第16章06 大物を採る

 甲板の上の穣が笑いながら言う。

「さっきあいつ、ブリッジの上跳んでったぞ。中の人ビックリするやん……しかし護もよく落ちるわな、この高さから!」

 するとカルロスが胸を張って

「私も練習したぞ、この高さから! 浮き石があるとはいえ、最初は結構恐い!」

 すかさずターさんがニヤリと笑う。

「顔が引き攣ってたもんねぇ、絶叫してたし!」

 穣が「なぬ?」上総が「エッ!」と驚いて、二人で同時に「それ見たかったー!」


 甲板の少し上に浮かんでいるカルナギが、柱の頂点に居る有翼種メンバー達に叫ぶ。

「柱押さえの準備はいいか!」

「大丈夫!」「オッケーだー」等とメンバー達が返事を返す。

「よーし」

 カルナギは甲板上のジェッソや穣達に向かって「笛が鳴ったら下を切った、って合図だ。アレがゆっくりこっちに倒れて来るからな」と言い、ニヤリと笑って「キチンと受けないとお前らの大事な船が傷つくぞ」

 ジェッソがパンと右手で胸を叩いて言う。

「パワースキル人工種の名においてガッツリと受けましょう!」

 続いて怪力メンバーに向かって「頑張るぞ怪力野郎共!」

「おおー!」

 レンブラント、オーカー、大和が右の拳を掲げて気勢を上げる。

 穣も拳を握り「バリア職人も頑張るぜぇぇい!」

 カルナギは皆に「じゃ、頼むぜ!」と言い、柱の根元へ飛んで行く。

 ドゥリーはカルロスに「雲海、切ってねー」と言い残してからカルナギを追って下へ。

 カルロスは黒石剣でちょこちょこと周囲の霧を払ってから、見学に来たアンバーが居る右舷側にも大きな雲海切りを一発撃って、ふぅと溜息をつく。

「……こんな感じでいいんだろうか。イマイチ要領が掴めん……」


 柱の根元ではトゥインタの指示で護が切り込みを入れる作業をしていた。

 そこへカルナギとドゥリーが到着し、カルナギが切り込みを入れる作業に加わる。

 やがて柱の根元の三カ所に切り込みが入り、カルナギが三つの切り込みを注意深く確認して「よし!」と頷くとドゥリーが上空に向かって雲海切りし、黒船がハッキリ見えるように視界を確保する。

「じゃあ、切るぞ」

 周囲を確認したカルナギは、笛を口にくわえて斧を構える。

 ピッピッ、ピーッ!

 雲海の中に笛の音が響き渡ると、カルナギがガンッガンッと鉱石柱の根元を切断、若干グラッと柱が船側に傾くが、それを護と有翼種メンバーが押さえる。

 甲板ではジェッソが叫ぶ。

「風使いは船の安定! バリア野郎は」

「任せときー! れっつバリアぁー」

 柱に向かってバリアを張る穣。

 柱はゆっくりじわじわと、黒船の左舷、翼の付け根付近に向かって倒れ始める。

 四人の有翼種メンバーが幅広のベルトを柱の上部二カ所に掛け、柱を挟むように左右の端をそれぞれ持って飛びながら柱を吊り支える。

 ブリッジでは駿河と総司が緊張の面持ちで左舷の窓に見える柱を注視している。

 駿河が不安気な顔で言う。

「……こ、この感じだと、胴体と翼の付け根の間に柱を寄り掛からせる?」

 総司も戸惑い顔で答える。

「そんな気も、しますが……多分そこから甲板に引っ張り上げる……かも?」


 バリアを張って待機する穣は柱の向きに合わせて翼の付け根の少し前、ブリッジ寄りに移動する。黒船の四人の怪力も穣の背後に移動する。一同の周囲をちょこまかと動き回りつつ雲海切りするカルロス。それを見て、空中で柱の中程を押さえているターさんが「カルさん! もっと大きく霧払って!」と指示。

