第20章05 提案

「あれ?」

 ふと駿河が疑問を呈する。

「人工有翼種が自然生殖出来たなら、何であそこに御剣研が?」

 そう言われて穣も「そうか、ダアトになぜ人工種を作る為の施設が」と言って周防を見る。

 周防は複写冊子をパラパラとめくりながら

「ある程度までは人工有翼種を作らなきゃならないからだな、人口増加の為に」

「でも自然生殖も人工生殖もできるって……」

 何か問いたげに言葉を止める穣に、周防は複写冊子から目を上げて言う。

「だから爆発的に増えたんだよ」

「つまり俺ら人工ヒト種も、自然生殖できたら爆発的に増えちまう?」

「かもしれんねぇ」

 マゼンタが「うわぁ管理が知ったら絶対阻止じゃん!」と天を仰ぎ、穣も「だから俺達が自然生殖出来ない様にしたのかー!」と天を仰ぐ。

「多分そんな気はする」と言いつつ周防は複写冊子のページをめくって「あ、ここだ」と手を止める。

「……御剣さんが書いた本によれば、最初はマルクトで人工有翼種を作る技術を確立し、その後、有翼種の要望でマルクトとイェソドの中間地点のダアトに御剣研を作ったという事らしい。これ凄いよな、最初は有翼種がマルクトに来たってガチで書いてるぞ。……一番最初の人工種がどこで作られたかは諸説あって謎になってたんだが、管理的には有翼種がマルクトに来たってのは都合が悪いから、もしかしたら隠してたかもしれないし、本当に知らないのかもしれない。まぁどっちでもいいが」

 数人が「なるほど」と頷く。

 ターさんが「300年以上前には行き来してたのにねぇ……」と溜息をつき、剣菱は「あのー」と周防に向かって手を挙げると「ちょっと質問なんですが、人工有翼種が純血有翼種と子供を作れるって事は、人工ヒト種は人間との子供を作れるんでしょうか」と尋ねる。

「今は出来ません。なぜなら管理が研究させてくれないからです!」

「なんと」

「でも遺伝子的には人工ヒト種は人間とも有翼種とも子供を作れる可能性があるんですよ。自然生殖では無理ですが、人工種製造所でなら出来る筈です。だからもしも人工種同士で自然生殖が出来るようになった時、人工種製造所の存在意義は、異種混血の為、になります」

「おお」

「で、その多種多彩な遺伝子を管理するのが霧島研の仕事となる。異種混血となったらどれだけ膨大な遺伝子チェックが必要になるか……」

 周防はそう言い、ちょっと石茶を飲む。

 マゼンタはビスコッティを一つ摘まむと「多分その膨大な仕事がメンドイから混血の研究を阻んでるんだ管理さん」と何気なく呟いて、それを口に放り込む。

「そうかもしれんよ?」

 周防に肯定され驚いたマゼンタはモグモグしながら目を丸くする。

「だって余計な事までちょっかい出すのはヒマだからだと思うんだな? 本来の業務に忙しくなったら余計な事する暇は無くなる筈」

 マゼンタは石茶を飲み、「マジっすか……」と呆れ、穣も「なんて奴らだ」と言いマゼンタに「こうなったら護の家にSSF支部を作って周防先生に自由に研究させてあげよう!」

「よーし!」

 ジェッソが「まずは資金だ!」と声を上げて「何とかしてイェソド側のお金を稼がねばならない!」と言うとマゼンタが「でも稼いだお金はイェソドで遊ぶ金にしたいっすー」と反論し、上総が「全額遊ぶ金にしなくってもいいじゃーん」とマゼンタに言う。

 剣菱が右手でテーブルをポンポンと叩き「とりあえず皆」と言って皆を見回しながら

「まず護とカルさんにとっとと小型船免許取らせてやるべ」

 その言葉に駿河が「小型船かぁ……」と眉間に皺を寄せて呟くと、「あのー!」と声を上げて少し悩み、それからフゥと短く溜息をついて、思い切ったように皆に言う。

「あのー、例えばだけど、俺が黒船の船長クビにされたら総司君が船長になって俺は頑張って中型船を購入してカルさんと護君を乗せてイェソドへ……というのは如何でしょうか」

