第17章01 石茶石の現場へ
ドゥリーと探知人工種三人は黒石剣の練習を終え、ドゥリーは甲板ハッチ近くの人工種座談会に加わり、上総とマリア、カルロスの三人はお茶を飲みに黒船の船内へ。食堂に向かって通路を歩きつつマリアが「わーい黒船の船内だぁー!」と楽し気に言うと、上総がボソッと「そんな騒ぐ程の事かなぁ」と言う。マリアは上総を見て
「えー、キミもアンバーに来たらテンション上がるよ、他の船って楽しくない?」
「んー」
二人の前を歩くカルロスが「そういや護が黒船に乗った時も騒いでたな」と呟き、カルロスを先頭に三人は食堂に入る。見れば配膳カウンター脇の『お茶コーナー』に穣と昴が居て、立ったままお茶を飲んでいる。
穣が三人を見て声を掛ける。
「おや。練習終わったん?」
「うん、お茶休憩しに来た」
カルロスは返事しながら穣達の所へ。
マリアも「黒船のお茶、飲みに来た!」と言いつつ上総と共にカルロスの後に続く。
穣は「黒船の茶はアンバーのと違ってマズイぞ」と言い、お茶のポットの脇に置かれたカップを三つ取って台の上に並べる。
上総が「えー」と非難の声を上げ、昴がボソッと
「ジュリアさんに言いつける」
「アッ」
慌てた穣はお茶のポットを手に取り、満面の笑顔で「嘘ですとっても美味しいです黒船の茶!」と言いながら三つのカップにお茶を注ぐ。
上総はニヤニヤしながら「ジュリアさん居なくて良かったね!」
「ウム。ブッ殺される所だった……」
穣はお茶を淹れたカップをカルロスに差し出す。
「美味い茶です、どうぞ」
「どうも」
続いて上総とマリアにもお茶のカップを差し出し、上総とマリアは「ありがとー」「ありがとうです!」と言いつつそれぞれ受け取る。
カルロスはお茶を一口飲むと、お茶コーナーの向かいのテーブルにカップを置き、近くの椅子を引き寄せてテーブルを背にお茶コーナーの方を向いて座ってハァと溜息をつく。その様子を見て昴が言う。
「なんか、お疲れてる」
穣も「お疲れてるな」と同意し「どしたん、黒石剣の練習、大変なん?」
「いやそれは大変じゃないんだが」
カルロスはそう言って少し黙ると「……自分はやっぱり探知の方がいいなぁ」と溜息をつく。
「探知の方がいい? ……雲海切りは、大変なのか」
「んー……」
眉間に皺を寄せ、暫し考えてから「なんかこう、……恥ずかしい」
「へ?」
予想外な答えに、穣は少し目を丸くして「何で?」
「有翼種の世界では普通の事だけど、黒船とかでは雲海切りなんぞやらんだろ。しかも私はまだ、切る要領が掴めてなくて結構アタフタしながらやってるんで、なんかこう、恥ずかしい……」
「……」
「探知の方がいいなぁ……。面白いし……」
溜息をつきながらお茶を手に取り、飲む。そんなカルロスを若干唖然とした顔で見つめる一同。
穣は内心、コイツは一体何を悩んでいるんだと思いつつ
「……ってか、それなりにカッコイイが……」
上総も「カッコイイです!」続けてマリアも「カッコイイです!」
昴は「最初ビックリしたけど慣れた!」
カルロスは若干困った顔をしてから「うーん」と唸り「なんか、恥ずかしいんだよなぁ……」と再びお茶を飲む。
穣はふと、思い出して「あぁでも確かに昔のアンタを考えると、無表情な人型探知機だったアンタがいきなりデカイ剣を振って雲海切ったり霧島研のドアぶっ壊した時には、スゲー! と思ったけど!」と言った瞬間すかさずカルロスが「だろう?」と穣を指差して「あの時は流れと勢いでやったが、思い出すと結構恥ずかしいんだ」
「ってかアンタ実は恥ずかしがり屋だよな!」
穣もカルロスを指差し、ウッと苦い顔になるカルロス。
「……そ、そうかもな」
昴がウンウンと大きく頷いて「この人、照れ屋だった」と言い、上総も「わかるー!」と大きく頷く。
