第20章02 お茶会の意味

 店内には窓際に置かれたテーブル席が三つ。

 入り口近くのテーブル席の窓際には総司、隣に周防が並んで座り、対面の窓際席にはリキテクス、その隣には駿河が居て、駿河の背後には真ん中のテーブル席の上総が、上総の隣の窓際席にはマゼンタ、マゼンタの対面の窓際席には透、その隣には穣が座っている。

 穣の背後には奥のテーブル席の剣菱、その隣の窓際には夏樹、夏樹の対面にはジェッソ、その隣に昴。

 テーブル席とカウンターの間のスペースに並べた丸椅子には、奥のテーブルの所にシトロネラとアメジスト、真ん中のテーブルの所に静流とカナン、そして入り口側のテーブルの近くにはターさんとセフィリアが座る事になっている。

 ちなみにカウンターは、一番奥の壁際には石茶商品等が置いてあり、真ん中付近はお茶や食事などを出す所、その隣にパン等の陳列棚があり、その隣に注文レジがある。

 敗者復活組の席も決まった所でセフィリアとカナンはカウンターの中へ入り、石茶を淹れる準備を始める。

「じゃあ今、石茶淹れてあげるからね」

 ふと駿河が「って、あの、ちなみに代金は」と聞くと、カナンは

「石茶をご馳走すると言っただろう? お茶会しようと言ったのは私なんだから、いいの」

「でもこの人数ですよ? ターさんの家でも石茶頂いたし」

「ご馳走させておくれよ」

 カナンは駿河に微笑んで「こんな機会、滅多にない」

 セフィリアも「そうよねぇ」と微笑む。

 穣は真顔でカナンに言う。

「今後はあるかもしれませんよ、ウチの船、頻繁にイェソド来る予定だから」

 カナンは石茶用の湯を沸かす業務用の給湯サーバーの温度を見ながら

「じゃあその時は気軽に立ち寄ってくれ。あ、でも昼はランチで混むから皆で来るなら午後がいい」

 それを聞いて剣菱が「ランチもやってるんですか」と驚き、気遣うような表情で「なかなか大変では」

「まぁ大変な時もあるけどもね」

 カナンは笑って「さてと」と言いカウンターの中から一同を見回す。

「どんな風に出そうかな。人間さんは中和石着けてるから……でも味があった方がいいか」

 後ろの壁の棚に並ぶ、沢山のお茶の缶の中から一つを取り出すと、セフィリアに「これ人間さん用に」と渡す。

「はい」

 再び一同を見たカナンは「この間、美味いって言ってたのが……4人か。でも君も多分、美味いって言うな」と静流を指差し、後ろの棚を見ようとして「あ、今晩は申し訳ないけどデリバリー用の紙コップで出すよ。本当は石茶カップで出したいけど、この時間だと洗う手間がね……」と皆に言う。

 剣菱は「それはもうお気になさらず!」と言い、穣も「何でもオッケーです!」、マゼンタも「飲めればOK!」

 カナンは「元気な返事が嬉しいねぇ」と笑いつつ、後ろの棚から先程とは違う缶と、石茶ポットを取り出す。

「その人にどんな石茶が合うかなぁと考えて、出してみた時の反応を見るのが楽しいんだ」

 セフィリアも石茶ポットに石や茶葉を入れながら

「その日の体調や気分によって合う石茶が変わるしね」

 それを聞いてマゼンタが

「なんか居酒屋でその人に合うカクテル作るみたいな」

 剣菱が「ほぇ?」とマゼンタを見て「お前、居酒屋行ってるんか」

「違うよテレビで見たんだよ!」

 カナンはジェッソ達を見て「……石茶がワカランと言ってた人には、これだな」と棚から缶を取り出し、「あとター君と周防さんと我々はこれで行こう」ともう一つ、別の缶を取り出す。

 丸椅子組のアメジストとシトロネラは、ちょっと立ってカウンター越しにカナンとセフィリアがお茶を淹れる様子を見る。

 セフィリアは給湯サーバーから石茶ポットにお湯を注ぎ、蓋をして、壁際にいくつか並んだ砂時計の一つを取ると、ひっくり返してポットの前に置く。それからカナンが用意した別の種類の石茶のポットを手に取り、中の石と茶葉を確認してお湯を注ぎ始める。

 アメジストは「わぁ砂時計使ってる!」と砂時計を指差す。

 セフィリアは石茶ポットに蓋をすると、壁際の砂時計を一つ取ってアメジストに見せ、「これ石茶用の砂時計で、砂が落ち切ると音が鳴るようになってるの。便利よ」と言い逆さにしてポットの傍に置く。

