第17章06 結果発表

 30分後。

 黒船とアンバーは船首を揃えて採掘船停泊所に着陸している。ブルートパーズはその対面に着陸していて、二隻とブルートパーズの間には、各船のメンバーが集って雑談しながら待機中。

 カルナギと剣菱と駿河の三人の船長は、一同から少し離れた所に集い、話をしている。

「はいこれ、明細書」

 カルナギは剣菱と駿河にそれぞれA4サイズの明細書を渡し、自分は最後の1枚と、通常の封書サイズの封筒を二枚持って、明細を見ながら話を始める。

「アンバーと黒船が石茶石を採ってたのは大体1時間位か? 短時間でよくあれだけ採ったな」

 明細を見た剣菱は「ほぉ、予想より稼げた」と驚いたように呟く。その隣で駿河が「あれ?」と訝し気な声を上げ、明細を見ながら「この給排水施設利用料って何ですか?」と尋ねると、剣菱が「あぁそれな、さっき俺が要望しといたんだ。何とか給排水させて頂けませんかと」と答え、駿河は「ええ!」と驚いて剣菱を見る。

「だって長期滞在を考えるなら、まずそこだろ」

「え、長期って」

 顔を顰める駿河に、剣菱は慌てて「いや今回の事じゃなく、今後の事を考えて」と言ってから「今後、イェソドと長く関わっていく為には給排水が出来ると非常に助かる。で、さっきカルナギさんに我々の船の汚水処理の仕組みを話したら殆ど一緒だという事が判明して、ならば給排水施設が使えるぞと」

 続けてカルナギが言う。

「実は俺もそれを考えていてさ。船で一番の問題となるのは汚水処理だろ? 処理施設に問い合わせたら、ちゃんと料金払うならいいよと言われたので、その分を引いておいたという訳だ」

 剣菱は「良かった、許可されたんですね、ありがたい」とカルナギを見る。

「うん明日の朝、施設に行く事になった。……この明細に書かれた金額についてだが、これは剣菱さんから聞いたアンバーの最大給水・排水の量を元に算出した給排水料金で、黒船もこの金額、ウチの船もこの金額を貰った。実際にはその時の給排水の量によって金額が決まるから、明日はこの額より少なくなる筈。つまり給排水用にお金を分けといたという事で、それがこれ」

 カルナギは、持っていた封筒を剣菱と駿河それぞれに渡す。

「明日の朝、施設に行った時にそこから請求された額を払ってくれ。残ったお金で指定のゴミ袋を買えば、そこでごみ処理も出来るが、分別は結構厳しいからな。護とカルロスは分別の仕方を知ってるので、あいつらに聞くといい、ってか分別させればいい」

「了解です! ありがたい!」

 剣菱に続いて駿河も「ありがとうございます!」とお辞儀し「いやマジで驚きました、頑張って節水すれば給排水無しでギリギリ5日は持つし、シビアな節水モードには慣れてるけど、どこかで給排水が出来たら楽なのにと思ってたので!」

 それを聞いた剣菱は若干引き攣った顔になる。

「5日も持たせるシビアな節水ってどんな……。それ、もしかしてティム船長時代に?」

「はい! 俺が船長になってからは普通の節水モードですが。アンバーは節水しないんですか?」

「いや節水はするけど、ウチの船、結構頻繁に本部に戻ってたんで!」

「なるほど! ……あ、ちなみに」

 駿河はカルナギに尋ねる。

「明日の朝、何時に給排水施設へ行けばいいんですか?」

「それがなぁ、人工種の船は初めてで勝手がワカランから7時には来いと。空いてる時間なので」

「了解です」と即答する駿河。剣菱は「結構早いですね」と返す。

「まぁ8時過ぎると続々と船が来るからな。場所はすぐそこ、船で飛んで3分だ。ウチの船は明日の朝は給排水しないんで、案内役に俺か誰かが二隻の所に来る。……ところで、お金の話に戻るが明細に書いてある通り、合計金額を三隻で割ると端数が出るんで100ケテラだけウチの船に経費として頂いた。いいかな?」

