第20章01 じゃんけん大会
20時前。
図書館の屋上駐機場に停まる二隻のタラップの下に、人が集い始める。何か気配を感じたのか妖精達も図書館脇の階段をポコポコ跳ね上がって二隻の元に集まって来る。
総司と共に黒船のタラップを降りかけた静流は、下を見て躊躇し立ち止まると
「結構な人数が居るから、私は止めとこうかな……」
一瞬ガクッとした総司は立ち止まって振り向き、呆れ気味に静流を見る。
「そーいうのはやめにしよう。やりたい事やらなくて後で燻るのは傍迷惑だから」
「……そうですね」
「行きたいなら行く! 遠慮すんな」
「はい」
その間に、後ろから走って来た駿河が二人の横を通りつつ「そうそう」と静流の肩をポンと叩いてタラップを駆け降りて行く。
下に降りた駿河は、待機している黒船メンバー達に「アンバーと合流しよう」と言いつつ隣のアンバー側へ移動する。同時にアンバーの方からも数人のメンバーが剣菱と共に駿河達の方へ近付いて来る。二隻の船の間で合流する一同。
駿河が剣菱に「そっちは何人?」と尋ねる。
「俺を入れて7人だな」
「って事は全部で20人も希望者がいるのかー……大人気だなぁ」
剣菱の背後から穣が言う。
「だってカナンさんと周防先生の話、聞きたいし」
剣菱も「何せ人工種の歴史を知る人々だしな。興味がある」と言い、駿河も「同じくです」と頷く。
マゼンタが「俺はヒマだから面白そうな事には行く!」と言いつつ前に出て来て「黒船と親睦を深めるいいチャンスだし!」と黒船の一同を指差す。
上総も前に出てアンバーの一同を指差して「もう深まってる気がするぞ!」
駿河は「うーん、こうなったら仕方がない!」と言うと
「20人でじゃんけんするか!」
剣菱が驚いて「えっ、一気に全員でじゃんけん?」
「はい! やってみましょう!」
穣が「よっしゃあ皆で輪になるべ!」と言い、一同、大きな輪になる。
集ったのは剣菱、穣、護、透、良太、マリア、マゼンタ、駿河、総司、静流、アメジスト、カルロス、上総、ジェッソ、メリッサ、夏樹、昴、大和、リキテクス、シトロネラの20人。
その輪の中に妖精達がポコポコ飛び跳ねながら入って来る。
「なんか集まって来たぞ」とマゼンタ。
穣が「遊んでくれると思ってんだな多分」と言い、透が「もう夜なのに」と呟く。
駿河が一同に言う。
「……じゃあ、じゃんけんしますよ! せーの、じゃんけん、ぽい!」
剣菱が「そのまま動くな!」と叫ぶ。
一同の手を見回してから駿河が「グー、チョキ、パーが居るからもう一回……って誰が誰に勝つんだコレ」と言い、思わず剣菱が笑って「だから全員は無理だと……。こうするべ! 適当にペア組んでじゃんけんすれば、勝った奴10人になる」
「おお」
「って事でアンタとじゃんけんだ!」
剣菱は駿河を指差す。
「えええ!!」
仰天する駿河を眼光鋭く睨み付けつつ剣菱は言い放つ。
「万年採掘量第二位の船の船長の意地を見せてやる!」
「そぉぉぉんな!」
叫ぶ駿河の横で、ジェッソが穣に歩み寄りつつ「じゃあ穣」と言い掛けた所で穣はカルロスを指差して「俺は奴を倒さねばならん! 行くぜ金髪野郎!」
「ふっ……。来たかハチマキ男!」
ジェッソは一瞬考えた後、向きを変えて「じゃあ護さん!」と護に近寄る。
「え」
驚く護にジェッソは微笑みを浮かべて「怪力同士の勝負です。腕相撲でもいいんだが」
「いやいや、じゃんけんで!」
総司は「静流さんっ!」と隣を見る。
「えっ、なっ、何ですか?」
驚きのあまり一歩後退りしてしまう静流。総司は真顔で
「本気でじゃんけんするんだぞ!」
「……ふ、ふ、副長と?」
「お前だったら負けても悔いはない! 手抜きされるとむしろ腹が立つ! 真剣勝負だ静流!」
