第17章03 解放の始まり

 黒船とアンバーはブルートパーズと合流し、三隻は晴れた空をブルートパーズを先頭に街へ向かって飛び始める。

 ケテル鉱石柱が三本載っているアンバーの甲板では、柱のすぐ傍に座り込んだマゼンタとオーキッドが数匹の妖精と戯れ中。オーキッドは三角形の妖精を抱き抱えてしげしげと観察すると「おにぎりみたいな形してる」と言い、その頭を撫でながら「んでも可愛いなぁ。変な顔してるし」

「ってどういう」

 マゼンタが突っ込む。自分も胸に抱いた丸い妖精の頭を撫でつつ「可愛いよな、癒されるし」と言い、若干暗い顔をして「向こうだと、好きにペット飼えないから」

「うん寮の部屋、ペット飼育禁止だもんね。もし飼えても毎日世話できないし」

「アンバー乗らなきゃだしなー」

 マゼンタは丸い妖精の顔を見て「こいつら世話要らないし。勝手に来るし。癒されるし」と言うと、はぁと溜息をついて言う。

「なーんか……向こうに帰りたくないなー……護さんみたいにイェソド住みたい……」

「うん。今日の仕事、凄く楽しかった。仕事がこんなに楽しいと思ったの初めて」

 オーキッドはそう言うと、俯いて不安げに呟く。

「向こうに戻って、またイェソド来れるかなぁ。アンバーだけじゃなく黒船も一緒に……」

「んー……」

 暫し黙ったマゼンタは悲し気な顔で「さっきまで楽しかったのに、なんかネガな気持ちになって来た。凄く楽しかったから、逆に嫌な事が凄く嫌になるっていうか……」ションボリして更に大きな溜息をつく。

 暗い顔で黙り込む二人。

 そこへ調理師のアキがハッチから顔を出して「おーい。甲板で、お茶飲む?」と声を掛ける。

 マゼンタが「え、飛んでるのに?」と驚くと、アキの背後から穣が出てきて「皆で甲板でお茶しよーぜ!」

「おおー!」「わーい!」

 驚きつつ喜ぶマゼンタとオーキッド。

 アキは一旦、船内に入り、代わりにハッチからマリアをはじめ、アンバーズが続々と出て来る。

「あれっ」

 オーキッドはマリアを見て「進路の探知しなくていいの?」

「うん、だって先頭の船について行くだけだもーん」

 マリアは前方を飛ぶブルートパーズを指差す。

 続いて出て来たオリオンが周囲を見回して「あれ。また曇って来たのか」

 徐々に周囲の風景が白っぽい霧に覆われ始める。

 マゼンタが少し残念そうに言う。

「さっき晴れてたのに……また雲海かぁ」

 更にハッチからお茶のポットを持った護と、カップを乗せたトレーを持ったターさんが出てきてハッチのすぐ横にそれを置く。その後、アキがハッチから上半身を出し、甲板に上がろうとして躊躇する。

「やっぱ飛行中に甲板に出るのちょっと怖いな……」

 護が「大丈夫だよ、別に風もそんな強くないし、縁に近付かなければ落ちないから。何ならターさんが傍に居るし」と言うと、アキは「それはそうだけど、やっぱ人間には怖いな」と言いつつハッチの縁に腰掛ける。

 ターさんは「よし、じゃあお茶は俺が注ごう」と言いポットを手に取りカップを一つ取ってお茶を注ぐと「どうぞ」とアキに差し出す。

「ありがと」

 アキは微笑んでお茶を受け取ると、甲板の一同に叫ぶ。

「皆、お茶だよー!」


 15分後。

 ネイビーが船内通路からハッチへの階段を上がって来て、ハッチの縁に腰掛けているアキに「やっほー!」と声を掛ける。アキも「やっほー、副長!」と返し、ネイビーはハッチから頭を出して甲板上を見て驚く。

「あらまぁ機関長! ……って機関士のシナモンちゃんもいるし」

 甲板の床に胡坐をかいて座り、お茶を飲む良太の隣で、若い女性機関士のシナモンが立ったままお茶を飲みつつ「はーい」と手を振る。

「やだ機関室、無人じゃん!」

 ネイビーが言うと、良太は「ウチのエンジン君、元気だし。ちょこっとお茶する位、大丈夫」と言い、シナモンも「あとちょっとしたら戻りまーす」とニッコリ笑う。

 アキの後ろに居たターさんが、アキの横に置かれたポットとカップの所に来て「副長にお茶をあげよう」とカップを手に取りお茶を注ぎ始める。アキが楽し気にネイビーに言う。

「甲板でお茶しながら飛ぶって前代未聞じゃない? そもそも飛んでる時に甲板出たの初めてー!」

 ターさんがネイビーに「どうぞ」とお茶を差し出し、ネイビーは「ありがとう」と言いつつそれを受け取る。

 それからアキを見て「だって人間には怖いでしょ?」と言い「そもそもジャスパーだと飛行中に船からモノを落とすと重罪になるから都市部では絶対出来ないわよ。今、外地の森の上だからこそできる事よね」と言って早速お茶を飲む。

