第17章02 石茶石採掘
黒船とアンバーは林の手前の若干乾いた大地に着陸し、船底の採掘口が開いてタラップが下りると同時にコンテナや道具を持った採掘メンバーが続々と駆け降りて来る。真っ先に走り出たカルロスは、黒石剣を背負い、手にスコップを持って林に向かって走りながら「まずはあの柱の根元だー!」と叫ぶ。
その後を追うジェッソは「ちょっ……、後続のメンバーがまだ」とカルロスを引き留めようとして諦めて立ち止まると「ホントに元気だな」と苦笑混じりに呟く。
そこへ上総がスコップで左側を指し示しつつ「こっちにブドウ石あるよ!」更にマリアも腕を振り上げて「こっちにもあるー!」と右側を指して叫び、護が「誰がどこに行けばいいんじゃー!」と天に向かって叫ぶ。
穣はスコップ片手に万歳しながら楽し気に「テキトーに好きなトコ行けー!」
ジェッソも皆に向かって叫ぶ。
「自由に散開ぃ!」
林の中の、ケテル石の柱の近くに走って来たカルロスは、草叢にスコップを突き立てると「ここにブドウ石がある!」と叫び、そこで「んっ? ……あっちに眠り石がある!」と黒石剣を抜いて方向を示すと早速自分がそこへ向かって走って行く。
カルロスを追って走って来た穣は「なんだなんだ、あいつアチコチすっ飛んで行くな」と呟いて立ち止まり、一緒に走って来た透が「とりあえず、このスコップの立ってるとこ採ろうか」と目印のスコップの傍へ。
穣はウンと頷いて、後から来た昴とメリッサと夏樹の三人に言う。
「ここ、なんかあるって」
メリッサが「ブドウ石って言ってたよ」と言った途端、少し先からカルロスの大声が。
「物凄く硬い石を採りたい人、集まれー!」
皆、一斉に声の方向を向いて、メリッサが「なになに?」と言い、穣も「硬いってどんな?」と少し先のケテル柱の根元に居るカルロスに聞く。
「眠り石だ、爆破とか怪力の人」
途端に昴が手を挙げて「爆破いくいく!」とカルロスの方へ走り出し、穣が「あっ、バリアも行くから思いっきりブッ飛ばせー!」と昴を追って走り出す。
「おっけー!」
更に別の方向から護が「怪力も行くよー」とコンテナを持ってカルロスの方へ走って行く。
メリッサはその場に残った透と夏樹に「じゃあここのブドウ石、採ろうか」と言い、三人は突き立てられたスコップを抜いて採掘作業を始める。
昴達がカルロスの所に到着すると、ケテル柱の根元に黒っぽい岩が鎮座していた。高さは1メートル程、幅も1メートル強で、人の手をグッと握ったような形のゴツゴツした岩。穣はその前に立ちながら「これが眠り石?」とカルロスに聞く。
「うん」
「じゃあ昴、俺の横で発破して」
「ほい」
昴は穣と並んで眠り石の前に立つ。穣は眠り石のすぐ前にバリアを張り、昴に向かって「いつでもどうぞ!」
「よぉーし。いくぞぉ、エイッ」
右手の指をパチンと鳴らすとバンという音と共に粉塵が少し上がって岩に若干亀裂が入り、一部分が欠ける。
「おやおや?」
首を傾げる穣。昴も驚いたように「アレ。これメッチャ硬い」と言い、昴の背後に居るカルロスが「寝てるとエネルギー低くて軟い石に見えるけど、実は硬いから思いっきり爆破しないと割れないぞ」とアドバイスする。
「むぅ。コイツ、大人しいフリして頑固だった」
昴は眠り石を睨む。それから「発破し甲斐のある石だ!」と石に向かって右腕を突き出し、気合を込める。
「いくぞー、大爆破!」
ドカン、バゴンという破裂音と共に粉塵が上がり、眠り石が二つに割れて、穣のバリアに小さな欠片が当たって落ちる。
「おっ、割れた割れた」
穣は両腕でバッバッと粉塵を振り払う。
カルロスは「デカイ塊だと高く売れない。もう少し小さくしよう」と言い、昴は「とりあえずコンテナ入れて。そしたら中で内部爆破で亀裂入れるから」と護を見る。
「ほいさ」
護はコンテナに眠り石の塊を入れ始める。
一方、マリアは自分が探知したブドウ石の場所を、マゼンタと健と一緒にスコップで掘っていた。
「そろそろ出て来るよー。もう手で掘っちゃった方がいいかも」
マリアがスコップを置いて地面に膝を付くと、「待った、俺がやるから」と健が屈んでスコップを置き、地面に膝をつきながら「こういうのは怪力の仕事」と言いつつ掘った穴に手を入れて土をガッと掻き出す。
「あ。あった」
土中に青紫の丸い石がうっすら見える。健はその周囲の土を両手でどんどん掻き出す。
その様子を見てマゼンタが「俺もやる」と言い自分もスコップを置いて屈み、地面に膝をついて土を掻き出す。
やがて健は、小さな丸い石が連なった塊を両手で掴んで「これこのまま抜けるかも……」と少し上に引き上げると、三十センチ程の長さの塊がズボッと抜ける。
「おっ!」「わぁ!」「採れた!」
三人が同時に歓声を上げる。健がそのブドウ石を地面に置くと、マゼンタが「なんか芋掘りみたい」と言いつつブドウ石の塊の端の、小さな丸い石を一つ摘まんで力を入れる。
ボキン!