「な、なにゆえ……」と天を仰いだ静流は、クッと覚悟を決めると「わ、わかりました副長……恨みっこ無しですよ!」と総司を見る。
上総は「マゼンタ君っ!」とマゼンタの元に駆け寄る。
「うわぁカルロスさんの弟子が来た!」
そこへ「待って上総君とじゃんけんさせて!」というマリアの声。
マゼンタと上総は「へ?」とマリアを見る。
マリアは「探知の戦いなの!」と上総を指差し、「な、なんですと……」と顔を引き攣らせる上総の背中をマゼンタがパンと叩いて楽し気に「人気者ぉ♪」と応援。
たまたまマゼンタの近くに居たアメジストは「よし、じゃあマゼンタ君、じゃんけんしよ!」とニッコリ。
「え」
マゼンタは驚き、なぜかとても嬉しそうに「う、うん」と照れる。
リキテクスは良太に「じゃあ機関長同士」と持ち掛け、良太もリキテクスに「じゃんけんしますかね!」
メリッサは透に「そこの風使いのお兄さん。私とじゃんけんしない?」
すかさずメリッサの隣に居たシトロネラが、透に「勝つと大変な事になるわよ」と一言。
「え」
「ちょっと、それどーゆーこと?!」
メリッサがシトロネラに怒ると、近くに居た夏樹も笑いながら
「負けといた方がいいぞー」
するとシトロネラが「じゃあ夏樹さん、私とじゃんけんしよっか!」
「エッ」
「真剣勝負だけど手加減してくれてもいいのよ?」
ニコニコと満面の笑顔を見せるシトロネラ。
苦笑しつつ小声で「恐ぇわ……」と呟く夏樹。
そんな大騒ぎの中、昴はノンビリと皆を見ている大和の所へ行き、腕をつつく。
「じゃんけん」
「うん」
……じゃんけん、ぽい!
「負けたぁ……」
凹みまくる駿河の前で、剣菱は思いっきり嬉し気に「やった! たまには黒船に勝たないとな!」とガッツポーズすると、一同に向かって「じゃあ勝った人、こっちに集まって!」と手招きする。
勝ったメンバーは剣菱側へ。しかしまだ勝負がつかない連中がいる。
何度も『あいこ』を繰り返す護とジェッソ。ジェッソが言う。
「しぶといな。気が合うんだな」
「こんなとこで気が合っても……」
「じゃあここはもう腕相撲で!」
護は慌てて「いやいや!」と否定して「だって俺、長兄より力が無いんで!!」
「そうなのか」
「長兄と貴方の腕相撲なら見てみたいけど」
途端にジェッソは嬉しさ爆発で「それは是非やってみたい!」と叫ぶ。
「へ」
一瞬ポカーンとした護は「確かに貴方なら長兄を凹ませる事が出来るかも……」と呟いてから「とにかく今は茶会の権利じゃあぁ、いっくぞーー!」
「おぉ!」
「うりゃあぁじゃんけん……ぽいっ!」
護はグー、ジェッソはパー。
ジェッソはガッツポーズして「勝ったあああ!」
護は「えぇぇ」と地面にガックリ崩れ落ちる。
穣やマゼンタ達が「おめでとー!」とジェッソを祝福。
この結果、剣菱の元に集った勝ち組メンバーは穣、透、マゼンタ、上総、総司、リキテクス、夏樹、昴、ジェッソ。
負け組のカルロスが言う。
「勝ったメンバー、男ばっかりだし! そもそもSU、周防製の人工種が……辛うじて上総がいるだけか!」
穣はカルロスに「いやぁーすまんねぇーカルロス君! はっはっはっ」と笑う。
カルロスは悔し気に「……美味い石茶がぁ!」
そこへ駿河が「あのー!」と挙手して「カナンさんは『席は10席までだけど、それ以上来たら何とかする』と言ってたので、あと何人か連れて行って欲しい……」と言い、護も「店の隅に立っててもいいから、お願いします!」と懇願する。
剣菱はニコニコしながら「仕方がありませんなぁ!」と言い、ジェッソも「じゃあ敗者復活戦かな」とニッコリ。
駿河はパンと手を叩いて「よし! 敗者復活させて頂きます!」と言ってから、負けた人に手招きして「じゃあ負けた人全員でじゃんけんだ、輪になれ! ……いくぞ!」
……じゃんけん、ぽい!
