第18章03 朝の仕事と朝ごはん
翌朝6時半過ぎ。
アンバーの甲板ハッチが開いて半袖Tシャツと短パン姿のマゼンタが甲板上に出て来ると、「いい天気だ!」と言いつつ伸びをする。そこへ背後からゴツゴツ妖精がポンとジャンプしてマゼンタの目の前に現れる。
「おっ、来たな妖精!」
続いて四角いのと三角の妖精も背後からマゼンタを飛び越えるようにして現れる。
「え、お前ら一体どこから来た?」
周囲をキョロキョロ見回すマゼンタにポコポコ体当たりを始める妖精達。マゼンタは妖精を捕まえようとして妖精達とワチャワチャ格闘を始める。そこへハッチの方から「何だ朝っぱらから妖精と戯れてんのか」という声。見れば穣がハッチから上半身を出している。マゼンタは「おはよーございまっす!」と挨拶。
「マゼンタ君、早起きだな、どうしたん?」
「なんかワクワクして目が覚めた! だって今日は街に行くし」
「なるほ。俺は風呂の順番が朝だったんで、早く起きた」
「え、昨日そんなに遅く戻って来たの?」
言いながらマゼンタは四角い妖精を捕まえて抱き抱える。
穣は傍に来たゴツゴツ妖精をじーっと見つつ
「いや、戻って来たのは23時過ぎだけど、船長とか翌朝に仕事がある人を優先で風呂に入れたから。俺は朝風呂でいいやって。んでほら給排水するから風呂掃除しといた方がいいだろ。ついでに掃除もしたって訳だ」
「ちなみに昨日の飲み会、どんなだったの」
「楽しかったよ。最初、店に居た有翼種の客に『人間が何しに来た!』とかちょっと突っ掛かられたけど。んでも相手も採掘師だったし、話してたら仲良くなってさ。……俺と悠斗とジェッソはそいつらと採掘の話してて、別のとこではターさんが護達と盛り上がってた。カウンターでは船長がカルナギさん、トゥインタさんと酒談義してて……そういや機関長二人と操縦士二人は固まってなんか真剣な話をしてたな。あ、酒すっごい美味かった。有翼種って主にワインみたいな果実酒を飲むのな。あと花の酒もあった」
「花って、咲いてる花?」
「そう。香りが良くてなかなか美味かったぞ。……ん?」
妖精達が、穣とマゼンタに空を見るように言っている。
「空?」
二人が上を見上げた途端、遠方から「おーい! おーい!」という呼び声が。声の方向を見ると、見知らぬ男性有翼種の二人連れがアンバーに向かって飛んで来る。片方は短髪、片方は長髪で後ろで髪を束ねている。長髪の有翼種が尋ねる。
「船体の色からするに、君ら、アンバーっていう船の人だな?」
「はい」穣とマゼンタが同時に返事する。
二人の有翼種は甲板に着地すると、短髪の有翼種が「昨日ナギさんから連絡もらった給排水施設の者だけど、給水と排水がどういう構造になってんのか見たいんで、船長に会わせてくれ」と言い、穣は「あ、はい、ちょっとお待ちを」とハッチ内の内線電話の受話器を取りブリッジに連絡する。
マゼンタが「ナギさんって、カルナギさんの事?」と聞くと、短髪の有翼種が「うん」と頷く。
「そうかナギさんって呼ばれてるのかぁ」
内線電話の受話器を置いた穣は「では皆さん、中へどうぞ」と二人の有翼種を中へ招き入れて船内通路への階段を下りて行く。マゼンタはそれを見送り、再び甲板の上で三匹の妖精達と戯れ始める。
少しすると再び穣がやってきて、ハッチから上半身を出す。マゼンタを見て
「まだ遊んでたんか」
「あ、もう出発?」
「いや、さっきの人達が今、船長と機関長と一緒に給排水について色々見たりしてるんで、それが終わってからだ。ホントはカルナギさんの船から案内役が来る事になってたが、すぐそこだし船の構造が見たいってんで施設の人が直接来てくれた」
「なるっほ」
「おや? 言ってる傍から」
足音に気づいてハッチ下を見ると、剣宮がハッチへ上がる階段を上って来ていた。
「剣宮君が確認に来たって事は、出発か」
「ほい」
マゼンタは四角い妖精を持ったまま、ハッチの中に入る。
「って妖精連れて行くんか」
剣宮も「ありゃ妖精まで」と言いつつマゼンタの隣に来て「出発するからハッチ閉めます」と言ってハッチから頭だけ出して甲板の上を見る。
「よし誰も居ないな」
その途端ゴツゴツ妖精がジャンプして剣宮のおでこにボンとキック!
