第18章04 さぁ街へ行こう
午前9時半少し前。
黒船の総司と静流の二人部屋では、総司が一人、制服から私服へ着替えをしている。静流は居ない。
(……街歩きか。有翼種の街を見たからって何がどうなるもんでも無いし、あんまり気乗りしないな。もし自由参加ならば船でノンビリ出来るのに、全員強制参加だから仕方がない……。まぁ皆に合わせるのが船乗りの処世術、忍耐と妥協には慣れた)
そんな事を思いながらTシャツを着る。いつも採掘船本部に出勤する時は制服で来る事が多いが、仕事の後、街で買い物する時の為に私服は常に持ってきている。今日は、下は黒のジーパン、上は黒のTシャツで、後で上に薄手の白いブルゾンを羽織る。
(しかし昨日は初めて制服のまま飲み屋に行ったな。でも制服は船そのものを表わすから、人工種と人間の船の連中がどのようであるかを示せて、むしろ良かった。特に剣菱船長は最初、店に居た有翼種に突っかかられたし……)
クローゼットに制服を仕舞い、ブルゾンを取り出してハンガーを外し傍の二段ベッドの下段に放り投げる。ちなみに下段が総司、上段が静流のベッドで、理由は下が几帳面な静流だと総司が気を遣うからである。
クローゼットの扉を閉め、正直なところ街に行くのメンドイな、行って何するんだよと思いつつベッドの下段に腰掛けると、ふと三人で朝飯を食べた時の事が思い浮かぶ。
(さっき楽し気だったなアメジストさん。あんな嬉しそうな顔、初めて見た。……親睦を深めるって大事だな。以前の俺は成果第一で、その為には『馴れ合い』は要らんと線引きしてきたけど、昨日の採掘で考えが変わった。それで飲み会に参加してみたんだが……そういやリキさんが鉱石弾の話を持ち出してきたのは驚いた。純粋に船の、エンジンの底力を見てみたいって事だけど、もしあれが本当に撃てれば凄い事だ。それこそ管理への牽制になる。ただ剣宮君のように嫌がる人間も居るからなかなか難しい事ではあるが……)
昨日の飲み会での会話を思い出す。
丸いカウンターテーブルに集って飲みながら話をしている良太と剣宮、リキテクスと総司の四人。
剣宮が言う。
『んー、俺は、個人的には人工種に物騒なものを持って欲しくはないです。だってもしそれで大変な事が起こったら……』
隣の良太がカクテルを飲みつつ『大変な事を起こさない為に管理さんと対等になろうって事だが』とコメントを挟むと、剣宮は視線を落として溜息混じりに『まぁそうだけど』と呟く。リキテクスが尋ねる。
『ちなみに君は何で採掘船に入ったの?』
『たまたまですよ、就職先探してて、応募したら入れたというだけで。入ってから人工種と人間の関係を色々と学びましたけど、んでも荒波乗り越えると絆も深まるからアンバーに入って良かったなーと今は思ってます』
『なるほど』
総司はふぅ、と溜息をつき、ベッドから立ち上がる。
(……そう、荒波乗り越えると絆が深まる。今ここに来てつくづく思う。船長を支える為には仲間同士の信頼と結束が必要、その為には親睦を……とはいえあんまり楽しむ気分じゃないんだよな。管理の事とか気になって。街に行くより今後の人工種の事とか話をした方がいいような。まぁでも親睦は大事だ!)