「あ」
「あ。折ったー!」
マリアと健が非難めいた声を上げる。
マゼンタは折った断面を見ながら面白そうに「マジで芋みたいな感じで折れる!」
「ちょっとマゼンタ君! 大きな塊の方が高く売れるのに!」
「そうだよ、折っちゃダメだ!」
マリアと健に叱られて、マゼンタはアハハと笑いつつ「でもこれ芋だよね」
「え、そうかなぁ俺は生姜だと思う」と健。
「えー、芋だよ芋!」とマゼンタ。
「生姜だよぉ」
マゼンタと健の謎会話にマリアが「どっちでもいいけどー!」と割り込んだその時。
少し離れた所から「おおー!」という大きな歓声が上がり、三人はそっちへ振り向く。
見れば上総が探知した場所に巨大な穴が開いていて、そこからジェッソが大きなスコップでブドウ石の巨大な塊を土ごとすくい出した所だった。マゼンタが叫ぶ。
「ちょっとナニソレ凄いんですけど!」
マリアも「凄い凄い!」と大拍手。
健も目を丸くしてその様子を見ている。
巨大な塊を載せた大きなスコップを持ったジェッソは、満足気な笑みを浮かべて幸せそうに呟く。
「フッ……。この感じがタマラン……!」
マゼンタは穴を指差して「ってか、そんなデッカイ穴掘っちゃって、どーするん!」と叫ぶ。
穴の横に立つ悠斗が、事も無げに「埋める」と言い、隣のレンブラントも穴から掘り出した土の山を指差して「コレを入れてサクッと埋める」と言う。
「サクッと、って簡単に言いやがって怪力めー!」
ちょっと悔しがるマゼンタ。
ジェッソ達の様子は、メリッサ達の場所からも見える。
作業の手を止めて巨大ブドウ石の出現を見ていた透とメリッサと夏樹の三人は、再び穴掘り作業に戻る。
「怪力の連中って豪快よねー」
メリッサが言うと、夏樹が「まぁ怪力だしねぇ」と返す。
透はスコップに掛けた手を止め溜息をつく。
「何か出番ないかなぁ」
「出番欲しいねぇ」
夏樹が同意し、三人は無言のままスコップでブドウ石の周囲の土を掘る。
暫く掘っているとマゼンタが来て、三人を見て声を掛ける。
「どしたの。なんか静か。お疲れ?」
透はマゼンタを見て溜息混じりに
「ここ三人、風使いなんだけど、風使いの能力を使う出番が無いなぁって」
「はぁ?」
マゼンタは眉間に皺を寄せて「俺なんか何の能力も無いから出番も何も」
その先を夏樹が遮り「いや能力があればあるで、悩みもあるんだよ」
「贅沢!」
そこへマリアと健が走って来て、マリアが「マゼンタ君! あそこにブドウ石あるよ!」と少し離れた草叢を指差す。
夏樹は透に「マゼンタ君を風でブッ飛ばすか」と提案。
「いいねぇ」
それを聞いたマゼンタは「なんだとう。飛ばすなら飛ばしてみやがれ!」と仁王立ちしてみる。その途端……
びゅー!