マリアが何気に呟く。
「……だから無表情な人型探知機だったのかな。感情出すの恥ずかしいから」
「!」
痛い所を突かれたようにカルロスが驚いた顔で動きを止める。
穣が「かもな!」と言い上総が「そっかぁ!」昴が「なるほどー」
「……」
肩身狭そうに両手でカップを持って黙々とお茶を飲むカルロス。
穣はカルロスを見ながら笑って言う。
「何にせよ今のアンタは凄く良いぜ。昔に比べたら雲泥の差で良い! 何が恥ずかしいのかサッパリわからんが、気にせず好きなようにやれって」
カルロスは「そうかな。それならいいんだが」と言いお茶を飲み干し、穣にカップを差し出す。
「スマンが、もう一杯くれ」
「へい」
穣はお茶のポットを手に取ると、カルロスが差し出したカップにお茶を注ぎ、再びお茶コーナーの台の上にポットを戻して言う。
「しかしアンタ、マジで変わったな。以前のアンタだったら、そんなセリフは絶対吐かなかった」
昴と上総が大きく「ウン!」と頷く。穣は続けて
「護もすげぇ変わったが、アンタもすげぇ変わったよ。なんかこう、イェソドに行って解き放たれたって感じ」
「あぁそれはあるな」
カルロスは思い出すような目をしつつ「イェソドに来て最初に凄く笑った。なんか知らんが笑いまくった。確かにあの時、物凄い解放感を感じた。単に笑っただけなのに」
「つまりそんだけ抑圧してたって事だろ」
穣はちょっと溜息をつくと「俺らは抑圧が当たり前になってる。でもそれは、そこから離れないと自覚できないんだ。……昔、俺に『慣れ親しんだ同じ世界に居る方が楽なんだが実はそれは本当には何も考えていない。未知、わからない事は確証が無く怖いが、しかし未知こそ可能性の宝庫。未知は不安とセットだという事を受け入れれば挑戦して行ける』って言った人が居てな。んで俺は慣れた世界から出ようと足掻いて来た訳だが、実際、今ここに来て実感するよ。違う世界を見る事は本当に大事だと」そう言って自分もお茶を飲む。
「確かにな。……しかしお前、何も考えてないようで、実は深い事考えてるよな」
「まーね!」
穣は苦笑し「しかしアンタと、こんな打ち解けた話が出来るようになるなんて以前は想像もせんかったわー」
「同じくだ」
カルロスは、ふと「あ、マリアさん」と言い「あの箱の中にお菓子入ってるから食べていいぞ」とお茶コーナーのポット横の、蓋に『おやつ』と書かれた四角い白い箱を指差す。
昴が「これ菓子箱」と言いつつ箱を持ち上げ蓋を取り、皆の前に差し出す。中には個包装の小さなチョコやクッキーが入っている。マリアがどれにしようかなと手を伸ばすと上総が「このチョコ美味い」と赤い銀紙に包まれた丸いチョコを指差す。
「じゃあこのチョコ頂きます」
マリアはそれを摘まんで手に取り、銀紙を剥がしながら「アンバーでも食堂にお菓子の箱、置いてあるよ。たまに透さんの手作りお菓子が入ってる」と言い、取り出したチョコを口にほおばって「あ、中にイチゴの味が。美味しい」
穣も箱の中の緑色のチョコを手に取り銀紙を剥がしつつ「たまに食堂のテーブルに、あいつの手作りケーキとか置いてあったりするしな」と言いチョコを口に入れる。
上総が「え、そうなの?」と驚いて「いいなぁ……」
マリアが上総に言う。
「透さんって食品を取り扱う免許持ってるんだよ。わざわざアンバーの為に取ったの」
「ええ?!」
「だって手作りだと食中毒の危険があるでしょ?」
続けて穣が「操縦士とかが食中毒になったらシャレにならんし」と苦笑いして「あいつ、ブルーに居た時はたまにクッキー作って持って行く位でケーキとかは持ち込まなかった。アンバーに来てから剣菱船長に相談して、食品の衛生管理しっかりするなら良いと言われて、調理師のアキさんの勧めで免許取ったんよ。そもそも本人、前から資格取りたくて色んな勉強だけはしてたんだ。それを後押しされたからやったって話さ」