バッとブルゾンを手に取って羽織ると、部屋から出る。
9時半。
採掘船停泊所のアンバーと黒船の船体の前に、一同が集い始める。船長を含めて全員が私服で何人かはポーチやミニバッグ等、小さ目の手荷物を持っている。二隻の向かいに停まっているブルートパーズからも、肩からショルダーバッグを下げたターさんや、布バッグを持ったカルナギ達が降りてきて一同の元に集うが、カルナギは皆から少し離れた所に立ち止まり、剣菱と駿河を自分の方へ呼び寄せる。
「おはよう、剣菱船長と駿河船長はこちらへ」
「あぁカルナギさん、おはよう!」
剣菱がカルナギの元に駆け寄り、駿河も「おはようございます」と挨拶しながら後に続く。
カルナギは布バッグから何かが詰まった黒い巾着袋を取り出して「こっちが黒船」と駿河に渡し、続いて白い巾着袋を取り出して「こっちがアンバー」と剣菱に渡す。
「中に、封筒に小分けにした給料が入ってる」
「おお」
駿河と剣菱は袋の中身を確認する。カルナギが言う。
「さっき銀行で、ターと二人で確認しながら封筒に詰めたけど、万が一、中身の金額が間違ってたら言ってくれ。あとその巾着袋はあげるよ。アンバーは白巾着になっちまったけど」
剣菱は「何色でも構いませんよ」と笑い、駿河は「誰に渡したかチェックしとかないと」と言いつつデニムシャツの胸ポケットから薄いメモ帳とペンを取り出す。
「俺はスマホに書く」
剣菱はカーキ色のコットンジャケットのポケットからスマホを取り出す。
「スマホ……」
駿河は一瞬、剣菱を見てから若干ヤケ気味にブツブツと
「いいや俺は書いた方が速いし、いつも手帳にメモってるし。ってかメモ帳持って来たし」
「まぁ船の中だと勤務中スマホ禁止だしな。ちなみに俺は手帳を船の中に置いて来たんだよ」
ふと、そこで剣菱はスマホから顔を上げて駿河を見る。
「……別にチェックしなくても分かるべ……」
「俺は一応書く。……じゃあ給料、渡しに行きますか」
「うん、黒船さん仕切って」
「はい」
三人の船長は待機している皆の方へ歩き出す。
駿河が「じゃあ皆さん、船ごとに適当に並んで下さい」と言いつつ一同の前に立ち、剣菱がその隣に、二人の背後にカルナギが立つ。昨晩同様、三人の船長の前には二隻のメンバー、背後にはターさんとブルートパーズのメンバーが並ぶ。皆が落ち着いたのを見計らって駿河が挨拶する。
「皆さん、おはようございます」
「おはようございまーす!」
「これから昨日の給料を渡しますので貰ったらすぐ中を見て5950ケテラあるか確認して下さい。じゃあ名前を呼ばれた人は取りに来て下さいね、まず副長から」
「ちょいちょい」
剣菱が指で駿河の肩をつつく。
「はい?」
「もちっと何か無いかな」
「……何かというと?」
「なんかチト事務的だなーと」
「え」
一瞬キョトンとした駿河は「……そ、そうですか?」と少し首を傾げる。
何か配慮が足りなかっただろうかと思いつつ
「じゃあどんな風に言えばいいんですか?」
「ん? 例えば……」
剣菱は一同を見ると、右手を上げて大きな声で叫ぶ。
「皆さん給料欲しいですかー!」
アンバーの面々が元気良く「はーい!」「欲しい欲しいー!」「ください!」「くれぇぇ!」と返事する。
「よーし、じゃあ昨日、高値がついたブドウ石を採ったメンバーからあげよう! みたいな」
剣菱はそう言い、衝撃を受けた顔で固まっている駿河を見る。
「やってみ? レッツ!」
(……マジ、です、か……)
楽し気な剣菱とは対照的に、駿河は引き攣った笑みを浮かべたまま立ち尽くす。
