「い、いえいえ」と両手で否定の意を示す。

「君がこれを持って雲海切りしたらカッコ良さそうだけどな」

「はぁ」

 目を丸くするマリア。

 近くで話を聞いていた穣は苦笑しながら

「アンタ突然オモロイ事言い出すわな」

「そうか?」

 首を傾げるカルロス。

「上総より絵になると思って」

「はぁ……」

 戸惑うマリア。そこへドゥリーが「お待たせー」と上総を抱えて飛んで来て、着地しながら上総を降ろす。

 上総は嬉しそうに「俺も有翼種の宅配便に運ばれた!」

 穣は「良かったなー」と言い、マリアは羨ましそうに「いいなー」

 ドゥリーは「じゃあ皆で大きなケテル鉱石柱を探知しよう」と言い、右手を上げて「レッツたーんち!」

 皆が探知を開始し、探知エネルギーで人工種三人はうっすら青い光を放ち、ドゥリーは翼が光る。

 その光景に「おぉ」と感嘆の声を漏らす穣。

 探知メンバーの反対側に集っていたカルナギや悠斗、マゼンタ達も、様子を見に穣の所へ集まって来る。

 悠斗が穣を見て言う。

「何で妖精持ってんの?」

「拾った! ……そろそろ解放してやるか」

 穣は二匹の四角い妖精を下に降ろす。

 少ししてカルロスが「あった!」と声を上げ、ドゥリーが「どれどれ」と言って「んー、大きいけどちょっとイマイチ」

 続いて上総が「見つけました」

 ドゥリーは「どれどれ」と言い「ちと小さいな」

 上総は不思議そうに「俺の見つけたの、分かるんですか?」とドゥリーに尋ねる。

「うん。同調したから」

「……?」

 不思議そうな顔でドゥリーを見つめる上総。

 更にマリアも「私も見つけました」

 ドゥリーは「どれどれ」と言い「ああ彼が見つけたのと同じやつだ」と上総を指差し、マリアも不思議そうな顔でドゥリーを見つめる。

 ドゥリーが二人に説明をしようとした途端、カルロスが「あっ、別の奴を見つけた……が、雲海が濃くてちょっと……」と探知のエネルギーを上げる。

「どれどれ」

 ドゥリーがそう言ってカルロスを見た途端、カルロスの身体の周囲がバッと眩しく光る。

「おわ!」

 思わず大声を上げ、ビックリした顔でドゥリーを見るカルロスと、驚いた顔でカルロスを見る周囲の穣やマゼンタ達。

 ……あんな動揺したカルロス初めて見たぞ! と周囲のアンバーズが思っていると、ドゥリーは思いっきりニヤニヤ笑って「本気で同調するとこんなモンじゃないぞぉー」と言い、手をパンと叩いて「あんた、いいもの見つけたな、これにしよーう!」と言いながらインカムを触ってブリッジを呼び出し「お待たせネイビーさん、高度このまま11時の方向へ全速力ー!」

『はーい』