第20章03 興味深い自己紹介

「カナンさん、シトロネラって知ってる?」

「えっ? ……あ、もしかして、よく虫除けに使われる精油の名前の事かな。どうして?」

「私の名前、MF SU C170周防シトロネラなんです。人に虫除けの名前付けるって、あの製造師、酷いと思いません?」

 シトロネラは周防をビシッと指差す。

「まだ言ってるのかー」

 呆れる周防。シトロネラは

「だってメリッサなんて高級精油の名前なのに。作る人数が多くて名前を考えるの面倒だからって適当に付けるのやめてね」とピシリ。

「でもお前シトロネラっぽいよな。虫はついたけど」

「人の相方を虫呼ばわりしないで」

「ともかく次、行こう次」

 周防がアメジストを指差した途端、シトロネラがカナンを見て

「あっ、なに笑ってるんですか! セフィリアさんまで!」

 それからテーブル席の一同を見て言う。

「ちょっと何か皆、笑ってない?」

 穣が両手で口元を隠して「いや?」と首を振り、剣菱がチラリとシトロネラを見て「笑ってませんよ? 元気だなとは思うけど」とニッコリ微笑む。

 セフィリアは「シトロネラ、いいじゃない! 元気な葉っぱで青々として……私は好きよ?」と言い、カナンは笑いつつ「確かにシトロネラのように元気だ!」

 周防がここぞとばかりに「でしょう?」とカナンに相槌を打ち、シトロネラを指差して「あれで黒船の機関士なんですよ」と言うと同時にシトロネラが「あれで?」と突っ込むが、カナンが「なるほどねぇ」と頷いたので、エッと驚いた顔になる。

「どういう納得なの……」

「あっ、そういえば」

 周防はパンと手を叩いてカナンに言う。

「採掘船の機関士って昔は三人だったでしょう? 今は二人なんですよ」

「ほぅほぅ。技術の進歩かな」

 すかさずシトロネラが「それもあるけど機関士不足もあります」と言い「操縦士は人気職だけど機関士は人間がやりたがらないの。だから採掘船は機関士二人になったの。それ以外の船は、まだ機関士三人の所が沢山あります」

「ほぅ」

「ちなみに黒船は、機関長はずっと居座ってるけど、もう一人は一時期入れ替わり激しい時期があって、それで私が黒船に戻されたという」

「戻された?」

「うん、私、三等機関士の時に黒船で、二等になった時に別の船に移動になったんです。そしたら新しく黒船に入った人間の機関士が何人か連続で辞めまくるから、本部が私に、お前黒船に戻れと」

「あらまぁ」

 駿河が苦い顔で口を挟む。

「前の船長が癖の強い人でして……」

 シトロネラは駿河を指差し「そう、この船長の前の船長の時の話です」と言ってから「ぶっちゃけ機関士二人だけの船は、三等だろうが二等だろうが仕事は殆ど同じようなモンだから機関士三人の船の方が、二等機関士的には楽しいんですけどね。ここで一等機関士の資格取っても仕事は同じだから意味は無いけど資格は欲しいからいつか一等の資格だけは取ろうと思ってます」と言うと、フゥと短く溜息をついてニッコリ微笑み「いっぱい話しちゃった! 長い話、終わります!」

 カナンは「興味深いお話だったよ」とパチパチ拍手し、セフィリアとターさんもちょっと拍手する。

 シトロネラは「次、アメジストさん、どうぞ」と隣を指差す。

「はい、SSF SI F02紫剣アメジストです。黒船の三等操縦士です!」

 すると周防がカナンを見ながら「コレ、石の名前シリーズの二番目」と言ってアメジストを指差す。

「コレとか言うし」と口を尖らせるアメジストに周防は「ところで三番目って誰だっけ?」と尋ねる。

「コーラル君です」

 周防は記憶を探るように首を傾げて

「……コーラルってSIとSUどっちだ?」

「SUです!」

 ビシッと周防を指差すと、周防はビックリした顔で

「SU? てっきりSIだと思ってたけど、私か!」

 シトロネラがここぞとばかりに「コーラル君、かわいそー!」と言いアメジストも「かわいそー!」と復唱。

 周防は慌てて「いや、だって石のシリーズはSIとSU入り混じってるからもうどっちがどっちだか紛らわしくて」

 その言葉をぶった切るようにアメジストが「次どうぞ、SUの静流さん!」と隣の静流に言う。

 静流は背筋を伸ばし、真面目な顔で「SSF SU SSC02周防静流です。黒船の二等操縦士をしております。以上、自己紹介でした。次の方」と言い掛けた所で周防がハァと溜息をつき「コーラル、あいつアレでSUなのか……」と呟く。