「ほぉぉ……」
上総や昴、カルロスが感心する。それから上総が「俺、透さんのケーキ食いにアンバー行きたい」と呟き、昴が「それならジュリアさんにケーキ作ってーって言えば?」と返す。
「だっていつも作ってくれる訳じゃ」と言い掛けた所でマリアが「いつもじゃないよー!」と言い「透さん、たまに、作ってくれるの! しかもそれ、透さんの自腹だからね、アンバーの食材使ってる訳じゃないよ」
「お、おぅ……そういう事かぁ」
そこへ天井のスピーカーからピピーと音が鳴り、船内放送が流れる。
『船長です。あと10分程で現場に到着するから休憩の人は戻って来てねとドゥリーさんからの伝言です、以上』
穣が「……だとさ」と言うと、昴がククッと含み笑いをしてカルロス達三人を指差す。
「探知の人がこんなに居るのに誰も何も言わないし!」
上総が「え、だって」とカルロスを見る。
マリアもカルロスを見て「……うん。言うかなって……」
カルロスは「だって今はインカムでブリッジと連絡してるのドゥリーさんだし、別にいいかなと」と言いお茶を飲み干し椅子から立ち上がる。穣が「ちなみに、気づいてたん? あと10分で現場に着くって」と尋ねると、カルロスは配膳カウンターを挟んでお茶コーナーの反対側にある食器返却コーナーに歩いて行き、そこにカップを置いてから「トイレ寄って、上に戻る」と言い食堂から出て行く。
穣がニヤニヤ笑いながら「アレは気づいてないなー!」
昴も頷いて「気づいてない!」
上総が言う。
「以前だったら何がどうでも絶対探知しろって怒ったのに、緩くなったなぁ」
マリアがちょっと驚いて「そんなだったんだ……」
黒船を先頭に雲海の中を飛ぶ三隻。徐々に雲海が薄くなり、青空と、下の森がうっすらと見え始める。
ブリッジの中にも太陽光が差し始め、操縦席の総司が「お。晴れて来ましたね」と呟く。ふと船窓前方に目を凝らして「何か見えて来た。……船かな?」
「船?」
駿河は怪訝そうに「レーダーには何も出てないぞ?」と言い目線を上げて前方を見ると「確かに何か居るな。船っぽくもないような……何だろう……」と言いつつ驚いたように目を見開き始める。
総司が驚いて叫ぶ。
「船長あれ、岩です! もしかして浮き石の塊……?」
「う、うん、岩だけど……」駿河は首を傾げて「でかすぎん?」
「た、確かにでかいっすね。しかもなんか……」
総司はそこで言葉を失う。どんどん近付く『岩らしき』物体。
駿河の顔に、呆れたような笑みが浮かぶ。
「まさか、島っていう……」
「マジかよ……なるほど遠すぎてレーダーに映らんっていう……」
眼前に近付く浮島を見ながら駿河が力強く「副長、世界は広いな!」
「広いっすね船長!」
総司はアハハと笑みを浮かべて
「……浮島なんて、想像も出来なかった……」
甲板の上でも皆が浮島に大騒ぎしている。
「すごーい、島が浮いてるー!」「凄い凄い浮島ー!」
マリアやメリッサが手を叩いて喜び、ジェッソやレンブラント達も「おおお!」「すげー!」「どうやって浮いてん……」と驚きの言葉を口にする。その様子を見てカルナギが若干呆れ気味に言う。
「人工種って何でも驚くんだな」
穣はカルナギに「だって俺らの方にあんなの無いし!」と言い、護は悩み顔で「俺達の方で有翼種がビックリするようなモンは無いかなぁ」と腕組みをする。
カルロスが「この採掘船にビックリして欲しかった」と言うと、カルナギは「確かに変な形だけどな。まぁそんなに驚かないな」と返す。
「ううむ」
「まぁとにかく」
カルナギは一同を見回し、大声で言う。
「人工種の船は、あの浮島で石茶石を採る。その間に有翼種の船は別のとこでケテル石の採掘をする。いいな?」