 駿河は「はい、問題ありません」と頷き、剣菱は「勿論です」と答えてから「あぁ明日の事だが、あの、駿河さん」と隣を見て言う。

「実はウチの連中が明日は採掘しないで街に行きたいと言ってんだが」

「おぉいいですね……あ、いや皆に意見を聞かないと分からないけど、でも俺は個人的に街に行きたいと思っていて。有翼種の暮らしを見てみたい」

 カルナギが「……でもな」と口を挟み、やや暗い表情で

「街には人間という種族に偏見のある奴もいるから……失礼な奴が居たらゴメンな」

 駿河は「はい、大丈夫です」と微笑む。

 剣菱は「まぁそういう色々なご意見を知るには、お酒のある場所が一番かと思うんですが……」と言い「ところで有翼種はお酒というものを飲むんでしょうか?」とカルナギに尋ねる。

「人間は酒を飲むのか?」

「はい。私は石茶よりも美味しいお酒に興味があります」

 カルナギはニヤリと笑って

「じゃあこの後チョコッと飲むか。有翼種の夜の街にご案内してやる……って金が無いのか!」

 至極ガックリしてから「いや、あのな」と二人を見る。

「大変申し訳ないんだが、今日は遅くなったので、明日の朝でないと給料用の細かい現金の用意が出来ないんだ」

「あぁ構いませんよ」と剣菱は気楽に言うが、カルナギは真剣に

「明日の朝、必ず渡すが、しかし今晩、俺が飲みに行きたい! ……分かった俺が立て替えとく!」

「え、でも」

「明日払ってくれればいい! 俺の行きつけの店で一人につき1000ケテラ分だけ飲もう。どうだ!」

「おぉ。ではせっかくなのでご厚意に甘えます」

 剣菱は駿河を見て「アンタもどう?」と誘う。

 駿河は遠慮がちに「俺は……ちょっと」

「そんな気がした。酒、あんまり飲まんの?」

「今は全く飲みません。でも先代のティム船長が、よく酒を飲む人で」

「えっ、あの人が!? ……意外だな」

「しかもあの人、飲んでも殆ど酔わないという。一緒に飲むと大変です。自分のペースがワカランなる……。それでもう酒が嫌になった」

 何か思い出したように一気に暗い顔になった駿河は、溜息をつきながら

「昔はよく飲み屋でティム船長からアドバイスという名の説教を受けてたんですよ……」

 それを聞いた剣菱は、まるで通夜のような顔になってしみじみと呟く。

「……それ、アカン奴やん……よく耐えたわな……俺なら逃げる」

 駿河は「……だって立派な人だと思ってたので」と苦い顔。

「アンタが真面目すぎるん……」

 やれやれ、というように額に手を当てた剣菱は、気を取り直してカルナギに言う。

「さて、じゃあそろそろ皆に結果報告しますか」

「うん」

 三人の船長は、メンバー達の前へ歩き出す。

 それを見た皆は「おっ、来た」「来たぞ」とヒソヒソ囁きつつ、黒船とアンバーに分かれて適当に並んで立つ。

 カルナギは一同の正面に立ち、それを挟むように黒船メンバー側に駿河が、アンバー側に剣菱が立つ。

 ターさんや有翼種メンバーは船長達の背後に並んで二隻のメンバー達と向き合う。

「それではお待ちかねの結果発表だ!」

 カルナギの声に数人がパチパチと拍手し、マゼンタが「待ってました!」と叫ぶ。

「合計金額から行こうかな」

 カルナギは明細書を見て少し間を置き

「全部で376000ケテラ、諸経費引いて三隻で割ると、一隻あたり95200ケテラ、一人あたり……5950ケテラ!」

 途端に「おぉ」「わぁ」等の歓声が上がり、一同ザワザワと騒ぎ始める。

 穣は「意外に稼げたな」と驚き、透も「5000も行かないと思ってたのに!」と叫ぶ。

 ジェッソは「大体時給1500ケテラって感じか」と呟き、上総は「結構ノンビリやってたのに約6000円も貰えるの……」と目を丸くする。

 カルロスは「今日はブルートパーズと一緒にやったし、サービス料金だな!」と言ってから「内訳を聞こう!」と大声を出す。護も「内訳知りたーい!」と叫び、上総は「大きいブドウ石は、お幾らに?」と聞き、マゼンタも「でかい奴お幾ら?」他の面々も「内訳!」と言って皆、カルナギに注目する。