「!?」

 一同、目を丸くして駿河を見る。

 ターさんだけは、ハッとして目を見開き、駿河と二人で空を飛んだ時の事を思い出して、あぁ……その時が来たのか、と感慨深い想いを抱く。

 ……確かに今この時こそ言うべき時だ……。

 顔に、微笑みが浮かぶ。

 ターさんは駿河と総司を見つめながら、頑張れ、と心の中でエールを送る。


 皆、驚きで黙り込み、場に奇妙な沈黙が訪れる中、やおら総司がハァと呆れたような溜息をつき、駿河に言う。

「何を言ってるんですか。冗談は」

「いや本気です。そしたら俺が操縦するから、あの二人が免許取らなくてもすぐに船が持てるし」

「本気って……」

 困惑の表情になる総司。

 ジェッソと穣と剣菱が「ほー!」と感嘆の声を上げ、剣菱は驚いた顔で「……確かにアンタが操縦すれば……話は早い」と呟く。

 駿河は、やや不安気な声で

「ただ問題は、中型船を買えるかどうか……」

 途端に剣菱がパンとテーブルを叩き

「任せろ! 俺の知人に中古船販売屋がいる!」

 総司が大きな声で「あのー」と会話に割り込み

「それ以前に俺、人工種なんですけど?」

 駿河は総司を真っ直ぐ見つめて

「人工種初の船長になればいい」

「んな冗談やめて下さい」総司は苦笑し「大体、管理が」

「管理は何とかする」

「……って」

 駿河の真剣な口調に、総司は若干、恐怖を感じ始める。

 ……俺が本当に船長になったら、どれだけ管理や世間から叩かれると……。

 そう思った瞬間、ジェッソが「この真面目な船長が冗談言うか?」と言い、咄嗟に「俺、無理ですって!」と叫んでしまう。

 駿河は動じず総司を見つめたまま

「なんで」

「だって管理が、それに世間が! 他船の船長とかが」と言った所でふと、気づく。

 それを見透かしたかのように駿河が言う。

「俺も色々言われたよ」

 ……そう、だった。そもそも、俺自身が駿河船長の文句を言っていた……。

 内心焦りつつヤケ気味に「でも、貴方をクビになんかさせませんから」と微笑すると

「クビになってもいいよ、総司君が船長になるなら」

「いや俺が船長になる位なら、管理は貴方をクビにはしない!」

「総司君が船長になるならば俺は自分で辞める」

「なっ、なんでそんなに……、俺、船長なんて微塵も考えた事ないですよ」

「俺も自分がいきなり黒船船長になるなんて微塵も考えてなかったよ」

 ……知っている。見て来た……。

 総司は、深く大きな溜息をつくと、呆れ果てたように「何でそんなに……」と呟き、再び息を吐いてから駿河に言う。

「貴方が良くても皆が絶対反対します!」

 ジェッソと夏樹が同時に「いや?」と否定し、昴も「反対しない!」と頭を振り、リキテクスは「反対しないが貴方の意志を尊重したい」と総司を指差す。

 静流は力強く「お、応援しますっ!」と叫び、アメジストも両手を握って「うんうん応援する!」と大きく頷き、上総は「別に反対はしないけど」と言ってから小声で「駿河船長が辞めちゃうのはちょっと寂しい……」

 穣は「まぁアンバーが口出す事じゃない気はするけど個人的には大賛成」と言い、マゼンタも「同じく!」と言ってから「だって人工種だけの黒船って最強じゃん……」その言葉に透が頷いて「うん。まぁ例えば管理になかなか反対できず、言いなりになったとしても、人工種の船長なら、凄く応援したいって思う」

「……」

 困った顔で俯く総司。

 穣はそんな総司を見ながら内心、嬉しくてたまらない。心の中で密かに叫ぶ。

 うぉぉぉスゲェ展開やん、人生って何が起こるかマジでワカランなー!