 シトロネラが「アレでSUか、ってどゆこと?」と突っ込むと

「んん? SUの人工種って、静流みたいに真面目なのが多いから、コーラルみたいに適当な奴はSIの筈なんだが」

 アメジストが「えっ、ちょっとそれどういう!」と言い自分を指差しつつ「私、SIですけど! 紫剣の人工種は適当って事?」

「んー、いや、まぁ、その、何というか、ほら」

 その周防の慌てぶりに、隣の席の総司がちょっと笑ってしまう。

 周防は溜息をついて

「そもそも製造師の紫剣さんが適当なとこがある人だろ? 静流みたいに大人しくて真面目な奴に比べたらコーラルはサボるし適当だろうという意味で」

 静流が「真面目なのは認めるけど私は大人しいのかな」と首を傾げる。

 周防は静流を指差して「お前もうちょっと自己主張しないと、ああいうのに掻き消されるぞ」とシトロネラを指差す。

「……」

 ジト目で周防を睨むシトロネラ。

 総司が「いや、彼は結構、自己主張しますよ」と声を上げ、駿河とアメジストが「うん」と頷く。

 駿河は「たまに頑固ですし」と言い、総司も「納得しないと動きません、みたいな」とコメント。

 それを聞いた周防は「そうなのか」と駿河や総司を見る。

「はい」

 駿河は頷き、総司は「ある意味では操縦士の鑑」と意味有り気に苦笑する。

「ちなみにですね……」駿河はカナンの方を見て

「黒船は、機関士だけでなく三等操縦士も先代の船長の時に辞める人が多くて、静流さんが三等に入ってやっと落ち着いたという……まぁ人工種は辞められないので……。んで俺が船長になって総司君が副長になって、新しく人間の二等操縦士が入って来たけどすぐ辞めたので、静流さんが二等に上がり、アメジストさんが新しく三等に入って船長以外の全員が人工種という船になりました。まぁ、操船部はアメジストさんの元気さと、静流さんの頑固さに助けられてる感じです」

「そんなに頑固かな?」

 静流が首を傾げると、上総が独り言的に呟く。

「曲がった事、嫌いなんだよね静流さん」

「う、うーん?」

 大きく首を傾げて悩み顔になる静流。その様子に、穣が苦笑して言う。

「黒船向きな奴だわ……。多分、昔の護みたいなタイプだな」

 剣菱が「そんな気がする」と同意。

 静流は至極真面目な顔になり

「とりあえずSSFで生まれたSSCシリーズの2番目として恥ずかしくない生き方を」

「何だそれ」

 静流は「えっ」と驚いた顔で周防を見て

「SSFのSSCシリーズの看板を背負っているという……」

「……なるほど?」

 微妙な顔になる周防。

 穣がアハハと笑って「どっかの満と同じような事を言いだした」と言い、上総は辟易顔で「俺、SSCシリーズの3番目だけどそんなの考えた事ない」と言う。

 静流は上総を指差して「いや上総は下だから」

 穣は静流に尋ねる。

「大体、長男なら分かるけど、何で2番目で? 俺も次男なんだけど」

「それは、上が長女だからです!」

 上総が穣に「SSC01は女なの」と補足する。

「あら長男だった。長男ってこういうの多いんかー」

 穣は静流を指差し、上総も「そうかも。F01のクォーツもこんな感じだし」と静流を指差す。

「誰だそれ?」

「石の名前シリーズの長男」

 アメジストが「私の上がF01です」と言い、それから静流を指差して

「ちなみに静流さんは石の名前シリーズを全部言えます!」

 周防がビックリ仰天して「ええっ! マジか。あれ言えるの紫剣さんだけだと思っていた。私ですら言えんのに何でお前……しかも石の名前シリーズじゃないのに」と静流を見る。