(は、……恥ずかしい……)
その様子を見てカルナギが声を殺して笑い始め、二隻のメンバーも面白そうにニヤニヤしながら駿河を見る。
総司が苦笑しつつ「これは船長にはハードルが高いな!」と呟くと、静流が真面目な顔で「高すぎです!」と頷く。
駿河はバッと剣菱を見ると
「あっ、あの、アンバーっていつもそんなテンションでやってるんですか?」
「うむ!」
剣菱が力強く頷き、穣が笑って「そーだよー!」と後押し。その横で護が(そうだっけ?)と首を傾げる。
「そ、そうですか……」
苦渋の顔で俯く駿河。カルロスが叫ぶ。
「思い出せ駿河、7年前、黒船に来た当初の自分を!」
シトロネラも「そうよ、とてもウルサイ操縦士だったわ!」
剣菱は黒船メンバー達の方を見て尋ねる。
「どんなだったの?」
途端に駿河が大慌てで「ちょ、ちょい待って下さい!」と剣菱を制止し「あの、あの……」と必死に悩んでから拳を握って何か吹っ切るように「分かりました!」と言うと、一同を見て叫ぶ。
「皆さん、給料欲しいですかー!」
「はぁーい!」
「じゃあ昨日16000の値がついたブドウ石を採ったメンバーからあげるぞーちなみにバイトのカルさんは最後だ!」
「えー」
駿河は、やや荒い息をしながら「てことで掘り出したジェッソさんから! いっくぞー!」と叫んで給料の入った巾着袋を左腕に抱える。横で密かに笑う剣菱。
ジェッソが「はーい」と返事しながら駿河の前に進み出て来る。その間に駿河は左手にメモ帳、右手にペンを持ってメモ帳を開くが、ふと総司を見て「あっ副長、給料あげた人の名前、これに書いといてくれる?」
「ほい」
総司は駿河の隣に来て、メモ帳とペンを受け取る。駿河は巾着袋から給料の封筒を取り出し、ジェッソに差し出して大声で叫ぶ。
「おめでとうーっ!」
「あ、あ……」
ありがとうと言おうとして爆笑してしまうジェッソ。
笑いながら給料を受け取って、何とか「あり、……がとう、ございます!」と言葉を出す。
皆も笑い、隣の総司も爆笑しながら「テンション高すぎ……」
「……いや剣菱さんがやれと言うから……」
(こっちもメッチャ恥ずかしいんだ!)
真っ赤になって俯く駿河。ゴホンと咳払いしてから上を向いて叫ぶ。
「もうテンション続かないから俺流にやる! 次は探知した上総……ってもう順番は適当でいいからどんどん貰いに来てくれー!」
爆笑しまくっていた剣菱も、何とか笑いを収めてからアンバーの面々に言う。
「ウチの船も、あげるよ! 取りにおいで! 順番は適当に」
それぞれの船長から給料を受け取る一同。
皆、封筒の中の現金を見ながら「イェソドのコインだ」「有翼種の紙幣だ!」と嬉しそうに騒ぐ。
剣菱が皆に「昨日飲みに行った連中は、1000ケテラをカルナギさんに渡してくれー!」と言い、該当者はカルナギに1000ケテラを渡す。カルナギはそれを確認して財布に入れると「じゃあウチの船は仕事に行くので、またな!」と皆に挨拶し、続いてドゥリーやトゥインタ達も「またねー!」と手を振って挨拶。
二隻のメンバー達も「はーい!」「またねー」「お仕事頑張ってー」等と言いつつカルナギ達に手を振る。
「ブルートパーズは出航だ!」
カルナギが船の甲板へ飛んで行くと、ブルートパーズの船体がゆっくりと上昇し、ドゥリー達も飛んで船へ。ターさんだけは二隻のメンバーの元に残り、停泊所から飛び去るブルートパーズを皆と共に見送る。
「さて、じゃあ我々は街に行くか!」
剣菱がそう言って皆を見ると、ターさんが
「あ、人間の人達、中和石の腕輪つけてるよね?」