 カルロスはヤケ気味に「どこからどう切ればいいのかワカランー」

 穣が「よっ、雲海切り職人!」と冷やかす。

「ウルサイぞバリア屋!」

 ターさんが叫ぶ。

「左翼の上から大きく雲海切り、人には当たらんように!」

「なるほど翼の上か」

 カルロスは甲板から左翼に飛び降りると、そこから周囲に大きく雲海切りして視界を明瞭にする。

 レンブラントが苦笑して「凄い指示だな、流石は飛べる人の世界」と呟く。

 その間にも柱はどんどん傾き、先端が穣や怪力四人の頭上に差し掛かる。

 穣はバリアの強度を強めつつ「圧が掛かってきた!」と叫び、迫り来る柱を見ながらジェッソも皆に「来るぞ、パワー全開で受け止めろ!」と叫ぶ。

 徐々に近付く柱の先端。

 怪力の名を持つパワースキルの人工種達は、一番背の低い大和を前に、後ろにオーカー、レンブラント、ジェッソの順に一列に並んで両腕を上に伸ばす。

 ついにその手に柱が触れ、次第に腕に圧が掛かり始める。

 怪力人工種のパワーで柱はしっかりと受け止められ、大和の前に居る穣は体勢を低くし、ほぼ座った状態のままその場で柱を支える支点となる。

 ブリッジでは駿河と総司が「来た!」と叫び、駿河が「マジで直に甲板に……ここからどんどん重量変化するぞ!」と計器を注視し、総司は焦りつつ「意地でもバランス崩さん!」と不敵な笑みで計器を見ながらバランス調整に集中する。


 甲板で、パワー全開で柱を支える怪力四人とバリアの穣。

 風使いのメリッサと夏樹は甲板の左右に立って船体への風の影響が最小限になるよう周囲の風を操り、爆破スキルの昴と探知のマリアと上総は、妖精達と一緒に作業を見守り応援する。

 柱の上部は四人の有翼種が二本のベルトで吊っているが、その内の一本を持つ二人が柱からベルトを外すとターさんが居る柱の真ん中付近へサッと移動し、そこに再びベルトを掛ける。つまり柱の先端は、五人の人工種と二人の有翼種が支えている状態になる。

 そこへ柱の根元の方からピーッと笛の音が聞こえ、ターさんが叫ぶ。

「柱の根元が上がるよー!」

 柱の先端をベルトで吊っている有翼種の一人も大声で「ケツが上が……」と言い掛けて慌てて「根元が上がるぞ!」と言い直す。

 すかさず穣が「ケツ上がるぞー!」

 ジェッソも「ケツが」と言い掛けて目を見開き「……上がって来た、上がって来たぞぉぉぉ!」と叫びながら両腕と全身に力を込める。

 飛びながら柱の根元を押し上げるカルナギやトゥインタ達。その翼がエネルギーで青く輝く。

 甲板の怪力人工種達は不敵な笑みを浮かべ、最大パワーで柱を支えつつレンブラントが嬉し気に「怪力冥利に尽きる!」と叫ぶ。オーカーも「たのしー!」と叫び、大和はいつも通り無口だが珍しくニコニコしている。

 再びピッ、ピーッという笛の音。有翼種達が口々に叫ぶ。

「台木の上へ運べー!」「台木に移動!」

 ジェッソも「ゆっくり移動!」と叫んで怪力四人は静かに船体中央へ移動を始める。支点の穣だけは柱の下に座ったまま上にバリアを張り続ける。

 作業を見ていた昴が「アッ」と声を上げ、慌てて柱の先端の前へ行くと、甲板の床についている船体の真ん中を示す線の上に立って「誘導する、ここ真ん中ー!」と言いつつ右手を上げる。

「そのまま真っ直ぐ、……ここから下に台木があるよ! 台木またいで!」

 ジェッソも「台木に気を付けろー!」と叫ぶ。

 人工種と有翼種は、動きを合わせて甲板に並んだ台木の上に柱を移動させていく。

 柱の幅は2メートル強だが、長さは船体よりやや長い。


 ブリッジでは駿河と総司が真剣な表情で計器を見つめて船体のバランスを取る操作に集中している。

 ふと駿河がブリッジ天井の窓を見ると、柱の根元部分とそれを支えるカルナギやトゥインタの姿が。

 ……あり得ん光景だ、と思いつつ言う。

「だ、大丈夫なんだろか。柱、載るかな」

 総司は力強く「オブシディアンは強い子だから行ける!」

 ゆっくりと船体後方へ移動していく柱。少しして、それは静かに下へ下ろされる。

 スピーカーから『ブリッジ、柱を載っけたけど重量オーバーしてない?』というドゥリーの声。

 驚いた総司は天井の窓を見ながら「え、なんか柱が少しはみ出してるけど、全部載ったの?」と尋ねる。

『載ったよ。位置とか重さに問題無ければ固定するけど』

「はぁ。じゃあ大丈夫です。固定して下さい」

『了解ー』

 計器を見ていた駿河は「重さは意外に大丈夫だな。見た目よりは軽かった」と呟くと、天井の窓を見て「少しブリッジ側にはみ出してるけど、載せ方が上手いから船が安定してる」