「痛っ……」
ゴツゴツ妖精は剣宮に何かを訴える。剣宮は慌てて
「あぁ無視してごめんなさい、貴方は居ますね! 人間は、誰も居ませんが妖精は居ました。では妖精さん中へお入り下さい」
妖精に手招きするが、ゴツゴツ妖精は更に剣宮に何か伝える。
「ああ、こっちの妖精だけ中に入ると」
優しく三角の妖精を抱き上げた剣宮は、ゴツゴツ妖精に「ではハッチを閉めますよ、船が飛びますからね、ご注意を……」と言いつつハッチ内に入り、ゆっくりとハッチを閉じる。
「ハッチ閉鎖よし! ……ふぅ。やれやれ」
見ればマゼンタがクククと密かに笑っている。
穣も笑いつつ「可愛いキックだったな」
「え」
剣宮は微妙な顔で「そうですかね?」と言い、「俺、ブリッジ行くのでコレをお願いします」と三角の妖精を穣に差し出す。
「ほいさ」
「では出発です!」
7時。
アンバーと黒船は採掘船停泊所からすぐの所にある給排水施設へ。施設には大型船二隻、小型船三隻分の給排水エリアがあり、黒船とアンバーは大型船エリアに並んで入って各船の機関長・機関士と副長・二等操縦士が施設職員と共に給排水作業を開始する。護とカルロスは各自ゴミ袋を購入して数人のメンバー達と一緒に各船のゴミをその中に入れ、集積所へ持って行く。
アンバーのブリッジでは剣菱が船長席で計器を見ながら「特に問題なく給排水できてる、良かった」と言い、安堵の笑みを浮かべて言う。
「やれやれ良かった、ごみ処理も出来るし本当に助かる。我々の船は燃料の問題が無いから、出すものと入れるものが何とかなれば、かなり自由に飛べるぞ」
「という事は、船長」
操縦席から、23歳の女性三等操縦士バイオレットが意味有り気な口調で言う。
「いつか、マジで管理から独立っていう事も……」
「有るかもしれませんな!」
剣菱はニヤリとしてフフフと笑い
「何はともあれ、これで仮に管理や本部が理不尽な事を言ってきても、こっちも強気に出られるぞ。相手と対等になれる基盤が出来つつある」
それを聞いたバイオレットは「でも、チョビッと不安だったり」と苦笑いする。
「こっちが強気に出ると向こうも逆ギレとか」
「したらばこっちも強く出る。……まぁ霧島研には突撃したが、基本的に人工種の皆には、もっと一人一人が強く立てる軸というか……それこそ『剣は天と地を繋ぐ一本の柱』っていう言葉のように、何かしっかりした柱を持って欲しいんだな。その一つが護達の小型船ではあるが」
剣菱はそう言うと計器を見ながら
「ところで作業、早く終わりそうだな。まぁ今日はまだ一日分だしな。この分だと8時までには停泊所に戻れるから皆と一緒に朝ゴハンが食えるぞ」
バイオレットはニッコリして「了解でっすぅ!」
8時。
給排水作業を終えた二隻は採掘船停泊所に戻り、元の位置に着陸する。
各船の船内では朝食が始まり、メンバー達が続々と食堂に来て配膳カウンター前に並ぶ。
黒船のブリッジでは駿河とアメジストが操縦システムをロックしてブリッジを出る。アメジストは先に食堂へ向かい、駿河はブリッジのドアに鍵を掛けてから船長室へ。
(……今、食堂は混んでる筈。ちょっと遅れて行こう)
中に入ってドアを閉めると何となくベッドに腰掛けて、ふぅと溜息をつく。
今日はこれから有翼種の街だと思うと未知への興味で心が弾むが、しかし昨夜の食堂での話を思い出すと、心がズンと重くなる。
『駿河の奴、とっとと潰れて黒船を降りろと』
(マジですか……。以前、管理や本部の人に『君には期待してるんだよ』とか『頑張れ』とか言われたんだが……というか、頑張らないとクビにされるから頑張ってたのに『とっとと降りろ』は一体どういう)