駿河と剣菱が「うん」と頷き、アキが「着けてまーす」と右腕を上げ、剣宮は「うん、一応あの変な液体も付けといた」と言い、護が「いい匂いするから分かる」と微笑む。
ターさんは「ケセドは中和石だけで大丈夫だよ。まぁイェソド鉱石が近くに無いなら中和石が無くても大丈夫ではあるけど、一応、保険にね」と言ってから「あっ、ただ石茶屋だけは気を付けてね! 高い石茶はイェソドエネルギーが濃いから注意だよ!」
カルロスがポンと手を叩いて「あ、そうだ。それ言うの忘れてた」と言い、駿河が「恐いなぁ、もう」と苦笑する。
「だってどうせ高い石茶なんか飲まないだろ。仮に飲んでも死ぬような濃度のイェソドエネルギーじゃないから大丈夫」
「そうなのか……」
ターさんは皆に「よし、じゃあ行こう! この道を歩いていくと石屋街に出るから、まずそこへ行くよ」と言って歩き始める。剣菱はそれに続きながら、ターさんに尋ねる。
「昨日行った店の少し先ですね?」
「うん」
停泊所の出口へ向かう一同。
マゼンタは元気に「出発だー!」と右手を振り上げ、オーキッドは「街だ街だ」と楽し気にジャンプする。
それを見てマリアが「ほーんと子供みたいね」と苦笑すると、マゼンタが「だってまだ18だし!」と反論。
オーキッドは「俺なんて17ぁ!」
するとバイオレットが「オリオン君は19だけど落ち着いてるよ!」と言い、マリアが「そうよねー大人っぽいよねオリオン君」と同意。
マゼンタが元気良く叫ぶ。
「オリオンは19、俺は18だからいいんだ!」
バイオレットが「うるさい叫ぶな」と注意し、マリアが「だから子供なんだよー!」とマゼンタを指差す。
アンバーズの騒がしい会話を聞きつつ一同は停泊所を出て、周囲に倉庫らしき建物が並ぶ石畳の一本道へ。時折その建物から有翼種がコンテナや木箱を吊り下げて出て来ると、どこかへ飛んでいく。
マゼンタは天を仰いで
「ちくしょー子供扱いしやがってぇ、19になったら大人になーる!」
その声に、アンバーズの少し前に居る上総が笑いつつ「マジ子供」と小声で呟く。
「そこ!」すかさずマゼンタが上総を指差して「聞こえたぞ!」
「アッ」
「ちなみにお前は何歳なんだ!」
「何歳に見える?」
「……同い年?」
「21です」
「エッ……21で黒船の探知かぁ……」
マゼンタはションボリ。マリアは上総を指差して
「21で黒船の割には子供っぽいわよね!」
それを聞きマゼンタは俄然元気を取り戻す。
「うん、21で黒船の割には子供っぽい、同い年かと思ったぞ!」
上総は渋い顔で「んーまぁ、子供っぽいですよ、ハイ。以前よくカルロスさんに怒られてたし……」と言い、上総の斜め前を歩いていたアメジストがここぞとばかりに「副長にも静流さんにも私にも怒られてた!」と話に加わる。
「だ、だ、だって」
反論する間も無くマゼンタが上総に「よっしゃ子供仲間決定、お仲間ぁ!」オーキッドも「ナカーマ!」と上総を指差す。
「ちょ、待った。俺、カルロスさんが居なくなってから頑張ったのにー……。ていうか君達、自分らが子供だって認めてるじゃん!」
「むぅ?」
マゼンタは一瞬とぼけた顔をしてから「よぉーし! いつか皆で大人になろーう!」と空に向かって右手を上げる。オーキッドも「なろーう!」と言ってから、ふと前方を指差す。
「あっ、橋だ!」
マゼンタも前方を見て「川だ!」
更に上総が「凄い、あの川イェソド鉱石水の川、しかも川の周りにイェソド鉱石ゴロゴロ転がってるし!」
それを聞いて駿河が「え、マジですか」と驚き、隣を歩く剣菱が