 アキが「あっ、それ有翼種も同じだって」と言い、「え、そうなの?」とターさんを見るネイビー。

 ターさんは頷いて

「船どころじゃ無く、普通に街中を飛ぶ時も落とし物は厳禁だよ。一応、街の上には薄いバリアが張ってあってその上を飛ぶ事にはなってるけど、とにかく飛ぶ時には落とし物には気を遣う。……だから何も無い雲海だと気楽だっていう話をさっき食堂でしていて、何ならお茶でもしようかと、俺が言い出した!」

「あれ、穣さんかと思ってたー」

 ネイビーは、良太とシナモンの左側に居る穣を見る。

 穣は積み荷の柱に寄り掛かって座ってお茶を飲みながら

「まぁ船長に甲板で茶を飲みますって言ったの俺だし」

 穣の所には護や透、悠斗も居て、その向こうにはマリアやマゼンタ、健、オリオン、オーキッド達が集まっている。ついでに妖精も数匹コロコロ転がっている。

 ハッチから甲板上に上がったネイビーは、皆を見回しながら言う。

「船長が寂しがってたよ、みんな甲板でお茶してていいなーって」

 透が「流石に船長はブリッジに居ないとさ」と言うと、ネイビーは「副長がブリッジに居てもいいのよ。でも船長、じゃんけんに負けたから」とニコニコ。

「じゃんけん?」

 ネイビーは楽し気に「私と船長どっちがブリッジに残るかじゃんけんして船長が負けたのー」

「あらまぁ」

 そこでふと、アキが「あ。今日の夕飯っていつもと同じ18時合わせでいいのかな」と言うと、お茶を飲み干してカップをトレーに置き「船長に聞いて来る」とハッチから船内に入る。

 ネイビーは甲板に積まれたケテル鉱石柱の傍に行き、側面を触って「すごーい。近くで見るとマジ凄い!」と感嘆の声を上げる。マリアがネイビーの横に来て言う。

「こんなの本部に持って行ったらビックリされるよね!」

「ていうか見せてやりたい、ビックリさせたい!」

 穣が「だよなぁ、マジ自慢してやりてぇ……」と呟く。

 護は少し暗い顔で「でもさぁ俺達の方にはケテルを活かす技術が無いから持って行っても使えないかも。ケテルって切り方が難しいし、向こうには切る道具も無いから、持って行っても石を殺しちゃうだけ……」と言うと穣が「んでもそのまま珍しい石として置物になるとか」と言い、マゼンタも「石マニアは喜ぶよね!」と言って護は渋々「まぁねぇ……」と返事する。

 ネイビーが言う。

「でもなんか皆、すっごい楽しそうに採掘してたね」

 オーキッドが「楽しかった!」、マゼンタも元気良く「楽しかったっす!」と答える。

 透も「うん、なんか黒船と一緒で楽しかった。ライバルなのにな」と微笑む。

 悠斗も笑って「そうなんだよな、ライバルなのに!」と言ってから、若干俯いて「また一緒に出来るといいな……」と寂し気に呟く。

 ネイビーは笑顔で元気良く「出来るわよ、またイェソドに来れば」

 続きを言おうとした途端、心がズンと重くなって『もう来れないかも』という思考が浮かび、言葉が途切れる。


 『戻りたくない』

 『管理に責められる』

 『前より縛られる』

 『黒船はもう来れないかも』

 

 次々に浮かぶ、ネガティブ思考。

 ……なぜ突然、こんなネガティブに。

 自分で驚きながら、でも確かに自分は心の奥底でそう思っていた、と認める。

 あまりに自由にし過ぎると、後で管理に強く縛られるかもという恐怖。

 ……護さんのようにイェソドだけで生きられれば、解放されるかもしれないけれど……。


 不安と重苦しさを皆に悟られないよう、ネイビーは笑顔を作って「またやればいいのよ」と言う。

 ターさんが笑顔で「そうそう」と頷き、護も「やろう、そしていつか大死然採掘にも参加しよう!」と叫ぶ。

 良太が怪訝そうに「なにそれ?」と問い、護が「死然雲海より凄い、大死然っていう所で凄い石を採る有翼種の採掘!」と答え、続けてターさんが「年に一度、有翼種は船団を組んでそこに行くんだ。大死然はもうね、探知メンバー全員で力を合わせて船と船を繋がないと行けない位、エネルギーが濃い所だから大変だよ」と説明する。