「いやそれは、やはりSSFで生まれた人工種として」

 静流が言った途端、上総がヤケ気味に「すんませんSSF生まれだけど言えなくて!」とブーイング、アメジストも「同じくー」と怒る。笑う周囲の面々。

 ちょっと黙った静流は「……い、いやまぁ個人的に」と言い訳を始めるが、穣の「ちょいそれ聞かせて、石のシリーズの名前、聞きたい!」という言葉に「えっ」と顔を上げる。

「……じゃあ、言いますよ? 石の名前シリーズ」

 静流は少し緊張しながら「SI F01クォーツ、SI F02アメジスト、SU F03コーラル、SI F04クリスタル、SU F05エメラルド、SU F06パール、SI F07ルビー、SI F08サードニクス、SU F09サファイア、SI F10オパール、SI F11トパーズ、SU F12ターコイズ、SU F13アクアマリン、SI F14カルサイト、SI F15カーネリアン、SI F16オニキス、SU F17ラピス、SI F18ガーネット、SU F19アレキサンドライトまたはアレク」そこで周防が「ちょっと待て」と止めて「アレクってそんな名前だったか?」

「はい。正式名はアレキサンドライトです!」

「そうか。いつもアレクって呼んでるからなぁ……しかしお前よく覚えたな、合ってるかどうかはワカランが。まぁ長いからその辺にしとけ、何せ35人も居る」

 途端に「ええっ!」と皆が驚きの声を上げ、静流が真剣に「ちょっと待って下さい! 33人では」と疑問を呈し、周囲の皆は『そんなに覚えたのか』と静流にも驚く。

「いや現在35人だ。まだ生まれてないけど名前は登録されてる奴が2人いる」

「誰ですか」

「SI F34ユーディアライトとSU F35マラカイト」

「34が紫剣ユーディアライト、35が周防マラカイトですね! 今ここで確実に覚えます!」

 超絶真剣な静流の勢いに、周防は小声で「いやここで覚えなくても……」と呟く。

 皆が若干唖然とする中、ターさんが「紫剣ユーディアライトかぁ……」と呆れたように呟くと「そのうち周防オブシディアンとか紫剣アンバーとか出て来るのかなぁ」と言って手に持った紙コップの石茶を飲む。

 周防は渋い顔で「可能性は無くはない」と言い、穣は楽し気に「周防オブシディアンは長いから略して周防黒船って呼びましょう!」

 マゼンタと透と剣菱が「おお!」と拍手するのをシトロネラが「待って!」と制して「もしその子がブルーアゲートとかに配属されたら青なのに黒船って可哀想じゃん! そもそも周防オブシディアンとか周防シトロネラとか、おかしいでしょ!」

 アメジストが「うん、おかしい!」と力強く頷き、拳を握って「苗字と名前が合ってないしー!」

 シトロネラは天を仰いで「せめて名字がレストールだったら……!」

 それを横目で見ながら静流が小声で「すると私が静流レストールになりますが……」と主張。

 上総も小声で「俺も上総レストールに」

 周防は右手でポンとテーブルを叩くと、一同に言い放つ。

「名前についての苦情は受け付けません!」

「ええー!」

 シトロネラとアメジストが非難の声を上げる。密かに笑う他の面々。

 周防は二人に「製造師も大変なんです!」と言ってから

「どこぞの管理が『同じ名前は不可』とか言うので名前を考えるのがメンドクサイ! そこで色んな単語を集めてきてカードに書いて、シャッフルして、引いて出た名前を付けるという」

「ひっどーい!」

 怒るシトロネラとアメジスト。

 総司が周防に「それ、マジなんですか?」と聞くと、周防は「ええマジです」と頷いて「まぁ周防サンダルウッドみたいに『これどうしよう』と悩んだ名前もあるが、もうそういう名前が周防一族の特色であると。どんどん個性豊かにしてしまおうって事でそのまま付けた」

「な、なるほど……」

 シトロネラは「ウッドさん……」と悲しむ。

 アメジストは「そして周防一族だけでなく、紫剣一族まで!」と周防を睨む。

「待て。紫剣さんはな、あの人せっかく昴とか夏樹とかマトモな名前をつけてたのに、なんか石の名前のシリーズが作りたいとか言い出して、それで紫剣アメジストみたいな名前が。逆に私はSSC遺伝子のシリーズには静流とか原点回帰な名前を」

 シトロネラとアメジストが「いいなー」と静流を見る。

 ターさんが「んでも俺もターメリックっていう名前だけどね。なんか男の子には香辛料の名前を付けるという謎の伝統がある家なんで」と口を挟むとアメジストが「えっ、そうなの?」と言い、シトロネラは「でも名字と名前が合ってればいいのよ、どこぞの製造師の周防アレキサンドライトとかよりマシ!」と周防を指差す。