そのまま上体を倒し、ベッドに仰向けになると、浮かぬ顔で考え続ける。
(そもそもクビにしたいならカルロスさんが逃亡した時に……あの時、俺は覚悟してたのに特に処罰とか無くて、船長続行だったから、いいんだろうかと。しかし期待はしてないという。人が散々苦しみに耐えて頑張ったのに……もしかして、つまりアレか。とりあえず役には立ってるからそのまま船長にしとこうっていう……それガチ傀儡船長では……)
悩み顔で両手を額に当て、はぁっ、と大きな溜息をつく。
(もし人工種も船長になれる世界ならば、俺よりアイツの方が……まぁちょっと悔しいけどな。でも俺は単に人間だから船長になれたようなもんで、アイツが船長になった方が……でもなぁ。ってか何で俺はそこまでアイツを船長にしたいんだろうか)
暫しそのままボーッと考えつつ、突然ハッ、と目を見開く。
バッ、と上体を起こすと、何やら眉間に皺を寄せて腕組みをする。
「……」
真剣な表情で何か考え、首を傾げてムッとしたような表情になると、独り言を呟く。
「あぁそう言う事か。何で俺、こんなにアイツを船長にしたいのか、理由が分かってしまった」
ゆっくり立ち上がると、険しい顔で腰に両手を当て、仁王立ちする。
(……そうだ。アイツが船長になる事そのものが、俺の、管理への復讐だからだ。……自分の中にこんなに怒りがあったなんて……そりゃそうだよな、散々傀儡として利用されてきたもんな、まぁ自分が選んだ事ではあるけども。しかし俺、何で今まで怒らなかった……だって昨晩カルロスさんに言われるまで全く気づかず……。でもな……)
微妙な顔で首を傾げて思う。
(人間の俺ですら、こんだけ大変なんだから、人工種の黒船船長って、一体どんだけ……)
ウーンと唸り、はぁ、と息を吐きつつ腕をだらんと下ろして脱力する。
(だよなぁ、無理っぽいよなぁ……相当ムズイ、今は無理だ。でもいつか、いつかは……)
ふぅと短く溜息をつくと
(そろそろご飯を食べないと時間が無くなる。今日は街に行くし、気持ちを切り替えよう)
少し伸びをしてから、戸口へ歩きドアを開けて船長室から出る。
通路を歩き始めた駿河は、ふと隣の船室のドアが開いている事に気づき、中を覗いて少し驚く。
「……珍しいな」
総司と静流の二人部屋に、アメジストが居る。総司は壁際の机と椅子で朝食を取り、静流とアメジストは四人部屋から持って来た折り畳みの長方形のサイドテーブルと丸椅子で、並んで朝食を取っている。アメジストがニッコリ笑って駿河に言う。
「副長に、部屋においでと誘われました!」
「なんですと?」
……いや総司君、以前、アメジストさんの事がちょっと苦手だとか言ってた気が……! という駿河の驚きを察したように、総司は「いつも静流さんと一緒だから、たまにはアメジストさんも入れてみるかなと」と言い、箸で卵焼きを摘まんで口に入れる。
「な、なるほど」
……とは言っても珍し過ぎる、どういう風の吹き回しだ? と駿河が思っていると、アメジストが楽し気に言う。
「静流さんとはSSFで一緒に育ったから新鮮じゃないけど、副長とは初めてだから新鮮で嬉しい!」
その隣では背筋をピンと伸ばした静流が美しい所作で、ご飯を口に運んでいる。
駿河が「静流さんは、ご飯の時も行儀良いよね……」と言うと、アメジストが「この人、生活全般キチンとしすぎ! 副長、一緒の部屋で大変じゃないですか?」と総司を見る。いきなり話を振られてちょっと驚く総司。
「……そんなに大変でもないかな」
アメジストは「え、そうですか? 静流さん副長には手加減するの?」と静流を見る。