「チョキとパーに分かれた!」
チョキは……駿河、静流、アメジスト、シトロネラ
パーは……カルロス、護、マリア、良太、メリッサ、大和
駿河が「やった!」と声を上げると同時に静流も「やったぁ!」と歓声を上げ、駿河に「船長、これで黒船の操縦士三人がお茶会に揃いましたよ!」と嬉し気に言う。
メリッサはガックリして「もぉぉぉぉ。また負けた」と溜息。
護も「また負けた! さっきの戦いで力尽きたんだぁ!」と両手で頭を抱える。
カルロスはマリアを見て
「……マリアさん。じゃんけんも探知できるようになろう!」
「そ、そうですね!」
上総が「どうやって探知するん……」と小声で突っ込む。
カルロスはバッと上総を指差して「上総!」
「はい!」
「後はお前に任せた!」
「ほぇ?」
頭にハテナマークを浮かべた上総を無視してカルロスはマリアに言う。
「マリアさん、黒船の食堂で私が石茶を淹れるので、この後、黒船に来ませんか」
護が「って口説いてるし!」と非難すると
「お前は来るな! 石茶ワカラン奴め」
「行ってやる!」
剣菱は、勝ち組メンバー達に言う。
「んじゃあカナンさんの店に行こうか!」
「行こう行こう!」
駿河が「駐機場の脇の階段ってどこだ?」と周囲を見回すと、カルロスが「あっちだ!」と照明で照らされた駐機場の端を指差す。
「じゃあ行ってきます!」
駿河と剣菱を先頭に、勝ち組はテクテクと駐機場の端へ移動し始める。それを見送る負け組と妖精達。
「いってらっしゃい!」「いってらー!」
カルロスはマリアと良太を見て
「じゃあ負け組は良かったら黒船で石茶を」
マリアは「はい!」、良太も「ほーい、行きます」と返事する。
護が「俺も行く!」と言うと
「お前は普通の茶だ!」
「えー」
カナンのお茶会に行くメンバー達は、やや狭い外階段を一列になって下り始める。
「階段、結構あるな。これ戻る時、上がって来るのか」
先頭の剣菱が呟くと、背後の駿河が「ですね」と言って
「この建物、何階建てなのかな。さっき図書館の中に入った時に確認してくれば良かった」
「まぁ何階建てだろうと階段昇降くらいでヒーヒー言ってちゃ採掘船の船長やってらんねぇが」
「ですね!」
マゼンタが階段を下りつつ「んー、有翼種って飛べる割に階段あるのは何でだろ?」と疑問を発する。
後ろから「飛ぶのも疲れるんだよきっと」と透の声。
「あー」
更にその後ろから上総の「階段無かったら俺達すごく困るし」というコメント。
「あー。下りるのはいいけど上がれないモンなー」
以後、黙々と階段を下りた一同は駿河の案内でカナンの店へ。表通りに出てすぐに、剣菱が『カナンの店』の看板を見つけてそれを指差す。
「あっ、あれか。図書館のすぐ近くなんだな」
駿河は「うん」と返事し、他の皆も「あー、あれ!」「マジ近いな」等と声を上げる。
シトロネラは「うわ看板からして木の板に妖精の絵、意外にカワイイ!」と言い、自分の隣のアメジストに「ねぇ、図書館の近くに可愛いカフェって超最強じゃない?」
アメジストは思いっきり「うんうん!」と頷き「絶対行っちゃう!」
その少し後ろを歩くジェッソも「確かに良い立地だな」と言いつつ周囲を見回して「いくつか店が並んでる。少し先には立派な家が」
すると斜め前を歩く上総が「探知したぞ。あれ個人の家に見えるけどレストラン」と少し先の立派な家を指差す。
「え。そうなのか」
「あと向こうに見えるデカイ建物は多分、劇場ホール。その向こうは学校っぽい」と指差しながら説明する。
「ほぉ……。文化と学問の街ってやつか……」
一同はカナンの店の前に到着する。
駿河が店のドアを開けて「こんばんは」と言いつつ中を見ると、入り口近くのテーブル席で複写冊子を見ながらカナンと周防と話をしていたターさんが、駿河を見て冊子を置いて席を立つ。
「おかえり! ……じゃないや、間違えた!」
ちょっと笑う周防とカナン。駿河も笑みを浮かべて「ただいま!」
ターさんは駿河の方に歩きながら「とにかく入って!」と中へ促す。
「お邪魔します」
店内に入る駿河に続いて剣菱が「こんばんは。お邪魔しまーす」と中に入る。そこからお茶会参加メンバー達が口々に「こんばんは」「お邪魔します」「はじめまして」等と言いつつゾロゾロと中に入り、ターさんと周防は少し驚いた顔になる。カナンも驚きつつ椅子から立ち上がり、皆に「随分いっぱい来たね、何人来たの?」と尋ねる。
「14人です」
「あらまぁ。追加の椅子を持って来ないと」
カナンはカウンターの裏へ歩いて行く。