「そうかな、似たり寄ったりな気も……」

 苦笑するターさん。周防はパンと手を叩いて

「とにかく苦情は右から左に聞き流します! 自己紹介の続きをしよう! 次は誰かな?」と自分の隣の総司と、斜め前のリキテクスを見る。

 総司が「俺かな」と手をちょっと挙げると同時にカナンが「あ、貴方のお名前を聞いてなかった、黒船の副長さん」と右手を総司に向ける。

「はい。黒船の一等操縦士、ALF ETO ALA461江藤総司と申します」

 周防が「あっ、江藤さんの子だったのか」と言うと神妙な顔になって「すまんね、ウチのあんなのが機関士と操縦士に居て」とシトロネラとアメジストを指差す。

「え」

 驚く総司。女性二人の「ちょっと!」という非難の声。

 総司は苦笑いしつつ「いや大丈夫ですよ、何も問題ありませんから」と言い、周防は疑わし気に「そうか?」と言ってから「ウチは人数が多いだけに個性豊かな奴が多くて、まぁホントに……」と溜息をつく。

「……」

 何を言ったもんやらと悩みつつ、総司はとりあえず微笑みを浮かべて

「でもウチの江藤一族も、変な奴は結構いますよ?」

 途端にマゼンタが「変な奴?」と突っ込み、総司は慌てて

「いや個性的という意味での変わっているという、意味です!」

 周囲の皆がドッと笑い、シトロネラは意味ありげな顔で「うん、わかった。個性的なのね!」とニッコリ。

「……です。……あの、ポジティブな意味で、取っといて下さい……」

 総司のクッタリした様子を見て、駿河をはじめ黒船のメンバー達は『こんな総司、初めて見た!』とクッタリさせたシトロネラに内心密かに喝采を送る。

 周防は一旦、石茶を飲んでから「江藤一族か」と呟き、総司を見て「確かあそこは全部で10人位しかいなかった気がするが」

「9人です。ちなみにアンバーの副長、ネイビーさんはALFの俺の同期です」

「……ネイビーさんは誰の子?」

「KURのD13」

「あぁレストール一族か。ほぉ、ALF出身の同い年二人がアンバーと黒船の副長とは。面白いねぇ」

「でしょう? あと余談ですが、江藤一族の、俺の一つ下も操縦士です。ブルーアゲートの二等操縦士」

「ほぉ。男?」

「いや女です」

 マゼンタが「知ってる。明日香さんっていう人。マリアさんと仲が良いって聞いた!」と口を挟む。

「うん。まぁ……」

 総司は眉間に皺を寄せると「かなり、個性的な奴なんだけど、なぜかマリアさんと仲が良いんだよな……」と溜息をつく。

 周防はシトロネラを指差して「アレより個性的?」

 総司は、……またそういう無茶振りする……と思いつつ右手をシトロネラに向けながら「あの方はしっかりしてて素晴らしい方ですよ」と微笑む。

 シトロネラは「お世辞ありがとー!」とニヤリ。思わずカナンがプッと笑う。

「という事で、次の方にお渡しします」

 そう言って総司は自分の向かいのリキテクスに両手で何か差し出すような仕草をする。その瞬間、シトロネラが「副長ってなかなか面白かったのね」と言ったので、エッ?! と目を丸くする。

 更にアメジストまで「そう! 今朝、朝食に誘ってくれたり意外にフレンドリー!」と言い、総司は内心、いやまてもう俺の話題はやめろと思いつつ、何となく嬉しい。

「まぁ、その、親睦も大事かなと……」

 何とか笑みを浮かべてそう言うと、アメジストは満面の笑みを浮かべて「うん!」と頷き、シトロネラも「なんか角が取れて丸くなった感じ。良かったー!」と微笑む。

「……」

 どうやらフリーズしたらしい総司を見てシトロネラは「この辺で許してあげよっか!」とアメジストに言う。

「うん!」

「じゃあ次、リキ!」

「はい」

 リキテクスは笑いつつ返事をすると、カナンの方を見て「ALF KUR D06リキテクス・レストールと申します」と言った途端に周防が「あっ? ……そうかD06ってもしかして!」と驚く。