渋い顔になる静流。
「手加減も何も、副長は、上総と違ってキチンとされているので」
「上総は論外! アイツ甘えすぎ。でも最近は良くなったけど」
「ち、ちなみに」
静流は一旦、箸を止めてアメジストを見る。
「ブリッジで、上総とケンカするのは良くないぞ」
「ええ」
アメジストは若干赤面して「最近しなくなったし、しないようにしてます!」
それから不服気味に口を尖らせて反論する。
「……でも静流さんも、たまに上総とケンカしてますよね」
「注意してるだけです」
「私も、ケンカじゃなくて注意してるだけです」
「そ、そうかな」
何か反論しようとした静流は、ちょっと黙ると困った顔で「……そう、なのか……」と溜息をつく。
駿河が「あ、折れた」と笑い、総司も「折れたな」と笑って「SSFの連中って、なかなか面白い」
静流は「え、面白い……?」と怪訝そうに総司を見るが、総司は気にせず駿河に向かって言う。
「まぁ静流さんとアメジストさんは同じSSF出身だけど、俺だけ違うんで、たまには一緒にゴハンでも食ってみるかと思った訳です」
「なるほど」
……皆と親睦を図るなんて、総司君も変わったな、と内心嬉しく思いながら、駿河が「俺そろそろ食堂行くよ。朝食ごゆっくり」とその場を去ろうとした時。
「あ、船長!」
総司が呼び止める。
「昨日の飲み会で機関長と鉱石弾の話で盛り上がったんですけど、あれいつか雲海で撃ちましょう!」
「え、あれ撃てそうなん?」
「整備すれば撃てる。次のドック入りで整備を」
「なるほど。考えておきます」
駿河は部屋を去り、通路を歩いて食堂に向かう。
食堂は、やはり満席状態だった。
入り口側のテーブルにはジェッソと昴、オーカーと夏樹が座っていて、カウンター側のテーブルにはレンブラントとリキテクス、カルロスと上総が座っている。
「おはよー。席どっか空いてない?」
入り口に立ったまま声を掛けると、数人が「おはようございます」と挨拶し、ジェッソが「遅れた者は部屋で食べるのがルールですぞ?」とニヤリ。
「くぅ」
駿河は中に入り、配膳カウンター脇のお茶コーナーに向かいながら
「ところで昨日の飲み会、どうだった?」
ジェッソが「酒が美味かった! イェソドは石茶より酒だ!」と嬉しそうに言うと、隣のテーブルのカルロスが「ちょい待った」と声を上げる。
「石茶より、じゃない。石茶と、酒だ!」
「ああ」ジェッソは頷いて「と、ですね、と!」
昴はジェッソの隣で「食べ物美味かった、特にチーズ良かったー!」と言い、その対面の夏樹は「そうそうチーズ美味いよな」と頷いてから、カップにお茶を注いでいる駿河に言う。
「なんか有翼種の石屋が、人間側の石が欲しいって騒いでましたよ」
「ほぉ」
駿河はお茶を淹れたカップを持って配膳カウンターへ。キッチン内のジュリアは朝食の乗ったトレーをカウンターの上に出す。
昴が「だから今日は本屋へ行かないと」と言い、ジェッソが「鉱石図鑑だっけか」と昴を見る。
「そうそう。マルクト石とか、イェソド側に無い石を採ってきてほしいって。何がイェソドに無いか、鉱石図鑑みればわかるって」
そこへカルロスの「むぅ。なんか黒船に仕事を取られそうで怖いな」という呟き声。
「え?」
昴も、他の皆もキョトンとしてカルロスを見る。
「私と護がこれから小型船でアッチとコッチを繋ぐ採掘をしようとしているのに、先に黒船に仕事の依頼が来るとは!」
不敵な笑みでフフフと笑うジェッソ。
「小型船が黒船と張り合うなんて100年早い」
カルロスはジェッソを睨んで