「アラーム付きなんだ!」

 シトロネラは「あっ、そういえば」と思い出してセフィリアに言う。

「昨日、お孫さんと会いましたよ、タク君と」

「あら、どこで?」

 怪訝な顔のセフィリアに、カナンが「そうかカルナギさんの船と一緒に仕事したから、その時か」と言い、セフィリアは「あぁ、さっき食事の時にター君から聞いたわ、合同採掘の事。不思議なご縁ねぇ」と言って「タクは今まだ15で……これからどうなるのかしらね」と微笑む。

「でも少なくともあそこの18歳より、しっかりしてました」

 シトロネラはマゼンタを指差すが、マゼンタは出窓の前に転がる妖精を見ていて気づかない。

 アメジストが「しかも気づかないっていう」と言った途端、マゼンタが振り向き、シトロネラの指差しに気づいて「え、俺?」

「うん、君」

 シトロネラは手を下ろしてセフィリアに聞く。

「ちなみにここ、ご自宅もあるんですか?」

「うん、ここ一階が殆ど店舗で、あとは三階まで自宅」

 マゼンタが「ちょっと、俺に何の用だったのー!」と言った途端、砂時計がピ ピ ピ、と鳥のさえずりのようなアラームを鳴らし、セフィリアは砂時計の上部をポンと叩いてアラームを止めると石茶ポットを手に取って、用意した紙コップに石茶を注ぎ始める。

 アメジストは「アラームの音、カワイイ」と言い、シトロネラは「さて、座ろう」と再び丸椅子に腰掛ける。

「うん」

 アメジストも丸椅子に座り、マゼンタを見て

「マゼンタ君、かっこいいなって」

「いやそんな感じでは無かった!」

 穣が「まぁ気にすんな」とマゼンタを宥める。

 セフィリアは石茶を淹れた紙コップを木製のトレーに乗せるとカウンターから出て駿河の元へ。

「どうぞ」と石茶を駿河の前のテーブルに置く。

「ありがとうございます」

 続いて剣菱の元へ行き、「どうぞ」と石茶を剣菱に手渡しすると、再びカウンターの方へ戻る。

 剣菱は「ありがとうございます、初めての石茶です。じゃあ先にちょっと飲んでもいいかな」と言い、穣やマゼンタ達が「どぞー」「どうぞどうぞ」等と言う中、「では」と言ってちょっと石茶を口に含み、「おお?」と不思議そうに目を見開く。同時に駿河も石茶を飲んで「あれ?」と驚いたように首を傾げる。

 二人はまじまじと自分の石茶を見ながら、剣菱が「これ、アルコール入ってますか?」と聞いた途端、カナンとセフィリア、周防、そしてターさんまでが笑い出す。

 カナンは笑いを抑えて「いえ、入っていません。それはエネルギーの感覚です」

「え、エネルギー?」

 目を丸くしてキョトンとする剣菱に、カナンはつい、笑ってしまいつつ「はい!」と返事し「まぁ、人間には馴染みのない感覚というか概念ですから。過去の経験の中に当てはまるものが無いから、アタマが、お酒みたいだと判断しちゃうんです」

「……はぁ」

 そこで石茶ポットの脇に置いた砂時計のアラームが鳴り、カナンは音を止めてポットを持ち、用意したカップに石茶を注ぎ始める。

 駿河は何やら難しい顔で「うーん……この間頂いた石茶とは違って、なんかまるでワインみたいな……」と呟き、カナンとセフィリアを見て「これ、酔ったりするんでしょうか?」

「ん?」

 カナンは一瞬、駿河の方を見て「まぁ一気に大量に飲んだりすれば酔う事はあるけど、普通に飲む分には何杯飲んでも大丈夫」と言い、セフィリアも「お酒のような感じがするのは最初だけです。飲んでるうちに慣れて変わりますよ」と言う。

「そうですか」

 駿河と一緒に剣菱も「ほぉ。そうですか」と言い、石茶を飲んで「これ美味いな」

「美味しいですよね」

 駿河も石茶を飲みながら

「なんかリンゴとミカンが合わさったみたいな凄くフルーティなワインって感じ」

 カナンは石茶を淹れた紙コップをトレーに乗せて

「いやぁ良かった。実はそれを飲んで何も感じないと、相当疲れてるって事になるので」

「そうなんですか」と剣菱。

「はい」

 返事しながら石茶を乗せたトレーを持ってカウンターから出て来ると、「お酒っぽく感じるって事は、身体がリラックスして、本来の感覚が戻ったという事なんです」と言いながら穣、透、夏樹、上総、静流の5人に石茶を配り始める。