「それでは内訳だ」カルナギは明細を見ながら

「……ウチの船とアンバーに載せた鉱石柱が合計8本で8万、まぁ1本1万だな。そして黒船に載せたデカイ鉱石柱が、20万」

 どよめく一同。皆、目を丸くして「あれ一本で?!」「凄い」等と驚く。

 護は神妙な顔で腕組みして「いい柱だったもんなぁ……丸ごと一本だし、そんだけ行くかぁ」とウンウン頷き、穣は「黒船で採ったってのがチト悔しいな」と苦笑し、マゼンタは悔し気に「そーだよ、俺、柱を間近で見たかった!」と叫ぶ。

 カルロスは「す、凄いな。一本でそんな行くのか……」と驚き、ジェッソは「有翼種の皆さんのお陰ではあるけど、黒船冥利に尽きる!」と嬉し気にレンブラントと一緒にガッツポーズ。いつもは真面目で物静かな静流までが興奮気味に総司に向かって「副長! 大物を載せた甲斐がありましたね!」と言い、総司はその静流に驚いて戸惑い気味に「う、うん」と返事する。

 カルナギの「続けるぞ」という声で静まる一同。

「石茶石の方だが、眠り石が合計で39700、ブドウ石が合計56300ケテラ。この内、あの一番大きなブドウ石についた値は……」言葉を止めて一同を見回してから「16000ケテラ。ブドウ石で初めて鉱石柱レベルの値が……」その先は「おお!」という喜びの歓声と大拍手そしてカルロスの「なんだとう?!」に掻き消される。

 カルナギは大きな声で「石屋が皆、驚いてたぞ!」と言い「あの大きさを完璧に掘り出すって難しくないか? どんな穴を掘ったんだよ」

 悠斗が自慢気に腕をパンと叩いて「この腕でガッツリと! フッフッフッ!」

 レンブラントも腕を叩いて「この腕で、埋め戻しまでサクサクと!」

 ジェッソは自分の胸板を叩いて「怪力人工種の本気モード爆裂でございます!」

 上総が「探知もー!」と叫ぶ。

「ああ探知も」

「探知した甲斐があったぁー」

 万歳する上総。皆、上総やジェッソ達にパチパチと拍手を送る。

「それでな」とカルナギは話を続けて

「諸経費に引かれた90400ケテラの内訳は税金とか色々あるが、デカイのは給排水費用だ」

 それを聞いて総司や良太が「えっ、給排水?」と驚きの声を上げる。

「うん、剣菱船長から要望があってな。今後の交流、継続的な関わりの為には、それが出来ると楽だろ? 給排水施設と相談したら許可が出て、二隻は明日の朝7時にそこへ行く事になった」

 続けて剣菱が言う。

「カルナギさんのお陰で給排水とごみ処理が出来る事になった。……って事でスマンが明日の朝、運航クルーは早起きだ。アンバーの場合、6時50分出航、通常シフトで担当は俺と三等のバイオレットさんと機関長だが給排水作業の時は、運航クルー全員で。あと施設で指定のゴミ袋を買えばゴミを出せるそうだが、分別の仕方がワカラン。護が分かるそうなので、分別を頼みたい」