 ……ちなみに総司君よ、未知は不安とセットなんだぜ? 出来れば突っ込んで行って欲しいが、しかし恐いわな。気持ちはワカランでも無いが、ここに応援してる奴が居る! 頑張って欲しい!

 内心ニヤニヤ笑いまくりの穣だが、表向きは、真剣な顔を作って総司を見つめる。

 シトロネラは石茶を飲んでフゥと溜息をつくと

「私は、本人次第ね。嫌だっつーのを無理矢理やらせても仕方ないし。本人がやりたいなら応援する」と言い、総司を見て言う。

「やりたいの? やりたくないの? 総司君」

「……」

 ……ズバリ直球で聞いて来るのがシトロネラさんらしいよな、と思いつつ、『突然言われても』というのが総司の正直な本音だった。

 挑戦欲と、皆に期待された嬉しさ、使命感があるにはあるが、それにも増して不安が多大で、ここで何を言うべきか考えがまとまらない。

 ……どうしたらいい……。

 悩む総司を横目に、マゼンタはワクワク感が零れ出て、つい小声で楽し気に呟いてしまう。

「単なるお茶会で凄い話が出て来たぞぉ!」

 上総も小声で「管理さんもビックリ仰天!」と言い、透も小声で「驚かせてやりたい」と言った途端、はぁ……という総司の溜息が聞こえて三人はギクッとする。

 総司は額に手を当て、疲れたように「……マジで言ってんですか……」と呟く。

 そんな総司を見て、駿河は微笑みを浮かべて言う。

「まぁでもほら、カルロスさんにも聞いてみないとな。絶対に小型船がいいと言うかもしれないし。人間は入れたくないとか」

「……ですよね」

 駿河は苦笑して「突然、船長しろって言われても、総司君も困るわな」

「そりゃそうですよ……」

 呆れたように呟く総司に、駿河は

「俺もそうだった」

「……」

 知っている。……そう、俺は、散々悩む駿河船長を見てきた……。

 そう思って、ふと。

 何であの頃の俺はもっと駿河船長を支えてやらなかったのかという後悔が浮かぶ。

 支えるどころか文句や愚痴ばかり言って……。

 ……だって、嫉妬してたから。俺も、……望んでいたから。

 懺悔するように、ふぅ、と溜息をつく。

 やおら総司は「……でも、まぁ……」と言って少し悩むと、駿河を見て言う。

「万が一、もし仮に、駿河さんが船長をクビにされるような事態になったら、その時は……覚悟しときます」

 駿河は満面の笑みで「うん」と頷く。

 暫し沈黙があった後、剣菱がパンと手を叩き

「さてじゃあ、この辺でお開きにしとくか!」

 マゼンタが「待ってあとちょっとだけ飲ませて、石茶」と言い、立ち上がってカウンターに置いてある石茶ポットの所に行きつつ「自分で注ぎます、どのポットですか?」

 カナンが「君はコーヒー石茶だね」と言い立ち上がってポットを手に取ると、穣が「んじゃ俺もちょっと飲もう、飲みたい」と立ち上がり、カナンは「ター君、そっちの本格石茶のポット頼むよ」と言いつつマゼンタの紙コップに手に持ったポットの石茶を注ぐ。

 剣菱は「じゃああと10分したらお開きにしよう」と言い「ちなみにカナンさん、一杯いくらですか?」と尋ねる。

「別に要らないけどねぇ。他にコーヒー石茶、飲みたい方は?」

 総司が手を挙げて「すみません、ちょっと飲みたいのでお願いします」と言い、カナンはポットを持ってテーブルの所に来て総司の紙コップを手に取る。

「半分くらいで良いです」

「うん」

 カナンはリクエスト通りに石茶を注ぐと「まぁこれ飲んで落ち着いて」とニコニコ笑いながら総司に石茶を渡す。

 駿河は「俺も、ちょこっと頂こう」と言い自分の紙コップを持って立ち上がり、カウンターの所へ行き「このポットですよね?」と少し小さ目のポットを手に取る。

 セフィリアが「そう、それ」と言い、駿河は自分の紙コップに石茶を注ぐとポットを置き、「でも結構飲みましたしお菓子も頂いたし、幾らかお支払いしたいんですが」と言ってその場に立ったまま石茶を飲む。