「ほぉ……」

 穣は「ありがとうございます!」と言いつつ石茶を受け取り、早速一口飲んで「美味!」

 上総も「ありがとうございまーす!」と石茶を受け取り、一口飲んで「うわぁ……美味い」と目をキラキラさせる。

 静流も丁重に石茶を受け取り「ありがとうございます。頂きます」と言ってから一口飲んで「これは美味しい……でも不思議だな」と石茶を見つめる。

「これ、お茶ですか? 色が無くて白湯に見えるんですけど」

 静流の右斜め前の周防が、静流の持つ石茶を指差して言う。

「それ、殆どイェソド鉱石水のようなモンだよ」

「え!」

 周防は入り口脇の商品棚を指差して

「そこの商品棚ちょっと見ておいで」

「えっ、……さっきちらっと拝見した時に、何でイェソド鉱石があるのかと思いましたが」

 その言葉にアメジストが「イェソド鉱石?」と驚く。

 カウンター内のセフィリアが言う。

「どうぞ店内ご自由に見て下さいな」

 そこへ別の石茶ポットの砂時計のアラームが鳴り、セフィリアは次の石茶を淹れるカップを準備する。

 アメジストとシトロネラは立って入り口脇の商品棚へ。静流もそれに続き、総司もリキテクスも商品棚を見に立つ。昴やジェッソ、夏樹も自分達のテーブルの傍にある奥の商品棚を見に席を立ち、穣もちょっと席を立ってそれに加わる。他の人々は座ったまま店内を眺めたり、商品棚に群がる人々を眺めたりしている。

 アメジストが石茶石の小袋を見ながら言う。

「えー、ホントだ、まさかイェソド鉱石がお茶の石になるなんて!」

 その声を聞き、ターさんがアメジスト達の背後から

「まぁこれは石茶用のイェソド鉱石って感じかな」

 シトロネラが「そんなのあるの!」と笑って「ジュエリーになったりお茶になったり万能じゃん!」

 静流は駿河を見て「船長、凄いもの飲んでますね!」

「え、いや……」

 戸惑い顔の駿河の代わりにセフィリアが言う。

「人間さんの石茶にはイェソドエネルギーは入ってないわ。石茶も色々あるの」

 ターさんは静流の石茶を指差して

「君の石茶を駿河さんに飲ませちゃダメだよ」

「なるほど!」

 カナンはカウンターの外に出て来ると、皆を見回しつつ

「さて次の石茶が入りましたよ。皆さん一旦座ってくれるかな?」

 立っていた面々は「あ、はーい」「座りまーす」等と言いながら再び席に着く。

 セフィリアがカウンターの上にトレーを置き、そこに石茶を淹れた紙コップを乗せ、カナンはそのトレーを持ってジェッソ、昴、マゼンタ、リキテクス、総司、アメジスト、シトロネラの7人に石茶を配り始める。

「さて。この前、石茶がワカランと言ってた人達、今度はどうかな?」

 ジェッソは受け取った石茶を見て「何だかコーヒーのような……」と呟き、それを聞いて剣菱はちょっと首を伸ばして自分の対面の昴の持つカップの中を覗き込む。

「確かにコーヒーの色してる」

 マゼンタは受け取った石茶を一口飲んで

「あれっ、コーヒーじゃない。けど美味しい!」

 ジェッソも石茶を飲み「これは初めての味だ。美味い」

 シトロネラも石茶を飲んで、アメジストに「なんか後味スッキリで美味しいよね」と言い、アメジストも「うん、美味しい」と微笑む。

 他の人々も「美味しい」と声を上げ、カナンは「美味しいならよかった」と安堵の笑みを浮かべてカウンターの前に立ち、トレーをカウンターの上に置く。

「それ、この間新しく仕入れた奴なんだけどね。石と一緒に、とある植物の根を焙煎した粉を入れるのでコーヒーみたいな色になる。最近出て来た石茶」

 ターさんはアメジストの持つ石茶カップの中を覗いて

「ほぉ。これなら護君も美味いって言うかも。……でもなぁ、カルさんが本物志向だからなぁ」

 カナンは「ああ」と苦笑し

「まぁこれだとカルロス君がちょっと不満だろうねぇ」

 そこで次の石茶ポットの砂時計が鳴り、セフィリアはポットを持って用意した紙コップに石茶を注ぎ始める。その様子を見ながらターさんが言う。

「なんかカルさんって絶対、護君に合わせた石茶作らなくて。だから護君いつも『ただのお湯だー』とか騒ぎながらカルさんの石茶飲んでる」

「ほほう」

「あの二人と暮らすと面白いですよ。護君って野菜好きなんですけど、護君が食事を作ると野菜だらけになってカルさんが『またキャベツだらけか!』とか文句言いつつ食べるという」

