第6章03

 夕方。

 船の甲板には何本もの鉱石柱が積まれている。護やカルナギ達は鉱石柱の束にワイヤーを括りつけて船に固定する作業中。カルロスは隅の方で黒石剣を振って雲海切りの練習をしている。

 作業が終わると護はカルロスの所へ行く。

「どんな感じ?」

「少し光るようになった」

 カルロスが黒石剣を振ってみせると剣が淡く光る。

「おー」

「何となくコツが分かって来た」

 そこへカルナギの「よし、じゃあ今日の作業は終了!街に戻るぞ」という声。

 ターさんが護達の所に来る。

「予定通りこのまま船に乗って街まで行くよ」

 カルロスは、やや不安げに「街。……私は許可されるんだろうか」

「心配ないって」ターさんが微笑む。


 船は次第にイェソド山の麓に近づき、甲板にいる一同は、ターさんの木箱の周囲に集う。

 トゥインタは麓の街を指差して、カルロスに「あれがケセドの街だよ」

「はぁ」山の上の方を見ながらカルロスが返事をする。トゥインタはニヤリと笑って

「上が気になるか」

「はい。近くに来ると、本当に凄いです」

「近くに来たからじゃないぞ」

 途端にカルロスがハッとしてトゥインタを見る。

「そうか『壁』ですね!」

 トゥインタが「うん」と頷くと同時にドゥリーが「許可されたから!」

 ターさんはカルロスを指差すと「でも彼は『壁』があっても雲海越えて探知しちゃったんだよ」

 ドゥリーが「いいタマゴだ」とニッコリ笑って「磨き甲斐がある!」

「タマゴ磨いても。磨くなら石」というトゥインタの突っ込みに護が「同感です!」と頷く。

 ドゥリーはカルロスに「山の頂上、スゴイだろ」と言い「源泉があるんだ。一般人立ち入り禁止だから行った事ないけど」

「源泉……」


 船が街に近付くと、街の方から数人の有翼種が飛んで来る。

 ターさんは時計を見て「あ、約束の時間だ」

 カルナギも木箱の所へやって来て「お迎えが来たぞ」と護達を見る。

 カルロスと護は木箱に入る。

「今日はありがとうございました!」護がサッとお辞儀をすると、カルロスも

「大変お世話になりました」と深く頭を下げる。

 カルナギは「またな人工種。頑張れよ!」と手を振る。

「はい!」

 ターさんは二人を入れた木箱を吊り上げると、迎えの有翼種達の方へ飛んでいく。

 すると一人の有翼種が「止まれ!」と言い、カルロスを見て「その金髪の方だな、新しく来た奴は」

 ターさんは一旦停止して「はい」と答える。

 迎えの三人の有翼種達は木箱の中を確かめて「青い髪と金髪だけだな。変なものは無さそうだ」と言うと「よし、じゃあ行こう」と木箱を囲みつつ街の中へ降下し、とある大きな建物の屋上に着陸する。

 護とカルロスは木箱から降ろされ、二人はターさんを残して有翼種と共に屋上のドアから建物の中へ。

 中に入ると螺旋階段があり、二人は階段を降りるが有翼種達は螺旋階段の中の吹き抜け部分を飛んで進む。

 暫し行った所で階段脇の廊下へ案内され、廊下を少し進むと、執務室らしき部屋に通される。

「失礼します」と一礼して護とカルロスが中に入ると、あの初老の有翼種が進み出て来る。

 護を見て「また来たのか」と呆れたように言う初老の有翼種に

「お久しぶりです、ガーリックさん」と護は笑顔を返す。

「人工種は歓迎しないと言った筈だがなぁ。あまり来られると」

 そこへカルロスが「申し訳ありません。どうしてもイェソドに来たくて、来てしまいました」と頭を下げる。

「どうやってここへ」

「私は探知人工種ですので、探知しながら歩いてきました」

 ガーリックはビックリして「歩いて?! 本当に?!」と大声を出す。

「どうやって死然雲海を」

「はい、雲海で迷いましたが、ターメリックさんと彼が雲海を切り拓いて助けてくれました」と護を指し示す。

 暫し黙ったガーリックは、うーんと唸ってやや険しい表情になると、不審げな口調で聞く。

「イェソドを目指した動機は?」

「自由になりたかったからです。……人間の支配から」

 途端に護が「えっ」と驚いてカルロスを見る。

 カルロスは護に「だってそうだろう。こんなものを付けて」と首のタグリングを指差す。

「で、でも、別に全ての人間がそうだという訳では」

「まぁ人間だろうが人工種だろうが色んな奴がいる。でもとにかく私は自由になりたかった。しかし単に場所を移動しただけでは自由になったとは言えない。私は今、それを痛感しています」

 カルロスはそう言ってガーリックの方を見る。

「どこに居ようと自分が確たる一人の個人として立たないと、自由になったとは言えません」

 ガーリックは「ほぉ」と言いつつ密かに内心、苦笑する。

 (こりゃまた、しっかりした奴が来たな……)

「……あなた方を探して今後ここに仲間の人工種や人間が来る可能性もある訳ですが?」

「その時はその時に考えるしかありません」

「まぁそれはそうだが」

「ただ、個人的には、人間がここに来るのは至難の業だと思います。人工種にしても相当な覚悟が無ければ来る事は出来ない。体験から断言します」

 ガーリックは「うむ」と言い、暫し黙ってカルロスを見る。

 (なかなか面白い。新しい風が来た。これはイェソドも変化の時か)

 ゴホンと咳払いし、おもむろに口を開く。

「それでは、貴方がケセドの街に出入りする事を許可する事にしましょう」

「ありがとうございます」カルロスは深々とお辞儀をする。


 ガーリックの執務室のドアが開いて有翼種を先頭に、護とカルロスが出て来る。

 有翼種は二人に「下の正面玄関にターメリックが待ってる。その階段を降りて行けばいい」と螺旋階段の方を指差す。

 カルロスは「はい」と返事し護と共に階段に向かって廊下を歩きつつ、小さな声で

「やれやれ。許可が下りてよかった」と溜息をつく。

 護は「下りると思ってたよ」と言うと「あ、ターさん」と階段の踊り場に居るターさんに気づく。

「迎えに来た。どうだった?」

「何も問題なかったよ。この人、凄くカッコよかった」護はカルロスを指差す。

 思わずガクッとしたカルロスは「はぁ?」と呆れたように護を見る。

「流石は黒船の採掘監督だなぁって」

「何言ってんだお前……」

 ターさんは笑って「そっか。じゃあ石屋に行ってからご飯にしよう!君達が採った石に高値が付くといいねぇ」

「高値ついたら美味いもの食べよう」ニコニコする護に

「貯金しろよお前……」と呆れるカルロス。

「ちょっとは貯金するよ!」

「ちょっとじゃ貯まらんだろ」

「貯まる。いつか!」

「いつかっていつだ!」

「いつ、か!……ってターさん笑ってるし」

「そりゃアホな会話してるからだ!」

 ターさんは笑いながら言う。

「ホント君達、面白いコンビだよね……」


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