後ろにスッ転び尻餅をつくマゼンタ。溜息混じりに透が言う。
「瞬殺だった」
頷く夏樹。メリッサは「悲しすぎる」と目を伏せる。
爆笑するマリアと健。マゼンタは、悔し気に「くぅ……」
黒船のブリッジでは駿河が正面の船窓の近くに立ち、微笑みを浮かべて皆の採掘作業を見ている。
「楽しそうだなぁ。声は聞こえないけど、皆の動きや表情が、全然違う」
総司は「そもそも、あのカルロスさんがハイテンションでしたからね」と言いつつ操縦席から立ち上がると、駿河の右隣に来て船窓から外を見る。
駿河は「あのカルロスさんなぁ」と言いつつ思い出し笑いをすると「本人、全く笑わせる気も無く普通だから……」
「そうなんですよ。ホントに変わりましたよね、あの人」
「うん」
駿河は頷いて「やっぱり楽しさって大事だな。まぁ仕事には規律とか成果も大事だけど、でも……」そこでふと船窓の先に見えるマゼンタとジェッソを指差して「あれ。なんか揉めてる」
スコップを地面に突き刺そうと頑張るマゼンタの横で、ジェッソが何やら指示をしている。なかなか地面にスコップを刺せないマゼンタ。
それを見て総司が「土が固いんですかね」と言ったその時。ジェッソがひょいとマゼンタの腰を持って抱え上げ、その身体を自分の左肩に掛けると、そのままスコップを手に取って地面に突き刺し、ガッと穴を掘る。
その様子に笑い出す駿河と総司。
現場ではジェッソの肩で『くの字』になったマゼンタが「下ろせコラー! 人をモノ扱いしやがってぇー!」と叫んでジタバタし、周囲のマリアや健、悠斗達が大爆笑。少し離れた所で眠り石を採っていたオーカーやオリオン達まで作業の手を止めマゼンタを見て笑う。
ジェッソは「コラ暴れるな」とマゼンタの足を抑えて「時間の無駄だ、沢山稼ぎたいなら沢山採らんとな!」
「分かったから下ろせー! 掘らせるから下ろせー!」
「よしよし」
ジェッソはマゼンタをゆっくり下ろすと再びスコップで地面を掘り始める。マゼンタは「ひぃ」と溜息をつき、それから「ちっくしょー、俺はコンテナ持ってきて詰める作業しよ」と船の方へ走って行く。
「……なんか、いいなぁ」
船窓から外の様子を見つつ、駿河が呟く。
総司は苦笑いして
「なんかすっかり仲良くなりましたね、黒船とアンバー」
「だけどなぁ……」
突然、駿河の声のトーンが暗くなり、総司は怪訝そうに駿河を見る。
駿河は小さく溜息をついて
「アンバーは元から自由だったんだ。剣菱さんみたいに、俺にもっと力があれば……」
そこで黙り、窓の外を見る。
総司は続きを促すように「力があれば……?」と問い掛け、駿河は外を見たまま微笑を浮かべて静かに呟く。
「でも、こうして黒船とアンバーが仲良くなったし、大丈夫かもしれない……」
そこへコンコンとブリッジのドアがノックされ、二人は振り向いて入り口を見る。
ドアが開いて二等操縦士の静流が中に入って来ると、総司に「副長、交代の時間です」
「今日は予定が変則だし、別に交代しなくてもいいけど?」
「ダメです。俺にも仕事させて下さい」
その言葉に駿河がちょっと笑う。総司は静流に
「さっき上にデッカイ荷物が載ったから、俺が」
「ダメです俺も操縦したいんです。こんな操縦し甲斐のある荷物は滅多に」
「いやそれは分かるんだが」
「そもそも本来は俺の担当の時間です」
「でもその……、わかりました」
「やっと折れましたね副長!」
「ただまぁ、ヒマなのでもう少しブリッジに居ます」
総司はそう言って、横で笑う駿河に「何を笑ってんですか船長!」
「いや、……仕事熱心だよなと思ってさ! いいことだ!」
暫し後。
二隻の採掘メンバー達は、各所で採った石をアンバーの船体近くに集め、コンテナ内に隙間が出来ないよう石を詰め直す作業をしている。
「んー……」
とあるコンテナの中を見て唸った悠斗は、中のブドウ石を一旦取り出し「こっちを下に入れた方がいいか」と石をひっくり返してコンテナに入れ直す。
「丁寧に詰めないと、欠けちまうからな」
悠斗の前で作業を見ていたマゼンタが「うむ」と頷き「芋は大事にしないと」
「芋? いつからブドウが芋になった」
「芋なの。生姜でも蓮根でもなく俺的には芋」
悠斗は不思議そうにマゼンタを見て「はぁ」と首を傾げる。
その隣では数人のメンバーが、巨大なブドウ石の塊をコンテナにどうやって詰めるか悩み中。
上総は石とコンテナの間の微妙な隙間を指差して
「ここにさ、緩衝材代わりに土を詰めるとか」