皆それぞれ「はい!」「了解です!」等と返事し、カルナギは「じゃあ後は金髪頭の探知に頼んだ!」とカルロスを指差す。
「って、私か」
カルロスは上総を見て「上総は微妙に金髪じゃないんだな」
穣が「微妙に栗色っすね」と突っ込む。
カルナギはドゥリー達に「有翼種はブルートパーズに戻るぞー!」と呼び掛けて上空に飛び上がる。
ドゥリーはインカムでカルナギの指示を黒船のブリッジに伝えると、インカムを耳から外してジェッソに返す。それから「じゃあまたねー」と皆に手を振り上空へ。ターさんもアンバーに指示を伝えて飛び上がり、有翼種達は皆に「頑張ってねー!」と言って後方のブルートパーズへ飛んで行く。
カルロスがジェッソの隣に来て言う。
「じゃあとりあえず、このまま前進ってブリッジに伝えてくれ」
はい、と言い掛けたジェッソは、ふと「あ、貴方が直接ブリッジに指示すればいい」とインカムを耳から外してカルロスに差し出す。
「え、あ。私か」
インカムを受け取ったカルロスは、それを耳に着けながら
「私に探知させるとトンでもない事になるぞ。たまに嘘言うからな!」
「え」
驚いて目を丸くするジェッソ。周囲のメンバーも「エッ?」という感じでキョトンとする。
カルロスは何やら楽し気にフフッと笑って「冗談だけどな!」と言ってからインカムに「ブリッジ、通信代わりましたカルロスです。とりあえずこのまま直進!」
『了解です』
ジェッソは怪訝な顔でカルロスを見ながら「……たまに?」と尋ねる。
一瞬、何か気づいたように「あっ」という顔をしたカルロスは、微笑して言う。
「ワザと嘘ついたのはあの時だけですが」
それを聞いたジェッソは小難しい表情になり、わざと腕組みをしてカルロスを見つめる。
周囲のメンバー達も同様に腕組みしてカルロスをじーっと見つめる。
空気を察したカルロスは「いや、その」と狼狽えて真顔になり「あれはどうしようも無くて。申し訳ない……」と声のトーンを落とす。穣だけは思いっきりニヤニヤ笑いながらカルロスを指差して
「なんか自分で墓穴掘ってしまったらしいぞ」
護が神妙な顔で力強く「うむ」と頷く。
カルロスは「だって、ああでもしないと、この後継機が私を探知して捕まえる」と上総を指差す。
上総は「だって逃げるから捕まえろって貴方に言われたし!」とカルロスを指差す。
「だ、だから。とにかく目視出来なくなるトコまで引っ張った」
焦りまくるカルロスに、上総は「ちなみにワザとじゃなくて嘘ついた事あるんですか?」と尋ねる。
「というと?」
「さっき、たまに嘘言うって」
「あぁ探知ミスの事を言ったんだ。昔はよくやったもんだ……」
上総は驚いて「そうなの?」
「って人の探知ミス話を引き出そうとしても、その手には乗らないぞ」
「ええー」
カルロスは上総を睨んで「上総。お前ちょっと可愛くなくなった」
「元から可愛くありません!」
「お前もそのうち黒船で、探知ミスって恥ずかしい思いをするがいい!」
「ミスしませんっ! アンタの後継機だし!」
「私の後継機って事はミス確定だな!」
「ええー!」
二人の珍会話にジェッソが呆れて苦笑しながら「あのー……」と会話を遮る。
「カルロスさん、そろそろマジメに探知を。どこに着陸するんですか?」
「あっ、まぁ探知はずっとしていて……」と言い掛けたカルロスは突然パッと嬉しそうな顔になり「おっ美味そうな石みつけた!」と叫ぶ。
「美味そうって」と驚くジェッソ。
満面の笑みを浮かべたカルロスは意気揚々とインカムで指示する。
「この先になんか凄い所があるぞ。ブリッジ、高度を下げつつやや1時の方向へ!」
黒船とアンバーは高度を下げて浮島の森の木々の上を飛び始める。
後続のブルートパーズは高度を変えずに二隻とは別の方向へ。
黒船甲板上のカルロスは黒石剣で方向を指し示しつつ、インカムで指示する。