 カナンは「じゃああれだ、参加費として皆さんから100ケテラだけ頂く事にしようかな」と言い、皆、「はーい」と返事する。

 カウンター前で駿河と並んで立ったまま石茶を飲んでいたマゼンタは、「後片付け、手伝って行きます!」と宣言。

 シトロネラやアメジストも「私も!」と言うが、カナンは「いやいや、大丈夫だよ」と微笑む。

 穣の紙コップに石茶を注いだターさんは、続いてお代わりを貰いにやってきた夏樹の紙コップにも本格石茶を注ぎながら「俺、時間が自由だから、何か手伝って行きますよ」と言う。それを聞いてセフィリアが「あっ、そうだター君、今夜はどこに泊まるの?」と尋ねる。

「とりあえずケセドに帰るかなぁと」

「えっ、連絡船で?」

「いやまぁ飛んで帰ってもいいし。だっていつも長距離飛んでるから慣れてるし」

 ターさんはポットを掲げて「最後の一杯、早い者勝ち、欲しい人いる?」

 上総が「はい」と手を挙げて立ち上がり、ターさんの所に来て「ください」と紙コップを差し出し、ターさんはそれに石茶を注ぐ。

 セフィリアは「何なら、周防さんと一緒にこのままウチに泊まっても」と言い掛けるがターさんは「いやいや」と慌てて否定し「大丈夫、何とかなりますから」

「そう? 遠慮しなくていいからね?」

「はい」

 マゼンタが「あ、そういえば質問です!」と手を挙げると

「有翼種って飛べるのに何で階段があるんですか!」

「……」

 一同、苦笑。

「凄い質問が出たぞ!」と穣。

「図書館の階段で悩んでたもんな」と駿河。

 カナンはカウンター裏に行きながら「あるから、ある!」と笑い、ターさんは「突然何を言うかと思えば……ビックリしたぞ!」と言い「まぁ四六時中飛んでる訳でもないし、階段は要る!」

 セフィリアは「とにかく、飛べても階段は必要よ」とニッコリ。

 マゼンタは「なるほど! これで夜グッスリ眠れる。安眠快眠!」とガッツポーズ。

 カナンは拍手して「良かった!」



 やや時間は戻って、勝ち組がお茶会へ出掛けた後。

 図書館の屋上駐機場の黒船では、じゃんけん負け組が食堂に集い、二つあるテーブルの内のキッチン側のテーブルを囲んでカルロスがお茶会を開いていた。負け組6人にジュリアも加わり、長方形のテーブルの狭い側にはカルロスが、その左隣の長辺には良太とメリッサ、メリッサの隣のカルロスの対面となる側には大和とジュリアが、ジュリアの隣の長辺には護とマリアが椅子を並べて座っている。カルロスの前のテーブル上にはお湯のポットと石茶ポットに茶葉の缶や石を入れた袋が数種類並べて置いてあり、さながら出張石茶屋の様相である。テーブルの真ん中には黒船の菓子箱が置かれ、皆、そこから個包装のクッキーやチョコなどを摘まむ。

 カルロスの右隣のマリアはマグカップを両手で包むように持ち、石茶を一口飲んで「おいしー」と微笑むと「石茶ってホントに美味しいですね」とカルロスに言う。カルロスも微笑みを返して