「あらまぁ」

 笑うカナン。話を聞いていた穣が苦笑して「なんか信じられねぇな、以前のあいつらを知ってると」と言い、「あの二人、よくくっついたよなぁ……」としみじみと呟く。

 セフィリアは石茶を淹れた紙コップを3つカウンターに置く。カナンが1つ取って周防の所へ持って行って渡し、ターさんが1つ取って丸椅子に腰掛け、最後の1つをカナンが持つ。セフィリアも自分の分を持ってカウンターから出て来てターさんの隣の丸椅子に座る。

 カナンは自分の丸椅子の前に立ったまま

「さて。それでは……。皆さん、もう飲んでるけど一応、ここで乾杯しましょうか!」

 一同から「はい」「はぁーい」等の声が上がる。

「皆、私のお茶会に来てくれてありがとう! こんなに沢山来るなんてビックリしましたよ。ようこそイェソド、コクマの街へ。では皆さん、かんぱーい!」

「かんぱーい!」

 皆、それぞれ石茶の紙コップを掲げる。

 カナンは石茶を一口飲むと、一同を見回して言う。

「じゃあ、まだ名前を聞いてない方、自己紹介して欲しいな。まず人間さんから。……船長、お願いします」

 そう言って剣菱に右手を向けると、剣菱は一瞬「えっ」と驚いてから「ああ。ちゃんとご挨拶していなかった」と言い立ち上がってカナンの方を向く。カナンは丸椅子に腰掛けて

「あ、座ったままでも構いませんよ、身体だけちょっとこっち向けて頂ければ」

「いやいや」

 剣菱はゴホンと咳払いしてから

「どうも、アンバーの船長やってる剣菱夏生と申します。人間です!」

 そこで何か考えるような仕草をすると、思い切ったように話し始める。

「まぁ自己紹介はこんな所なのですが、実は今日お茶会に参加させて頂いたのは、カナンさんと周防先生にご意見を伺いたいという下心がありまして」

「下心!」

 カナンは思わずククッと笑って「何でしょう?」

「せっかくの楽しいお茶会を暗い雰囲気にしたくはないのですが、我々は明日、ジャスパーに戻らねばなりません。何せ来る時、管理の制止を振り切って強引に出てきたものですから、戻ったらどのような事になるかと……。この一件で、益々管理の締め付けが強くならないか」

「なるかもしれませんね」

「えっ」

「そしたら、どうします?」

 ニコニコしながら剣菱を見つめるカナン。

「……まぁ、抵抗するなり何なり、その場の状況に応じて対処するしかないのですが」

「その積み重ねで今があるんですよね?」

「えぇまぁ」

「例えばカルロス君がイェソドに来れたのは、あまりに苦し過ぎたからです。逆に言うと、自覚が無ければそれ程の行動、変化は起こせなかった。つまり、見方を変えれば、それを、管理さんが、喚起してくれた、という事でもあるんです」

「それは確かに、そうなのですが……」

 剣菱は、はぁ……と深い溜息をつくと

「また管理との折衝があると思うと、憂鬱でして」

 カナンはアハハと笑い「まぁまぁ腰掛けて、お茶でも飲んで下さいな」と腰掛けるように勧める仕草をする。セフィリアも優し気な笑みを浮かべていて、その笑顔に剣菱は、何とも言えない温かさ、安堵を覚え、自分はこの為にお茶会に来たのかと気づく。既に自分の中で答えは出ているが、それでも何かしらの後押し、『支え』が欲しい。


 ……この人々になら、本音を吐露できる……。


 これが本当の『お茶』というものなんだろうな、と思いつつ剣菱は立ったまま続きを語る。

「いや、まぁ……出来れば管理に、我々の苦しみを理解して欲しいんです。目に見える苦しみは分かり易い、しかし目に見えない苦しみは、なかなか理解されない。それどころか『恵まれているじゃないか』とまで言われてしまう。この無理解がきつい」