駿河は参加者の皆に「とりあえず勝ち組は奥から適当に席に着いて」と右手で奥のテーブルを指し示し、既に奥の方に居たジェッソや剣菱が奥のテーブル席に座り始める。続いて皆それぞれ席に着いて行く。
ふとターさんが「あれ?」と怪訝な顔をして「護君とカルさんは?」と駿河に尋ねる。
「じゃんけんに負けたので採掘船待機組です」
「じゃんけん?」
「最初はお茶会希望者が20人居たんですよ。じゃんけん勝負で勝った10人と敗者復活の4人が店に来ました」
「へぇ! そういう事だったか」
周防がアハハと笑って「面白い事やってるなぁ」と呟く。
そこへカナンがカウンターの裏から折り畳みの丸椅子を持って来て駿河に渡す。
「これ2つ。あと4つ、奥から持ってくるよ」
ターさんは「手伝います」と言ってカナンと共にカウンター裏へ行き、キッチンと自宅へ続く廊下に入る。
駿河は丸椅子を入り口右側の石茶関連商品が置かれている棚の前に並べると、入り口付近に集まって待機しているメンバー達に「ここに並べる丸椅子が、負け組の席だ」と指示。
静流とアメジストが「はい」と返事。
シトロネラが「負け組じゃなくて敗者復活組って言おう?」と言った途端、マゼンタの「わ!」という驚き声がして、皆、真ん中のテーブルの窓際の席に居るマゼンタの方を見る。既にロールカーテンが閉められた出窓の前のスペースには水晶らしき石と小さな観葉植物が置いてあり、そこに丸い妖精の置物が横にゴロンと転がっている。マゼンタはそれを見ながら「ビックリしたー、置物かと思ってたら動いた、マジ妖精だった」と言いつつ妖精の足をツンツンつつく。
「~~」
一瞬しかめっ面をした妖精は、足のつま先を少し動かしただけで再びスヤスヤ寝てしまう。
「起きないし」
そこへ奥から、お菓子が入った籐の籠を両手に持ったセフィリアがカウンター裏に出て来て「あらほんと、満員になっちゃった。こんばんはー」と一同に挨拶する。
「こんばんはー」
一同が挨拶を返すと同時にカナンとターさんが折り畳み丸椅子を2つずつ持って出て来る。
カナンはセフィリアを指差して皆に「私の奥さん。セフィリア」と言うと、駿河が並べた丸椅子の隣に持ってきた丸椅子を並べ、その隣にターさんも丸椅子を並べる。
セフィリアは「米粉のボールクッキー、食べてね」と言いつつ丸い玉のクッキーが沢山盛られた籠を奥のテーブルと真ん中のテーブルに置くと、入り口側のテーブルの皆に「もう一つ、今持って来るわね」と言い、まだ立ったままの敗者復活組の方を見て「あら。こっちの丸椅子に座った人達が、お菓子取りにくいわね。小さいテーブルか何か……あったかしら」
そう言って思案しながらカウンター裏へ戻ろうすると、マゼンタが
「船から小さいコンテナ持って来ればよかったんだ」と言い、一同思わず笑ってしまう。
アメジストがマゼンタに怒る。
「ちょっとそれ、敗者復活はコンテナで良いって事?」
「え、だっていつもコンテナに座ったりテーブルにしたりしてるじゃん! 採掘師だからコンテナでいいじゃん!」
ターさんは「木箱に乗って来て笑われたのに、コンテナ持ってきたら……」と言った所で爆笑してしまう。
マゼンタは「てゆーか、そんな入り口のとこに居ないでこっちのテーブルの横に来たらいいじゃん! そしたらお菓子取れるじゃん!」とテーブル席とカウンターの間のスペースを指差す。
駿河が「なるほど」、シトロネラが「そうね、敗者復活だからって隅っこに固まる事は無いのよ」と丸椅子を持ち上げてカウンターとテーブル席の間へ。静流とアメジストも同様に丸椅子をそこへ並べる。セフィリアはクスクス笑いながらカウンターの裏へ戻る。
カナンは入り口近くのテーブル席を見て「あれ、席1つ空いてる。あの席、誰か座らない?」と周防の対面の席を指差す。
ターさんが「そこ、さっきカナンさんが座ってたから」と言うと、カナンは「いや私は丸椅子に座るよ。ほら、ここだと3つのテーブルの皆が見やすい。あの席はター君、座って」
「いや俺も丸椅子で……誰か、あそこ座らない?」
敗者復活組に聞くと、静流が「あ、じゃあ船長が」と駿河を見る。
「じゃんけんだ」
駿河がグーにした右手を出すと、シトロネラが「また?」と呆れ、アメジストも「もうメンドイから船長座って!」と言い、駿河は大人しく「ハイ」と席に着く。丁度そこへボールクッキー入りの籠を持って奥から出て来たセフィリアが来て駿河達のテーブルにそれを置く。
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