「だろう? でもカナンさんの出す石茶はもっと美味いんだ」

「カルロスさんの石茶も美味しいですよ!」

「そうか?」

 嬉し気にニコニコするカルロス。

 良太は右手に持ったマグカップの中の石茶を見ながら「美味しい事は美味しいけど感激までは……」と言い、左隣のメリッサを見て「どう?」と聞く。

「これ味覚よりエネルギー感覚の方が大きいから、敏感な人は美味しさ感じやすいかも」

「ふぅん」

 ジュリアは「私はこれ好き。美味しい」と言い、右手でマグカップを持ち左手をマグカップの底に添えて石茶を飲むと、右隣の大和に「不思議な美味しさよね」と言う。

「うん」

 頷いた大和は無表情のまま「俺も好き」と呟く。

 メリッサは菓子箱に手を伸ばして個包装のチョコを取ると、包みからチョコを取り出しつつ「それにしても勝ち組さぁ、男ばかりで茶会に行っちゃって……少しは女性優遇したらいいのに」と言いチョコを口に入れる。

 カルロスも不満気に「しかも参加者の殆どが周防と関係無いという」と言い「ここに負けた周防が三人」とメリッサと大和と自分を指差す。

 護が言う。

「まぁ穣さんとかは、お茶よりもカナンさんに話を聞きたいってのがメインらしいから」

 メリッサが「そう、興味あるよねー!」と同意し

「だって有翼種の世界で唯一人の人工種として生きてきた人。どんな人生で、どんな暮らししてんのかとか興味あったし、とりあえず周防一族としてはカナンさんは叔父に当たるから話をしてみたいなってのもあった」

「なるほ。でもさカナンさんと周防先生はもう、今の人工種全員の親みたいな感じするよね」

 マリアが「わかる!」と言って「ただ、親と言うより、長老って感じ?」

「長老……」護は首を傾げて「それって人間で言う祖父かな」

「違うよー、祖父と長老は別物! 有翼種でも長老って偉い人じゃん!」

「むぅ」

 良太が「年齢的には、大長老だな」と言い「まぁ俺は皆と茶飲み話がしたかっただけだから、今このカルロスさんのお茶会で大満足だよ」と笑って言うと、カルロスが「私はカナンさんの石茶が飲みたかった……」とションボリする。

「あれま」

 護が小声で「石茶希望者はカルさんだけじゃないかなぁ」と呟くと、カルロスが「なに?」と護を見て「それカナンさんに失礼だろう!」と護を指差す。

「えっ、だって皆、そんなに石茶飲んでないし、飲んだ事が無い人も」

 ジュリアが「待って待って」と会話に割り込み

「逆に言うと、お茶よりカナンさん本人が目当てって事だから、いいんじゃない?」

 護は思わず「うんうんうん!」と三回大きく頷く。

 カルロスは少し首を傾げて「むぅ」と唸る。

 マリアが「お茶会でカナンさんの美味しい石茶を飲んで、石茶好きになる人も居るかも?」と言い、マグカップを手に取り石茶を飲んで「私はカルロスさんの石茶、美味しい!」

 メリッサも「うん、美味い」と石茶を飲む。

 護は菓子箱に手を伸ばして個包装のクッキーを手に取ると、袋からクッキーを出しつつ「皆、石茶の美味しさが分かっていいねぇ。俺にとってはただの薄いお茶だよ」とつまらなそうに呟く。

 カルロスが「白湯よりはいいだろう。お前も感覚を磨け」と言うと、護は「磨いてるよ、いつもカルさんの白湯みたいな石茶飲まされて」と言ってクッキーを口に放り込む。

 マリアがカルロスに言う。

「これってもっと飲みやすくならないんですか?」

「ていうと?」

 ジュリアが「ほら、例えばレモン入れたりして味を付けてあげるとか」と言い、カルロスは「まぁそういう石茶もある事はあるけど……」と言葉を濁す。

 護が「でもカルさん本格派だからそういうのキライなんだよね」と言いつつ自分のマグカップを手に取ると「まぁ俺にとっちゃ白湯だけど、いつもカルさん凄い真剣に淹れてるから俺はその気合を飲んでる」と言い石茶を飲む。