「ほぅ。濃い雲海か」

 良太はちょっと考えると「……鉱石弾って、使えないのかな」と呟く。

「なにそれ」というターさんの声に、穣の「あー鉱石弾か!」という声が重なる。

 良太がターさんに説明する。

「船首に付いてる砲身。あれ実はイェソドエネルギーを撃ち出す所なんだけど、使った事が無いからどんなモンか分からないんだ」

「ほぉ」

 穣は意気揚々と「いつか鉱石弾、雲海で撃ってみるべ、雲海なら問題なく撃てるだろー!」と腕を振り上げ、良太は「まずは整備しないとね……楽しみが増えたな」と微笑む。

 ネイビーは暗い気持ちを押し隠しつつ、笑顔で話を聞きながら「それ、こっちとしては撃ち方とか操作方法を学ばないといけないんだけど……」と苦笑いし、何とか自分の気持ちを明るくしようと「ところで、今日の稼ぎは、お幾ら位になると思う?」と皆に尋ねる。

「あっ、それ」

 穣がネイビーを指差して

「さっき話してた、移動時間含めて大体4時間、時給1000円として4000円だったらいいなと」

「やっぱそう思う?」

 護がウンと頷いて答える。

「確かにデカイ柱は採ったけど、三隻で三等分するし諸経費とかあるし、時給1200行ったらいい感じかなぁ」

「そっか。まぁ仕事させてもらって給料頂けるだけ御の字よね」

 ネイビーの言葉に穣が「そうだな」と言い掛けたその瞬間、『貰っていいのか』という思考と同時に穣の心にドッと不安が沸き起こる。

 ……何で突然、と思ってふと、そういえば自分は管理以外からお金を貰った事が無い事に気づく。

 いや別に管理からお金を頂いた訳では無く採掘船本部から、イェソド鉱石の仕事からだが、突き詰めれば『管理から与えられた仕事』すなわち『管理から頂いたお金だろ』、いやそんな訳はない、それは違うと必死に頭の中で問答を繰り返す。


 『勝手に他から金を貰うな』

 『そもそも時給1200なんて安すぎる、そんなものは正規の仕事とは言わない』

 『遊ぶ為の金なんて、誰の役にも立たないではないか』


 ズン、と心が凄まじく重くなり、罪悪感と劣等感、耐え難い不安が押し寄せるが、それを必死に押し隠し、何とか笑顔を作り続ける。

「俺ちょっとトイレ行って来るわ」

「いってらー」周囲の数人が返事する。

 ……皆の楽しい時間を汚したくはない。

 立ち上がった穣は速足でハッチへ向かい、そそくさとハッチの中に入る。


 『管理達を無視して苦しめながら、自分達だけ自由に楽しむ。そんな自己中でいいのか』


 ……なぜ今、こんな思考が浮かぶんだろう。なぜこんなに責められる恐怖が……。

 ハッチ内の階段を下りつつ必死に考える。

 まさかタグリングの仕業か……と思った時、ふと昔、ラメッシュが言った言葉を思い出す。


 『光を感じるという事は、同時に闇も感じるという事。でなければバランスが取れない』


「えっ、つまり……」

 衝撃の気づきに口から声が漏れ、目を見開いて立ち止まる。


 ……幸せを感じてしまったから、闇も感じるようになったって事なのか……。



 一方、大きなケテル大鉱石柱が鎮座する黒船の甲板では、有翼種メンバー数人と黒船のメンバー達がハッチの近くに座り込んで談笑している。少し離れた船首付近では、カルロスと上総がドゥリーから探知の指導を受けている真っ最中。