「昨晩ここを通った時に見た。夜だと川が光る。綺麗だったぞ」
「へぇ! 見たかったなー……」
会話の間に駿河の横をマゼンタが「お先に見たーい!」と言いながら走って行き、続いてオーキッドが「お先に見ますー!」と言いつつ走って行く。釣られて上総が「俺も見るー!」と走り出し、駿河は「よし、俺も見に行きます!」と走り出したのを切っ掛けに「俺も」「私も」と数人が川に架かる石橋に向かって走り出す。
「うっわ、すご!」
マゼンタとオーキッドは叫びながら石橋の真ん中辺りへ走って行き、欄干に手を掛けて下を見る。
「河原がイェソド鉱石だらけ!」
オーキッドの隣に来た上総は「妖精も居る!」と河原に数匹転がっている妖精達を指差す。
その上総の隣に来た駿河は、下を見ながら「な、なんて恐ろしい川なんだ……」と苦笑い。
続いて皆が続々と橋の上に到着し、下を見てそれぞれ目を輝かせて「凄い凄い」と感嘆の声を上げる。
アキは、駿河の背後に居る剣宮の隣に来ると、若干不安気に
「ねぇこれ人間、大丈夫なのかな、イェソドエネルギー……」
「昨日、大丈夫だと言われたけどね、有翼種の皆さんに」
「でも何か、不安にはなるよね、後で影響出たらどうしようとか」
会話を聞いて駿河も振り向き、話に加わる。
「うん、わかる。中和石を着けてるとはいえ」
そこへ「大丈夫です」という力強い声。
三人が声の方を見ると、カルロスが三人の方に歩み寄りつつ川を指差して
「第一に、あそこに転がってる妖精達が何もしてこない。もしヤバイなら、あいつらが何か言いに来る。第二に、エネルギーの質が穏やかなので、恐らく中和石が無くてもそんなに悪影響は無いかと」
「エネルギーの質?」
駿河が聞き返すと、カルロスは少し考えてから
「表現が難しいけど、例えるなら純粋みたいな。……言っちゃナンですが昔、ジャスパー側で採ってたイェソド鉱石の方がよっぽど荒くて危険ですよ。コンテナに閉じ込めれば大丈夫ですが、でもそれを船に積んでた訳で。それに比べたらこの川は可愛いモンです」
剣宮が「そう、なんか昨日そんな感じの事を言われた」と言い、アキは安堵したように「そか、良かった安心した」と微笑む。駿河も「了解です」と言ってから「それにしても、もうここで採掘してもいい位の量がありますよね」と河原を指差す。
近くに居たメリッサが駿河達の方を見て「ありすぎ! もうここで採掘しちゃおうよ!」と言うと、隣のレンブラントが「転がってる石を拾うだけで採掘終わりそう……」と苦笑した所に護が「またれい!」と言って「明日採掘に行く場所はもっと凄いのだ!」
シトロネラが「え、これ以上凄いとこってどんななの?」と目を丸くする。
上総は探知を掛けて「うーむ。探知したけどエネルギーだらけで訳わからーん!」
カルロスが「だろう?」とニヤリ。
護は「どんなとこかは明日のお楽しみ! そろそろ先に進もうー!」と皆を誘う。
「行こう行こう」「出発だ」「進めー」
皆、色々言いながら、再びテクテクと歩き出す。
橋を渡り終えると右手に船の修理工場らしき建物が見えてくる。左手には石材屋の石置き場。
右手の建物群を見ながら駿河が「船の修理工場かな?」と言うと、ターさんが「うん」と頷いて「あそこが昨日、行った店」と修理工場の隣の建物を指差す。
剣菱が駿河に言う。
「昔の倉庫を改装した店だった。酒、美味かったぞ。またいつか行くからその時はご一緒に」
駿河は笑顔で「ぜひ」と返事する。
更に歩くと石屋が立ち並ぶ通りに入る。
透が嬉しそうに「見知らぬ街だ!」と言い、横を歩く穣に「なんか、旅行に来たって感じするね!」と微笑む。