 良太が「気合か!」と笑い、メリッサも石茶ポットを指差して「こうしてマイ石茶ポットを持ち歩く位、石茶ラブだもんね」

「……まぁ、うん」

 若干照れるカルロスに、マリアが「でも美味しいって言ってもらった方が嬉しくないですか? もうちょっと美味しくしてあげたら」と言うと、メリッサも「白湯ばっか飲ませてたらちょっと可哀想かも」と言い、ジュリアも「うんうん」と大きく頷く。

 そこへ大和がボソッと呟く。

「そういえば石茶屋に行った時、『その人のエネルギーに合った石茶を作れる』とか言ってたの聞いた」

「あー……」と渋い顔をするカルロス。

 護が「うん」と頷いてカルロスを指差し

「でもカルさん作ってくれないの」

「えー!!」

 マリア、メリッサ、ジュリアが一斉に非難の声を上げ、良太がアハハと笑う。

 マリアが「何で作ってあげないんですか?」

 メリッサが「たまには作ってあげたらいいのに!」

 ジュリアも「そうよ、美味しいの作ってあげて」

 カルロスは非常に焦って「……ま、まぁその。……特に、意味は無く……」と、きまり悪そうに頭を掻く。

 護は「作ってよー」とカルロスにおねだり。

 メリッサは護を指差して「って言ってるよ?」とカルロスを見る。

「……」

 困り顔のカルロスは、照れ臭そうに護を見て言う。

「の、……飲みたいのか」

「うん飲みたい!」

 カルロスはゴホンと咳払いすると

「じゃあ仕方がない! 手持ちの石茶石で作ってやる!」と傍らに置いたキャリーバッグから幾つか小さな缶を取り出す。

 良太が驚く。

「そんなに持ち歩いてんですか」

「うん」

 カルロスは石と茶葉を丁寧に石茶ポットに入れると、「本当は鉱石水がいいんだが、普通のお湯しかないからな」と言いつつポットの湯を石茶ポットに注ぎ、「暫し待つ」と言ってテーブルに置いた石茶ポットをじっと見つめる。

 メリッサが小声で「この真剣な眼差し!」とカルロスを指差し、良太も面白げに「気合を入れてるんだな!」と静かに笑う。

 カルロスが、すぐ傍に置かれた石茶用砂時計を使わないのでジュリアが「タイマー使わないの?」と尋ねると、カルロスは「使ってもいいんだが、今はエネルギーの変化を見る練習で、使わずにやってみるかと」

「あら……」

 大和がボソッと「プロだ」と呟き、皆、思わずクスッと笑ってしまう。

 護は自分のマグカップの石茶を飲み干し、空のマグカップをカルロスの前へ置く。するとジュリアが「あ、せっかくだから新しいマグカップ使いましょ」と言い、立ち上がってお茶コーナーへ行き、台の下の引き出しを開け、マグカップを取り出してカルロスの前に置くと、再び自分の椅子に戻って腰掛ける。

 暫し皆、カルロスを眺めつつ静かに石茶を飲み、お菓子を摘まむ。

 やがてカルロスは「よし」と呟くと、石茶ポットを少し揺らし、マグカップにゆっくりと石茶を注ぐ。

「できたぞ」

 マグカップを持ち上げて護の前に置くと

「お前用に作ってやった」

「ありがとう!」

 護は嬉し気に礼を言ってマグカップを両手で持ち、フーと冷まして少し飲む。

「おっ、この白湯は美味い!」

「白湯じゃない、石茶だ!」

「これが石茶かー!」

 満面の笑みを浮かべる護。

「美味しい。凄く美味しい。ありがとう、カルさん!」

「……うむ」

 真面目な顔で照れているカルロスに、マリアが「これからも美味しく作ってあげて下さいね!」とニッコリ微笑む。

 カルロスは、物凄く恥ずかし気に

「……き、気が向いたらな!」


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