 総司は上を指差して「しかも根元の切り口がナナメですよ、ブリッジ側に向かって。空気抵抗考えてくれてる」

「ほぉ? ここからだとそこまで見えない」

 駿河は船長席を立ち、天井の窓を見ながら操縦席の横に来ると「あぁ」と呟く。

「でも凄いな、切り口の長い部分をブリッジ側に、短い方を上にして載せるって。途中で柱を回転させるのは難しい筈だから、倒す時……いや、切る時からもう全部考えていたのか……」

「そうでしょうね、多分」

「……しかしガチで全部人力とはなぁ……」

 フゥと安堵の溜息をつき「やれやれ久々に真剣勝負したな」と微笑む駿河。

「まぁ、もう少し難物でも良かったんですが」

「へ?」

 駿河が驚いて目を丸くすると、総司は楽し気に

「あとはこの柱を降ろす時にどうなるか!」

「……なんか楽しそうだな副長」

「え。そうですかねぇ?」

 ニッコリと微笑む総司に駿河は苦笑し

「全く……。曲者だよな、この副長!」



 一同が黒船の積み荷固定用ベルトで甲板に柱を固定する作業をしていると、船の下からトゥインタが護を抱き抱えて甲板へ飛んで戻って来る。

「ただいまー!」

 二人は作業中の穣の近くに着地し、柱を見て護が嬉し気に言う。

「いやー、船に載ったねぇ、柱!」

「おかえり」

 作業の手を止めた穣が二人を見て「載せた載せた。しかしデカイな、笑っちまう位に!」と言うと、トゥインタが「うん、デカイし上物の柱だしな。いいもん採ったな」と微笑む。

 穣は続けて「ちなみに護、柱の向こう側に行くにはハッチの所しかないぞ。何せ船首側も船尾側も柱で通れない。ハッチ内に入りながら柱の下をくぐって反対側に行くしか無い」

「あー、なるほ」

 トゥインタが「何なら飛び越えさせてやるよ、必要なら声掛けてくれ」と言い、穣は「あっ、じゃあそうします」、護は「はい!」と返事する。

 穣は再び柱固定の作業に戻り、トゥインタと護もそれを手伝う。


 やがて一同は作業を終え、ジェッソは固定ベルトの緩みが無いか、各所の確認作業を念入りに行ってから「よし、固定確認、問題無し!」と言い、皆に「じゃあ皆、カルナギさんの所へ集まれー!」と叫びつつ、左舷の船首付近に居るカルナギの所に歩いて来て「柱の固定、確認しました。作業完了です」と報告する。

「……アンタら、本当に良い仕事するよな」

「えっ?」

「俺はアンタに報告しろとは言ってないし、固定の確認しろとも言ってない。自発的にそれが出来るのは日々の仕事をしっかりやってる証拠」

「そ、そうですか」

 ジェッソが戸惑い顔で言うと、カルナギは少し微笑み

「こういうのは、教えても出来ない奴も居る。……色んな奴と一緒に仕事して来るとな、良く分かるんだ」

「……はぁ、たまにいますね」

 近くで会話を聞いていた穣が「まぁ黒船は先代の超スパルタ船長に鍛えられてるもんなー」と言い、自分を指差しながら「ちなみにアンバーもちゃんと仕事してまっせ!」

「そりゃ分かってる。コイツを見ればな」

 カルナギは穣の隣に来た護を指差す。

「俺?」

「うん。そもそも、このデカイ柱を一本採りしようと決めたのは護の技量から判断したんだ」

「ほぇ?」

 護は頭にハテナマークを浮かべる。

「……通常、俺の船一隻だけではこんなデカイ柱は採らない。もし採るなら応援の他船を呼ぶか、他船が呼べないなら分割する。しかし分割すると手間と時間が掛かるし価値も落ちる」

 カルナギは一旦言葉を切り、周囲に集った黒船メンバー達を見回すと、話を続ける。

「今まで何度か護と一緒に仕事して、コイツの力は大体わかってる。であれば黒船の怪力連中なら柱を受けられると判断した。この青い髪と金髪の人工種の仕事ぶりを見れば、二人が大切にする二隻がどんな仕事をするかは何となく想像できる。だから一本採りを決めた訳さ」