「相手の苦しみを理解するにはまず自分の苦しみを理解し受容出来なければ無理ですから」

「うぅむ」剣菱は腕組みをすると

「私は過去に色んな船に乗ってきたので、……まぁ船に限らず種族に限らず、人が集うと色々な問題は起こりますが、しかしイェソド鉱石採掘船の船長になって思うのは、管理の縛りが異常なのに、それを人工種が普通に受け入れてしまっているという事なんです。端的に言うと管理は人工種を子供扱いで自立させようとしない。そしてそのように扱えと人間に……というか船長に対して圧力を掛けて来る。それを受け入れられる船長だったら良いんでしょうが、……ってどこぞの黒船の船長はすっかり管理に洗脳されてましたが、結局黒船に残った人間は船長一人だけで、他の人間は辞めてしまいました。……やはり人間と人工種の格差といいますか、そういうのが……。我々の生活は人工種が採ってくれるイェソド鉱石で成り立っているので、何とか人工種にも幸せになって頂きたいんですが、管理に対してどのように対処して行けばいいのか、何か良いアドバイス、ご意見頂けませんか」

 一気に語り、腕組みを解いてフゥと溜息をつく剣菱。皆、神妙な顔で話を聞いている。

 微笑みを浮かべてカナンが言う。

「……私はちょっと感動してますけどね」

「えっ?」

 思いも寄らない言葉に剣菱が目を丸くすると

「だってわざわざイェソドまで来て、有翼種に怒られて、それでも私のお茶会に来て、どうしたらいいかと悩む。そんな人間さん、初めて見ました」

 その言葉に、一同思わず笑ってしまう。

 周防も笑いつつ「確かに。製造師でもないのにね」

 カナンは周防を見て「アドバイス、何かありますか周防さん?」

「んー……」

 周防は困った顔で首を傾げてから

「だって私が何も言わなくても皆、色々やっているからなぁ。……それにこれだけやったら、相手も少しは変化すると思うんだけども」

 剣菱が言う。

「そう思いますし、そうだといいなぁとは思うんですが」

 カナンは「人と人との関係は、全て反応の連鎖。片方の反応が変わればもう片方の反応も変わらざるを得ない、けれども」と言って一旦言葉を切ると「こっちが変わっても、相手が変わらない、という反応も、時にあります。それでもこちらがどんどん変わって行けば、相手は不変という反応を続けるのが苦しくなる。……だからって、相手を変えようとして自分が変わろうとするのは本末転倒で、相手を変える事を動機とすると、相手が変わらない場合に自分がイライラして苦しむ事になる。……主体はあくまでも自分、相手と関係なく自分に目を向けないといけない。って言うは易しなんですけどね」とニッコリ笑う。

 それから一同を見回して「少なくとも、皆さんの変化は既に起こっているんです。……だって、今、この店に、こんなに人工種が居るなんて、人間まで居るなんて、凄い事なんですよ! なにせ長い間、イェソドに居る人工種は私だけだったんですから」

「……」

 皆、その事に思いを馳せ、何とも言えない気持ちになる。カナンは続けて

「例え目に見える変化が無くとも諦めちゃダメです。少なくとも皆さんの変化は起きている、そして皆さんがジャスパーに戻る事は他の人工種や人間達に更なる波紋を広げる事となる」

「……確かに」

 剣菱は大きく頷き「それだけでも帰る意味はある。というか、その為に帰らねばならない。……お陰様で、帰る意味、目的を見出せましたよ」

 再びフゥと溜息をつく剣菱に、カナンは「それは良かった!」と言い、笑いながら「まぁまぁ座ってお茶を飲んで下さいな」

「はい」

 素直に腰掛けて石茶を飲むと、斜め前の席のジェッソが真面目な顔で「いい自己紹介でした」と言う。

「自己紹介ってか愚痴になったが」

 剣菱がそう言うと、剣菱の背後の席の穣が「いいんすよ船長、今日はそういう茶会だし」と言ってから「そもそもこうして二隻が仲良くなったのも大きな変化だし、強いっすよね。昔はガチのライバルだった」

 すると昴が「えっ、誰が?」同時に夏樹も「ライバルって?」と首を傾げる。

「もぅ。またそーいうこと言う!」

 穣はカナンを見て「とりあえず自己紹介の続きやりましょう!」

「うん、じゃあ次は……そっちの一番端の女性から行こうかな」

 カナンは、剣菱達のテーブルの上に置かれた籠からボールクッキーを取ろうとしていたシトロネラを指差す。

 クッキーを摘まんで口に入れたシトロネラは「えっ、私?」と気づいて慌てて手で口を隠しつつ「真面目な話の後でクッキー食べててゴメンナサイ」

「いいよいいよ食べてからで」

「うん、これ美味しい!」

 セフィリアが「良かった」と微笑む。

 クッキーを飲み込み、石茶を飲んだシトロネラは、ニッコリ笑って

「美味しー! このクッキーと石茶、マジで合うー!」