「ああ、そうだな。……やっぱり街に来て良かったなぁ」
それを聞いて駿河もちょっと安堵する。
(皆、心中葛藤もあるだろうけど、街に来て良かった)
駿河の後ろで昴が楽し気に「コレ、観光旅行って奴だな」と言い、リキテクスが周囲を見回しつつ「新鮮だねぇ……いいなぁ旅行って」と微笑み、シトロネラがジュリアと「心がワクワクするね!」と微笑み合う。
内心あまり乗り気でなかった総司まで、街並みを見ていると気持ちが上がって来る。
(これはこれで……いいなぁ。経験って大事か……)
通りを進み、店が増えると同時に人も増え、どこからか「あれって人間の採掘船の奴だろ」という声が聞こえる。
声の方を見ると通りすがりの有翼種達が立ち止まり、二隻の一同を珍し気に見ている。
「ブルートパーズと一緒に仕事した奴らだ」
「あれが人工種か」
「いや人間もいるらしいぞ、大丈夫なのか?」
その声に若干、不安になる駿河。
しかし人工種達は通行人の声など気にせず周囲の建物や店に興味津々。
ジェッソや穣は石屋の開け放たれた店舗入り口から少し中を覗いては「あ、あれ紫剣石かな」とか「あれ浮き石の上等な奴!」とか呟いて「なんか凄いな」と感心している。
ジェッソが興奮気味に穣に言う。
「さっきバリア石のデカイ原石がドーンとあったぞ。あれ採るの難しいのにどうやって採ったんだ、採掘してる所が見たいな」
「マジか。ここ扱ってる石のレベルがハンパねぇな……」
一同の先頭を歩くターさんは、通りと通りが交差した間にある小さな広場へ皆を案内する。そこに一本だけ生えている大きな木の下に来ると、立ち止まって皆に言う。
「到着! ここが石屋街だよー」
皆、ターさんを囲むように輪になって立ち止まる。
カルロスは「この街の事なら、私と護も分かるので」と言いつつ輪の中心に進み出ると、ターさんの隣に立って「さてここからどうしようか。まず皆さんのご希望を聞きます。何がしたいとか行きたいとか」と皆を見回す。
するとマゼンタが広場の周りを歩く人々を指差して
「なんかジロジロ見られてるんですけど!」
護が「やった。有名人になったぞ」とニッコリ。
「ちがーう! なんか珍獣扱い的な」
「うん、俺なんてイェソドに来た最初の頃、メッチャ珍獣扱いだよ。ところでマゼンタ君、どこ行きたい?」
「えっ。えーと……」
戸惑うマゼンタの代わりに昴が手を挙げて「本屋に行きたい、鉱石図鑑!」
「ほいほい」
続いて透が「護、なんか石のアクセサリー作れる店あるって……」
「うん、ブレスレットとか色々作れる。アクセ屋行こう」
続いてジュリアが「あのー、有翼種の食料品店を見たいんですけど」
数人が「えっ」と驚きながらジュリアを見る。
カルロスが「もしや食材が足りないとか?」と尋ねると、ジュリアは「ううん」と首を振り、「まだ十分足りてるけど、ここにどんな食材があるのかとか、調味料とか興味があるの」
アキが「私も!」と手を挙げて「私も見たーい、料理道具とか見たいー」
皆、「なるほど……」と納得。
続いてシトロネラが「私は有翼種の服屋に行きたい! 服を見たい!」
ネイビーが「行く、服屋行くー!」メリッサが「私も!」と挙手。
悠斗は「俺は美味いものが食べたいっす!」と手を挙げ、マゼンタが「あっ俺もー! 美味いもん食う食う!」オーキッドが「俺もぉー!」そしてオリオンも「僕も何か食べたいな」
カルロスが「さて一体どーしたもんか」と言うと、護が「もう適当に散開しちゃうか」と提案。