 皆、真剣な顔でカルナギの話に耳を傾けている。その真っ直ぐな眼差しに、カルナギは思わず微笑みを浮かべて

「……真面目だよな、お前ら。とてもいい目だ。青い髪と最初に出会った時の事を思い出す」

「エッ?」

 カルナギは怪訝な顔の護を指差して「コイツは最初、全然できなくて悔しがって涙目に」

「あああー!」護は慌てて大声でカルナギの声を掻き消す。

 空中に浮かんでいるトゥインタがアハハと笑って「褒めてんだぞ? 頑張り屋さんだと」

 カルナギの隣に居るドゥリーも「そうそう!」と相槌を打つ。

 穣が苦笑しながら「なんか想像がつく!」

 カルナギは「まぁとにかくだ」と言ってから「俺は、アンバーと黒船の全員に、もっと自信を持って欲しい。お前らは仕事に対する姿勢もいいし、能力もある。だから本気で望めばイェソドでも仕事して生きていける。別に採掘師じゃなくてもな。……という事で次に行く場所だが」

 そこへ黒船メンバー達の一番後ろにいるカルロスが「私は雲海切りしてばっかりなんだがー!」と愚痴りながら誰も居ない方へ雲海切りして皆の視界を保つ。

 穣が「頑張れ頑張れ」とニヤニヤ笑い、ターさんも笑って「だってそれが黒石剣持ちの仕事だもーん!」

 カルナギが言う。

「金髪! 次は石茶石だぞ!」

「お!」

 パッと嬉し気な顔になるカルロス。

 カルナギは皆に「これから石茶石が採れる所へ行く。そしたら金髪頭の好きな探知祭りだ」と言うと、ドゥリーに「よし、じゃあ出発しよう。ドゥリー、ブリッジに連絡を」と指示する。

「ほーい」

 ドゥリーはインカムに「もしもし総司さーん、出発だー。まず大死然側から離れるから、ゆっくり回頭! 2時の方向へ!」

『了解です』

 ターさんとカルナギもそれぞれアンバーとブルートパーズに連絡する。



 暫し後、三隻の船は黒船を先頭に雲海の中を飛んでいる。

 黒船の甲板ハッチ付近では、鉱石柱の横のスペースに護と穣と黒船メンバー数人が集い、床に座って雑談中。ターさんはアンバーへ行き、カルナギと有翼種メンバーは進路指示のドゥリーを残して一旦ブルートパーズに戻った為ドゥリー以外の有翼種は居ない。ドゥリーは船首付近で探知人工種三人の訓練をしている。


 ハッチのすぐ傍で適当な円になって座っている護、穣、ジェッソ、昴、メリッサ、夏樹の6人と三匹の妖精。

 ジェッソが床に置かれた護の白石斧をしげしげと見ながら言う。

「その斧いいねぇ……使ってみたくなる。でもイェソド鉱石の採掘で斧はあまり使わないからなぁ」

「ケテル石でスコップも作れるよ」

「ほぉ。いいな、それでイェソド鉱石を採ってみたい。……個人的に、採掘の醍醐味は崩した鉱石を巨大スコップでガッツリと採る時で、青い輝きを放つ鉱石がスコップに山盛りという、あの美しさがたまらん」

 その言葉に穣が「美しさ?」と若干ビックリして「……まぁ綺麗っちゃ綺麗かも」と首を傾げる。

 ジェッソは「まぁケテルもイェソド鉱石もどちらも美しいが」と言ってから「ケテルは何だか繊細で。イェソド鉱石は力強い」

 昴が「うんうん」と頷いて「俺の能力、爆破だから、切るよりバンッてやりたい!」

 メリッサは甲板に積まれた鉱石柱を指差して皆に尋ねる。

「ねぇ、もし人工種だけだったら、この柱どうやって採ると思う?」

 途端に穣が「それ俺も考えてた、俺達の方でもごくたまーにイェソド鉱石の柱あるじゃん?」と言うと、メリッサが「そう、前に一本採った事あるんだけど」と言い掛けた所でジェッソが「今、アンバーに載ってるケテル鉱石柱くらいの奴を採って載せた。切って横倒しにして船の下に運んで、柱の先端にワイヤーを掛けて船で引っ張り上げ柱を立てて、崖に立て掛けてから、俺達が甲板に上がって甲板からワイヤー引っ張って柱を船に立て掛けて、それから柱を甲板上に引っ張り上げつつ載せるという……物凄く大変だった」と言い、更に昴が「船体に傷がつくーってティム船長が文句言ってた」と付け加える。