「行くよ、同調探知!」

 ドゥリーがカルロスの左肩に右手を乗せた途端、カルロスと隣に立つ上総、そしてドゥリーの翼がバンと光り、カルロスが思わず「う!」と唸る。ドゥリーが二人に言う。

「対象がズレてるー」

 やや苦し気なカルロスと上総。ドゥリーは同調探知を止めると

「大死然採掘の時は、もっと大勢の探知で同調するからね」

「何人くらい」とカルロスが尋ねると

「最大で20人だった事あるよ」

「なにぃ」

 辟易顔のカルロス。上総も驚いて

「そんなに居ないとダメなの? 大死然って」

「うん。奥はすっごい濃いからね。皆で力を合わせて探知と雲海切りしないと」

「うへぇ……」

 上総も辟易顔になる。

 ドゥリーは上総の上腕を叩いて「慣れだよ慣れ!」

 カルロスは「慣れか……」と言うと甲板に座り込み、床に仰向けになって大の字になり「疲れた……」と呟く。

 上総もカルロスの横にぺたんと座って「疲れました」

 ドゥリーは笑って「頑張った頑張った」

 眠たげなカルロスはドゥリーを見て「また今度、ご指導宜しく……」と言い、欠伸をする。

「うん。また練習しよう。ゆっくりおやすみー」

 ドゥリーはハッチ付近の皆の方へ歩いて行く。

 カルロスは目を閉じ、上総は暫しカルロスを見ていたが自分も静かにカルロスの右隣に横になる。

 するとカルロスが右手でポンポンと上総の頭を叩く。

「ん?」

 驚いて少し上体を起こしてカルロスを見るが、カルロスは目を閉じて横になったまま何も言わない。

 ……なんか頭ポンポンされたぞ、と思いつつ再び横になる上総。可愛いとか頭ポンポンとか、人を子供扱いしやがってーとは思うものの少し嬉しい。

 ……イェソドのお金貰えるし、カルロスさんと一緒に街に行きたいな……。

 そう思った瞬間、心がズーンと重くなる。


 『あんまり楽しい事はしない方がいいかも』

 『カルロスさんは、もう黒船の人じゃない』


 ……そう、黒船は明日ジャスパーに戻っていつもと同じ日々が始まる。

 次に黒船がイェソドに来れるのは何時なんだろう……。

 あの時、管理の人、凄く怒ってた。


 『どれだけ我々を心配させたら気が済むんだ!』


 だから戻って再びイェソドに来るのは難しいかもしれない。

 ここでカルロスさんと楽しい事を沢山すると、ジャスパーに戻った時が辛くなる。

 だったら諦めてしまった方が……。


 悲し気な顔でハァと小さな溜息をつき、上総は静かに目を閉じる。



 ドゥリーがハッチ付近の皆の所へ近付くと、トゥインタの「ほぉ。その首輪、ただの首輪じゃなかったのか」という声が聞こえて来る。ハッチを背にメリッサと機関士のシトロネラが並んで床に座り、その右横のケテル大鉱石柱の前にはトゥインタと若い男の有翼種が少し中に浮かんでいて、メリッサ達の対面には立ったままのレンブラントと床に座った夏樹が居る。

 シトロネラが自分のタグリングを指差して「うん。なかなか謎の多い首輪なのよ」と言い、右隣のメリッサが「生まれた時からもう着けられるしね」と言うと、メリッサ達の対面のレンブラントが「生まれる前からじゃ?」と突っ込む。

「あ、生まれる前からか」

 トゥインタは「生まれる前!?」と驚いて「どうやって着けるんだ?」

「んー」

 返事に困って唸るメリッサ。

 代わりにレンブラントの右隣の夏樹が「まぁ人工種は機械で作るので、育成ケージの中で……」と言い掛けてトゥインタのキョトンとした顔を見て説明をやめる。レンブラントも「……言っても、わかんないよね」と苦笑い。

 トゥインタの右横で話を聞いていた若い男の有翼種が、思案気に「んー」と唸って言う。

「でも僕の爺ちゃんにタグリング付いて無いよ……?」

「爺ちゃん?」

 怪訝そうにレンブラントが聞き返す。

 ドゥリーがその若い男の有翼種の背後に立つと、皆に向かって言う。

「この子の祖父、人工種のカナンさん」

「ええ?」

 そこへ突然「うわぁデッカイ柱だな……」という声がして、ハッチの中から駿河が頭を出す。

「船長」

 メリッサとシトロネラが背後に振り向き、皆、驚いたように駿河を注視する。

 駿河は「副長は休憩してるけど、静流さんとアメジストさんの操縦士二人にブリッジ任せて来た。まぁアンバーの後について飛ぶだけだし、特に問題ない」と言い、這うように甲板の上に出ながら「飛行中に甲板に出たの、初めてだな……。ちと怖い」と言ってメリッサとトゥインタの間に来て床に腰を下ろす。