「カルさんと俺で、美味いもん食う人と買い物の二手に分かれて、後は自由な感じとか」
「それだな」
頷くカルロス。
護は一同に向かって「じゃあ飲食店とか石茶はアッチ」と石屋街の左手の路地を指差し、「アクセサリーとか食料品、本屋、雑貨、服はコッチ」と右手の路地を指差してから「カルさん、食べる方行って。俺はアクセの方行くから」とカルロスを見る。
「わかった」
カルロスは駿河を見ると「船長、何時に船に戻ればいい?」と尋ねる。
「あ。えーと」
駿河は一同に向かって言う。
「じゃあ皆、午後3時半から4時の間に船に戻る事! 4時過ぎたり迷子になったりするとカルさんが探知する羽目になるので遅れないように!」
カルロスは「探知代金1000ケテラな」と言い「じゃあ美味いもの食べたい人と石茶は私に付いて来て下さい」
上総と大和とオリオンが「はい!」と返事し、マゼンタとオーキッドが「はぁーいっ」悠斗が「おっす!」オーカーが「うぃーっす」と返事をする。
「本屋とかアクセとか行く人は」と護が言い掛けた途端、穣が「ちょい待って!」と割り込んで「石屋に行く人、誰か居ないの?」
ジェッソが「ここに居る!」と手を挙げて「私は石屋で石を見る」
「おお! あと誰かいない?」
穣は一同を見回して「皆、採掘師なんだから石屋行こうよー」
メリッサは「ゴメン今日は定休日。服を見たいの」
昴は「鉱石の本買って来ないと」
マゼンタは「ハラ減った!」
穣はマゼンタを指差して「って朝メシ食ったやん!」
「育ち盛りなの!」
「むぅ。まぁいいや、俺とジェッソの二人で石屋巡りしよう」
マゼンタは「いてらっさい!」と穣に手を振る。
駿河は剣菱を見て「剣菱さんはどこへ?」と尋ねる。
「ん。とりあえず食い物へ。アンタは?」
「俺は護さんの方に行きます」
そこで護がふと、広場の大木の向こう側を見て「あ、レイモンドさんだ」と声を上げ、皆、護の視線の先に注目する。ターさんも大木の向こうに立つ男の姿を見て「お、レイモンドさん! こんちはー」と手を振る。
皆に注目されたレイモンドは、周囲を気にしながら恥ずかし気に一同の方に歩いてきて「こ、こんちは」と挨拶し、護は一同に「ケテル石の採掘道具を作る職人のレイモンドさんです。俺の白石斧を仕上げてくれた人」と紹介する。
ジェッソが「あぁ、あの斧を作った方ですか」と言うと、レイモンドはジェッソをじーっと見て「うん。貴方、怪力だね。採掘師?」と尋ねる。
「はい」
「だよね、いい仕事しそうだなぁと思って見てたんだ。どんな採掘道具使ってるの? 鉄製?」
「鉄製です。でもそのうちケテル石で出来た道具も使ってみたいと」
途端にレイモンドの顔がパッと明るくなる。
「良かったらウチに見に来る? 採掘道具」
「えっ」
「あっ、変な勧誘じゃないよ、見るだけだよ」
「はい、見に行きます!」
穣も「行く行く俺も」と言い「行って来る!」と一同に手を振る。
一同も「いってらっしゃーい」と手を振る。
レイモンドも皆に「では」と言って手を振ると、穣とジェッソを促して、石屋が並ぶ通りへ歩いて行く。
護は笑って「流石。レイモンドさんにスカウトされちゃったよ」と呟き、それから皆に「俺達も行こう! 食い物以外の人は、俺に付いてきて!」と言いつつ歩き出す。
カルロスも「じゃあ行きますか」と上総やマゼンタ達を連れて歩き出す。
ターさんは「どうしようかなー」とちょっと迷ってから「人数が多い方へ行こう」と護の方に付いていく。
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