 穣は「手間かかるよなぁ」と頷き「やっぱ丸ごと採るとそんな感じになるよな」と言ってから「アンバーの場合は横倒しにしてからバラして積んだよ。だって一本丸ごと採ってもどうせ後で破砕されるじゃん?」

 すかさずメリッサが「そうなのよ!」と言い、穣に向かって身を乗り出して「ねぇ聞いて、せっかく丸ごと一本採ってったのに、本部で砕けって言われたのよ!」

 その気迫に穣は若干引き気味になりつつ

「そりゃ……だってイェソド鉱石は石材じゃないし」

「でも珍しいじゃない? 一本くらい観賞用として飾っといてもー!」

「んー……」苦笑い。

 昴が「どこに飾るん……」と呟くと、夏樹が「霧島研とか?」

「それ柱のイェソドエネルギーで四条所長くたばる」

「まぁ、とりあえず」と言って穣はポンと自分の膝を叩くと「イェソド鉱石は砕いて使うから一本丸ごと採る意味は無いとしても、こういうデカイ柱採りを経験すると、イェソド鉱石も一本丸ごと採りたいと……思っちまうんだよなぁ」と傍のケテル鉱石柱を指差す。

「……この柱、さっきは有翼種達が柱のケツを上げたけど、あれアンバーがケツを吊り上げたら人工種だけでも柱を船に載せる事が出来たんじゃないかなって思ったり」

 ジェッソが「だが柱の根元を切る時に誰かが押さえていないと。倒す方向を制御する事を考えると……少なくとも二隻では無理だな」と言い、穣は「まぁなぁ。やっぱ飛べるって強ぇな……」と溜息をついて「有翼種の世界では飛べないと不利か」

 それを聞いて護が言う。

「んでも飛べなくても役に立てるじゃん。さっき褒められたし」

「あれは驚いたな。俺ら、イェソドでも働けるんだなって」

 穣の言葉に皆が頷き、ジェッソがしみじみと「きちんと見て認めて下さっていたとは……」と呟く。

 穣は若干、不穏な表情になり

「まぁ、だから管理さんが外地に出るなと言ってた訳よな。お前らはイェソド鉱石だけ採っとけと。……余計な可能性は潰しておくっていう」

 メリッサが呟く。

「その気持ちは分からなくも無いけど、ガンガン縛られてもね……」

 ジェッソは腕組みをして「管理さん問題は何とかしなければならんが」と溜息をつくと「何にせよ、あのカルナギさんの言葉で一気に視野が拓けたな」

 昴が頷く。

「うん、心が軽くなった!」


 一方、船首付近では鉱石柱を背にカルロス、上総、マリア、ドゥリーが並んで立ち、上総とマリアが雲海切りの練習をしている。

 上総はカルロスから借りた黒石剣を、エネルギーを込めつつ何回も何回も振ってションボリする。

「何も出ないー……」

「でもちょっと剣が光るようになって来た。進歩だ」

 カルロスが言うと、マリアもドゥリーから借りた黒石剣を振りながら「私もちょっとだけ光るようになってきました」と笑みを浮かべ、ドゥリーが「うん。イイ感じ」と頷く。

 カルロスがマリアを見て言う。

「カッコイイぞ」

「か、カッコイイですか!」

 思いっきり「うむ」と頷くカルロス。上総が小声で呟く。

「俺もカッコよくなりたい」

「お前は可愛い」

「えっ」

 思わず目を丸くしてカルロスを見る上総。

 カルロスは真面目な顔で上総を見返す。

 上総は若干沈黙した後に「もー、変な事ばっか言って! 貴方に雲海切りしちゃいますよ!」と黒石剣の切っ先をカルロスに向ける。

「こ、こら人に向けちゃイカン」

「切ってやるー!」

 ちょっと黒石剣を振り上げる上総。

 カルロスはビックリして真顔で言う。

「お前ヘンだぞ、可愛いと言ったのに何で怒るんだ!」

 上総は苦笑しながら

「うるさーい、アンタがバグってるからだー!」