「ほい!」

「で、朝メシは一応、採掘メンバーと一緒に8時開始にしとこう。宜しくアキさん」

「はーい」

「ウチはそんなとこだ。次、黒船さん」と剣菱は駿河の方を見る。

「はい」

 駿河は返事してから黒船の皆に向かって言う。

「黒船もアンバーと同じく6時50分出航です。担当は俺と三等と機関長、給排水作業の時は運航クルー全員で。ちなみに今夜は節水モード解除です。使い過ぎはダメだけど!」

 嬉し気に「おお!」「やったー!」と歓声を上げ拍手する黒船のメンバー達。

 その様子を見てアンバーズや有翼種達は、どんだけ節水してたんだ……と若干呆れる。

「それとカルロスさん」

「ゴミ分別ですね了解です」

 カルロスの即答に駿河は思わず苦笑する。

「後で分別の仕方を皆に教えて下さい」

「あぁ。でも殆ど我々と一緒ですよ」

「そうですか。……あと朝ごはんは皆で8時から。宜しくジュリアさん」

「はい」

 駿河は「こちらは以上です」とカルナギを見てから、ふと「あっ、明日の事……」と再び黒船の一同を見ると、一同に向かって微笑んで言う。

「実はさっき剣菱さんから明日、有翼種の街に遊びに行かないかと話があって。俺も有翼種の街を見たいしイェソド鉱石の採掘は、明後日でいいかな」

 その瞬間、二隻のメンバー達の雰囲気がガラリと変わり、駿河は、何かまずい事でも言ったかなと一瞬不安になる。さっきまでの楽し気な顔が嘘のように皆、不安気な、強張った顔をしていて、……ど、どうしたんだ皆? と駿河が戸惑っていると、ジェッソが言う。

「我々は一応、採掘船という仕事の船で来てる訳だし、遊ぶ訳には」

「そうですよ」と総司が頷いて「早めに帰らないと、管理が激怒して貴方がヤバい事に」と駿河を指差す。

「……俺?」

 駿河はキョトンとして「俺は叱られる覚悟で来てるけど」

「いやそういう問題では」

「そりゃ帰るの嫌だなぁとは思うけど、ちゃんと鉱石採って仕事して帰る訳だし一日くらい遅れても」

 上総が「だけど!」と叫んで言う。

「激怒させると何されるか分からないし、二度とイェソドに来れなくなるかもしれないし、それに……、あんまり楽しい思いをし過ぎると、向こうに戻った時に辛くなりそうで」

 マゼンタが「わかる!」と大声を出して上総を指差す。

「祭りの後、って言葉みたいに、楽しい事をし過ぎると虚しくなるってさっき分かった!」

「……うん、だからもう、採掘して向こうに戻った方がいいかなって……」

 上総はそう言って悲し気な顔になり

「だって有翼種の街を見ても、そこで生活出来る訳でも無いし、逆に、カルロスさんこんなとこで生活してるんだ、いいなぁって嫉妬が起こって苦しくなる……」とションボリと肩を落とす。

「……」

 暗い顔の一同を見ながら困惑する駿河。

 ……何で皆、突然こんなネガティブに? 一体どうしたらいいんだろう、何を言えば、と考えていると、カルロスがボソッと呟く。

「まるで護のエネルギーを知った時の自分だな」

「えっ?」

 皆、カルロスに注目する。

「知らなければ望む事も葛藤する苦しみも無かったのに。知ってしまったが故に苦しみ、しかしその苦しみで、どこぞの誰かは死を覚悟でイェソドへ走った訳だが、イェソドに来たら来たで逃亡した罪悪感に苛まれる」

 カルロスは一旦言葉を切り、溜息をつくと

「別の世界を知る事は葛藤が起きる事でもある。それで管理と利害一致してた訳だよ、特に黒船は。別の世界を見せない奴と、見たくない奴っていう。希望を潰しておく奴と、潰されるから望まない奴。……刺激が無ければ反応も起きない。何も知らなければ怒りも湧かない、その代わり変化もない。霧島研で周防が言った、『混乱の無い変化なんてない、個人が苦しみ葛藤しろ』ってのは正に今の状態の事だ。……そこでどうするか! 私がイェソドに来て最も救われたのは、護がアホだった事だ!」