 メリッサは自分の右手首の浮き石の腕輪を外すと

「船長、今だけこれ貸すから持ってて。着けなくてもいいから持ってて」と駿河に差し出す。

「え、まぁ船から落ちないようにするから大丈夫だけど」

「私が心配なのー!」

 懇願され、駿河は苦笑しつつ腕輪を受け取る。

 トゥインタはメリッサに「有翼種も居るんで安心してくれ」と言ってから駿河を見て「首輪が無いのが人間か。分かり易くていいな」と言い、ドゥリーが「いやカナンさんは首輪が無いよ」と口を挟む。

「ああ」

 そこでシトロネラが「あ、船長。この子の祖父、カナンさんなんだって」と若い男の有翼種を指差す。

「へ?」

 ドゥリーは「つまりこいつの母親がね、カナンさんの養子の有翼種で」と言って若い男の有翼種の頭を撫でる。

 若い有翼種は嫌そうにその手を振り払って「だから血の繋がりは無いけど僕の母方の爺ちゃん人工種、婆ちゃん有翼種」

「へぇぇぇ!」

 駿河と黒船メンバー達が驚きの声を上げ、駿河が「貴方の名前は?」と尋ねる。

「タク・カミヤ・アルバート」

 メリッサが「何歳?」と聞き、駿河が「兄弟とかいるの?」と聞く。

「15歳! 9歳離れた姉貴が居て、料理屋で働いてる」

 駿河は「15かぁ!」と驚いて「君は何で採掘船に乗ろうと思ったの?」

 タクは少し口籠り気味に「……なんか面白そうだったから」と答える。

 ドゥリーがニヤニヤしながら「採掘師カッコイイから」と言い、タクはムッとして怒ったように「違う!」と言うが、トゥインタが「カッコよくなりたいんだよなー」と笑う。

 タクはムキになって「採掘、面白そうだから!」と大声を出す。

 駿河は「いや、いいんだよ! カッコイイよな採掘師!」と言い夏樹も「うんうんカッコイイ!」と頷いて、レンブラントも「カッコよさは大事だー」と微笑む。

 タクは何やら恥ずかし気に身を縮めて

「とりあえず僕は今、学校の課題で船に乗ってるだけで、採掘師になるとは決まってない!」

 メリッサが「課題って、どういう?」と尋ねると

「やってみたい職業を体験するやつ。期間内に3つまで体験できるけど、僕は採掘船だけにした」

「へぇー!」

 人工種達は驚き、シトロネラが「そんなのあるの、いいなぁ」と言い、夏樹も「いいよなぁ。人工種はそんなの無いし」と言った所で駿河が「え、そうなの?」と逆に尋ねる。

 夏樹は駿河に「そうですよ!」と言い、レンブラントが「特に怪力なんて最初から採掘師確定です。ただ、そういう能力が無い言わば普通の人工種は、少しは幅がありますけど。機関士とか」と言ってシトロネラを見る。

 シトロネラは「まぁ確かに私みたいな普通の人工種の方が、職業選択の幅はあるわね」と言ってから「でもとっとと職を決めないと管理に勝手に決められるから、自分でこれやりますって早めに主張しといた方が良いけど。ちなみに私は最初、鉱石加工の仕事に決まりそうで凄い嫌だったのね。それなら採掘船の方がマシと思って操縦士なりまーすってゴネて許可取って船の勉強始めたら、エンジンかっこいいなーと思って機関士に変えたっていう」

 駿河が「へぇ、そうだったのかぁ」と驚く。

 シトロネラは頷いて「うん。だから職業体験とかは無いわね、なのでいいなぁって思うわよタク君」とタクを見る。

 タクは「そ、そうかぁ。なんか人工種って大変だね……」と言ってから「あ、そういえば! 何でカナン爺ちゃんにタグリング付いて無いの?」と尋ねる。

 駿河が「壊れちゃったんだってさ」と言い、夏樹も「勝手に取れたんだって。家に保管してあるって言ってたよ」

「ふぅん。いつか見せてもらお」

 そこでふと駿河が「あれ。そういえばカルロスさんは?」と周囲を見回す。

「あそこで寝てる」

 ドゥリーが船首側の甲板に寝ているカルロスと上総の方を指差す。

「寝てる?」

 駿河はゆっくり立ち上がり、巨大な鉱石柱の側面に手を当てながら柱に沿うように二人の元へ近付く。

 やがてカルロスと上総が二人仲良くスヤスヤ眠る様を見て「あらま」と呟き立ち止まる。

 ……なんか、親子みたいに見える。いい光景だな……。

 クスッと笑い、安心したように呟く。

「よかった」