「人工種初の個人事業主を潰そうっていうのか」
「黒船でバイトさせてあげるから、大・丈・夫」
ジェッソはニッコリ笑ってカルロスに謎のウィンクを送る。
「くぅ。独立の道は険しいな」
ションボリするカルロス。それを隣の席の上総がゴハンを食べつつ面白そうに見つめる。
皆の話を聞きながら駿河がカウンター前に立っていると、ジュリアが「船長そろそろゴハン食べたら?」と声を掛ける。
「話してる間に誰か食べ終わらないかなーと思って。その辺とか」
駿河はレンブラントとオーカーを指差す。
「あ」
カルロスの対面の席のレンブラントはお茶を飲みつつニヤリとして
「食べ終わったけど席を立たないっていうね」
その背後のオーカーも「食ったけど、お茶はゆっくり飲まないと」と言いお茶を飲む。
「なんて奴らだ。分かった一人寂しく部屋で食べます」
嫌味っぽく駿河が言うと、レンブラントが慌てて「すません! 立ちます船長どぞどぞ!」とトレーを持って立ち上がり、オーカーも「立つっす、立つっす」と立ち上がる。
駿河はレンブラントと入れ替わりにカルロスの対面の席に着いて「いただきます」と言い味噌汁を飲む。
続いてゴハンを口に頬張っていると、隣の席のリキテクスが「あのー」と話し掛けて来る。
「次のドック入りの時に鉱石弾の整備しませんか」
「それさっき総司君に言われた」
「……整備に3週間以上必要なんですが」
「え!」
「あ、聞いてないですか。整備に相当掛かるって、以前アンバーが整備の人に聞いたらそう言われたと」
駿河は箸を止めて「……まぁそうだろうなぁ。そう簡単には……」
すると隣のテーブルから「じゃあその間、カルロスさんの小型船が黒船の代わりに採掘を」というジェッソの声。
カルロスは「え」と微妙な声を発し、昴は「大変だ」とニヤニヤ笑う。
リキテクスもニヤリと笑ってカルロスに
「何ならこの際、大型船を買ってしまうとか」
「借金で死にたくありません」
駿河は「でも何とか鉱石弾を撃てるようにしてあげたいな、せっかく付いてるんだし。……後で色々考えよう」と言って再び朝食を食べ始める。
カルロスがボソッと呟く。
「……鉱石弾って、管理と戦争でもする気か」
リキテクスは「単に撃ってみたいだけですよ。荒っぽい事はしません」とニッコリ。
「ふぅん。まぁ、そもそも本気で荒っぽい事をしようと思うなら、既に怪力とか爆破な人が居るしな。更に鉱石弾まで加わると……管理さん、ブルブルかもな」
「ブルブルさせましょう(笑)」
「……リキさん、実は過激だな……」
カルロスは箸を置き、「ご馳走様」と言ってお茶を飲み始める。
そこへ入り口に、食べ終わった食器を乗せたトレーを持ったメリッサが現れて食堂内に入って来る。カウンター越しにジュリアに「これシトロネラと私の二人分。洗い物、手伝うわね」と言いつつトレーを持ったままキッチンの中へ。
続いてゴツゴツした鉱石の妖精が入り口に現れてトコトコと中に入って来ると、ポンと入り口側のテーブルの端に乗る。昴と夏樹が「お」と声を発して妖精を見ると、妖精はポンとジャンプして隣のテーブルのリキテクスの朝食トレーの横に着地。
「おや」
リキテクスは妖精を見る。上総も「妖精きた」と箸を止める。
妖精はリキテクスを見て、次に上総を見て、隣のカルロスを見た途端
「!」
頭に大きなビックリマークを浮かべてポンポポーンとジャンプし、カルロスの頭の上でワンバウンドしてから左肩に着地する。カルロスは「ん?」と左肩の妖精を見ると、ハッとして「お石様じゃないか!」と言いお茶を置き、両手で妖精を持って少し上に掲げて皆に見せる。