「はぁ?」

 護が目をまん丸くして驚きの声を上げる。カルロスは護を指差して

「コイツが私を散々笑わせやがった!」

「ちょ、それ、アンタが勝手に笑ったんじゃん! 俺は何もしてないー!」

「笑いが戻ると同時に怒りも戻って来た。私はコイツとケンカもした」

「へ?」護は首を傾げて「何かケンカしたっけ?」

 するとカルナギの後ろに居るターさんが「してたしてた! 下らんケンカ! 見てて面白かった」と笑う。

 カルロスはゴホンと咳払いすると

「つまり何が言いたいかと言うと、皆がネガティブになってるのはむしろ喜ばしい事で、本来の感情が出て来たって事だから、いいなぁと嫉妬するような事こそやってみた方が良いって事だ。管理が怒るからダメだと思ってる事こそやってみろと。……ってこれ、例えば日常でルールを守らん奴に対してダメな事をやれと言うのはアホだが、日常で管理の言う事をガチで聞きすぎているような奴はむしろワルイコになれと。そうじゃないとバランスが悪いって事で……」そこで一同を見回してから、駿河に向かって言う。

「よし明日は二隻で街に行こう。問答無用で全員連行だ!」

 駿河は面食らいがちに「えっ、あ、はい」と頷くと、黒船の皆を見ながら「……不安とか、嫌な気持ちは分かるけど、出来れば、楽しんで欲しい」と微笑む。

「……」

 上総は若干涙ぐみ、他の面々もそれぞれ何か思う所があるような顔で駿河を見つめる。

 突然ハァ、という溜息と共に「やれやれ」という声が聞こえて駿河は声の主のカルナギを見ると、カルナギは額に手を当てて「アンタら一体どういう世界で生きてんだ……」と呟く。

 剣菱が「でも有翼種の皆さんのお陰でここまで来れました」と言うと、カルナギは「有翼種ったって色んな奴が居るからな。いい奴も嫌な奴も。最初に流れて来た護が、ターとかいう変わった奴に出会ったのが良かったんだな」と言い、ターさんがエッという顔をする。

「確かに俺は変わってるけどさ……まぁいいや。明日はカルナギさんは仕事だよね?」

 カルナギはターさんの方に振り向いて「うん、ウチの船は仕事」と返事する。

「俺は皆と街に行くよ」

「そうか。案内してやってくれ」

「ほーい」

「まぁそんな訳で」

 カルナギは再び一同の方を見て

「結果発表は以上だが、実は今日は時間的に現金が用意出来ないんで、大変申し訳ないが、給料は明日の朝、渡す! その代わり、もし今日これから飲みに行きたいって奴が居れば、俺が、一人につき1000ケテラ分だけ立て替えといてやるが、誰か居るかな」と一同を見回す。

 即座に穣が「え! 飲みって、酒ですか?」と声を上げ、剣菱が「はい、お酒です。私は飲みに行ってきます!」続けて駿河が「俺は行かないけど、行きたい人はご自由に」

「俺、行くー!」と穣が手を挙げる。

 続けてジェッソも手を挙げて「私も行きます。有翼種の酒を飲んでみたい」

 そこへ透がカルナギの方に身を乗り出して

「あ、あの、ちなみにどんな所に飲みに行くんですか?」

「ん? 俺の行きつけの店で、採掘師連中がよく行くとこだ」

「……採掘師連中ですか……」

 なぜかションボリする透の肩を、マゼンタが笑いながらポンと叩いて「ざんねーん!」

 すかさずメリッサがマゼンタを指差して「ちょっと何が残念なの!」

「え、えっ? 何だろう!」

 護は「俺も行こうかなー……」と呟き、それを聞いた穣が驚く。

「えぇお前、酒飲むの?」

「うん、ちょっと飲む。……カルさんは行く?」

「私は行かない」

 その返事にメリッサが「あ」と声を上げて「お酒に弱いですもんね」とカルロスを指差す。

 護は驚いて「そうなの?」と言い、上総も「意外だ……」と目を丸くする。

 穣は「ああ、そういやそうだったな」と言い、護が「飲むとどうなるの?」と尋ねると、メリッサが「すぐ具合悪くして倒れちゃう」と答える。

「へぇ」

 護はカルロスを指差して「この人、酒は石茶の味がワカランなるから飲みたくないとか言ってて、だから飲ませなかったのに。弱いなら弱いって言ってくれればー」と言い、カルロスは渋い顔で「……だって言わんでも何とかなってたし」と口籠ると「具合の悪さはともかく、飲むと探知が全く出来なくなるのが」