「はい。虫除けについた虫です」

「なんと相方さんでしたか!」

 リキテクスは「はい」と微笑み、シトロネラは「今頃気づいたの?」と呆れたように呟く。

 周防は申し訳無さそうに「アレがいつもお世話になっております」とシトロネラを指差し、リキテクスは「いえいえこちらこそ。彼女と黒船で機関士コンビをしているうちに、エンジン好きでくっついてしまいまして」

「ありがたい事です」

 そこへセフィリアが「あの、ちょっと質問いいかしら」と会話に入って「結婚されてる……?」と尋ねる。

 シトロネラが「はい、結婚してますけど、人間みたいな大々的な結婚式はしてません」と答える。

「あら……」

「管理に申請して許可されれば結婚成立なんです、書類上だけで。……一応、結婚すると人工種製造所で二人の遺伝子を掛け合わせた『子供』を作ったり育てたり出来る事にはなっているけど、実際それをやった人はまだいません」

 周防が顔を顰めて「まぁ建前なのでね……どこぞの管理さんが絶対許可しませんから」と溜息をつき「それでもいつかそういう事が出来るかもしれないとか、二人で一緒に生きたいとか、何かしらの理由を持った人同士が結婚する」と言ってから「……ただ結婚すると、人間の社会においては一目置かれますよ。人工種なのに結婚してるんだ、凄いなと。ある意味ではステータスで、何かしらの保証になったりもしますし……」

 シトロネラが周防に言う。

「確かにメリットはあるけど結婚って大変よね! 自分に信念が無いと」

「まぁなぁ……あれ? ちなみにお前、何かパーティしたっけか」

「したわよ身内で小さな結婚披露パーティ。レストール先生は来れなかったけど、周防は来たよね」

「……あぁ」

 周防は何やら思い出しつつ

「あぁ紫剣さんはずっと居たけど、私はちょっと顔出しして帰ったんだな。すまん」

「いいのよ、来てくれないと思ってたのが来てくれたから。顔出しだけでも嬉しかった!」

 シトロネラはニッコリ笑って「さて自己紹介の続きしよう、リキ!」

 リキテクスは「ん? ……まぁ自分は黒船の機関長してますって位で終わりだな」と言い「次の人どうぞ」と隣のテーブルを見る。

 穣が「次は……」とボールクッキーを二つ口に入れたマゼンタを指差す。

「?!」

 驚いて目を見開いたマゼンタは、左手で口元を隠してモグモグしながら右手で自分を指差し、頭に「?」とハテナマークを浮かべる。

 無言でウンと頷く穣。

 マゼンタはガッツポーズで了解の意を示し、石茶をゴクゴクと飲み干して満足気に「ハァー」と息を吐いてニッコリ笑うとカナンを見て元気良く「はいっ!」と手を挙げ「アンバーのALF KUR D22マゼンタ・レストールっす! 特技は能力が無いこと!」

「えっ?」

「だって皆、怪力とか爆破とかあるのに俺、何も無いんだもん。だから俺は元気に採掘するだけです!」

「……その元気さも能力な気がするけどなぁ?」

「でも俺もドーンと爆破したりデカイ石ガッツリ持ち上げてみたーい」

 穣がプククと笑って

「燃えるマゼンタ君、単に暴れたいだけっていう!」

「元気が有り余ってんですよ!」

 カナンが「素晴らしい」と拍手し、他の皆もパチパチと謎拍手をする。

「ここで拍手されてもー!」

 マゼンタはそう言って「次の人は誰だ!」と隣のテーブルの方を見る。

 ジェッソが「マゼンタ君で最後だ」と返事。

「そうか俺がトリだったか。じゃあ自己紹介終わり!」

 カナンは笑って「うん、皆ありがとう」と言うと

「じゃあ次は、私と周防さんの昔話でもするかと思ったけど、でもさっきリクエストがあったから、管理さんと人工種の関係についてのお話でもしようかねぇ」

 一同「おっ!」という顔になる。

 ジェッソが「いいですねぇ!」とパチパチ拍手し、穣が「ナイス!」と声を上げ、マゼンタは「管理への愚痴ならいっぱいあるー!」と天を仰ぐ。

 剣菱は「ちょっとあのー、その話に入る前に、……お代は払うので、石茶をもう一杯頂けませんでしょうか……」と空になった紙コップをカナンに見せる。

「あ、勿論いいですよ、嬉しいですねぇ!」

 カナンはサッと立ち上がってカウンターの裏へ。剣菱の向かいの席の昴も「あの、俺も欲しいです」と手を挙げ、昴の隣のジェッソも「私も頂きたい」と手を挙げ、マゼンタも「俺も、もう一杯!」と手を挙げる。