「これ私の命の恩人です」
「え?」
皆は怪訝な顔でカルロスに注目する。
「……黒船から逃亡した時、雲海の中で倒れていたら、この妖精が来て私の顔にキックをブチかましながら『起きろ』と。渋々起きたら付いて来いと言うので付いて行ったら護とターさんに出会った」
「おおー……」
驚く一同。駿河が「導いてくれたのか、凄いな」と呟くと、上総も「ホントに命の恩人だ!」と感心する。
カルロスは妖精を自分の頭の上に乗せて
「名前は、お石様と言うらしい」
昴が「誰がつけたの?」と聞くと
「ご本人の申告。妖精それぞれ名前があって、聞くと教えてくれる奴もいる」
「あら自己申告……」
苦笑する昴。リキテクスも笑って「ご自分でお石様とは……」
カルロスは左手で頭の上の妖精を指差すと
「ちなみにこの方は荒っぽい方で、私が寝てると額に頭突きをブチかましたり耳で頭をブッ叩いたりされる」と言ってから「お石様、今日はどうされたんですか? わざわざ黒船まで来られて」と尋ねる。
「?」
お石様は頭の上に巨大なハテナマークを浮かべる。
「そうですか特に意味はありませんか」
ふと、駿河が不思議そうに
「あれ? 船底の採掘口は閉じてるし、一体どこから……さっき甲板ハッチ開けたから、そこから入って来たのかな?」とお石様を見て「あっ、でもどうやって甲板まで上がったんだろう?」
お石様はカルロスの頭の上でポンポンと跳ねて皆に何かを伝える。
リキテクスが「え、上から落ちて来た?」と驚き、駿河が「アンバー色?」と怪訝そうに言う。
「ああ!」
リキテクスと駿河、二人同時に気づく。
駿河が「さっき給排水の時にアンバーの下になった時があった!」
続いてリキテクスが「そうかアンバーから落ちて来たのかぁ」と納得。
お石様はカルロスの左肩に下りると、長い耳でカルロスのこめかみをパシパシ叩き、足で頬にキックをブチかましてテーブルの上に飛び降り、喜びを表現しながらポンポンと跳ねる。
「……お石様。ちょっと痛かったぞ」
カルロスはお石様の耳を掴んで持ち上げる。
「!」
焦るお石様を左腕で抱き抱え、握った右拳でお石様の頭を軽く叩く。
「貴方ちょっと腕白すぎるので少しは大人しくなって下さい」
それから頭をナデナデしてお石様をテーブルの上に置く。
するとお石様はまたカルロスの左肩に飛び乗り、『大好きだー』というようにカルロスの頬や首に身体と長い耳をスリスリすり寄せる。
「……」
至極迷惑気な顔で耐えるカルロス。
昴が笑って「懐かれてるぅ」と言い、上総がしみじみと「好きなんだねぇ……」と微笑む。
お石様は再びテーブルの上に飛び降りると、またポンポンと喜びのジャンプをしてからポンポポーンと大きく跳ねつつ食堂から出て行く。
はぁ、と溜息をついたカルロスは目の前の駿河にしみじみと言う。
「以前、管理に捕まって事情聴取された時に、妖精に助けられたと言ったら『ふざけんな!』って物凄い怒られた」
「でしょうねぇ」
「嘘は言ってないのに全然信じてもらえなくて。妖精の絵まで描いたのに」
「えっ」
駿河は驚き気味にカルロスを見て「あの妖精の、絵を管理に……」と言いクククと笑い出す。
上総が「どんな絵だったの!」と笑いながらカルロスに尋ねる。
「真面目に真剣に描いたのに、落書きとか言われて……私には画力は無いらしい」
ションボリするカルロス。
駿河は「それ見たかった!」と笑いつつ
「アレは無理だ、だって俺も実物を見てなかったら多分、信じられなかった……!」
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