「ほぅほぅ」

「とりあえず酒よりも美味い石茶の方が幸せなんだ私は!」

「ほいほい」

 カルロスは話題を逸らすべくカルナギを見る。

「ところで明日は何時頃に給料を頂けるんですか?」

「ん、まぁ10時前には、いや9時半だな、うん」

「9時半ですね、分かりました。じゃあそこから街に行って、周防先生は夕方かな」

 尋ねながら駿河を見ると、剣菱が「ああ」と声を発して「先生は明日の夕方、迎えに行こう。で、明日の夜は向こうの街に停泊出来たら楽なんだが、何はともあれ警備のレトラさんに連絡しないとダメだな。今日は遅いし明日、連絡しよう」

 駿河が「了解です」と答え、「では明日の朝は9時半にまたここに集合という事で。街に行くから私服でいいですが、制服でもいいですよ!」

 その言葉に一同、ちょっと笑う。

「他に何かありますか? 無かったらこの場を締めるかと。飲みに行く人は残るって事で」

 駿河は一同を見回し、それから剣菱とカルナギを見る。

 カルナギは「特になし」剣菱も「無いな」と答える。

「では締めます。皆さんお疲れ様でした、解散!」

 皆の「お疲れ様でした!」という声の後、剣菱が「飲みに行く人はここに残って!」と叫ぶ。

 各自それぞれ動き出し、護は船に向かって歩き出そうとしたカルロスを引き留める。

「なぁカルさん、飲まなくていいから一緒に行こうよ!」

 ターさんも二人の元に来て「そうだよ石茶を飲んでればいい!」

 それを聞いたカルナギは「あの店の石茶はあんまり美味くないけどな……」と苦い顔で呟く。

 カルロスは「いや今日は疲れたので早く休みたい」と誘いを断り、護とターさんは少し残念そうに了解。

 剣菱は駿河の元に来て「アンタも飲まなくていいから行かないか?」

「んー……俺もちょっと疲れたので遠慮しときます」

「そうか」

 そこへ総司がリキテクスと一緒に駿河の所へやって来ると

「じゃあ俺と機関長は行ってきます」

 駿河は、総司が飲みに行く事に少し驚きつつ

「いってらっしゃい。他に行く人は?」

 昴が手を挙げ「俺と夏樹!」

「って事は、ジェッソさんを入れて5人かな」

 ジェッソが「はい、5人です」と返事する。

「了解」

 剣菱が「アンバーは何人だ?」と皆を見ると、穣が「アンバーは俺と護と悠斗だけかな?」と言い、剣宮が「俺も行きます」と手を挙げる。その隣では良太が「どうしようかな。んー」と悩み中。

 リキテクスが良太に声を掛ける。

「もし良ければ行きませんか。鉱石弾の話がしたい」

「え、マジですか。行きます行きます」

 思わず悠斗が「鉱石弾で釣ったよ……」と苦笑。

 穣は「じゃあこの5人と、船長か」と確認して「しかし男ばっかだなぁ」とポツリ。

 剣宮が笑って「男の話をすりゃいいんですよ」

「ってどんな話?」

 悠斗の突っ込みに剣宮はハッとして、なぜか気まずそうに黙る。

「なんだなんだ」

「いやいや何でもない」

「なんか変な事考えてたな!」悠斗ニヤリ。

「……」

 剣菱は、まだ船に戻らず一同の様子を見ているネイビーに叫ぶ。

「じゃあネイビーさん!」

「はぁい、船の事は任せて。いってらっしゃーい」

「宜しく頼みます!」

 カルナギは「んじゃ飲みに行く奴、出発だー」と言って宙に浮かび、「飛んですぐの所……」と言い掛けて再び地面に降りると「飛ぶんじゃなかった、歩くんだった」と苦笑いする。

「えっと……あそこ歩くと何分なのかな……」

 トゥインタが「15分位かな」と言い、ターさんは楽し気に「まぁ夜の散歩だ、ゆっくり行こう!」


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