 それを見てターさんが「皆、欲しいのか」と呟き、「石茶のお代わりが欲しい人は手を挙げてー!」と皆に呼び掛けると結構な人数が手を挙げ、カナンは「じゃあ大きな保温ポットに作ってしまおう」と言い、セフィリアも立ってカウンターの中に入る。ターさんも「何か手伝いましょうか?」と立ってカウンター内へ。

「ああ、ありがとう。……じゃあ出来た石茶を皆に配る時に手伝ってもらうよ」

「はい」

 お代わりが来る事になったので、上総はボールクッキーを食べつつ紙コップに残っていた石茶を飲み干して言う。

「じゃんけんに負けたカルロスさんが悔しがる気持ちが分かるなぁ。このお茶、ケセドの街の石茶屋のよりも美味しい」

 それを聞いてふと、セフィリアが

「そう言えば皆、今日は街に行ったとか聞いたけど、どんな所へ行ったの?」と皆を見回す。

 すかさずマゼンタが「美味しいもの巡り!」と言い、剣菱が呆れ顔で「この若い連中は食ってばかりで」とマゼンタを指差す。

 ジェッソは「私は穣と石屋巡りに」と言い、昴は「本屋へ行きました」続いてシトロネラが「有翼種の服を見たりアクセを見たり」更にアメジストが「私は雑貨とかインテリアを見てきました」それから総司が「なんかお高い宝石屋に入った人達が居ましたよ。俺は入らなかったけど」と言い、透がちょっと手を挙げて「はい、俺、入りました」と少し恥ずかし気に言ってから「その後、安いアクセ屋に行って自分だけのアクセを作ってきました!」と手首に着けたブレスレットをちょっと見せる。

 カナンはニコニコしながら「皆、色々行ったんだねぇ」と言い、セフィリアも「街歩きを満喫したのね」と微笑むと、マゼンタと上総が「うんっ!」と頷き、上総が「すっごい楽しかった、自由な感じで!」と言う。

 透が「そう! 自由な感じ!」と頷いて「そもそもお金が……、だって俺達はイェソドのお金を貰っても、護と違って生活の為に必要な訳でも無いし、貯金する訳でも無いから」

 夏樹が「そうそれ!」と同意して「給料じゃなくて小遣い貰った感じ! 遊ぶ為に、自分が楽しむ為に使っていいんだなっていう」

 マゼンタは「わかるー!」と叫び「イェソドのお金は自由!」と言うと、

「俺、今日、皆と街歩きして、そしたら船長とかカルロスさんが……」

 そこでちょっと言葉に詰まり、上を向いて、チョビッと涙声で言う。

「ってか街の人、親切で、オマケのクッキー、プレゼントしてくれたり、すげー嬉しかったー!」

 目をこすって目をパチパチさせつつ

「俺、今日、自分が凄く我慢してたんだなって気づいた。……ターさん、また一緒に採掘してお金稼いで街に行こうね!」

 ターさんは「うん」と微笑む。涙を誤魔化すようにアハハと照れ笑いするマゼンタ。

 マゼンタの背後の席のリキテクスは、感慨深げにフゥと溜息つくと目の前の総司に言う。

「本当に、今日は街に行って色んな事に気づかされたなぁ。また行きたい」

「うん」

 総司は頷き「ちなみに俺は私服で採掘船を操縦したのもヤバくて楽し過ぎた」

 その言葉に隣の周防が「えっ」と少し驚く。

「そうか、制服に着替えないで朝からずっとそれなのか」

「はい、まぁ街歩きの時からですけど船長含めて全員そうですよ」

 駿河も周防に「なんか妙な感じで楽しかったけど物凄いヤバイ案件です。明日は制服に戻ります」と言うと、総司が「いいんですよ人工種はイイコすぎるので、たまには不良にならないと。反抗期って大事です」と返してニッコリ笑う。

 すると剣菱が総司を指差して「アンタなかなか曲者だな」とニヤリ。

 総司は内心、剣菱船長にまで言われた……と思いつつニヤリと微笑み返して言う。

「ウチは船長が真面目なので、副長はちょっと緩いんです」