夏樹が「それもいいけど、出来るだけブドウ石を詰めたい。小さいの無いかな」と周囲のブドウ石が入ったコンテナを見回すと、悠斗が「小さい欠片なら余ってるぞー。これそっちに詰める?」とブドウ石の欠片が入った小さなコンテナを引き寄せて夏樹に見せる。
「あ、それ使う」
透も「うん、それをこの隙間に詰めよう」と言い、マゼンタはその小さなコンテナを持ち上げて皆の所へ運ぶ。
上総や夏樹達がコンテナの隙間に欠片を詰めていると、突然「おお!」と言う声。
ふと見ればコンテナを担いだ護やレンブラント、オーカー、そして鈍い灰色の石を持った穣と昴、オリオンがやってくる。一番前に居たカルロスが夏樹達のコンテナの所に走って来ると、巨大なブドウ石の塊を見て
「これ、どうやって採った!」
上総が得意気に「俺が探知して、石の周りをグルッと掘って、採った」と答え、続いて透がジェスチャーを交えて「怪力の人が巨大スコップでドーンと」と答える。
カルロスは悔しそうに「黒船に先を越されたな」と言い、上総の「はぁ?」という怪訝な声を無視して護に言う。
「護! 小型船をゲットしたら我々はこれよりデカイ塊を採ろう!」
一瞬キョトンとした護は、眠り石のコンテナを持ったまま
「え。まぁカルさんが探知してくれたら採るけどさ」
穣が呆れてカルロスに「アンタ何を黒船と張り合っとるねん」と苦笑い。
「一応、個人事業主になりますので。石茶石では負けたくない」
「はぁ」
護は「しかし人数が多いとデカイ石採れていいよねぇ。船がデカイと沢山積めるし」と呟く。
穣が言う。
「デカイ船、持ったらいいやん」
「え」
驚く護。カルロスが「高い! 人件費もかかる!」と言うと、穣は持っていた眠り石をその場に置き、ビシッとカルロスを指差して「稼げ!」
「……」
一瞬怯んだカルロスは巨大ブドウ石を見て「とりあえず、このレベルの石は採りたい……」
透が横から「じゃあ頑張って二人で穴掘り穴埋めしてね」
悠斗も横から「それ掘り出すとデッカイ穴、開くからな!」
護はカルロスに「よしカルさん頑張ろう!」
「う、うむ……」
穣が「ところで空いてるコンテナ無い?」と皆に尋ねると、マリアが「ここにあるー」と言いつつ自分の目の前の空コンテナを持って穣の所へ。穣は地面に置いた眠り石を持ち上げコンテナの中に入れ、昴とオリオンも自分の持つ眠り石をそのコンテナの中へ入れる。
上総が「それが眠り石? エネルギーすっごい低い」と言うと、カルロスが「だろ?」と返して「さっきバンバン叩き起こしたのにまた眠ってしまった」
「……石って寝るんだ……」
上総の言葉に皆、笑いつつ、マリアが「確かにこれは探知し難い石だぁ……」と頷いて納得する。
穣は「さて、じゃあそろそろ船に積み始めるか。向こうにまだ眠り石を入れたコンテナあるし」と言い周囲を見回して「あれジェッソは」と言い掛けた所で、透が「さっきアンバーの貨物室にコンテナ持ってったよ」と言う。
「あ、もう積み込み開始してたか」
護が「全部アンバーに積むよね、黒船のコンテナとアンバーのコンテナ、置く場所分ける?」と穣に尋ねる。
「一緒にごっちゃでええよ、どうせ全部降ろすし、中身出した後に駐機場とかで黒船にコンテナ返せばいい」
「ほい」
一同がアンバーの下で積み込み作業をしていると、遠方から「おーい」という呼び声が聞こえ、やがてターさんが飛んで来る。
「皆、そろそろ街に戻る時間だよー」
タラップ下に居た護とオーキッドが「ほーい」と答え、護が目の前の小さな二つのコンテナを指差して「これ積んだら終わる」と言うと、オーキッドが「俺、どっちも持って行く」と言いコンテナを重ねて持ち上げタラップを上がり始める。
そこへジェッソがタラップの上に姿を現し、オーキッドを見て「それが最後か」と呟くと、船内に向かって「黒船の一同はアンバーから撤収ー!」と叫ぶ。それから「ああ、そうだターさん」とタラップを下りて来ると胸のポケットからインカムを出してターさんに差し出す。
「これ、そちらに預けます。今後の連絡用に」
ターさんはそれを受け取り「これ、黒船と繋がるやつ?」と尋ねる。
「はい。アンバーのインカムと区別できるように、ここんとこ黒く塗っときました」
ジェッソはターさんの持つインカムの側面を指差す。
「なるほど」
ターさんはジェッソと護を交互に見ると「いい石、採れた?」
護はニヤリと笑って「なかなか凄いの採れたよ。多分、石屋もターさんもビックリする」
ジェッソもニヤリと笑って「うむ」と頷く。
「へぇ。それは楽しみ!」
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