「このまま直進! もう少し行くとケテルの柱が何本かあって、その周辺に美味そうな石がゴロゴロある!」
『り、了解です。美味そうな石……ですか?』
不思議そうに聞く総司に、カルロスは「うむ!」と力強く返事する。
いつになく元気なカルロスを見てジェッソが呟く。
「よっぽど石茶石が好きなんですね……」
周囲のメンバー達も、こんなカルロスさん珍しい、と珍獣を見るような目でカルロスを見ている。
護は、石茶石になるとカルさんテンション上がるからなぁと思いつつ、ピシッと一言、釘を刺す。
「でもさ美味い石が売れる石とは限らないから」
「それはそうだが売れない石を採って石屋に『人工種はヘッポコな石しか採って来ない』と言われるよりは『人工種は美味い石を採って来る』と言われた方がまだマシだ」
「う、うーん」
カルロスは「とりあえず美味い石なら自信がある。というか私が採りたいんだ!」と叫び、護は拳を握って「俺は売れる石が採りたーい!」と大声を出す。
「安心しろ護、とりあえずブドウ石と眠り石は売れる事が確定だ。でも他にも美味そうな石が色々あるんだが」
「まずブドウと眠りだけ、採るの!」
「くぅ」
その会話に穣が苦笑しながら「ほんとテンション高ぇな。石茶石採るのがそんなに嬉しいんか……」と呟く。
カルロスは「そもそも私がイェソドに来て苦に感じたのは金が無くて採掘師なのに高い石茶が飲めないという事だ! だから自分で美味い石を採れば飲めるという理由で採掘師を続けている!」と言い、突然「あっ」と何かに気づいたように隣のジェッソを見て「そろそろ現場だ、今からは普通の採掘だから船内から道具を取って来ないと」
「え?」
ジェッソは頭にハテナマークを浮かべてカルロスを見つめる。
護が「ああ」と理解し「カルさん、甲板から飛び降りて現場に行くのは有翼種の採掘だよ、俺達、普通は下の採掘口から行くじゃん……」
カルロスを含むその場の全員が「ああ」と納得し、カルロス以外の皆が「そういう事ね……」と苦笑する。
カルロスはジェッソに向かって
「すまんな、てっきり飛び降りるつもりだった」
「……」
ジェッソは笑ってしまって返事できず、代わりに穣が「そんなのアンタと護だけだー!」と言い「まぁ出来ない事は無いが、今は道具が下にあるし下から行こうや……」と苦笑しながら言う。
笑いを収めたジェッソは心の底からしみじみと
「本当に変わりましたねカルロスさん……」
「そうかな。とにかくそろそろ現場だから、皆、準備を」
それからインカムで指示をする。
「ブリッジ! 前方に背の高いケテルの柱がある林があるだろ、あの林の手前、木の無い見晴らしの良い所、あの辺に着陸してくれ!」
『……はい、了解です!』
何となく笑いを堪えたような総司の返事が返って来る。
「さっきから楽しそうだなブリッジ。たまに笑い声が聞こえるんだが」
『いや、だって……貴方のせいですよ!』
「そうなのか。すまん」
護が横からカルロスに「どしたん? 船長に何か言われた?」と尋ねる。
「いや副長に怒られた。笑わせるなと」
「……」
思わず口に手を当てプッと吹き出す護。カルロスは真顔で
「笑わせたつもりは無いが、まぁインカムを一旦切っとけば良いんだが進路指示が必要だしな!」
護は笑いを堪えつつ「……カルさんがテンション高いから……」
「仕方なかろう、石茶愛好家としては幸せを感じるんだ」
「そりゃ分かるけど……」
カルロスは眼前に迫った着陸地点を見て、インカムに
「とりあえず着陸だ、なんか笑ってるが大丈夫か副長!」
『大丈夫です! 貴方がどんなに笑わせても問題なく着陸させます!』
「流石だ!」
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